18 / 102
17.平凡なる超えし者、冒険者を助ける……
しおりを挟むあんまり考える時間はない。
森の中だけに障害物が多い。これがネックでもあり利点でもある状態だ。
木々や草などが邪魔をして、蜂もあまりスピードは出せないみたいだ。
が、それは冒険者側も同じことだ。スピードが落ちたり、ちょっとでもつまずけばすぐに追いつかれるだろう。
私ができることで蜂を撃退する方法は、まあざっと考えて三つくらいか。
弓原結の力を使う。
蜂の苦手な臭いで撃退する。
蜂が嫌う煙で撃退する。
植物云々で物理的にどうにかするのは、無理なんじゃないかな。
ツタを網状にして生み出したところで、避けられて終わりだろう。足止めできそうな植物が思い浮かばない。
もし戦闘態勢じゃなければ、蜂が好きそうな花の匂いで誘導はできたかもしれない。
今は興奮しているからエサには釣られないだろうね。
弓原結の力は使いたくない。
よってこれは最後の手段にするとして。
蜂の嫌いな臭いで撃退する、ってのは……アレだ。炭を燃やした時に出る煙が嫌いとかなんとか、本に書いてあった気がする。
日本では業者とか市に頼めば蜂の巣を駆除してくれるらしいけど、こっちの世界ではだいたい自力でどうにかしないといけないからね。田舎の人ほどやり方は詳しいかもしれない。私が読んだ本はそんな感じに書いてあった。
問題は、百花鼠は火関係はまったく関わることができないってことだけど。
火を放つ植物なんて、あるのか? ……まあこの世界ならどこかにはあるかもしれないが、残念ながら私は知らない。植物型モンスターもさすがに火を使う奴はいなかった。
だから臭いや煙でどうにか、っていうのは、無理だろう。百花鼠が使用できないジャンルだ。
……うーん。
……無理じゃね?
……しょうがない。あの二人には自力で逃げてもらおう。
なんて言えれば楽なんだけど、そういうわけにもいかないよね。完全にピンチな時を見ちゃったしね。
仕方ない。
あんまりよくないが、無差別攻撃に出ようか。下手すると生態系を壊しかねないから、私の力を使うのと同じくらい気は進まないけど。
でも、さすがに人命が掛かってるからね。出し惜しむシーンでは絶対にない。
「変身」を使って自分自身を「種」に変え、「狙撃」し、グランの背負っている女子の背中に根付く。
元の姿に戻ると、頭のアタッチメントを食虫植物「しびれ花」に変える。
この花は麻痺毒を持ち、花粉を狙ってくる虫の自由を奪ってから養分にするというなかなかアグレッシブな特性を持つ。あと精製すると人の薬なんかにも使われるそうだ。ある成分と合わせると睡眠薬になるらしい。
私たちの世界にも食虫植物はいるけど、毒持ちはいないんじゃないかな。取り餅とか落とし穴式のはいた気がするけど。
なんせ目に見えるほど自在に素早く動いたりする植物もあるみたいだから、これも進化の軌跡を歩んだ生態系の一つなんだろう。
虫でかいからね。
対応するにはそれなりの進化が必要だったんだろう。
殿に位置し、そこから麻痺毒のある花粉を散布する。
追ってくる蜂だけではなく、周辺の動物にも影響が出るかもしれないからやりたくはなかったが、さすがに仕方ないと割り切ることにする。
しばらく花粉を撒き散らしていると、飛んでいた蜂の何匹かは落ちた。
異常を来たして上手く飛べなくなっているのも何匹かいる。よかった、効いているみたいだ。たぶん死にはしないと思うけど、動けないところを外敵に襲われる可能性はあるわけで。あんまり無闇に生き物を殺すのは嫌だなぁ。
早めに切り上げてほしかったが、結局追いかけてくる半分くらいが落ちたところで、蜂の群れは霧散していった。もっと早めに引いてくれよー。
「――おい、撒いたか?」
「――……いないみたいだ」
蜂の姿がなくなったところで、ベテラン冒険者とグランが立ち止まった。
「――なんだ? 縄張りから逃げられたのか?」
「――どうだろう。なんにしても助かった」
そうだね。よかったね。……お、やべっ。
背中に張り付いていたままだった私だが、突然グランが背負っていた人を地面に下ろした。危うく潰されるところだった。……潰れなかったけど。だって今下敷きになってるし。下草だからね。
「――どうだ?」
「――意識は、一応あるのかな。朦朧としてるみたいだ」
「――ああ、典型的な魔力の使いすぎだな」
ほう。魔法使いすぎたのか。アレだもんね、この世界の人って全員魔法が使えるんでしょ? で、魔法を使いすぎたら昏倒するらしい。今その状態だと。
「――魔力を回復させるアイテム、なんか持ってるか?」
「――というか荷物全部置いてきたよ……それも背負えないから、俺盾置いてきたし」
「――あーそうかー。じゃあ一度戻るしかねえか」
「――ごめん」
「――謝るなよ。あれは誰のせいでもねえし、エコの時間稼ぎのおかげで俺らも逃げ切れたんだ。むしろ感謝してるよ」
なんかの事故で蜂を怒らせて、女の子が魔法で時間を稼いでくれて今に至ると。だいたいこんな感じの流れだったらしい。
はーい注目ー。
ここに魔力を回復させられるネズミがいますよー。
「魔力水」っていう回復アイテムの原液を抽出できますよー。ポーションの原料である薬草を作れますよー。
誰も注目しないどころか、相変わらず下敷きにされたままだけどね。
――どれ、入れてやるか。ちょっとチクっとしますよー。
魔力関係の回復アイテムは、口あるいは血管からの服用じゃなくても、全身に巡らせることができるらしい。回復効果に差が出るらしいから、やっぱり飲んだり挿したりが一番有効ではあるらしいけど。
まあこの際だ、動けるようになるならどこからでもいいだろう。
アタッチメントに薬草を生やし、ツルを伸ばして露出している皮膚……首の後ろ辺りに、葉を丸めて固くした先端をググッと押し付けた。
そして「魔力水」の原液を一滴二滴ほど流し込んでやる。強い薬らしいから、原液ならこのくらいで充分らしい。
「――痛っ」
飛び起きた。どうやら深く刺しすぎたようだ。すまんね、まだ色々加減がわかんないんだよ。
「――いった。何? なんか刺されたんだけど。いって。いった」
私でーす。「種」に変わって隠れてますけど私でーす。
「――え、おまえ魔力は?」
「――……あれ? なんか回復してる」
私でーす。私のしわざでーす。
「――ねえグラン、腫れてない? 首の後ろなんだけど」
「――大丈夫だと思うよ。腫れてし、血も出てないし」
「――ほんと? すごく痛かったんだけど」
私でーす。……悪かったね。想像以上に深くやっちゃったみたいだね。こう……ピーナッツをぐぐっと押し付けた的な感じだったから、もしかしたらかなり痛かったのかもね。ごめんね。
「――一応治しとくか……あれ? 今どうなってる?」
概ね私が察した通りの流れで、元いた場所から大きく逃げてきたらしい。
「――荷物を回収したら帰るか」
「――結局ハチミツは採れたの?」
「――ああ。『ダガービーのハチミツ』、ちゃんと採ったぞ」
へえ。あの蜂がダガービーっていうんだ。本に載っていた「短剣蜂」だよね。よかったね、毒はないけどとにかくやたらめったら刺してくるっていう蜂だよね。アレルギーショックとか毒とかじゃなくてリアル刺殺されるタイプのアグレッシブな奴だよね。
「――じゃあ行くか。エコ、無理すんなよ。グラン、彼女の面倒見てやってくれ」
「――了解。立てる?」
「――あの、グラン、肩貸してくれる? まだちょっと足が……」
「――ああ、じゃあ背負うよ。その方が早い」
…………
エコって女、完全にグランに気があるな。どうやらあいつもグランくんのパンツにドルねじ込みたいと思っているらしい。かなりのイケメンだからねー。わからんでもないわー。
ところで、彼らはこれで引き上げるらしい。
これは好都合だ。エコのポケットにでも忍び込んで、一緒に帰還してしまおう。勝手に運賃は払ったから文句は言わせないよ。
10
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇
藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。
トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。
会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる