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謎の頭痛

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 「ふう……ふう……」
 「39.5℃。元気が取柄の修が風邪を引くなんてね。お風呂から出た後、布団に入らないでゲームしてたんでしょ」
 「うぐ……あ、頭……」
 「大人しく寝ていてね? 母さん、下に居るから用があったらそのボタンを押すのよ?」
 
 いつの間にこんなものを作ったんだ……と、朦朧とする意識の中で母さんに握らされたナースコールのようなものの感触を味わいながら俺はそんなことを考える。
 
 「……」
 
 何となく押してみると、バタバタと母さんが階段を登って来て俺の部屋の扉を乱暴に開けてベッドへ近づいてくる。

 「用があったらと言ったでしょう!」
 「……!?」

 母ちゃんに頬を抓られ涙目になる。熱でうなされ、頭痛があると訴えていたので頭を叩かないのは流石母ちゃんである。

 と、いきなり瀕死だが、昨日の晩から俺はずっとこんな調子だった。呻く俺を見つけてくれた結愛が両親を呼んでくれて夜間病院へと運ばれたが風邪であろうということで薬を貰って帰宅。
 夜は薬のおかげで眠れていたが、朝になっても熱は引いていなかったのでこうして学校を休むことになった。

 (はい、申し訳ありませんが息子が……ありがとうございます――)

 会社に休みの連絡をする母ちゃんの声が聞こえる……昨日はマジで死ぬかと思ったけど、今は頭痛よりも熱による意識の混濁が激しい。
 しかし、母ちゃんの言う通り俺は産まれてから大きな病気をしたことは無かった。それにこの熱と頭痛……風邪にしてもちょっとおかしい気がする……ん?

 「!?」
 <……>

 視線を感じたので窓に目を向けると、そこに昨日商店街で見た猫がこちらを見ていることに気づき俺は冷や汗をかく。あの時と同じ三毛猫、か? そこでぷっつりと俺の意識は途切れた――

 ◆ ◇ ◆


 「だから、剣に振り回されるんじゃなく振り回すんだよ。勇者だかなんだか知らないが、地力がないと加護があろうと死ぬぞ?」
 「うーん、この聖剣が使いづらいんだよなあ」
 「魔力の使い方が甘いからよ。悪いけど、一週間でモノにならないなら仲間になる件は白紙だからね?」
 「分かってるよ。魔力か……」
 「頑張ってね、シュウ!」
 「ああ、カリン――」


 ◆ ◇ ◆


 「――!」
 「……!!」

 んあ……? 急に耳元が騒がしくなり、身体を揺すられて俺は意識が覚醒する。目をうっすら開けると真っ暗で俺はドキッとする。どうやら何かを顔に乗せられているらしく、そういえば息苦しい。
 ……今、何か夢を見ていた気がするんだけど、この前と違いよく覚えていない。夢を見る、それは変わらないんだが……そんなことを考えていると、身体を大きく揺さぶられ思考を中断させられる。

 「修ちゃぁぁぁん!」
 「おお、兄ちゃんよ、死んでしまうとはなにごとだ……」
 「いやぁぁぁぁぁ!」

 この声は真理愛、それと結愛か?
 真理愛はマジ泣きで、結愛もセリフは芝居がかっているが声色で困惑していることが分かる。何だ? 一体何が起こっている……?

 「まさか兄ちゃんが風邪で死んじゃうなんて……頭はともかく、身体だけは丈夫なのが自慢だったのに……」

 おい。

 「うわああん! やっぱり学校を休んで看病すればよかったよおお! 修ちゃんが居なくなったら誰があたしと結婚して養ってくれるのよぉぉ……」

 それは金持ちの男でも掴まえて欲しい。というかそんな野望を持っていたとは恐ろしい幼馴染である……! 俺のことが昔から好きなのは承知しているけど、これは真理愛の母親の入れ知恵に違いない。

 (さてどうしようか)

 何故こんなことになっているか分からないが、どうやら俺は死んだと思われているようだ。このまま起き上がって驚かせるのが面白いが、折角だしもっと面白くならないだろうか?
 そう考えた俺は手元にあるスイッチで母ちゃんを呼ぶことにした。母ちゃんが来た瞬間、ガバッと起きてやろうと思う。母ちゃんはずっと居たし、俺が死んでいないことは知っているはずだからな。
 程なくして階段を登る音が聞こえ、俺はスタンバる。こういうのはリハーサルもないため妙に緊張するなと思っていると、母ちゃんが声をあげる。

 「……修!? 今スイッチが! ……そんなはずないわよね……まさか……修が……」
 「おかあさん……兄!」
 「水守さぁぁぁん!」

 焦る母ちゃんの声が聞こえ、ふたりも泣き叫ぶ。演技では無い声色に俺は焦り始める。え? まさか俺、本当は死んでいて幽霊とかだったり!?

 「うおおお、真理愛、母ちゃん、そして妹よ! 俺は生きてるぞぉぉぉぉぉ! ……あれ?」

 「うう、まさか兄ちゃんがー」
 「明日から誰におやつを貰えばー」

 俺が起き上がったその時、我が妹と幼馴染が母ちゃんと共に部屋から出て行くところだった。

 「あ、プリン買ってきたから食べようか。修はまだ寝ているみたいだし、みんなで分け――」
 「うおおおおい!? 俺の分!?」
 
 そんなこんなで――

 「悪かったわよ、ほら、あーん」
 「ふん……」

 聞けば、ちょうど結愛の帰宅とお見舞いに来た真理愛が鉢合わせ、一緒に俺の部屋に来たのだそう。で、空気の入れ替えで窓を開けた際、はらりと俺の顔にハンカチがかかり、悪ノリで最初に聞いた小芝居が始まったのだ。

 「母ちゃんのプリンが食べられないの?」
 「いえ、いただきます」

 母ちゃんには逆らえない。母ちゃんのあーんスプーンを口にすると、真理愛が話しかけてきた。

 「でも、朝会わせてもらえなかったからあたしは本当に心配だったよ……? もう、大丈夫なの?」
 「ん……」

 上目づかいで俺を見てくる真理愛から目を逸らし、そういえば頭痛も熱も無くなっていることに気づく。

 「調子……いいな。いや、良すぎる、かな?」
 「死んだように眠っていたからそれで良くなったのかもしれないわね。これなら明日は学校に行けるわよ、真理愛ちゃん」
 「うん!」
 「じゃあ兄ちゃん、心配料ちょうだい。アイス一本でもいいよ?」
 「やるか!?」

 ったく、とんでもない妹だ。プリンを食べたばかりなのにアイスを所望するとは。いやそれ以前に病人に言うセリフか……俺は頬杖をついて、母さんに頭を撫でられて喜ぶ真理愛を見ながらため息を吐くのだった。
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