58 / 115
繋がる線
しおりを挟む「ええ、こっちは大丈夫です。は? 生徒じゃない子だったのが幸い? そう言う問題じゃない!」
「どうしたんだ、珍しく怒っているじゃないか」
「上がくだらないことを言ったからだ。それより、エリク君達は?」
「フィオとエリクは立てるくらいには回復したけど、幽霊はダメだ、意識を失っている状態らしい」
「修ちゃん、あの人ブランダさんだって」
「知っている」
なんとなくそっちの方が伝わる気がしたからだ。
さて、若杉さんのおかげでフィオ、エリク、ブランダという女性の異世界組は病院に運ばれ、魔力をごっそり持っていかれたものの『繋がり』が薄くなっていたのか、フィオとエリクはまだ眩暈がするくらいで耐えていた。
しかしブランダは倒れたまま目を覚まさず、集中治療室へと運ばれた。
「異世界の人間、三人目か。報告書が面倒ですね警部」
「いいさ、向こうから来るというのが把握できたなら、警戒をするべき事案が起こるということ。この仕事も馬鹿にならないさ」
宇田川さんが肩を竦めて言ったことに対し、若杉さんは起こったことをそのまま報告するんだ、簡単だろ? みたいなことを言いながら、なにかを確認しにこの場を離れていく。
残された俺達がフィオ達が戻ってくるのを待っていると、八塚が誰にともなく話をしだす。
「なにが来ると思う?」
「王国サイドか魔族かってことか?」
「うん。扉を開けられるのは国だけみたいだけど魔族も変装して来ていたのよね? 魔族が潜り込んでくるとなると修君の聖剣セイクリッドくらいしか対抗策が無いから、ハッキリさせておきたいのよ」
「……お前も狙われるしな」
「あ、聖女ってやつ?」
目をぱちくりした八塚が『ああ』という感じで手を打つと、真理愛が八塚に背中から抱き着きながら言う。
「うんうん。また誘拐されないか心配だよー。明日から暗くなる前に帰らないとね。車でなら大丈夫かな?」
「村田が失態を犯しているからあまり信用できないけど、それ以外に方法が無いしな……送ってもいいけど」
「それもいいんじゃね? 車で八塚んちに一緒に行って、また送ってもらうとか?」
霧夜が頭の後ろで手を組んで軽く言うけど、車を出してもらうのは流石に申し訳ないと思う。しかし、八塚は顎に手を当てた後、ゆっくり頷いて俺達に告げる。
「それもいいけど、調査もしたいし固まって動くべきかも。いつでも村田は呼べるから、商店街方面の聞き込みの後に帰る、って感じにしましょうか」
「ま、まあ、奴らの動きがあってからな?」
「ええ!」
やる気があるのはいいけど、八塚は真面目に狙われるからあまり首を突っ込ませすぎるのは怖いんだよな。カレンもこういう強気なところあったから俺についてきたんだよな……
「あ、フィオちゃんとエリク君が戻ってきたよ」
「お、大丈夫かエリク、フィオちゃん」
「ありがとう霧夜さん。俺達はもう大丈夫、家に帰っていいって。……まあ魔力を抜かれたなんて分からないから貧血だってことになってるけど」
「ええ、多分こっちに数人来ていると思うわ。まさか私達の魔力を通り道に使うとは思わなかったけど……」
これも不可解ではあるんだよな、どうしてフィオ達とチャンネルが繋がっているのか?
「なんか仕掛けがあるのか……? なにか渡されたり、飲まされたりしなかったか?」
「うーん、ちょっと覚えはねえかな」
「うん。持ち物は自分のものだけだし」
考えても分からないか、とりあえず警戒を十分にしながら、向こうの世界の住人の情報を集めようと、その日は解散となった。
ブランダは若杉さん達の管轄になるそうなので、護衛をつけてくれるそうなので安心できる。
◆ ◇ ◆
「はあ……はあ……ひ、ひひひ……」
――深夜に近い時間、陰気な顔をしたサラリーマンが路地裏を走りながら気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「やった、またやってやった……馬鹿なキャバ嬢が、金に釣られてついてくるから殺すのなんて簡単だぜ……馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって……死ねみんな死ね……」
男は狂っているようにぶつぶつと呟きながら、返り血のついたシャツを一斗缶の中に放り込み、オイルを流して火をつけた。
「こ、殺せるだけ殺してやる……死刑でもなんでも構わない……」
爪を噛みながら炎をじっと見つめていると段々心が鎮まっていくサラリーマンに、背中から声がかかる。
<貴様の望み、叶えてやろうか?>
「だ、誰だ!? 見られた……! 死ね!」
<おっと、ためらわずナイフを突き出してくるか、なかなか悪い魂を持っているな>
「うるさい! 死ね! 死んでしまえ……!!」
ローブを目深に被り、声色から男だと思われる人影にナイフを取り出し襲い掛かるサラリーマンだが、あっさり回避された上に――
「うぐ……!?」
<活動するにはちょうどいいな『借りるぞ』>
「あ、が……!?」
首を掴まれたサラリーマンは暴れるが、ローブの男の目が光った次の瞬間、だらりと腕が下がりナイフを取り落とす。
そして、サラリーマンと抜けがらになったローブだけがその場に残されるのだった――
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる