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因縁渦巻く町

カルチャーショック

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 「そういえばディンってお金どれくらい持っているの?」
 「え? 確か金貨六百枚とかじゃなかったっけかな、町に行って薬を売った時に『これは多い』んだなって気づいたよ」
 「ろ……!? ……あんたのお爺さん、名のある人なんじゃないの?」

 プリメラが僕の横で片眉毛を下げて尋ねてきた。
 魔王を倒した勇者パーティの一員だったと話していいものかどうか? 今は一緒に居るけどお別れすることもあるかもしれないのでその後、他の場所で僕のことを言われたら――

 「別に困ることでもないか」
 「え?」
 「うん、でも一応」
 「なによ」

 周囲にあまり人が居ないことを確認してから僕はプリメラの耳に口を近づけて小声で真実を話す

 「……僕のじいちゃんはかつて魔王を倒した勇者パーティの一人で大賢者マクダイルというんだ。だから僕という魔法人形を創れたんだ」
 「……!? やっぱり……」
 「やっぱり?」
 「う、ううん……なんでもないわ! なるほど、人間達に追われた勇者パーティだって考えたら山奥に引きこもるのも無理ないかなって!」
 「声が大きいよ」
 「あ、ごめん!?」

 慌てて口を塞ぐプリメラにもう一度だけ小声で言っておくことにする。

 「僕はいいんだけど、もしバレた時にプリメラが巻き込まれるのは嫌だから言いふらさないで欲しい」
 「あ、うん。それは言わないわよ」
 「そうだね、危険が危ないし。僕だけ狙われるなら構わないけど」
 「被ってるわよ」

 どうせバレたところで今さらじいちゃんを知っている人も多くないと思う。それに襲い掛かってくるなら倒すだけ。
 ……そうだ、なんならじいちゃん達をあんな目に合わせた人間達を殺すのも悪くな――

 「ディン、どうしたの?」
 「え? なにか言った?」
 「だから、あんたが大事なことを教えてくれたから私も言っておこうと思って。……回復魔法のことよ」
 「ああ」

 そういえば僕を治療してくれた魔法は回復魔法だったっけ。
 使い手はあまり居ないと聞いたことがあるけど、そんなに重要なことなのかな?

 「もしかしたら知っているかもしれないけど、回復魔法は神様が与えてくれた『ギフト』というやつで神官や聖女様みたいな聖職しか使えないのよ」
 「え? でも、プリメラは普通に使えるよね」
 「……そう。なんでか分からないけど、ね。『使えるということ』が問題なのよね」
 「神官とか修道士、プリメラなら聖女にもなれそうだけど」
 「恥ずかしいこと簡単に言うわねー……。それが嫌だから隠しているのよ」

 プリメラが言うには希少性がある、ということよりも『神様のギフト』ということが問題らしく聖職者達が囲い込みをするため無理やり連れていくケースもあるそうだ。

 「じいちゃんの仲間だったプリエさんも神官だったみたいだしね」
 「……そうね。だからあんたが大賢者に作られた人形と同じくらいこれも大事なことなの。あの町で使ったけど、どさくさに紛れて逃げてきたからなんとかなったって感じよ」
 「わかった。ならプリメラが使わないで済むようにしないとね」
 「お願いね。ま、あんたがケガをしたらちゃんと治してあげるから!」

 プリメラは笑いながら僕の肩をバシバシ叩き、そのまま彼女が良さそうだと言った『れすとらん』という場所へ入っていく。
 ここはギルドにあった食堂と同じようなところでご飯を作ってくれる施設だそうだ。

 「さて、なにを食べようかしら?」
 「ギルドの食堂よりいっぱいあるなあ」
 「これなんていいんじゃない。ハンバーグ」
 「どんな料理……?」

 肉を挽いて捏ねていろいろな香辛料と混ぜ合わせて焼くものだそうだ。プリメラもよく知らないので挽いた肉を焼いたものという大雑把な情報しか分からなかった。
 
 「それにしても自分で作った方が安くつきそうだけどね」
 「まあ、それはあるけど手間とか一人分の食材を手に入れるのは大変だしお金を払うだけで食べ物が出てくるのは楽でしょ? それを商売にしている人も居るから利用しないのもね」
 「なるほど」

