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2章 新たな生活
2・1 もう一度キスを
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ローレルはオレから離れると優雅な足取りでベッドへむかい、すわった。長い足を組み、嘲笑うかのような顔でオレを見る。
すべてがあまりに美しくて、つい見とれてしまったが、そんな場合じゃなかった。
「説明しろよ!」と要求する。
「怒鳴るのはやめろ。うるさい」
ローレルが手をひと振りすると、その中にグラスが現れた。中には泡がたった液体――炭酸ジュース、いや酒か?――が入っていて、ヤツはそれに口をつける。
なんなんだよ。コイツ、さっきまでとはまるで別人じゃねえか。
騙されていたのか? 目的はなんだ。主従契約って?
疑問だらけでわけがわからない。
「情けない顔だな」と、ローレルが笑う。「首輪をつけるのは当然だろう? 何者かもわからない男を、野放しにするはずがないだろうが」
「オレはどうなる」
「別に、どうも。俺が命じたことには絶対に逆らえなくなった、というだけだ」
いやいや、『別に』なんてレベルではないよな。
「オレになにをさせる気だ」
「そうだな。男好きのようだから、イェレミスを押し倒してこいとでも命じるか」と、こともなげに言うローレル。
そんなの、速攻で死刑になるやつじゃねえか!
「真に受けるな、冗談だ。なにもさせるつもりはない。俺の身の安全のための予防策に過ぎないから、苛立つな」
ほら、と言ってローレルがまた手を振る。と、オレたちの間にある円卓の上に、ヤツが持つのと同じグラスが現れた。
「酒だ。飲めるか?」
大股で近寄り手に取ると、一気に飲み干し、グラスを音を立てて置く。スパークリング白ワインみたいな味だ。これならいくらでもいける。
見たか。オレは子供じゃねえ。酒くらいあおれるし、頭だって回る。
「オレに利点はあるのか」
「もちろん。下僕に危機が迫ると主にはわかる。丁度いいだろ?」
「……まあ、それは確かに」
もっとも今はコイツが一番危険なような気がするが。
だがこの美貌で、裏表があってしかも高慢。
なんだそれ。マンガの悪役かよ。めちゃタイプだ。しかもキスがうまい。
「なあ。さっきのキス。あれが魔法なのか?」
「いや。術のためにはお互いの体液を交換する必要があるってだけだ。普通は血でやるんだが。『血の契約をしよう』と誘ってもダメだったろう? どちらかに拒否する気持ちがあると成立しないからな」
「ベッドに誘ってくれたのかと思った」
「男とヤル気はない」
「老婆とは寝るのに?」
「――サブリナは可愛い女だったよ」
ローレルはグラスに口をつけ、飲み終えるとその手からグラスは消えた。
コイツの魔法だか魔術がどれほどすごいのかは、オレにはわからない。掛けられた契約魔法のことだって、ウソをつかれている可能性は大いにある。
だがそんな不安や恐怖を凌駕してありあまる魅力が、コイツにはある。
ローレルに近づき、金糸のような髪をひと束すくう。
「あんたに惚れた。綺麗で強気な男がタイプなんだ」
「この術はひとつだけ欠点がある」と、ローレルはオレを見ずに喋る。「週に一度、掛けなおさなければならない」
「週一のキス確定か。楽しませてもらうよ」
「しないという選択もある」ローレルはオレを見て、意地悪く微笑んだ。「そうするとお前は干からびて死ぬ」
「はあ!? また死亡フラグかよ!」
「生き延びたいのなら、調子に乗らないことだな」
「それって、こういうことか?」
ローレルをベッドに押し倒し唇を重ねる。手を服の隙間に入れてみるが、がっちりと着こんでいるようで、どうやったら肌に届くのかがわからない。引き結ばれた口を舌でこじ開け、中を蹂躙しようとしたところで、噛みつかれた。咄嗟に離れる。口の中に血の味が広がる。が、上はどいてやらない。
「貴様、相当なバカなのだな」ローレルはそう呟いてから、「命令だ、退け」と言った。
そのとたんに俺の体は吹っ飛び、壁に激突した。衝撃に息がつまる。
床にみっともなく這いつくばったまま、動くことができない。
「ふむ。命じるとこうなるのか」
なんとか顔を上げるとローレルが身を起こし、乱れた髪を手櫛で直すのが見えた。くそっ。色気がすさまじすぎる。
「お前に利用価値があると困るからな」と壮絶に美しい笑みを浮かべて、ローレルがオレを見下ろす。「すぐに死なせるようなことはしない。だが俺は短気だから、いつまで粗相を見逃してやれるかは、わからないぞ」
その言葉が終わるのと共に、ローレルの姿は消えた。魔術で出て行ったらしい。
「いてえ」
呟き、苦労して仰向けになる。
ついでに左手を見ると、跡形もなく魔法陣は消えていた。
だけど。
あまりに多くのことが起こりすぎだ。なにも考えたくない。
息を吐き、目をつむる。
とりあえず、ローレルとの甘美なキスを思い返す。あれはもう一度、味わいたい。
すべてがあまりに美しくて、つい見とれてしまったが、そんな場合じゃなかった。
「説明しろよ!」と要求する。
「怒鳴るのはやめろ。うるさい」
ローレルが手をひと振りすると、その中にグラスが現れた。中には泡がたった液体――炭酸ジュース、いや酒か?――が入っていて、ヤツはそれに口をつける。
なんなんだよ。コイツ、さっきまでとはまるで別人じゃねえか。
騙されていたのか? 目的はなんだ。主従契約って?
疑問だらけでわけがわからない。
「情けない顔だな」と、ローレルが笑う。「首輪をつけるのは当然だろう? 何者かもわからない男を、野放しにするはずがないだろうが」
「オレはどうなる」
「別に、どうも。俺が命じたことには絶対に逆らえなくなった、というだけだ」
いやいや、『別に』なんてレベルではないよな。
「オレになにをさせる気だ」
「そうだな。男好きのようだから、イェレミスを押し倒してこいとでも命じるか」と、こともなげに言うローレル。
そんなの、速攻で死刑になるやつじゃねえか!
「真に受けるな、冗談だ。なにもさせるつもりはない。俺の身の安全のための予防策に過ぎないから、苛立つな」
ほら、と言ってローレルがまた手を振る。と、オレたちの間にある円卓の上に、ヤツが持つのと同じグラスが現れた。
「酒だ。飲めるか?」
大股で近寄り手に取ると、一気に飲み干し、グラスを音を立てて置く。スパークリング白ワインみたいな味だ。これならいくらでもいける。
見たか。オレは子供じゃねえ。酒くらいあおれるし、頭だって回る。
「オレに利点はあるのか」
「もちろん。下僕に危機が迫ると主にはわかる。丁度いいだろ?」
「……まあ、それは確かに」
もっとも今はコイツが一番危険なような気がするが。
だがこの美貌で、裏表があってしかも高慢。
なんだそれ。マンガの悪役かよ。めちゃタイプだ。しかもキスがうまい。
「なあ。さっきのキス。あれが魔法なのか?」
「いや。術のためにはお互いの体液を交換する必要があるってだけだ。普通は血でやるんだが。『血の契約をしよう』と誘ってもダメだったろう? どちらかに拒否する気持ちがあると成立しないからな」
「ベッドに誘ってくれたのかと思った」
「男とヤル気はない」
「老婆とは寝るのに?」
「――サブリナは可愛い女だったよ」
ローレルはグラスに口をつけ、飲み終えるとその手からグラスは消えた。
コイツの魔法だか魔術がどれほどすごいのかは、オレにはわからない。掛けられた契約魔法のことだって、ウソをつかれている可能性は大いにある。
だがそんな不安や恐怖を凌駕してありあまる魅力が、コイツにはある。
ローレルに近づき、金糸のような髪をひと束すくう。
「あんたに惚れた。綺麗で強気な男がタイプなんだ」
「この術はひとつだけ欠点がある」と、ローレルはオレを見ずに喋る。「週に一度、掛けなおさなければならない」
「週一のキス確定か。楽しませてもらうよ」
「しないという選択もある」ローレルはオレを見て、意地悪く微笑んだ。「そうするとお前は干からびて死ぬ」
「はあ!? また死亡フラグかよ!」
「生き延びたいのなら、調子に乗らないことだな」
「それって、こういうことか?」
ローレルをベッドに押し倒し唇を重ねる。手を服の隙間に入れてみるが、がっちりと着こんでいるようで、どうやったら肌に届くのかがわからない。引き結ばれた口を舌でこじ開け、中を蹂躙しようとしたところで、噛みつかれた。咄嗟に離れる。口の中に血の味が広がる。が、上はどいてやらない。
「貴様、相当なバカなのだな」ローレルはそう呟いてから、「命令だ、退け」と言った。
そのとたんに俺の体は吹っ飛び、壁に激突した。衝撃に息がつまる。
床にみっともなく這いつくばったまま、動くことができない。
「ふむ。命じるとこうなるのか」
なんとか顔を上げるとローレルが身を起こし、乱れた髪を手櫛で直すのが見えた。くそっ。色気がすさまじすぎる。
「お前に利用価値があると困るからな」と壮絶に美しい笑みを浮かべて、ローレルがオレを見下ろす。「すぐに死なせるようなことはしない。だが俺は短気だから、いつまで粗相を見逃してやれるかは、わからないぞ」
その言葉が終わるのと共に、ローレルの姿は消えた。魔術で出て行ったらしい。
「いてえ」
呟き、苦労して仰向けになる。
ついでに左手を見ると、跡形もなく魔法陣は消えていた。
だけど。
あまりに多くのことが起こりすぎだ。なにも考えたくない。
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とりあえず、ローレルとの甘美なキスを思い返す。あれはもう一度、味わいたい。
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