5 / 5
5
しおりを挟む 女子会の翌日、私は、直面した大きな問題をひとまず横に置いて、必死に働いていた。
そう、それはそれは、必死に……。
「オリアナ様っ! こちらの書類をお願いします!」
「すみません、こちらの確認もっ」
「オリアナ様、財務部から問い合わせが……」
「あぁっ、クソ! これも全て、殿下のせむぐっ」
「あー、はいはい、不敬罪にされたくなければ、黙っていましょうねー」
そんな周囲の声に包まれながら、私達は激務に見舞われていた。
原因は、同僚の一人が叫びかけたもの。
ヴァイラン魔国の王子の一人によって引き起こされた事件のせいだ。
「ふふふふ、大丈夫ですよ。殿下には、しっかりと、そのお立場を理解していただくので」
そして、そんな激務の中、静かに、しかし、猛烈に怒りを顕にしているのが、宰相閣下本人だった。
顔は笑顔なのに、目が全く笑っていない宰相閣下は、凄まじい速度で様々な書類を処理していく。
昨夜、ヴァイラン魔国の王子であるリウスが、突如として失踪した。それも、大量の仕事を溜めた状態で、恐らくは計画的に。
この国は、ジークフリート陛下とユウカ皇后陛下のお二方が統治しておられる。そして、そのお二方は仲睦まじく、三人のお子様がおられた。
一人目は、第一王子のルーク様で、現在、二十七歳、二人目は、第二王子のリウス様、十七歳。そして、三人目は、第一王女のユリアナ様、五歳だ。
今回問題となっているのは、第二王子のリウス様。陛下と皇后陛下は、もうすぐ行われる豊穣祭の準備を行っており、第一王子殿下、外交のために他国へ赴いているという状況下で、陛下方の準備を一緒に手伝っていたはずのリウス様の失踪だ。行き先は不明だが、目的だけははっきりしている。
こんな時に、片翼だなんてっ!
そう、リウス様は、片翼を見つけたので、口説きに行きます、という手紙だけを残して、どこかへ向かったのだ。
もちろん、事件性も疑わなければならないので、騎士達は血眼になってリウス様を捜している。しかし、現状では、この忙しい最中に大量の仕事を意図的に残して、こちらを動けなくさせていることといい、手紙に他者の魔力が干渉した形跡も、別人が置き手紙を書いた形跡もないため、リウス様の暴走という線が強い。
片翼に対する想いが強いのは、魔族であれば一定の理解は得られるだろう。しかし、この対応に対しては、さすがに全員が憤慨していた。
とはいえ、魔族は基本的にお花畑思考だと考えていた私の認識は、あながち間違い、というわけでもなく……。
「殿下の片翼だなんて、一体どんな方なんでしょう」
「そりゃあ、うんと素敵な方に決まってるわっ」
そんな侍女達の悪意なき言葉に、殺気立つ者が続出したのは、言うまでもない。
結局、リウス様が見つかったのは、三日後であり、その隣には、筋骨隆々の……女性(?)が立っていたそうだ。
そう、それはそれは、必死に……。
「オリアナ様っ! こちらの書類をお願いします!」
「すみません、こちらの確認もっ」
「オリアナ様、財務部から問い合わせが……」
「あぁっ、クソ! これも全て、殿下のせむぐっ」
「あー、はいはい、不敬罪にされたくなければ、黙っていましょうねー」
そんな周囲の声に包まれながら、私達は激務に見舞われていた。
原因は、同僚の一人が叫びかけたもの。
ヴァイラン魔国の王子の一人によって引き起こされた事件のせいだ。
「ふふふふ、大丈夫ですよ。殿下には、しっかりと、そのお立場を理解していただくので」
そして、そんな激務の中、静かに、しかし、猛烈に怒りを顕にしているのが、宰相閣下本人だった。
顔は笑顔なのに、目が全く笑っていない宰相閣下は、凄まじい速度で様々な書類を処理していく。
昨夜、ヴァイラン魔国の王子であるリウスが、突如として失踪した。それも、大量の仕事を溜めた状態で、恐らくは計画的に。
この国は、ジークフリート陛下とユウカ皇后陛下のお二方が統治しておられる。そして、そのお二方は仲睦まじく、三人のお子様がおられた。
一人目は、第一王子のルーク様で、現在、二十七歳、二人目は、第二王子のリウス様、十七歳。そして、三人目は、第一王女のユリアナ様、五歳だ。
今回問題となっているのは、第二王子のリウス様。陛下と皇后陛下は、もうすぐ行われる豊穣祭の準備を行っており、第一王子殿下、外交のために他国へ赴いているという状況下で、陛下方の準備を一緒に手伝っていたはずのリウス様の失踪だ。行き先は不明だが、目的だけははっきりしている。
こんな時に、片翼だなんてっ!
そう、リウス様は、片翼を見つけたので、口説きに行きます、という手紙だけを残して、どこかへ向かったのだ。
もちろん、事件性も疑わなければならないので、騎士達は血眼になってリウス様を捜している。しかし、現状では、この忙しい最中に大量の仕事を意図的に残して、こちらを動けなくさせていることといい、手紙に他者の魔力が干渉した形跡も、別人が置き手紙を書いた形跡もないため、リウス様の暴走という線が強い。
片翼に対する想いが強いのは、魔族であれば一定の理解は得られるだろう。しかし、この対応に対しては、さすがに全員が憤慨していた。
とはいえ、魔族は基本的にお花畑思考だと考えていた私の認識は、あながち間違い、というわけでもなく……。
「殿下の片翼だなんて、一体どんな方なんでしょう」
「そりゃあ、うんと素敵な方に決まってるわっ」
そんな侍女達の悪意なき言葉に、殺気立つ者が続出したのは、言うまでもない。
結局、リウス様が見つかったのは、三日後であり、その隣には、筋骨隆々の……女性(?)が立っていたそうだ。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと
石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。
歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。
大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。
愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。
恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。
扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。
以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。
不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。
子猫マムと雲の都
杉 孝子
児童書・童話
マムが住んでいる世界では、雨が振らなくなったせいで野菜や植物が日照り続きで枯れ始めた。困り果てる人々を見てマムは何とかしたいと思います。
マムがグリムに相談したところ、雨を降らせるには雲の上の世界へ行き、雨の精霊たちにお願いするしかないと聞かされます。雲の都に行くためには空を飛ぶ力が必要だと知り、魔法の羽を持っている鷹のタカコ婆さんを訪ねて一行は冒険の旅に出る。
ドラゴンの愛
かわの みくた
児童書・童話
一話完結の短編集です。
おやすみなさいのその前に、一話ずつ読んで夢の中。目を閉じて、幸せな続きを空想しましょ。
たとえ種族は違っても、大切に思う気持ちは変わらない。そんなドラゴンたちの愛や恋の物語です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
親子の愛情がほっこりとした気持ちにさせてくれます。色々なキャラクターとの出会いや掛け合う姿が素敵でした!読者に希望や勇気を与える作品だと思いました。