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女神の提案
しおりを挟む「かぁ……さみい……」
<情けないぞシュウ、我は元々雪山に住んでいたから屁でもない>
「でかい爬虫類のくせに……!」
「はいはい、喧嘩しないのお兄ちゃん」
ゲベレスト山まであと一息というところまで来たが、母ちゃんの言う通り防寒を施してきたけどやはり寒いものは寒いのだ。
しかし女神は一体何を考えているのやら……聞くしかないと分かっているけど真理愛と八塚を人質に取られたら分が悪い点がネックだな。
「そろそろ到着するわよ、パーティはまだ終わっていないみたい」
「……! おいおい……」
「うわあ……」
俺達一家がため息を吐くのも無理はない、あちこちで爆発が起こっているからだ。
雪が解けて湯気となり、辺り一帯を別の意味で白く染めていた。
「スメラギ、神殿だ!」
<よし! カアアアァァ!>
「あ、馬鹿!?」
<へぶ!?>
スメラギはいきなり神殿に口から火球を吐き出し、俺は慌ててスメラギの頭を剣で小突くが残念ながらすでに発射された後だった。飛んで行った火球は神殿の屋根にぶち当たり、大きな穴を開ける。
<なにをする……!?>
「お前、真理愛がこれで死んでたりしたら許さないからな……?」
<あ……!?>
<ま、まあまあ、天井に穴が開かないとあたし達も入れないから……>
結愛が乗っているフレーメンが焦りながらそう言う。確かに一緒に居た方が心強いかと怒りを納めることにし、ゆっくりと降下していく。
見ればあちこちで魔族が倒れていて本気で根絶やしにでもするつもりなのかと眉を顰める。
神殿内はそこそこ広いがスメラギ達が奥へ行くのは難しそうだ。
とりあえず武器を構えて行くかと思ったところで、目の前に見える階段から慌てた人影が上がって来た。
【くっ、強すぎる……! 私が手も足も出ないとは……】
「あ、魔王さんだ!」
【ん? なんだ? おお……! 勇者一家ではないか!】
あの倉庫での威厳はどこへ行ったのか、文字通り尻に火が付いた魔王が階段から姿を現し、その後ろからゆっくりとした歩調で八塚と真理愛も現れた。
『あら、シュウじゃない。もう追いついたの? 早かったわね』
「そんなことはどうでもいい。ハーテュリア、一体なにが目的だ? それと真理愛を返してもらおう」
『それは出来ない相談ね。少なくとも、そこの魔王と魔族は絶やしておかないと』
口元に手を当てて目を細めながら笑うハーテュリアに、俺達の後ろに隠れた魔王が口を開く。というかこいつも相当強いはずだが俺達を盾にするくらい女神ってのは強いのか?
【何故、我々だけなのだ? 前の戦いも勇者に聖剣で封印され苦汁を飲まされたが、魔族を目の敵にする理由はなんだ? 流石に何十回も封印されていたら私もキレるぞ】
「いや、その恰好でキレるっつっても……とはいえ、確かに魔王はダメで、帝国みたいな非道をする人間はセーフってのがよくわからんな」
親父も魔王と同じ考えを示し、俺もそこは気になるところだった。
すると魔王はさらに続けて話し出す。
【なんか私が別の人間界に侵攻しようとしたのが気に入らないようだが、そもそもこちらの人間どもが敵視して襲ってくるから対抗しているだけだぞ! だから移住先を調査していたのだ!】
「そういうことか。それで、あの親子が死んだんだから、お前はお前で討伐対象だからな?」
【くっ……】
こいつが実は悪い奴ではないとしても、こいつの部下が向こうの人間を襲ったのは事実。そういう意味ではここで魔王が倒されても問題はない。
だが、こいつはそれをした後、どう考えているのかが分からない。
『……魔族はイレギュラーだからよ。本来、この世界に生まれる想定はしていなかった種族。だから消し去る必要があるのよ』
「いやいや、それは酷いんじゃない? この世界はあなたが作ったものかもしれないけど人間も魔族も天然の自然から生まれたいわば世界の一部よ? それを抹殺するなんておかしいわ。自分の思い通りの世界にしたいとはいえ、横暴すぎる」
「そうね。そりゃ嫌な奴を消したいって思ったことは何回かあるけど、それをしたら殺人犯と一緒だもの」
あるのか、結愛よ。
それはともかく母ちゃんの言う通りもう出来てしまった世界に創造主が手を入れるのは正直な話ルール違反もいいところだ。
『だけど、魔族は寿命が長い上に能力も高いわ。最終的に残るのは魔族になると思うの。私は人間の為にこの世界を作ったんだから、そんなイレギュラーは必要ないわ』
【ぐぬう……女神め……いつか殺してやろうと思っていたが、その考えは正しかったようだな……】
「ならハーテュリアは魔族を倒したら真理愛を返してくれるのか?」
『……』
「おい、答えろよ!? 真理愛をどうするつもりだ!」
こいつのことだから『オッケー!』というかと思ったのだが、即答無し。マジでどうするつもなのかと剣を構えると、少し考えた後にハーテュリアが口を開く。
『……そうね、ここで問答をしていても仕方がないか。今、ここで私を無視してくれるなら真理愛は返しあげてもいいわ。ちょっと時間がかかるけど、私一人でも魔王は倒せるし。あ、聖剣は返してもらうけどね? ただ、時間がかかるから向こうの世界へ送り届けるのは無理かな』
「マジでか……? いや、別に魔王に肩入れする必要もないからいいけど……」
【味方が居ない……!? ま、まあ、そんなものかもしれないが……おい女神、私から質問がある。貴様の提案であるケリをつけるというのは吝かではないが、私とて争いをしたいわけではない。魔族を亡ぼす前にできることはないのか?】
『……あんたとゴーデンはやりすぎたからね……人間を殺して別世界への侵攻の償いはすべきだと思わない?』
ガチで人間大好きっぽいなこいつ。
なんとかならないか……? 俺がそう思っていると、結愛が顎に手を当てて口を開く。
「うーん、こういう時ってゲームだと死んだ人を生き返らせたり、時間を戻してなかったことにする、みたいなことができるけど、女神様と魔王さんはそういうのできないの?」
『それが出来たら苦労は――』
【いや、できる……できるぞ勇者の妹!】
「……マジで?」
俺達は物凄く胡散臭い者を見る目で魔王を見る。
だが、自信があるようで……?
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