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交錯する世界
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「な、謎の小僧に邪魔をされ、ふたりがかりでも勝てず時間切れとなって、しまいました……」
「それでおめおめ逃げ帰って来たというのか? ……馬鹿者め! 向こうへ送るのにどれほど苦労があるか分かっているのか!」
どこか中世の城、その謁見の間と呼ばれる場所に似たところで、やはり中世めいた服装をしたカイゼル髭の男が膝まずく男二人に檄を飛ばす。
頭のてっぺんは剃髪か天然かは分からないが、髪は無く、両耳の上からわずかに生えているだけという男が興奮した様子で叫ぶのを、玉座に座っていた王と思われる陰気な男が口を開く。
「……その小僧、何者だ? 魔法を使ったということだが?」
「は……我々にもさっぱり……向こうの世界は少し滞在したところ、魔法とは違う技術が発展しておりましたので、その類かとも思います。奇襲気味に受けたので、なんとも言えませんが……」
王にそう言って返したのは修が『イルギット』と認識した男。金髪に少したれ目がちな目を恐怖に染めている。そこへ隣で膝をついていた男が続けた。
「身のこなし、腕力はかなりのものでした。俺が為すすべなく吹き飛ばされましたからね。騎士である俺達ふたりを相手にも引かなかった。相当な胆力もあるかと」
「ぬう……それは確かに……ジグよこちらのことが気づかれたか?」
カイゼル髭の男が呻くように呟くと、王らしき男が顎に手を当てながら首を振る。
「いや、話を聞く限り向こうの世界は人が多く、子供の発言がそれほど重要視されてはいないようだ。魔法もない世界だ、人が煙のように消えれば追えもせん。それより、問題は攫った人間を取り戻されたことだな。その中に『鍵』はあったか?」
「はい。まだ戻ってきていないようですが、ブランダがそれらしい少女を手に入れたと聞いております」
「そうか。イレギュラーがあったようだが、ご苦労だった。体を休めてブランダと合流し『鍵』を連れてくるのだ」
「かしこまりました」
もういいぞという言葉を受け、イルギットとジグは謁見の間を後にする。残されたカイゼル髭の男と王はふたりが出て行った後、話を続ける。
「……勇者シュウがカイザードラゴンと相打ちになったまでは良かったのだが、聖女も失ってしまったのは痛手だったな」
「あれから十五年……聖女が大聖堂を抜け出し、勇者と共にカイザードラゴン討伐に赴いているとは思いませんでしたからな」
「言うなザンビア。ふたりは恋仲だったという。だからこそ、勇者だけ始末できるよう手を打ったのだが……」
そう口にしながらザンビアから受け取ったグラスのワインくいっと飲むと、渋い顔をする。
「しかし、向こうの世界の『鍵』は聖女と同じ役割を果たせるでしょうか?」
「やるしかあるまい。違えば他の者を攫うだけだ。そうでなくば我らは魔王の軍勢に滅ぼされる道しかない。せめて聖剣さえあれば話は違うだろうがな」
失われたものは仕方がないと呟き、王は玉座を立つと裏にある扉に向かって歩き出す。それを追ってザンビアも移動し、謁見の間は静寂に包まれるのだった――
◆ ◇ ◆
「よ、修。結局どうだったんだ? スメラギは掴まえたか?」
「まあな……昨日は散々だった。まさか警察のお世話になるとは思わなかったからな」
「……ついに……」
「そう言う意味じゃねぇよ!? ……たまたま廃ビルで行方不明の人達を見つけてな。それで事情聴取されたってわけだ」
俺は挨拶をしてきた霧夜にひそひそと昨日のことを話すと、目を見開いてから顔を近づけてくる。
「マジか……? もしかしてスメラギと一緒に八塚さんを?」
「そういうことだ。残念ながら見つからなかったが……」
「そうか……」
家に遊びに行った友達でもあるため、霧夜も心配だと腕を組んで難しい顔をする。ふたりで悩んでいると、本庄先生が入ってくる。
「よーし、騒ぐな! 席についてないやつは処刑するぞー」
「物騒なこと言うなよ先生」
「そういうことは学校を抜け出さないで言って欲しいもんだがな? 神緒は後で職員室確定として、今日はお前達に学校からお願いがある」
「藪蛇だった……」
俺は後から来る悪夢を思いながら呟くと、本庄先生は真面目な顔で俺達を見渡してから、ゆっくりと口を開く。
「昨日、同学年の八塚 怜が登校途中に行方不明になった。知っていると思うが、彼女は車で送り迎えをされていたにも関わらず、だ。運転手は見つかったが意識が戻らず話が聞けない状態。そのことを受けて、学校は集団下校、先生方による通学路の監視を行うことになった。加えて、明後日の土曜日から次の月曜日まで、近隣の学校は臨時休校が決まった」
……昨日の今日で八塚の話を出すとは。よほど難航しているようだ。生徒が消えたのは八塚が初めてだったはずだから一日様子を見て、ダメだったからの処置だろう。
「休みか……」
だけど、俺にとってはうってつけだと目を細める。スメラギと共に、八塚を探すことができる。
そう思いながら誰にも見えないよう、魔法を出しいた。
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