狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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379.二番目の弟子に会ってみた

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「――武客殿! お帰りになられたのですね!」

 お、おう。

 ウーハイトンに帰ってきた翌日。
 公務で休学扱いとなっていた鳳凰学舎に登校すると、二輪機馬キバの音を聞きつけたのか学長テッサンが校舎から飛び出して来た。

 仕方なく機馬キバから降り、学長に向き合う。

「昨夜戻りました。今日からまたよろしくお願いします」

 まだ旅の疲れもあるし、骨休めに一日休んでもいいかとも思ったが、もうすぐ冬休みに入るのだ。
 せっかくの留学だ、長期休暇の前くらいは出席しておきたい。

「ええ、ええ、もちろんですとも! 交流会には間に合いませんでしたなぁ!」

 ああ、うん。

「聞いてます。小学部では残念ながら負けてしまったそうですね」

 ミトが大活躍したらしい。
 まあ、そこらの同年代に負けるようでは逆に困るが。

「あなたの弟子にね。いやはやあの子は強い。うちの子たちでは歯が立ちませんでしたな!」

 …………

 皮肉なのか率直な感想なのか。にこにこしているが本心がわかりづらい表情である。

「……ところで冬休みのご予定は? ご帰郷ですかな?」

「いいえ? 今度の公務に家族に会えましたので、今のところ予定はありませんよ」

「おおそうですか! では! ではでは!」

 お、おう。なんだ。詰め寄ってくるなよ。

「水練の行に参加していただけませんか!?」

 水練?

「というと……もしや荒行ですか?」

「ええ! 雪山を登ることで身を煩悩を絶ち、滝に打たれて心身を清め、武神への奉納の型を行います! 一日中これをひたすら繰り返す伝統行事です!」

 ほほう。
 荒行はなかなかやれないから、こういう機会は貴重なんだよな。

「面白そうですね。前向きに検討させてください」

 何も用事が入らなければ、ぜひ参加したいところだ。




 久しぶりの登校となったが、特に変わったこともなく。
 未だに「殴ってくれ蹴ってくれ」と言い出す連中が少しいるくらいのものである。

 そんな一日を終えると、

「じゃあお先!」

 鞄と機馬キバをジンキョウに任せ、私は屋敷へ帰ることなく下段の城下町へと向かう。

 ガンドルフに会う予定なのだ。
 朝一番でリノキスに手紙を託し、このくらいの時間に天破流道場を訪ねることを告げてある。

 屋敷に呼んでも良かったが、ガンドルフはウーハイトンに来た理由があるはずだ。わざわざ私に会いに来ただけではあるまい。
 彼の用事の邪魔をしたくないので、こちらから会いに行くことにした。 
 こっちの天破流道場にも少しばかり興味があるので、見学も兼ねてである。

 大まかな場所はジンキョウに聞いた。
 あとは二、三人の通行人に質問し、目当ての場所を発見した。

「――あ、師匠!」

 ついでに尋ね人も発見した。

 なかなか立派な門構えの天破流道場の前でうろうろしていたガンドルフは、私を見かけると走ってきて目の前に跪いた。

「ご無沙汰しておりました!」

「うん、まあ、まず立ちなさい」

 目立つだろ。周りも見てるし。
 ……いや、もう気にする必要ないかな。「白髪の子供の武客」は、すでに有名になっているから。

「久しぶりね」

 空賊列島を落とした時以来だから、一年弱ぶりといったところか。

 前に会った頃より、少しスリムになった気がする。
 もちろん「痩せた」のではなく「絞った」のだろう。

 元々筋肉質だったガンドルフだけに、更に無駄な筋肉を削ぎ落した……どれだけ厳しい修行をしてきたか偲ばれる。

 ほかは、あまり変わりないかな。少し無精髭がある程度だ。

 ――うん。

「強くなったわね」

 肝心の「八氣」は、当然のように伸びている。

 これ、もしかしてリノキスより強いんじゃないか? 修行に熱心なガンドルフだけに、伸び方もかなりのものである。

 しかし、労いの言葉だったつもりだが……喜色の表情だったガンドルフの顔が、すーっと曇っていった。

 え? 何? どうした?

「……あの、俺は強くなりましたかね?」

「ええ。かなり強くなっていると思うけど」

「……そうですか……俺はまったく師匠に追いつけた気がしないんですけど……」

 あ。

「もしかして、前より私の強さがわかるようになったんじゃない?」

「……でしょうね。正直、ここまで差があるとは……というかまだ正確に把握もできないというか……」

 うん。
 私の強さを少しでも感じ取れることは、成長の証である。

 ――まあ、私に追いつきたいなら、あと五十年は必要だろうが。




「ささ、こちらへ、こちらへ」

 はいはい。

 勝手知ったるというかなんというか、ガンドルフは「こちらへこちらへ」と腰を低くして、天破流道場の中へと私を案内した。
 敷地内や道場で修行している門下生を横目に、奥の生活スペースまで通した。

 通りすがりの使用人らしき女性に茶を頼み、門下生たちが使用するのだろう大きな食堂まで連れて来られた。

「私部外者なんだけど。勝手に通していいの?」

「俺の客人ですので問題ありません」

 ほう。意外と天破流で地位と権力でも握っているのだろうか。

「突然やってきて申し訳ありません。なんでも公務がおありだったとか……」

「ええ。まだちょっと言えないんだけど、リストン家の用事でね」

 ――アンテナ島の発表に関しては大丈夫だとは思うが、一般にはまだ伏せておく必要があるかもしれないので濁しておく。

「あなたはなぜウーハイトンに? 私に会いに来ただけじゃないわよね?」

「ええ。もちろん師匠に会いたかったという理由の方が大きいのですが……」

 お茶を運んできた女性を見送り、ガンドルフが言った。

「任期が満ちたんです。師範代代理から師範代になるための試験がありまして、そのためにウーハイトンにやってきました」

 おお、そうか。

「つまり昇進試験ね」

「はい。これでもう少しだけ給料が増えます」

 どうも師範代代理辺りの役職から、天破流上層部から手当てが出るそうだ。
 アルトワールからも多少出ているが、それは給金という扱いではなく謝礼という形なのだとか。

 まあ、要するに、学校での務めは基本無償で、ガンドルフの生活費は天破流の上層部から貰っていると。そういうことらしい。

「それに――師範代になったら任期場所が変わります」

「え、そうなの?」

「はい」

 アルトワールほか、ウーハイトン以外の道場は、天破流を広めるための地方支部扱い。
 師範代や師範代代理が道場主となってそこを守ることになる。

 その任期を終えたガンドルフは、これから師範代代理から師範代になる試験を受けると。

「次はここ、ウーハイトンの道場の師範代を希望しようと思っています」

 ほほう。

「つまりこの道場の主になるかも、ということだと?」

「総本山ですからね。競争率はかなり高いですが――負ける気はしないので」

 まあ、な。
 今のガンドルフに勝てる奴なんて、早々いないだろう。



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