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元最強賢者、賢者と禁呪についてを学ぶ 後編

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「さて、存分に基本に立ち返れたようだな! 何か新しい発見はあったか!? なくとも後々役に立つこともあるだろうから、今の時間は無駄ではないぞ!? が……まあ、それだけ終えてしまったら、このクラスに相応しくはないだろう! とはいえ、お前達に相応しい話題となると何があったか……いや、そうだな、アレでいいだろう! これはまさに、お前達だからこそ話せることなのだからな!」

 幾度か指された末の話題に、教室の空気が僅かに変化した。
 僅かに怠惰が混ざり始めていたそれに、期待が混ぜ込まれたのだ。

 だが、そんな空気を制するように、ザクリスは心持ち静かにその言葉を告げた。

「――禁呪についてだ」

 禁呪。
 それは現代魔法の中から抹消された何かである。
 名前や経緯はおろか、理由すらも不明。

 知ってはならないと、十賢者直々に封印されたものであった。

「知っての通り、現代魔法は千年の歴史がある! その中では様々なことが研究され、淘汰されていった! 我々が知る由もないようなことが数多繰り返され……これは現代魔法に相応しくはないと、破棄されたものがある! お前達の中にも、そういった噂を聞いた事がある者はいるだろう! そしてこれから話すのは、そんな間違ってしまったモノの一つだ!」

 現代魔法とは、その基本を願いと祈りから成り立たせている。
 叶えたい願いがあり、その願いのための祈りがあった。
 祈りの果てにあるのが魔法であり、現代魔法とは、その全てが誰かの願いの結実なのだ。

 だが願いには、種類がある。
 誰かのためのものもあれば、自分のためのものもあり――

「その魔法は、確かに誰かのための魔法ではあった! 自分のためでもあったのだろうがな! そしてそれは……賢者に至るための、魔法であった! 誰かは、こう考えたのだ! 賢者に至れないのは、根本的に力が足りていないのだと! 十賢者は、古代魔法の全盛期を渡り歩き、研鑽し合った者達だ! その当時と比べ、現代は平和になった! 平和になってしまった! ゆえに、賢者に至るほどに研鑽することが出来ないのだ、と!」

「ふむ……帰結としては間違っておらぬ……というか、正しいじゃろうな。以前至れた者がいて、今至る事が出来ぬのであれば、以前の環境こそが要因であったと考えるべきじゃろうし」

「それはちょっと極論じゃないの? 偶然その時は極めて優秀な人達が揃ってた、って可能性もあるじゃない」

「極論と言えば極論ではありますが、一理はあるんじゃないでしょうか? 厳しい環境にいてこそ成長出来るというのはあるでしょうし」

「まあ、我々には未だ答えの出せない問題でもあるな! 何せ十賢者以降、未だに賢者に至れた者は現れていないのだから! だが、ともかくその者は……いや、その者達は、考えたわけだ! 何にせよ力が足りない、と! ならば……自分だけで足りないのであれば、他から持ってくるしかあるまい、とな!」

 それもまた、当然の帰結ではあった。
 というか、ひどく魔導士らしくさえある思考だ。

 千年前では当たり前の思考であり、しかし現代魔法の存在している社会には、馴染まない思考でもある。
 禁呪扱いとなってしまったのは、きっとその辺のことが理由なのだろう。

「さて、では問題だ! この場合の方法とは、どういったものがある!?」

「……他から、持ってくる……つまり……奪う」

 やはり現代に馴染み思考ではないからか、若干青ざめたような表情でエリナはそう口にした。
 まあ、最も手っ取り早く、決してやってはいけないことでもある。

 だが、それだけではあるまい。
 ザクリスは、達、とわざわざ言い直して言ったのだ。
 ならば少なくとももう一つはあったはずであり――

「ふむ……あとは、与える、とかかの」

「与える、ですか? それは……確かに結果的に誰かの力は増えますが、それなら別に禁呪にはならない気がするのですが?」

「いや、おそらくはその二つは同じ理由で禁呪になったはずなのじゃろう。力などと言ってはいるものの、結局のところ魔法で最も重要なのは魔力で、魔力とは肉体や魂と密接な関係にあるからの。そんなものを奪ったり与えたりすればどうなるかなど、言うまでもないじゃろ?」

「そういうことだ! 無論、彼らにも良識はあった! 少しならば大丈夫だろうと、そう思ったのだろう! だが、彼らは魔力というものを甘く見ていた! ほんの少しの魔力でも、他人のものが混ざってしまったら、別なモノとなってしまうか、あるいは激しい拒絶反応を引き起こしてしまうのだ!」

 前者は良くて狂人となり、悪ければ廃人、後者は十中八九死ぬし、生き延びても廃人だ。
 リーンが自分の魔力に限界を感じていながらも、その手のことに手を出さなかった理由である。

 余程相性がよければ問題がない場合もあるらしいが、さすがに博打が過ぎるだろう。
 千年前ですらそういった類の魔法は扱う者が絶無だったぐらいで、リーンも術式を知ってはいるものの、数少ない試した経験のあまりない魔法である。
 しかしだからこそ、現代魔法ではその危険性が周知されていなかったのかもしれない。

「まあとはいえ、どちらがより悪質だったかと言えば、それは奪う方だった、と言うべきだろうな! ついでに言えば、お前達では既にこの方法は不可能だ! 与える方の魔法で誰かから力を与えられることも、だな! だからこそ、こうして話せているわけではあるが!」

「それは……ふむ、なるほど。魔法の才能は六歳前後で決まる、というわけじゃな?」

「そういうことだな! 魔導士の杖は、登録時に判別された才能を元に、使える魔法を制限する! 後で力を増したところで、使える魔法が増えたりはしない、ということだ! というか、そういうことがあったからこそ、六歳の時に魔導士の杖を与えることを義務化したらしいがな!」

 多分、その他にも色々と無茶なことをやったりしたことがあり、今の話はその一つでしかないのだろう。
 特に、現代魔法が作られたばかりの頃は、そんなことだらけだったに違いない。
 千年前を生きていた魔導士やその見習い達が、そういったことをやらないわけがないからだ。

「まあ結果として、その魔法だけではなく、似たような魔法全般も一緒に禁呪にされたらしいがな! お前達にこの話をしたのは、そういう理由でもあるというわけだ!」

「使おうとしたところで使えぬ、というわけじゃな」

「……ちなみになんだけど、その魔法を作り出した人達はどうなったの?」

「さあな! さすがにそこまでは分からん! 何分昔の話だからな! ただ……現代魔法の黎明期の話だということだから、あるいはその者達自体は生きていた可能性はあるな!」

「そんなことをしたのに、ですか?」

「結果はどうあれ、理由は邪悪なものではなかったからな! 黎明期は色々と大変だったという話だから、有り得ることだろう!」

「……そう」

「と、この話はここまでだな! 何故この話をしたのかは……敢えて語らぬこととしよう! 存分に考えるといい! お前達にとっては、決して他人事ではないのだからな!」

 そう言うと、ザクリスはその話ごと、座学の授業の終了を告げたのであった。
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