35 / 115
憐れなドラゴン
しおりを挟む「ふう……」
<見事だシュウ。灰になった魔族は復活することはないからこれで片付いただろう>
スメラギが満足げに頷き、俺は剣を一度振ってからスメラギへ言う。
「聖剣だからか?」
<そうだな。単純な攻撃力と切れ味もそうだが、魔族を消しさるための何かが施されているようだぞ>
「そうなのか。女神から授かった、と国王から聞いたけどそもそも女神が魔族を滅ぼしてくれれば一番いいと思うよな」
<……そう、簡単なことではないのだろう。それよりお嬢の様子を見に行くぞ!>
「……」
何かを悟られないような素振りで尻尾をずるずると動かしながらフィオ達の下へ向かう。フェリゴを倒したのはいいが、先ほど現れた魔王のことも気になる。けど、すでに気配はどこにもないので考えても仕方ないかとフィオとエリクの下へ向かう。
「やったな兄貴!」
「シュウ兄ちゃん! 良かった……」
「おう、お前達も無事で良かった! 知り合いが死んだりしたら悲しいからな」
「うん。一応調べたけどみんな大丈夫、生きているわ」
八塚を含め、合計十名ほどの人が青い顔をして倒れているが、確かに胸は上下しているので呼吸をしているようだ。とりあえず安心だが、俺は気になることをふたりに尋ねることにした。
「お前達はこれからどうするんだ?」
「……それが――」
エリクが肩をすくめて語りだしたことは俺にとってもショッキングな話だった。どうやらあのモーリジェンゴに化けていたフェリゴが国王と共に計画を発動し、廃ビルで戦ったイルギットとこっちの世界へ来た。
しかし、あの時転移魔法の道具を使ったイルギット達は、一度フィオ達と合流した後、向こうの世界へと帰ってしまったらしい。
それで異世界へのゲートは一度魔力切れで閉じてしまったので、もう一度開くため魔力を回収すべくこっちの人をさらっていたそうだ。
「まんまと騙されてたってわけか」
「ごめんなさい……」
<あまり責めるなシュウ。恐らく魔力については話通りだが、生命力を吸い取っていたのはあの魔族の仕業だろう。エナジードレインは魔族を活性化させると聞く>
「確かに魔力を吸われたくらいじゃすぐ命に関わるようなことはないしな」
エリクの言葉にスメラギが頷いた。それじゃあと俺は質問を続ける。
「戻り方はわかるのか? 今の口ぶりだとフェリゴが居ないと戻れないんじゃないか?」
「兄貴の言う通りさ。一応俺も魔法使いのはしくれだけど、ゲートを開く方法までは聞かされていないんだ。やり方さえわかればどこででも開けるみたいだけど」
「そうか……どうするかな、お前達をこのままにしておくわけにもいかないし……」
と、フィオ達の処遇を考えていると、スメラギが頭をもたげ耳を澄ます仕草をした。なんだと思っていると、スメラギが口を開く。
<なにかこちらに向かっているぞ?>
「え? ……!? これ、パトカーのサイレンか!? なんでこんな寂れた場所に……」
「なに?」
フィオが首をかしげていると、工場の入り口がけたたましい音を立てて叩かれる。
(中で大きな音がしたんだ! 早く扉を開けてくれ、もしかするともしかするかもしれん!)
(ちょ、焦らないで……あー鍵落としちまった)
(はーやーく!)
「げ!? 今の声は若杉刑事か!? なんでこんなところにいるんだよ!」
<ふむ、先ほど少し外に人の気配があったがそやつだろうか? 先ほどの火球で屋根を吹き飛ばしたのを見ていたか?>
「言ってる場合か! ここで見つかったら今度こそ母ちゃんに殺られる!? ど、どうする……」
呑気に予測する駄竜の足を蹴ったその時、俺はふと右手の剣とスメラギを見て青ざめる。
「お、おい、スメラギ。お前小さくなったりできないのか……? ね、猫に戻ったりとかは」
<む? 我は誇り高きカイザードラゴンだぞ? 小さくなどなる必要などない。そしてこの姿に戻った以上、猫に戻る理由もないだろう>
「大ありだ!? この世界にゃドラゴンはいないんだ! 見つかったら世紀の大発見からの解剖まである」
<むう……しかし、暴れれば……>
「暴れたら処分される! お前、近代兵器舐めるなよ? あとは俺の聖剣もやばい……」
<解剖……>
「ど、どうするの?」
フィオが焦りの声を上げて俺の肩を揺すり、困惑した目を向けてくるが、策は一つしかない。すなわち、スメラギを置いて三人で逃げ、八塚達は刑事にお任せすること。
「……すまん」
<なんだそのすまんは!? まさか我を置いていくつもりか!?>
「いや、だってお前小さくなれないし……犠牲は少ない方が……」
<くっ……!>
状況を理解したスメラギは冷や汗をかいて小さく呻いた。鍵が開くのは時間の問題……仕方ないと俺が駆け出そうとしたその時――
「あ!?」
<何!? ぐお……!>
俺の手から聖剣が勝手に飛び出し、スメラギの腹に突き刺さった!? お、俺は何もしてないぞ?
すると、血が噴き出しそうなくらい深々と刺さったにも関わらず、そんなことは起こらなかった。さらに見守っていると、スメラギの体が輝きだし、見る見るうちに小さくなっていく。
「あ! ねこちゃん!」
<んな!? ま、まさか……?>
スメラギは前足をスッと目の前に持ってくると、なんとも言えない声を上げて絶叫した。
「いや、でもチャンスだ。このままお前はここに残れ。俺たちは気配を消して工場の隅で様子を見守る」
<……>
肉球を呆然と見ながら固まっているスメラギを放置し、俺はふたりの肩を掴み気配を消す。瞬間、工場の重苦しい扉が開いた――
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
強制無人島生活
デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。
修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、
救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。
更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。
だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに……
果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか?
注意
この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。
1話あたり300~1000文字くらいです。
ご了承のほどよろしくお願いします。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
二周目だけどディストピアはやっぱり予測不能…って怪物ルート!?マジですか…。
ヤマタカコク
ファンタジー
二周目チートではありません。モンスター転生でもありません。無双でモテてバズってお金稼いで順風満帆にはなりません。
前世の後悔を繰り返さないためなら……悪戦苦闘?それで普通。死闘?常在でしょ。予測不能?全部踏み越える。薙ぎ倒す。吹き飛ばす。
二周目知識でも禁断とされるモンスター食だって無茶苦茶トレーニングだって絶体絶命ソロ攻略だって辞さない!死んでも、怪物になってでもやりとげる。
スキル、ステータス、内政、クラフト、てんこ盛り。それでやっとが実際のディストピア。 ようこそ。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる