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◯おまけのお話◯
おまけのお話・2
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(お話の展開上、本編に入れられなかったエピソードです)
(11・3あとに入れたかった、ローレル視点その2)
晩餐が終わるやいなや、葵を颯大に連れて行かれてしまった。だが仕方ない。彼は、葵は魔力はないものだと思っていた。異常な強さや、いっとき赤くなった瞳のことが気にかかるのだろう。
そう推測できたから、渋る葵を俺が説得して行かせてやった。
気分はよくないが、この先嗅ぎまわられるより、さっさと対応してしまったほうがいい。
エリゼオもどこかに行ってしまい、ひとり、葵を待つ俺にイェレミスが近寄って来た。やや離れて、妃もいる。
「ローレル。少しいいか」
以前の彼では出ない言葉だ。
「なんでしょう」と答えて向かい合う。
どんなことを言われるのか、想像がつかない。心当たりが多すぎる。
一応、俺が盗賊の首領でないことは、当の盗賊たちと、王から詳細を聞いていた宰相の証言で明らかにはされた。ただ、俺がシェルテルの王子だと宰相は知っていたし、イェレミスももう報告されただろう。
なのに晩餐のときに彼は、なにも知らないかのように質問をしてきた。
「ローレル」と固い表情のイェレミス。「私の警護を承諾してくれて、感謝する」
……予想外の言葉がきた。
「私はお前にひどいことをしたから」
あのことか。思い出したくもない。だが――
「あなたが私をどういう目で見ているか、気づいていたうえで利用していました。あなたになにをされても勝てる自信もあった。許すことはできませんが、責は私にもあります」
これが正直なところだ。
「ローレル。本当に好きなんだ」
「――今日のあの状況で、あなたが私を助けようとするとは思いませんでした」
「私が真剣なのは伝わったか?」
すがるような表情になったイェレミスから視線を外し、彼の後ろに静かに控える妃を見る。それから、もう一度、イェレミスを。
「心に秘めます。私は葵を愛しているし、あなたには大切な妻子がいます」イェレミスが好きな、優しく見える笑みを浮かべる。「ダメですよ。家族を危険にさらすような選択をなさっては。今後はお気をつけください」
「ローレル」
「私にも守るべき恋人と、使用人たちがおります。ですから王太子殿下には、臣下として誠意をもってお仕えするつもりです」
「……そうか」
イェレミスは目を伏せ、息を吐いた。すぐに視線は戻ってきたが、彼の表情は一変していた。
「成り行きで父と対立してしまったせいで、なんの策もない。だがこれでよかったと思っている。でなればギザンツと開戦になっていたかもしれないからな」
「そうですね」
「私は父のようにならぬと約束をする。お前に見限られたくないからな。だからサポートを頼む。――末永く」
「承知しました」
頭を下げる。イェレミスは踵を返し、妃と共に去った。
ヴェルンの王族に仕えると約束した俺を、父上はどう思うだろう。母上は? 兄上たちは?
きっと落胆する。
「ローレル、待たせたな」
葵が戻ってきた。ひとりだ。
「颯大は?」
「適当に作り話をしておいた」と、葵。
「信じたのか?」
「いや。信用されていないって認識して、ショックを受けてた。当たり前だっつーの」
「可哀想じゃないか? 今回大量の怪我人を治してくれたんだぞ?」
「人が良すぎ。意地悪されたのを忘れたのか?」
「忘れてはいないが」
葵が頬にキスする。
「部屋に行こう。疲れた顔をしているぞ」
「……その前にイェレミスの部屋にシールドを張る作業だ」
「そうだった。王太子妃が殺されたら可哀想だもんな」と笑う葵。「ついでに変態も」
俺は父上たちに合わせる顔がない。
だが、俺を信用すべきでないとわかっているだろうにあのようなことを言う王太子に、ほかになんと答えればいい。
アダルベルトもイェレミスも、葵と俺に居場所をくれている。
それならば。
「面倒だが、行くぞ」
葵に声をかけて歩き出す。と、手を繋がれた。
「今日はローレルが足りないから」
「そうだな。俺も」
葵の手を握り返す。
今の俺にとって、一番大切なものだ。
たとえ父上たちに落胆されたとしても。
(11・3あとに入れたかった、ローレル視点その2)
晩餐が終わるやいなや、葵を颯大に連れて行かれてしまった。だが仕方ない。彼は、葵は魔力はないものだと思っていた。異常な強さや、いっとき赤くなった瞳のことが気にかかるのだろう。
そう推測できたから、渋る葵を俺が説得して行かせてやった。
気分はよくないが、この先嗅ぎまわられるより、さっさと対応してしまったほうがいい。
エリゼオもどこかに行ってしまい、ひとり、葵を待つ俺にイェレミスが近寄って来た。やや離れて、妃もいる。
「ローレル。少しいいか」
以前の彼では出ない言葉だ。
「なんでしょう」と答えて向かい合う。
どんなことを言われるのか、想像がつかない。心当たりが多すぎる。
一応、俺が盗賊の首領でないことは、当の盗賊たちと、王から詳細を聞いていた宰相の証言で明らかにはされた。ただ、俺がシェルテルの王子だと宰相は知っていたし、イェレミスももう報告されただろう。
なのに晩餐のときに彼は、なにも知らないかのように質問をしてきた。
「ローレル」と固い表情のイェレミス。「私の警護を承諾してくれて、感謝する」
……予想外の言葉がきた。
「私はお前にひどいことをしたから」
あのことか。思い出したくもない。だが――
「あなたが私をどういう目で見ているか、気づいていたうえで利用していました。あなたになにをされても勝てる自信もあった。許すことはできませんが、責は私にもあります」
これが正直なところだ。
「ローレル。本当に好きなんだ」
「――今日のあの状況で、あなたが私を助けようとするとは思いませんでした」
「私が真剣なのは伝わったか?」
すがるような表情になったイェレミスから視線を外し、彼の後ろに静かに控える妃を見る。それから、もう一度、イェレミスを。
「心に秘めます。私は葵を愛しているし、あなたには大切な妻子がいます」イェレミスが好きな、優しく見える笑みを浮かべる。「ダメですよ。家族を危険にさらすような選択をなさっては。今後はお気をつけください」
「ローレル」
「私にも守るべき恋人と、使用人たちがおります。ですから王太子殿下には、臣下として誠意をもってお仕えするつもりです」
「……そうか」
イェレミスは目を伏せ、息を吐いた。すぐに視線は戻ってきたが、彼の表情は一変していた。
「成り行きで父と対立してしまったせいで、なんの策もない。だがこれでよかったと思っている。でなればギザンツと開戦になっていたかもしれないからな」
「そうですね」
「私は父のようにならぬと約束をする。お前に見限られたくないからな。だからサポートを頼む。――末永く」
「承知しました」
頭を下げる。イェレミスは踵を返し、妃と共に去った。
ヴェルンの王族に仕えると約束した俺を、父上はどう思うだろう。母上は? 兄上たちは?
きっと落胆する。
「ローレル、待たせたな」
葵が戻ってきた。ひとりだ。
「颯大は?」
「適当に作り話をしておいた」と、葵。
「信じたのか?」
「いや。信用されていないって認識して、ショックを受けてた。当たり前だっつーの」
「可哀想じゃないか? 今回大量の怪我人を治してくれたんだぞ?」
「人が良すぎ。意地悪されたのを忘れたのか?」
「忘れてはいないが」
葵が頬にキスする。
「部屋に行こう。疲れた顔をしているぞ」
「……その前にイェレミスの部屋にシールドを張る作業だ」
「そうだった。王太子妃が殺されたら可哀想だもんな」と笑う葵。「ついでに変態も」
俺は父上たちに合わせる顔がない。
だが、俺を信用すべきでないとわかっているだろうにあのようなことを言う王太子に、ほかになんと答えればいい。
アダルベルトもイェレミスも、葵と俺に居場所をくれている。
それならば。
「面倒だが、行くぞ」
葵に声をかけて歩き出す。と、手を繋がれた。
「今日はローレルが足りないから」
「そうだな。俺も」
葵の手を握り返す。
今の俺にとって、一番大切なものだ。
たとえ父上たちに落胆されたとしても。
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