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目覚める勇者

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 「すみません、宇田川さんは居ますか!」
 「なんだ君は? ここから先は入れないぞ」
 「宇田川警部補に呼ばれて来たんです、呼んでもらえませんか!? 若杉警部でもいいです!」

 現場に急行した俺と母ちゃんは野次馬と報道陣を押しのけて人避けの警官に事情を説明するも追い返されそうになる。どうしたものかと歯噛みをしていると、アパートから宇田川さんがこちらに気づいて来てくれた。

 「すまない、この子は例の調査部の生徒なんだ」
 「こ、この子が、ですか? 承知しました。しかしここは目立つので裏からお願いします」
 「分かっている。……お母さんですか?」

 警官とやり取りしている中、宇田川さんが母ちゃんに目を向けると、母ちゃんは頷いてから俺の肩に手を置いた。

 「ええ。私は待っているのでこの子をお願いします。修、終わったら電話をしなさい、この辺りで待っているわ」
 「ありがとう母ちゃん、スリートを頼むよ。宇田川さん、行こう」
 「ああ」

 もう一度野次馬をかき分けてアパートの裏に回り、狭い裏道を抜けて部屋へ入る。裏は野次馬も居ないので俺が見られることは無さそうだと考えながら宇田川さんに続く。
 
 「……真由」
 「間違いなく昨日であった子と母親だ、手を合わせてやってくれ」
 「……」

 俺は目を瞑って手を合わせると不意に涙がこぼれた。こういう生き死には向こうの世界でありふれたものだが、こうして小さい子が亡くなるのは忍びない。まして、ここは現代の日本、平和な世界に起こりえない事件だ。

 「……っ。死因は?」
 「外傷による失血死……ということだが、見ての通り血液が飛び散った形跡は無し。それどころか、体内の血液がきれいに抜かれたかのように空っぽらしいぜ」
 「血が? 遺体を触ってもいいかい?」
 「手袋をつけてな」

 ほら、と白い手袋を渡されて恐る恐る親子の体を見ていくと、昨日の元気だった笑顔が思い出されて胸が締め付けられる。
 頭を振って気を取り直しておかしなところがないか見ていくと首筋に小さな穴が開いているのを発見し、目を細めると傷は二つあり、母親と真由、両方ともついていた。

 「宇田川さん、こいつは調べたか?」
 「……良く見つけたなこんなの。鑑識を呼ぶ」

 宇田川さんが鑑識を呼んだので俺はもう少し確認しようと思ったのだが、そこでふと足りないものに気づいた。
 
 「そうだ、猫はどうしたんだ? すみません、この子達が飼っていた猫を見ませんでしたか?」
 「ん? いや、現場に駆け付けた警官が言うには二人がリビングで倒れた状態で発見されただけだったそうだよ。猫は見ていないなあ……」
 「そうですか……」

 スメラギ達と違ってタダの猫だし、もしかしたら逃げたのかもしれないな。薄情だとは思わない、人間を殺す相手なら猫なんてあっさり殺してくるだろうし。
 
 ……それにしても、全身の血が抜かれて首の傷、まるで吸血鬼だ。俺も向こうで戦っていた時は魔物とドラゴンしか戦っていないので『そういう魔族』が居るとしたら、こっちに来たのは魔ぞ――

 「……!?」
 
 ――だとしたらこの親子が狙われたのはまさか……!? 

 「宇田川さんマズイ! あの時俺達と一緒に居た羽須も危ないかもしれない! 霧夜とエリクにも連絡しないと!」
 「どうした修?」
 「多分、俺達のことは『向こう』に知られている、それで見せしめにこの親子を殺した可能性が高い」
 「なんだと……!?」
 「宇田川さんは羽須を迎えに行ってくれ、警察署なら手は出せないはずだ。俺は母ちゃんに頼んで霧夜とエリクを連れて警察署に向かう! ……ぐっ!?」
 「あ、ああ! 若杉さんに電話を――って、何をしてんだ修!?」

 俺は自分の顔面にパンチをし、額から血が流れだしそれを拭いながら宇田川さんに言葉を返す。

 「……俺の不甲斐なさでこの親子は死んだと言っていい。もっと早く、悠長なことしていないで探すべきだったんだ」
 「お前のせいじゃ……」
 
 宇田川さんはそう言ってくれるが、向こうの常識を思い出したにも拘わらずこっちの常識で動いていたのがそもそもの間違い。聖剣が無いことでひよっていたのかもしれない。

 「先に行く! 羽須を頼んだ!」
 
 宇田川さんの返事は待たずに裏を駆けて野次馬が居る通りに出ると、そこにボロボロになった猫が俺の前に立ちはだかった。

 「お、お前、まさかウルフか!?」
 「にゃーご……」

 今にも倒れそうな足取りで俺に近づいてくるウルフ。生きていてくれたかと迎えようとした瞬間、血を吐きながら口を開く――

 <ゆ、勇者シュウか……>
 「喋った!? ということは――」
 <俺は前世でサンダードラゴンだった者……あの親子を殺した犯人を追うのだろう……お、俺も連れて行け……>
 「喋るな! チッ、手当しながら行くか……!」

 俺はウルフを抱え上げると、一直線に母ちゃんの下へ向かった。
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