上 下
67 / 115

最悪の朝

しおりを挟む

 「あふ……おはよう母ちゃん」
 「あら早いわね、昨日歩きまわっているから昼まで寝てると思ったけど」
 「まあ、いつまでも寝てられないし……時間がもったいない」

 俺がそういうと、親父があくびをしながら口を開く。

 「俺も昨日は帰りが遅かったから眠いけど同感だ。せっかくの休みを寝て過ごすだけってのはな勿体ないよな。そうだ、結愛が起きたら久しぶりに外食にでも行かないか?」
 「いいわね、たまには家事から解放されたいし」

 日曜日の今日はそんなのんびりした会話から始まり、冷蔵庫からパックのカフェオレを取り出してからソファへと座る。

 「昨日と違う店ならいいぜ。……ふう、週休二日という制度を考えた人は正直なところ偉いと褒めたたえたい気分になるなあ」
 「だらけてないで勉強しなさいよ? 今日は予定がないんでしょ?」
 「ああ、今日はゆっくりするつもりだよ」

 昨日は女の子、真由を送り届けてから繁華街を回り、帰宅したのは十九時を過ぎたころだった。土曜日の繁華街は営業が早く、十七時過ぎには飲み屋やむふふな店が開き始めていたので怪しい奴が居ないか慎重に歩き回ったものの、結果として惨敗に終わり、スメラギも髭レーダーはブレもしなかったりする。

 気落ちするスメラギを八塚邸へ返しに行くと真理愛や結愛たちもすでに帰宅しており、表情から察するに楽しかったことは明白だった。が、家に居た結愛が疲れ果てていたのでなにをしていたのかは怖くて聞けなかった。

 「そんじゃ、結愛を起こして外食にしようぜ。十時なら昼まで待った方がいいだろ」
 「にゃーむ」
 
 そんな中、スリートが母ちゃんの足にすり寄って甘い声を出す。だが、母ちゃんは無情の言葉を投げかけるのだった。

 「スリートはお留守番ね」
 「にゃおん……」
 「昨日は頑張ったし、美味そうな餌を買ってくるから待ってろ」
 <(頼みやすぜ!)>

 実際、町中の野良猫達と折衝して情報を集めていたらしいので労力の見返りとして一つ千円くらいする猫用の食べ物を用意してやるのもやぶさかではない。
 
 しかしそこで宇田川さんから電話がかかる。

 「あれ? 今日は休みだって言ってたのに……もしもし」
 「修、大変なことになった! 今、テレビを見れるか!?」
 「え、ええ? そりゃ見れるけど……な!?」

 俺はテレビ画面を見て驚愕し、全身から冷や汗を流すと持っていたカフェオレを取り落とし固まってしまう。
 
 「どうしたの?」
 「誰なんだ修? ん? また殺人事件、か……」
 「可哀想に……」

 親父と母ちゃんも画面を見て表情を曇らせる。
 それだけならいつものニュース番組だが、生中継で流れているテレビのテロップには――

 『本日、弥生町のアパートで親子が亡くなっているのが発見されました。自宅にあった身分証明書から、この部屋に住む『長田 未希』さんと娘の『真由』ちゃんと断定され――』

 ――昨日、挨拶を交わした親子の姿があった……!!

 「どういうことだ!? 昨日喋った二人じゃないか!」
 「俺に聞くな、こっちも混乱しているところなんだよ……くそ!」
 「現場には?」
 「……修、お前だけなら許可してやれると思う」
 「わかった、すぐ向かう」

 俺は通話を終えるとすぐに母ちゃんに声をかけられた。

 「なんの電話だったの? 大丈夫? 顔が真っ青よ、このニュースがなにか関係あるのかしら」
 「……ごめん、外食は無しだ。そのニュースに出ている親子、昨日俺達が繁華街で出会った二人なんだ。今から現場へ行ってくる」
 「そんな……なら私が送っていくわ、すぐ行くんでしょ? お父さん、結愛をお願いね」
 「ああ。……気を付けてな」

 俺は頷いてから部屋に戻って60秒で支度を終えてまた一階へ。その間に母ちゃんが車の鍵を持って待っていた。

 「じゃ、行ってくる。結愛と……もし真理愛が来たら適当に言っておいてくれ。スリート!」
 「にゃーん!!」

 スリートを摑まえてガレージに向かい、助手席へ座りスリートを後部座席へ投げると車は移動を始める。

 「安全運転で行くからね」
 「それでいいよ、もう、手遅れだしな……」
 「……のかしらね」
 
 母ちゃんの言葉に返せず、俺は窓の外を景色を眺めながらやるせない気持ちを落ち着かせようと深呼吸をして目をつぶる。キャバ嬢を狙った殺人じゃなかったのか?
 少し冷静になった頭で今回のことを考えるが、そもそも犯人が本当にキャバ嬢だけを狙っていたとは限らな――

 「犯人はキャバ嬢殺人犯とは別かしら? 山本さんとの見解だと、キャバ嬢に恨みを持っていそうらしいらそれ以外の人間を狙うとは考えにくいわ。もし同じ犯人なら心変わりした理由を知りたいわね」
 
 確かにキャバ嬢に恨みがあるなら母ちゃんの言う通り別人の可能性が高い。ただの殺人犯なら向こう側の人間が関与しているとは考えにくいけど、万が一ということもあるか?

 「それにしてもなんであの親子が……くそ、死んだのか、本当に……」
 「せい!」
 「うわあ!? なにするんだよ母ちゃん!」
 
 信号待ちで不意に母ちゃんから肩を叩かれて俺はびっくりして飛び上がると、母ちゃんは前を見たまま話を続けた。

 「落ち着きなさい。人間、いつ死ぬか分からないの。それが今回知り合いだっただけ。交通事故で明日にでも真理愛ちゃんが死ぬかもしれない、それがこの世界よ」
 「あ、ああ……」
 
 真理愛が死ぬところなんて考えたくはないが――

 「落ち着いた? なら、ゆっくり急いで行くわよ」
 「頼むよ母ちゃん」

 いつの間にか気分が落ち着いていることに気づき、俺は頷いて再び前を見る。どちらにせよ行ってみるしかないかと、俺と母ちゃんは現場へと急行するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

俺は人間じゃなくて竜だった

香月 咲乃
ファンタジー
偉大な功績を残した英雄竜に憧れる人間の少年ロディユは、おかしな青年ポセと出会う。 行動を共にするようになった二人は、幻の山を目指すことに。 そこに辿り着いた二人は、自分たちの星が存続の危機にあることを知る。 そして、その元凶は、神だということも……。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

令嬢キャスリーンの困惑 【完結】

あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」 そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。 14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。 すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

処理中です...