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旅の始まり
心無き存在と捨てた存在
しおりを挟む町に戻った僕は変な人間や家が燃えていることが目につき、これは良くない状況だと思った。
まずタバサさんの家へ行ってみたけどすでに破壊されていてどこにもプリメラの姿を見つけることができず、さらに空へ飛んで捜索。
もしあの異形にやられていたらと考えたら胸の魔石が少し痛む。
しかし、ギルドの上空に差し掛かった時、彼女の姿を発見。
その瞬間、プリメラに向かってダガーを投げた人間も目に入り僕は急いで飛んでいたダガーを当たる寸前で掴んだ。
「大丈夫プリメラ?」
「ディン……!?」
昔、釣りをしている時にマッドスネークに襲われたことがある。
その際、じいちゃんが僕を助けて『間一髪だったな』って言っていたけど恐らくこういうことだろう。
大きく目を見開いたプリメラが僕の顔を見て叫び、そしてダガーを投げた相手を見て今度は僕が口を開くことになった。
「……どうしてマハーリさんが攻撃してくるんだ?」
「ごめん私のせい、みたい……」
「ナナさんの? わけがわからないんだけど……」
僕がナナさんとマハーリさんの顔を見比べていると、マハーリさんが真顔で口を開く。
『……ディン君、戻ってきたのね。今日は野営のはずだったと思うけど?』
「そのつもりで髭の人なんかはまだ山奥ですよ。僕はこれで一足先に戻ってきたんです」
「「な……!?」」
浮遊泳で少し浮くとその場に居た全員が驚いた声をあげた。
『そんな難しい魔法を使えるなんて……いえ、最初からあなたはおかしかった。一体何者なの?』
「ただの魔法使い、かな? それよりマハーリさんは敵ってことでいいですか?」
『そうね。だけどこっちはあなたと戦わないよう言われているのよ、プリメラちゃんを連れて行っていいからこの場から消えてくれないかしら?』
「えーっと……」
地上に降りてチラリとプリメラを見ると首を振り、開きっぱなしになっているギルドの扉の向こうに見えるゲンさんとタバサさんが目に入った。
「うーん、お世話になった人も居るしそれはできないかな? マハーリさんはどうしてこんなことを」
『もうその話は終わっていてね? 残念だけど退く気が無いなら……まとめて死んでもらうわ!! さあ、あいつらを食い殺しなさい……!!』
「来る……! ディン君はプリメラちゃんを守って!」
どうやらマハーリさんはナナさんに相当な恨みを持っているらしいということは分かった。そして僕を含めた町の人たちを犠牲にすることもいとわずに。
……復讐、というやつなのかな。
魔王を倒したじいちゃんは人間に追われることになり仲間と離れてしまった。正直、相当な恨み言を呟いていたことを僕は知っている。
だけどこうやって『そういう人間』をみると復讐という選択を取らなかったじいちゃん達が不思議でもあるなと感じる。
なぜなら――
「とりあえずマハーリさんは殺さない方がいい、かな。<追尾魔射」
「い!?」
『……!?』
マハーリさんの合図で不気味な人間達が襲ってくるのが見え、僕は杖を掲げて魔法を使う。
数はそれなりにいるけど僕の追尾魔射の有効範囲内なので見えている範囲の敵の頭を確実に潰していく。
プリメラを見ると左手で僕の裾を掴んで震えていた。
「ごめん」
「……ううん。ディンは……これは間違ってない……と思う……」
「そっか」
見ればギルさん達も口を開けたまま僕と相手に目を向けている。うーん、アレは魔物っぽいけど人間のカタチをしているからプリメラじゃなくてもやっぱり気になるのか。
『止めなさい……! ガキが邪魔するんじゃないよ!!』
「マハーリ!! ナナ、逃げろ狙いはお前なんだ」
「だ、ダメよ! 被害が広がる……!」
『邪魔をするなギル!』
「あんたの境遇には同情するが、人を巻き込んでまでやることじゃない。それにナナを恨むのは筋違いだろうが!」
『うるさい……! ならあんたから死になさい!』
僕を止めるため駆け出して来たマハーリさんに対してギルさんが立ちはだかる。距離は十分あったがとんでもない速さで接敵する彼女。人間ってあんなに素早く動けるものだろうか……?
