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魔族リーマン

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 「人間……!?」
 『どうした、なにをそんなに驚いている? 私の名はハーキュリア。魔王様より遣わされた者』
 「あわわわ……」
 「ふにゃぁぁぁぁ……!」

 ダークグレーのスーツの男は『向こう側』から来たことを隠しもせず、視線をこちらに向けたまま恭しくお辞儀をし、笑みを浮かべていた。
 ウルフがよろけながら立ち上がり威嚇するのを見て間違いないのだと分かる。
 
 「随分余裕だな、俺を勇者と知って倒されるとは思ってないのか? それとここに来た目的とどうしてここが分かったのかとあの親子を殺したのはお前か聞かせろ。あ、体を乗っ取ったのはどうしてだ?」
 『質問が多い!? ……ふん、まあいい。この体ごと私を殺せるならかかってくるといい。もちろん人間ごと死ぬがね? 親子は――』
 
 と、魔族が話し始めたところで慌ただしい足音共に複数の人間が武道場へと入り、懐中電灯の明かりで内部が一気に明るくなった。

 「大丈夫かみんな!」
 「ああ。いいところに! おまわりさん、この人です!」
 「この人? ……なるほど、お前は長谷川か。出回っている写真通りだな、自分から捕まりにくるとはありがたいぜ!」
 「キャバ嬢殺人の……!? どうやってここに入ったんだ!?」

 腰を抜かしたらしい羽須があわあわしながら駆けつけてきた宇田川さんに声をかけると、他の警官と共に武道場に散って囲み始める。幸いというのも変な話だが、人質は殺人犯の肉体だけなので霧夜と羽須に注意しておけばボコっても問題ない……と思う。

 「宇田川さん慎重に頼む。こいつ、魔族に憑依されている」
 「なんだと? どう見ても普通の人間に見えるぞ」
 『くく、出し惜しみは無しで行こうか!』
 「いやああ羽が生えたぁぁぁぁ!?」

 瞬間、魔族リーマンの背中が破れてそこから羽が生えてくる、さらに笑っている口から見えていた犬歯が伸びて、俺達が知る『吸血鬼』のような姿へと変貌を遂げた。

 「いやあああ!? 牙が出たぁぁぁ!?」
 『くく……女は二人か、お前達を始末してゆっくり味わうとするか。あの親――』
 「いやああ!? 喋ったぁぁぁ!?」
 『……』

 「うるせえな! さっきから喋ってるだろうが!? フィオ、悪いけどこいつを頼む」
 「仕方ありませんね……」
 「ちゃんと守ってくださいよ! おっぱい触ってもいいですから!」
 「やかましいって言ってんだろ!? ……なんてな!」
 『む!』

 俺はフィオに羽須を任せるため立ち位置を入れ替わる……と見せかけて、一気に魔族へと攻撃を仕掛けた!

 「食らえ!」
 『速いな!』
 「シュウ兄ちゃん、援護するぜ! <火の息吹>!」

 俺の木刀がヤツの頭上へと当たる寸前、爪で防御をされたがそこでエリクの杖から火魔法がほとばしり左側面から襲い掛かる。

 『ふん!』
 「かき消した!?」
 「構うな、撃ちまくれ! そりゃぁぁぁ!」
 「わ、分かったぜ!」
 「ふにゃぁぁぁ!!」
 
 足を止めて木刀と爪の激しい打ち合いを行う中、エリクの魔法が飛び交い、それをお互い避けながら隙を伺う。

 「なんであの親子を殺した!」
 『なあに『この男』が行きたがっていた場所に戻ったところに美味しそうな獲物が居ただけだ。……本当はそこの小娘の血を吸いつくすハズだったのだが、警察の世話になったので仕方なく無防備な方を頂いたというわけさ』
 「関係ない人間を巻き込みやがって!! かかれ!」

 くだらない理由だと怒りが込み上げてくる。そこへ宇田川さんと警官が警棒やらバールのようなものを握りしめて突撃を仕掛けてきた。
 
 「おおおおお!」
 「大人しくしろ!」
 「相手は殺人の容疑者だ、油断するなよ……!」

 総勢十五人の警官が四方より取り押さえるため飛び掛かると、ハーキュリアはさすがに足を止めるわけにはいかず、滑るように後退して距離を取る。

 『関係ない、ということはないのだがね? あちら側から魔族がなだれ込めばお前達人間は食料なのだ、今か先か、それくらいの差だろう。そら!』
 「ぐわ……!?」
 「川島ぁ!」
 「くそ……素早い……!」

 マズイ、これは漫画などでよく見る『追いついた奴から一人ずつやられる』パターンだ! 俺は即座に大きく駆け出し、大声で叫ぶ。

 「宇田川さん俺が回り込む。エリク、逃がすなよ!」
 「ああ!」
 「すまん! くそ、銃は……マズイか」

 流石に発砲は無理のようで舌打ちをしながら警棒を振り下ろす。

 『当たりませんね! ……今度は後ろ!』
 「チッ、やりやがるな……!」

 「す、すげえ……あれが修、か……? エリクの魔法もとんでもねえ……お、俺も!」
 「迂闊に動くな霧夜、身を守ることに全力を尽くせ!」
 「わ、分かった……!」

 下手に攻めてこの強力な爪で串刺しにされるのは避けたい。警官は防弾チョッキ的なものをつけているが、霧夜はなにも装備していないのだ、迂闊に踏み込まないよう注意する。
 少しよそ見をしている間に、宇田川さんがハーキュリアに肉薄したようで、警棒を肩口に叩きつけているのが見えた。

 「もらったぜ!」
 『む……異世界の人間風情が……!!』
 「うおおおお……!?」
 「宇田川さん!? やりやがったな! くらえ! んで<火の息吹>だ!」
 『ぐぬ……!? くく、いいのかな? 私が憑依から抜ければこの男は大やけどで死ぬぞ?』
 「構いませんよ!」
 「構うよ!? くそ、そのための憑依って訳か……」
 『まあ、それもありますがこの男の波長とはずいぶん馴染みましてね、それに人間に近づくなら人間の姿が一番いいと思いませんか? ……さて、そろそろ始末をつけましょうか』
 
 ハーキュリアが目を細めて呟くと同時に羽を使い空中へ舞い上がり、両手を俺達に向けて口を開く。

 『この魔法で消し飛ぶといい……女二人の血は少し勿体ないが、そろそろ頃合いなのでな』
 「頃合いだと? どういうことだ!」

 マズイ、あの収束した魔力はマジでこの武道場を消し飛ばせる力がある……!? 飛翔で攻撃するよりも魔法の方が早く撃ちだされる可能性が極めて高い……どうする……!

 『気づかないか? 私達の目的はこの世界と向こうを繋ぐこと。そしてそれには聖女の生贄が必要だ。……私一人で来ていると思ったか?』
 
 まさか……こいつが囮なのか!?
 フィオ達以外は撤退したから知っている奴は居ないと踏んでいた俺のミスだ……! でもどうして魔族が知っているんだ? 憑いていたモーリジェンゴは倒したし、魔王が現れた時は八塚を別の場所に隔離していたハズ……

 『死ね……!』
 「考えている場合じゃないか! <飛翔ライトウイング
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