 『商売』か。
 じいちゃんが薬を売ってそれをさらにタバサさんが他の人に売るだけかと思っていたけど、こういうのもあるんだな。
 まだまだ知ることはたくさんあり、魔法を教えてもらっていた時のように『楽しい』と感じている。

 程なくして僕達二人分のハンバーグステーキセットが届き食事となったのだが――

 「わ、すごく柔らかい。肉汁がたくさん出てくるよ」
 「ソースも凄くいいわね。久しぶりにハンバーグを食べたけど、ステーキより好きかな」
 「これは……美味しいね……」
 「ちょ、ゆっくり食べなさいって」
 「僕、こんな美味しいものを食べたの初めてだからさ。もう一枚食べようかな? じいちゃんも作ってくれれば良かったのに」

 じいちゃんの料理はスープかステーキか川魚を焼いたものか野菜炒め、干し肉といったものばかりだったのでギルドのヒガワリテイショクも美味しいと思っていた。
 だけどハンバーグというこの料理は今までと違う。

 「凄い食べっぷりだな!?」
 
 そこで僕達の席の近くへ一人の男性がやってきた。
 白い服にじいちゃんも使っていたエプロンをしている人間が他の席を片付けながら驚いていたのでちょうどいいかと手を上げて言う。

 「あ、もう一皿ください」
 「あ、ああ。そんなに美味かったのか?」
 「かなり」
 「そ、そうかい? 俺が作ったんだけどそういってもらえると嬉しいな」
 「そうなんですね。毎日でもいいかもしれません」
 「はは、そりゃ褒めすぎだって。普通の肉なんだよ? そんじゃ待ってな」

 そういいながら皿を下げてキッチンへと向かう男性の後姿を見ながらプリメラに尋ねる。

 「あの人間はなんていう職業なんだろう」
 「コックさん、かな? 料理人っていうこともあるけど」
 「料理をメインにしている人間なんだ。うーん、僕もハンバーグの作り方を教わろうかな……?」
 「そんなに気に入ったんだ。お肉が悪くなっちゃうから旅には向かないんじゃないかしら」
 
 プリメラが何故か笑いながらハンバーグを口に運んでいた。
 他にもこういう美味しいものがあるなら食べてみたいかもしれない。旅の楽しみというものが増えた。そんな気がする。

 「お待ちどうさん!」
 「ありがとうございます」
 「お嬢さんは?」
 「私は大丈夫です。あ、なにかジュースみたいなものがあれば……」
 「はいはい、少々お待ちをー」

 食べ終わったプリメラがジュースを注文し、コックさんもなんだか機嫌が良さそうな感じで応じてくれた。
 美味しい料理という新たな情報を得た僕は新しい魔法を覚えた時のような満足な気持ちでレストランを後にするとプリメラもそんな感じで口を開く。

 「あー、美味しかったわね! 後はゆっくり寝てからまた旅かあ」
 「もう一日くらい居て食べたい気もするけど」
 「あはは、本気? まあ、一日くらいなら……」

 二人で予定を考えていると――

 「あの、困りますから」
 「頼むよ、グラニュー党を支持してくれ!」
 「すみません、そういうのは息子に……ごほっ……買い物を終わらせて薬を……」
 「ちょっとだけだっつってんだろ……!!」
 「ごほっ……ごほっ……」
 「あのおばさん苦しそう……! ちょっとあんた!」
 「あ、プリメラ」

 なんだか絡まれている女性を助けに、止める間もなくプリメラが走っていく。
 巻き込まれるんじゃなかったっけ? 大丈夫かなあ。
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