70 / 115
騒動はハンバーガーと共に
しおりを挟む「うん、これでいいでしょう。いくつか深い傷があったので安静にしておいてくださいね」
「ありがとうございます、ほらウルフ動くな」
「みゃーご……」
「にゃーん」
体育館みたいな武道場に来てから一時間ほどしたところで獣医さんが登場し、サッとウルフの手当てをしてくれて包帯だらけの体になった。鳴き声はか細いままだけど水を飲むくらいは元気を取り戻してくれ、俺達は安堵して若杉さんと宇田川さんを待つことにする。
「良かったなあ、お前だけでも助かってよ……」
「ふごー」
霧夜がクッションの上で寝そべるウルフの背中を撫でて労ってやると鼻を鳴らしていた。後は羽須がこちらに来ればとりあえず安心だけどまだ来ていない。母ちゃんの言う通り行動するなら夜だろうか? だとすればまだ昼にもなっていないので持久戦になる。
仮眠をするかと思っていたけど、あることに気づき寝転がりながら一言呟く霧夜。
「腹減ったな……」
「俺も朝飯を食ってないからな……メッセージで宇田川さんになんか買ってきてもらおう」
「シュウ兄ちゃん容赦ないな。あ、俺ハンバーガーってやつ食いたいかも」
「私も! 外を歩いている時に見た『メンチカツバーガー』がいいなあ」
「お、いいな。みんなこれを見てメニューを選んでくれ」
「わーい!」
緊張感は持っていた方がいいけど、腹が減ってはなんとやらということで仕事中に申し訳ないけど昼食を所望することに。
「よし、これで気づいてくれれば買ってきてくれるだろ」
すると『了解、羽須さんも保護した』との返信があったので、後は待つばかりということをみんなに話すと全員が安堵の表情で頷いた。
しかし安全がある程度確保されているとはいえ、その間することが無いので適当に話をする。
「それにしてもまだ信じられないよ、昨日の親子が死んだなんて」
「俺だって見るまでは信じられなかったけど、間違いなく亡くなっていた。見立てだとあの時一緒に居た人間はどこかで俺達を見ていたのかも……」
「でもお兄ちゃんや霧夜さん、エリクじゃなくてなんでその親子だったのかしら? 警察の宇田川さんを狙うのは難しいと思うんだけど、個別なら狙ってきそうなのに」
フィオがウルフの背中を撫でて落ち着かせながら首を傾げるが、それには簡単な答えがある。
「まずひとつは弱そうな方を狙ったんだと思う。さらに言うと、見せしめの可能性が高い」
「見せしめだと……!」
「落ち着け霧夜、魔族ならあり得るってことだ。まあ、目的のために手段を選ばないってんなら国王サイドも怪しいけどな」
「みなさんやレンさんを生贄にしようとしていたから耳が痛いですね……」
まあ本当にただの強盗という線もある。が、流石にあの死に方でこちら側の人間を疑う余地ってのは少ない。
「どちらにせよ、対峙しないといけないってことだよな。やってやるぜ」
「お前は無理するなよ? 魔族や向こう側の人間との戦いは俺やエリクに任せてくれ」
「まあ、やれることはするってだけだ」
「あれ、そういえばブランダは?」
「武道場にも医務室があってそっちに寝かされているってよ。命に関わるようなこっちゃないけど、目を覚まさないのは厄介だな」
「あ、宇田川さん!」
そんな話をしながらさらに一時間ほど経ったところで宇田川さんが武道場へやってきた。隣にはポテトを頬張っている羽須が見えるがスルーしよう。
「はいはーい! わたしも居ますよー! 皆さんのハンバーガー買ってきました!」
スルーできなかった。
やつが持っている袋が俺達の昼食のようなので、近づいて来た羽須に声をかける。
「サンキュー、朝も食っていないから腹が減りすぎてんだよ」
「フフフ、このわたしに感謝することですね……」
「うざいなあ。そもそもここに連れてこられた理由が分かってんのか?」
霧夜がコーラとダブルチーズバーガーを取り出しながら目を細めて羽須に言うと、彼女はポテトを飲み込んだ後、鼻を鳴らしてから答えた。
「もちろん! わたしが可愛いからですよ!」
「アホか!? 宇田川さん、説明しました?」
「まあ、一応な。……しかしあの現場を見てよく食えるな……」
「え? ああ……過去の記憶もあるから人が死んでいるのを見るのは慣れているんだよ。あんまりいいことじゃないんだけどさ」
「なるほどな、勇者ってのも大変だなあ、ゲームみたいにはいかねえってことか」
「はは、確かに」
とりあえず現場で犯人の手がかりは無かったらしく、俺からのメッセージを見てからハンバーガー屋に行ってくれたのだそうだ。
羽須を迎えに行ったのは別の警官で、さっきそこで合流したらしい。
「さて、それじゃ俺は一旦署に戻る。ここから動くんじゃないぞ?」
「そんな!? 女の子を男の子の群れに放置していくんですか!?」
「なんもしねえよ。フィオも居るから気になるなら一緒に居ろよ」
「頑張りましょうね」
「チッ、かわい子ぶっちゃって……! 痛っ」
大げさなリアクションをする羽須にフィオが笑顔で接すると舌打ちで返しやがったので、後頭部を引っぱたいておく。
「いたた……冗談ですよ。さて、変態殺人犯は来ますかね?」
「ん? なんで変態殺人犯?」
俺が羽須の言葉に疑問を持ち聞き返すと、宇田川さんが神妙な顔で代わりに答えてくれた。
「……あの親子の母親、キャバクラで働いていたらしい。名刺と派手な服があった」
「なんだって……!?」
新たな事実に俺は驚愕する。
もしかして向こう側の人間じゃないのか……? まだキャバ嬢殺人事件が続いているのか? そういえば若杉さんの方はどうなったんだろう?
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
異世界帰還組の英雄譚〜ハッピーエンドのはずだったのに故郷が侵略されていたので、もう一度世界を救います〜
金華高乃
ファンタジー
〈異世界帰還後に彼等が初めて会ったのは、地球ではありえない異形のバケモノたち〉
異世界から帰還した四人を待っていたのは、新たな戦争の幕開けだった。
六年前、米原孝弘たち四人の男女は事故で死ぬ運命だったが異世界に転移させられた。
世界を救って欲しいと無茶振りをされた彼等は、世界を救わねばどのみち地球に帰れないと知り、紆余曲折を経て異世界を救い日本へ帰還した。
これからは日常。ハッピーエンドの後日談を迎える……、はずだった。
しかし。
彼等の前に広がっていたのは凄惨な光景。日本は、世界は、異世界からの侵略者と戦争を繰り広げていた。
彼等は故郷を救うことが出来るのか。
血と硝煙。数々の苦難と絶望があろうとも、ハッピーエンドがその先にあると信じて、四人は戦いに身を投じる。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる