さよならまでの準備稿

 濃い霧が漂う三月半ば、映画専門を謳う神保町の古書店・幻灯屋に四十代の主婦・杉野澄子が訪れる。
 二十六年前、製作中止になった「或る映画」の脚本を探しているのだと言う。
 手がかりになるのは彼女の夫・猛が学生時代に書いた脚本で、彼が監督を務める筈だった映画の原型なのだが、あくまで準備稿に過ぎない。
 
 当時、猛と主演女優・栗原芽衣には恋の噂があった。そして芽衣の突然の失踪が製作中止の原因なのだと言う。
 準備稿の中で猛は過去と未来を行交う幻想的な物語を展開、妻となるべき平凡な女性と別れ、別の未来を選ぶ結末を描いていた。
 この内容と芽衣の失踪に何か関係が有るのか?

 猛は現在、難病で脳死へ陥り、問い質す事ができない。だが意識を失う寸前、幻の決定稿が幻灯屋にある事を、彼は仄めかしたそうだ。
 もう語り合えないからこそ、脚本の中に残された夫の真実を知りたい!
 そんな澄子の思いを受け、幻灯屋の店主は決定稿を探し始めるのだが……。
 
 

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