上 下
80 / 115

『向こう側』との確執

しおりを挟む

 休日の終わりと共に学校が始まる……という訳ではなく、俺達は真由ちゃん達の葬儀に来ていた。父親はすでに死別しており、遠方に住む母親の両親が葬儀をとり行い、悲しみに暮れる家族のやるせなさは見ていて辛いものがあるな……

 「本日はお越しいただきありがとうございます……娘と孫も……喜んでいると思います……うう……」
 「うう……」

 母親はキャバ嬢だったようで、出会ったあの日は休みだったそうだが、起きたら真由ちゃんが居なくなっていて慌てて起きたからあんな状態だったらしい。
 すでにハーキュリアに狙いを定められていたから家で殺された、ということのようだ。

 「……」
 「行くわよ、修」
 「ああ……」

 俺は帰り際にもう一度葬儀場を振り返っていると母ちゃんに肩を叩かれ帰路へとついた。
 ……蓋を開けてみれば俺達により早期解決が図られるたと言っていいと思う。だけど、もう少し気を張っていたら犠牲者は出なかったのではという考えがどうしても出てくるのだ。

 「……私達のせいじゃないわ、全ては仕組んだ国王ゴーデンの計画による犠牲よ」
 「でもドラゴンを倒したのは……」
 「それこそゴーデンのってところかしらね。そもそも私達はそのせいで死んだのよ? 復讐するは我にありよ」
 
 車中で母ちゃんが険しい顔で国王、いやゴーデンの行った行為に反吐が出ると言った感じで口を開く。故に両親は『向こう側』へ行ってゴーデンを討伐するのが目的のようだ。
 少なくとも首謀者を倒して再び封印すればこちら側に干渉することはできなくなる。

 とりあえず今後のことは置いといて、結愛の居ない今、気になっていることを尋ねてみようと母ちゃんの方に視線を向けて口を開く俺。

 「いつから俺がシュウだって知ってたんだ? まさか最初から分かっていたから『修』って名前にしたとか?」
 「最初からよ。……というのは嘘で、あんた覚えてる? 向こうでカイザードラゴンと戦う前、倒した後バリアスと結婚するんだって話。シュウみたいな元気な子を産むんだって言ってたでしょ?」
 「そういやそんな話が……」
 「だから生まれた子は『シュウ』って名前を付けるつもりだったの。そしたらまあ、まさかのシュウだったってね」
 「う、うん……その、気持ち悪くなかったのか? 俺だって分かって」

 俺が一番懸念していることを聞くと、

 「なに言ってんのよ、あんたは間違いなく私の息子だし気になるわけないじゃない。そりゃ過去の記憶はあるかもしれないけど、母ちゃんは母ちゃんでしょ?」
 「確かにな」

 頭では『別世界』の記憶があるけど、『感覚的』に母ちゃんは母ちゃんだという認識なので、例えば母ちゃんは美人だけど性欲みたいなのは沸かない。
 親父もバリアスって頭では分かっているけど、あくまでも感覚は親父なのでただ記憶があるだけと考えるのがいいのだと思う。

 「結愛はどうなんだろ? あいつは記憶とか無さそう」
 「純粋にこの世界の子よ、だから私達のこと内緒にしておかないと、力がないただの中学生には荷が重いしね」
 「そうか、ならスリートにも喋らないよう言わないとな」
 「そうね。昨日は帰ったのが深夜だったから言い忘れてたけど、そうしましょう。あとは真理愛ちゃんにも口止めしとかないと、かな」
 「あいつ俺が勇者だと言うのは知っているし、結愛と仲良しだからうっかり口を滑らしそうだ。まあスリートやスメラギが喋れるのは知らないからそこは問題なさそうだ」
 「さて、明日から通常営業になるけど、尋問と『扉』については調べないとね。修達は猫を使ってドラゴン捜索を頼むわね」

 俺は頷き、混迷を極めるであろうドラゴン探しに思考を切り替える。真由ちゃんのような犠牲者をもう出さないためにも。
 
 そして家に帰ると、さっさと帰宅してきた真理愛がウチに来て大騒ぎとなった。

 「修ちゃん修ちゃん!! 新しい猫が居るって聞いたよ! スリートとその子、喋れるんだよね!」
 「ぶっ!? そ、それをどこで聞いた!?」
 「え? 怜ちゃんが得意気に言ってたけど? もしかして喋らないの……?」

 心底残念そうな顔でシュンとなる真理愛の肩に手を置きながら、スリートを呼んで喋ってもらう。

 <どうしたんですかい?>
 「わあ、喋ったぁ! スリート、真理愛だよー!」
 <おお……!?>
 「まあ、もう一匹のウルフは治療中だから部屋から出せない。でだ――」

 俺は真理愛に結愛へ猫が喋れることを話さないよう口止めするように話をする。しかし、真理愛は首を傾げて口を尖らせる。

 「えー、結愛ちゃんだけ仲間外れって可哀想だよ?」
 「まあ、それはそうなんだけど……」
 「ごめんね、理由はその内話すから今はまだ結愛には言わないでおいて? 怜ちゃんに話を聞いたなら、これからドラゴンを探すことは知ったわよね」
 「はい! いっぱい喋る猫ちゃんがいるって聞きました!」
 「猫とは限らないんだけどな……」
 「まあ、全部集まってから驚かせてあげましょうよ」
 「うー……お母さんが言うならしょうがないかあ……」

 真理愛がスリートを抱きしめたまま不満気にそう言うが納得してくれて俺と母ちゃんは安堵のため息を吐いた。

 そして俺達は再び日常へと戻っていく――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...