そこへヒッコリーさんがギルさんの横を通りマハーリさんを迎え撃つため前へ出る。
「お前の腕は動かないと自分で言っていたな、それで俺達に勝てるかよ!」
『そうね、少し前ならそうだったわ!』
「なに……!? おぐぁ――」
「ヒッコリー!」
殺さないように斧をの側面を使って打撃を狙っていたが、さらに速度を上げたマハーリさんは斧の一撃を難なく回避するとすれ違いざまに『動かない』と言っていた腕で裏拳をヒッコリーの脇腹へ繰り出す。
鎧と骨が砕ける音がした瞬間、懐から取り出したダガーを倒れこむ背中へ突き立てた。
「貴様……!」
『今の私にはあんたでも勝てないわよ、ギル』
「ギル、私も!」
「来るなよナナ……!!」
マハーリさんの言葉に迷いも嘘も無く、仕掛けたギルさんを翻弄する。見たところマハーリさんは強い。戦えないと油断していたヒッコリーさんより健闘しているけどこれは時間の問題かな。
「……」
「ディン?」
「ああ、他の冒険者が居ないかと思ったけどあちこちに広がっているみたいだ。町の人もやられているから増えていく……厄介だね」
指揮系統がマハーリさんであるなら彼女を止めた方が早いかと考え直し、迫りくる敵がひと段落したと判断した僕は杖をプリメラに渡して走り出す。
「え、これ……!」
「防護陣をかけておいたからその杖があればナナさん達も問題ないと思う」
「あ、うん……! 気を付けて!! ナナさん、アウラさんこっちへ!」
球体状の魔法障壁が三人を包み、これでとりあえず僕が離れても大丈夫だろうとマハーリさんへ目を向ける。
「くそ……なんて強さだ!」
『今の私にそれだけついてくるなら十分だと思うけど……まだ本気じゃないのよね……!!』
「チィ……!!」
ギルさんの強さもなかなか悪くない。僕は一応すべての武器を振るうことができるけど、ギルさんはいい筋をしていると思う。
じいちゃんも色々な武器を使えていてそれを学んだから分かる。
僕が数歩で到着というところでギルさんの剣がマハーリさんの肩を捉えて鈍い音が響き渡る。終わったか? そう思ったけどマハーリさんは何事もなかったかのようにギルさんの剣を掴んで……持ち上げた。
「ば、馬鹿な……!?」
『うふふ、ギルが死ぬ様をナナに見せるのは悪くないかしらねえ……!』
「うお……!?」
「危ない」
『きゃ……!? あなた……ディン君! 邪魔をする!』
「おっと。それ」
「ぐあ!?」
落ちてきたギルさんの喉を貫こうとした腕を叩き、落ちてきたギルさんの服を掴んでプリメラの方へ投げてやった。
これでマハーリさんがギルさん達を攻撃しようと思えば僕を相手にしなければ向こうへ行くことはできない。
『……面倒を見てあげたから殺したくはないんだけどね?』
「僕はどっちでもいいけど、殺しにくるならやり返すよ。……あの時、盗賊にダガーを投げつけたのはわざとだね」
『なんのことかしら』
「まあ、どっちでもいいけど。見覚えのある盗賊が居たから、あの洞窟はマハーリさんがやったってことだね」
『洞窟……? なんのことか分らないけど、邪魔をするなら死んでもらうだけよ』
そういってダガーを逆手に構えて攻撃を仕掛けてくる。
さて、殺さないようにしないといけないな。やってみようか。
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