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『向こう側』との確執
しおりを挟む休日の終わりと共に学校が始まる……という訳ではなく、俺達は真由ちゃん達の葬儀に来ていた。父親はすでに死別しており、遠方に住む母親の両親が葬儀をとり行い、悲しみに暮れる家族のやるせなさは見ていて辛いものがあるな……
「本日はお越しいただきありがとうございます……娘と孫も……喜んでいると思います……うう……」
「うう……」
母親はキャバ嬢だったようで、出会ったあの日は休みだったそうだが、起きたら真由ちゃんが居なくなっていて慌てて起きたからあんな状態だったらしい。
すでにハーキュリアに狙いを定められていたから家で殺された、ということのようだ。
「……」
「行くわよ、修」
「ああ……」
俺は帰り際にもう一度葬儀場を振り返っていると母ちゃんに肩を叩かれ帰路へとついた。
……蓋を開けてみれば俺達により早期解決が図られるたと言っていいと思う。だけど、もう少し気を張っていたら犠牲者は出なかったのではという考えがどうしても出てくるのだ。
「……私達のせいじゃないわ、全ては仕組んだ国王ゴーデンの計画による犠牲よ」
「でもドラゴンを倒したのは……」
「それこそゴーデンのってところかしらね。そもそも私達はそのせいで死んだのよ? 復讐するは我にありよ」
車中で母ちゃんが険しい顔で国王、いやゴーデンの行った行為に反吐が出ると言った感じで口を開く。故に両親は『向こう側』へ行ってゴーデンを討伐するのが目的のようだ。
少なくとも首謀者を倒して再び封印すればこちら側に干渉することはできなくなる。
とりあえず今後のことは置いといて、結愛の居ない今、気になっていることを尋ねてみようと母ちゃんの方に視線を向けて口を開く俺。
「いつから俺がシュウだって知ってたんだ? まさか最初から分かっていたから『修』って名前にしたとか?」
「最初からよ。……というのは嘘で、あんた覚えてる? 向こうでカイザードラゴンと戦う前、倒した後バリアスと結婚するんだって話。シュウみたいな元気な子を産むんだって言ってたでしょ?」
「そういやそんな話が……」
「だから生まれた子は『シュウ』って名前を付けるつもりだったの。そしたらまあ、まさかのシュウだったってね」
「う、うん……その、気持ち悪くなかったのか? 俺だって分かって」
俺が一番懸念していることを聞くと、
「なに言ってんのよ、あんたは間違いなく私の息子だし気になるわけないじゃない。そりゃ過去の記憶はあるかもしれないけど、母ちゃんは母ちゃんでしょ?」
「確かにな」
頭では『別世界』の記憶があるけど、『感覚的』に母ちゃんは母ちゃんだという認識なので、例えば母ちゃんは美人だけど性欲みたいなのは沸かない。
親父もバリアスって頭では分かっているけど、あくまでも感覚は親父なのでただ記憶があるだけと考えるのがいいのだと思う。
「結愛はどうなんだろ? あいつは記憶とか無さそう」
「純粋にこの世界の子よ、だから私達のこと内緒にしておかないと、力がないただの中学生には荷が重いしね」
「そうか、ならスリートにも喋らないよう言わないとな」
「そうね。昨日は帰ったのが深夜だったから言い忘れてたけど、そうしましょう。あとは真理愛ちゃんにも口止めしとかないと、かな」
「あいつ俺が勇者だと言うのは知っているし、結愛と仲良しだからうっかり口を滑らしそうだ。まあスリートやスメラギが喋れるのは知らないからそこは問題なさそうだ」
「さて、明日から通常営業になるけど、尋問と『扉』については調べないとね。修達は猫を使ってドラゴン捜索を頼むわね」
俺は頷き、混迷を極めるであろうドラゴン探しに思考を切り替える。真由ちゃんのような犠牲者をもう出さないためにも。
そして家に帰ると、さっさと帰宅してきた真理愛がウチに来て大騒ぎとなった。
「修ちゃん修ちゃん!! 新しい猫が居るって聞いたよ! スリートとその子、喋れるんだよね!」
「ぶっ!? そ、それをどこで聞いた!?」
「え? 怜ちゃんが得意気に言ってたけど? もしかして喋らないの……?」
心底残念そうな顔でシュンとなる真理愛の肩に手を置きながら、スリートを呼んで喋ってもらう。
<どうしたんですかい?>
「わあ、喋ったぁ! スリート、真理愛だよー!」
<おお……!?>
「まあ、もう一匹のウルフは治療中だから部屋から出せない。でだ――」
俺は真理愛に結愛へ猫が喋れることを話さないよう口止めするように話をする。しかし、真理愛は首を傾げて口を尖らせる。
「えー、結愛ちゃんだけ仲間外れって可哀想だよ?」
「まあ、それはそうなんだけど……」
「ごめんね、理由はその内話すから今はまだ結愛には言わないでおいて? 怜ちゃんに話を聞いたなら、これからドラゴンを探すことは知ったわよね」
「はい! いっぱい喋る猫ちゃんがいるって聞きました!」
「猫とは限らないんだけどな……」
「まあ、全部集まってから驚かせてあげましょうよ」
「うー……お母さんが言うならしょうがないかあ……」
真理愛がスリートを抱きしめたまま不満気にそう言うが納得してくれて俺と母ちゃんは安堵のため息を吐いた。
そして俺達は再び日常へと戻っていく――
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