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本物の神

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 『では、ワシからの提案だ。この世界は維持しても良いがハーテュリアはその人間の身体から出て界隈へ戻ること。地球出身の者は向こうへ速やかに戻りなさい。それから魔王よ』
 【は、はいぃぃ!】
 『お主の作った石はワシが使わせてもらう、それとお前の記憶は残しておくから人間と仲良くやれば滅ぼすことはしないでおく』
 【き、記憶を……?】

 最上神の提案は神様だなと言えるレベルのとんでもないものだった。
 まず、『こっちの世界』の時間軸を俺達が死んだ直後に戻すらしい。
 なので地球は俺達が突入した時間だが、こっちの世界は俺達が死んだ直後あたりまで戻すとのこと。
 
 魂がもうこっちとは切り離されているので、あくまでも地球人となった俺や真理愛がスメラギと戦うところには戻せないのでここはずれが生じる。

 で、魔王やあの国王達が生きている状態になるが、ここまでの記憶は残す。
 それで反省が見られないようなら今度こそこの世界は消すぞ、ということである。

 実際、魔王と国王の陰謀で地球へ侵攻しようとしたわけなのでこいつらに記憶があれば結末がどうなるかが分かっているはず。それでも侵攻を止めないなら、まあ、仕方ないよな。

 【承知した。私は魔族が認められれば別に世界征服や侵攻など面倒だからしたくないしな】
 「正直ねえ……」
 「でも、凄いね時を戻せるなんて」
 『ほっほっほ、まあこの世界との繋がりを示す道具が必要だがね。君達も成そうとしていたようだからワシが特別というわけではない。じゃが、どの程度戻れるかは未知数じゃったから何とも言えんが』

 下手をすると地球にもこっちにも居場所がなくなる可能性があると聞いて背筋が寒くなったが、その前に助けるつもりだったと言ってくれた。

 『うう……お仕置き……』
 「仕方ないわよ、うっかりで世界をおかしくしたんだし」
 『耳が痛い……』

 ハーテュリアは聖剣を手から消し、膝をついて頭を抱えていた。
 母ちゃんも巻き込まれた側なので辛辣である。
 
 「そういや、あの殺された親子とかはどうなるんだ?」
 『こっちの時間が戻れば向こうの騒動は『無かったこと』になるから戻った時には元通りじゃな。ただ、お主達の記憶は残るが、事件を通じて知り合った人間達の記憶は消えてしまう』
 「そっか……」

 若杉さんや仁さん、宇田川さんといった人達は事件を通じていたから忘れられるだろうとのこと。
 それは仕方がない……けど、少し寂しい気がするな。

 「ちょっと残念だけど良かったね、修ちゃん」
 「そうだな。死んだ人もケガをした人もいなくなるんだ、こっちとしては万々歳、かな」
 「おう、ドラゴン達はどうなるんだ?」
 <む、もちろん向こうに戻るぞ? 魂はシュウ達と同じく向こうの住人……猫になったのだろう>
 『そうじゃな。しかし、お主達はドラゴンに戻れているから残っても問題はないぞ』
 <あら、そうなの? でも、こっちは殺伐としているし、猫で結愛達と暮らしていた方がいいわね、あたしは>
 <だな。残りたい奴は残ればいいだけの話だ>

 スメラギは断固向こうに戻ると力強い言葉と鼻息を出していた。
 そんなこんなで話はトントン拍子に進むが、俺はひとつ懸念があったので最上神とやらに聞いてみる。

 「八塚の身体……というか中身はどうなるんだ? 中の人は居ないってわけにはいかないだろう?」
 『ああ、それは大丈夫よ。時間が戻れば私が中に入るということも無くなったから、別の人格が現れるわ』
 「じゃあ怜ちゃんはわたし達が知っている怜ちゃんじゃないんだね……」
 『今までは私だったからね。多分、お父さん達も覚えていないから、関りは無くなっちゃうかもね。そういう意味でも申し訳ないことをしたわね……』
 「だな。お前、恨み買いまくってもおかしくないぞ……」

 人生を狂わされているといっても過言ではないからな。
 当事者ではないし、無かったことにされてしまうのでもはや今更だが、ハーテュリアなりになんとかしようとした結果と思えばモヤっとした気持ちは半々というところだ。
 とりあえず痛い目に合って世界を作ることの責任をもう少し考えていただきたい。
 
 神も人間も能力の差程度であまり変わらないものなんだろう。失敗もするし、嫉妬もするし、怒り、笑い、そして間違う。
 そう思えば俺達くらいは生暖かい目で見送ってやれるものだ。

 「修ちゃん、悪い顔してるー」
 「元からこんな顔だ」
 「兄ちゃんは意地悪いから」

 失礼な我が妹を軽く小突いていると、ハーテュリアや魔王、母ちゃんが話し合い全てが決まった。
 俺達は即時向こう側へ帰るために王都へ帰還。

 【また会えるといいな、勇者よ】
 「勇者に会いたいとかいう魔王が居るかよ!? もう会うことはねえよ、多分な」
 
 魔王は少し寂し気な顔で見送ってくれ、王都では新王に事のあらましを説明。
 彼らの記憶も残るようなので、最悪国王の暴走を止めますよと笑っていた。
 そしてもちろんドラゴン達は全員地球へ行くと声を揃えていたのが面白かったな。
 ブランダは宇田川さんとのことがあったけど、記憶は残らないということを聞き、地球行きを諦めた。 
 
 そしていよいよ戻る時が来た――

 『では、さらばだ異世界の勇者達よ!』
 『ごめんね、みんな。でもここまで楽しかったのも事実よ、ありがとう』
 
 最上神とハーテュリアが扉の前で別れの挨拶を受け、

 「お勤め果たして来いよ!」
 「もう世界を作っちゃダメよ?」
 「居眠りしたらダメだからね♪」
 『ああああああ!? あんた達なんか! ……大好きよ!!』
 「……じゃあな!』

 ――こうして、俺達は『扉』をくぐることで事件は幕を閉じた。
 
 「……あれ? なにか忘れている気がしない?」
 「ん? なんかあったっけ? ……あ!?」
 「ああ!? 坂家君!」
 「霧夜ぁぁぁぁぁ!!」

 俺の親友が取り残されていることに気づいたが時すでに遅く――
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