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旅の始まり

人間の暮らし

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 「ディン、起きな! 朝ごはんだよ」
 「あふ……おはようございますタバサさん。すみません……」
 「はは、良く寝ていたね。疲れていたんだろうさ」

 タバサさんはじいちゃんが死んでから気を張っていたせいだろうと言う。
 僕は魔法人形なのでそのあたりは関係なさそうだとは思ったけど、わざわざ申告する理由もないので適当に頷いておいた。

 薬屋さんの建物はシンプルで一階がお店で二階が住居スペースだった。
 子供が二人居ると夕食時に説明され、一人はこの町に居て、もう一人は別の場所に住んでいるそうだ。で、そのうちの一つの部屋を借りている形

 僕は魔法人形だけどご飯は食べられる。
 人間と同じく食べ物から魔力を吸収して核である魔石というものに供給する必要があるので食べたほうが良いとじいちゃんが言っていた。
 内臓もそれっぽいと言っていたっけ。ただ骨などは一部、鉄でコーティングされていたりもするようで、やはり人間のようでそうじゃない。だから『人の形』をしたなにか。それが僕である。
 それでもフリができる程度には動けて、こうして紛れてもバレないあたりじいちゃんの凄さが垣間見える。
 どうやって僕を創ったかという方法までは教えてくれなかったけどね。

 「今日は宣伝してめいっぱいディンの売ってくれたハイポーションを売るよ」
 「おお、それにディンは追加で作ってくれるんだってな」
 「はい。試験のある日までお世話になりますし、お仕事をさせてください」
 「はは、しばらくは楽できそうだね。薬が売れなくなるってことはないけど、質のいいものがあるとお金になるし」

 こうやって普通に話せることを考えると、あのころも別に一緒に行っても良かったんじゃないかなと思っていたりする。
 まあ結局こうやって旅に出たので結果としては変わらないけど、じいちゃんと町を歩きたかったなという考えがずっと頭に浮かんでいる。
 胸のあたりがざわっとするのがなんなのか分からないけど、その考えに付随するものだろうか?

 「さて、オープンだ!」

 タバサさんの一声で店が開き、僕はカウンター裏にあるテーブルで薬草の調合を始める。とりあえず二、三本作ればノルマ達成と言っていた。
 あ、ノルマというのは割り当てられた仕事のことだって。まだ知らないことがたくさんだ。
 そんなことを考えていると早速お客さんが入って来た。

 「おはようございまーす!」
 「いらっしゃい」

 武具で身を包んだ人間達。ギルドで見た冒険者だろうと推測されるその人達は元気よく挨拶をした後に棚のポーションや薬草に目を向ける。
 数は四人で男ばかりのようだ。

 「今日は随分買うみたいだねえ。なにを狩りに行くんだい?」
 「山奥までナイトタイガー狩りだ。最近、増えているって依頼で金回りのいいやつがあってな」
 「てことは野営か。気をつけなよ、前に野盗に狙われたパーティが居たろ」
 「ああ、ギルんとこな。危なかったらしいとは聞いている」
 「ギルさん? ナナさんと同じの?」

 気になるワードが耳に入り、手を止めて彼らへ目を向けなが呟くと冒険者達が僕の方を見て口を開く。

 「おお、知っているのか? ナナちゃん可愛いもんな」
 「お前みたいなのは相手にされないけどな。お前、昨日受付にいた奴だな。あいつらの知り合いか?」
 「ええ、一回だけ会って話したことがあります」
 「そうか。あいつら今日はもう出て行ったようだが夜はギルドで会えると思うぞ。夜間の依頼はあれ以来受けていないし」
 「ありがとうございます。仕事が終わったら夜にでも行ってみます」
 「あんた達も気を付けるんだよ」

 タバサさんが代金を受け取りながらそういうと、冒険者達は笑いながら『ありがとよ』と店を出て行った。
 夜に行けば会えるのか、時間があれば行ってみよう。
 そういえばあの女の子もどうなったか気になるところだ。でも近づいたらまた叩かれそうだしなあ。
 
 「タバサさん、女の子が町の広場にテント一人って危ないですか?」
 「いきなりどうしたんだい? そうだねえ、外よりは安全だけど町の中でも犯罪がまったくないわけじゃないし、女の子なら危ないかもしれないねえ」
 「そうですか」
 「なんだい聞いてきた割にはあっさりしているね? 心当たりがあるんじゃないの? いきなり彼女が居るとは思えないけど……」
 「カノジョ? ってなんです?」

 僕の返答にタバサさんは目を丸くして黙った後に笑いながらため息を吐いた。

 「ああ。山奥に住んでいたからわからないのかね? そういうの、あのお爺さんは言わなさそうだけど」

 そんなことを呟き、知識がちぐはぐだと言いながら説明してくれる。
 どうやらじいちゃんとカレンさんのような恋人の内、女性のことを言うようだ。
 男は「カレシ」というのだとか。

 確かにじいちゃんと住んでいた時の知識と本だけで人間が生活する細かい知識は持っていないかも。
 それと例えば喜怒哀楽という感情の言葉の意味を知っているけど、それが『どういう状態』なのかまではきっと理解できていない。
 褒められた後に『嬉しい』というのはじいちゃんが言っていたから知っている……多分。

 ……これは冒険者になるのと同時にちゃんと人間と暮らして知識をつけないと旅に出るのは難しいかもしれない。
 もしハイポーションを作成することでしばらく住まわせてもらえるならタバサさんにお願いしようか。試験に絶対受かるわけでもないだろうし。

 「さ、次のお客さんが来たみたいだ。薬、頼むね」
 「はい」

 それから別の冒険者や町の人などを相手に薬を売っていく。
 傷薬ばかりではなく風邪や皮膚の薬もあるので出入りは結構多かった。
 
 「お、高いハイポーション!? まさか入荷したのか!」
 「ああ、この子が祖父に教わって作れるから仕事をしてもらっているんだ」
 「マジか、三本……いや、四本!」
 「ありがとうございます」

 僕の作ったハイポーションは飛ぶように売れてあっという間に無くなり、すぐに調合して店に並べる。
 店頭にある薬草で五本追加できたけどそれだけで昼を回るだけの時間を費やした。
 ハイポーションは少しでも調合を間違えると一瞬で駄作になり薬草の無駄遣いになってしまう。だから慎重に時間を重ねて作らなければならないのだ。
 山奥で暮らしていた時には僕が失敗してもいいように薬草畑も作っていたんだよね。
 そしてお昼ご飯を食べているときに、もう一度女の子の話を切り出してみる。

 「昨日泊めてもらったのにこんなことを言うのはどうかと思ったんですけど、さっき話した女の子、連れてきてもいいですか? もちろん僕が出ていきます」
 「ん? なんでい」
 「知り合いの女の子が野宿をしているんだって」
 「なんだと!? 馬鹿野郎、飯食ってる場合じゃねえだろ! 連れてこい!」
 
 なぜかゲンさんが唾を飛ばしながら激昂し、昼を食べたらすぐに迎えに行けと追い出された。


 そして散歩がてら再び広場に足を運ぶと――

 「ぐう……」
 「ええー」

 昨日と同じ場所にはテントの棒が散乱し、テント生地の下に敷物が見えた。どうやら組み立てることはできなかったらしい。
 そういう意味でも危険だなと思いながら僕はしゃがんで声をかけることにした。
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