狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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319.歓迎の意と皇帝の挨拶

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「少し感動したわ」

「そうですね。実際に来てみると、なんだか不思議な感動がありますね」

 階段の下から上を見た時、私とリノキスは同時に思い出した。

 ――実はこの「龍の背中」、私たちは観たことがあった。

 四歳の頃だから、もう七年前の記憶だ。
 まだこの身体が病に蝕まれてベッドで生活していた頃、兄ニールが魔晶板を……魔法映像マジックビジョンを観せてくれた当初だ。

 確か番組名は「美しい風景」だったかな。
 題名通り世界の美しい光景や観光地を撮影したもので、あの頃は番組自体が少なかったせいで、よく再放送をしていたのだが……いつからか全然放送されなくなったんだよな。

 下から見上げた光景が、その番組で観た光景とまったく同じだったのだ。

 ――そして、眼下に広がる下段の台国。これもまた素晴らしい景観である。こうして見るとウーハイトンは広いな。

「……はあ……はあ……」

「お疲れ様」

 息切れしてフラフラな足取りで登ってきたミトを最後に迎えて、武客としての挨拶は終わりである。

 石像を背負った私が一位で、リノキスは二位。
 まあ、予想通りというか予定通りというか、最初から分かり切っていたつまらない結果に終わった。
 
 だが、狙い通りウーハイトンの武人たちにはそれなりの挨拶になったようだ。
 ウェイバァを含め、一緒に走った門下生五人の私を見る目の色が変わった。

 侮っていたわけではなかったが、実際実力の差を目の当たりにして本気になったようだ。うむ、武人ならそうでなくては。

 まあ、余興はこれくらいでいいだろう。まだ来たばかりだ、これから何度も何かを披露する機会もあるだろうし。

「これからどうするの?」

 荷物を預けていたリントン・オーロンに問う。

 ちなみに彼女は上と下を行き来する大型単船で楽に登ってきた。
 武人ならともかく、常人では移動も荷運びも大変だからな。気軽に行き来する方法は必須だったのだろう。ちなみにこの国も、街中での単船の使用は禁止されている。

「ニア様に用意した邸宅は別にありますが、まずは正面奥の虎平門へ向かいます。皇帝ジンジ様がお待ちですので」

 おお、そうか。私を招いたウーハイトンのトップが直々に挨拶してくれるのか。本当に歓迎されているんだなぁ。
 マーベリアの時がアレだったから内心少し身構えていたが、いらぬ心配だったかな。

 リノキスはともかく、今は連れにミトがいる。
 彼女に害を与えられると困る。まだまだ弱いし、私の弱味として見なされると色々棄権に巻き込まれかねない。

 ――武人として、そして私の弟子としては、そういうのも楽しめるようになってほしいけどな。

 結局実戦に勝る修行なんてないと思う。
 刻んだ死闘と修羅場の数は、何よりも勝る経験となり、血のように巡り出す。修行では培えない部分も多い。私も前世・・では、死闘と修羅場を乗り越えることで強くなっていったはず。

 強くなるために戦う。
 戦うために強くなる。

 結局武人なんて、本当はそんな単純な生き物なのだ。
 
 ……私もそんな単純な生き方がしたいものだ。戦う相手がいないけど……
 



 上段の街並みは、低い塀ばかりが見えて、どこか生活感がなく閑散としている。
 なるほど富裕層が多いということから、貴族街のようになっているようだ。
 
 背負って来た石像の返却を頼んだら引きつった顔をしたウェイバァの門下生五人に見送られ、私たちは正面に見える巨大な門へと向かう。……単船を使いなさい。背負って降りる必要はないから。

 門は、かなり大きい。
 もしかしたら、扉を全開にしたら小型飛行船くらいなら通るかもしれない。
 まさに権威の象徴、皇帝の威厳の具現化という感じだ。

 遠目にも大きいのがわかるその門は、虎平門と呼ばれる古めかしい木造製の門で、宮殿の入り口になっているそうだ。

 人通りのない道を行き、緑色の皮鎧をまとい棍を持つ門番二人の前に立つ。
 そびえる門の大きさも然ることながら、門番もなかなか屈強な大男で、かなり強いことがわかる。眼光鋭く私たちを見ている。

「客人をお連れした。開けてくれ」

「「はっ!」」

 ウェイバァが言うと、彼らは持っていた棍を背に差し、左右の扉に手を掛けた。おい。まさかたった二人で押して開くのか。この大きさの門を。

 彼らの覇気が伝わってくる。
 全身に力を込め、身体のすべてを使って全力で門を押す――と、少しずつ扉が開いていく。

「海外からの客人はまずこれで驚くんじゃがな……ニア殿には子供の遊び程度に見えるじゃろ?」

「そこまでは思わないけど」

 でも、リノキスなら一人でできるだろうな、とは思ったが。ミトもこれくらいはできるようになってほしいかな。

 …………

 まあ驚くべき点があるとすれば、ここまで未熟な「氣」でこの重量を動かせる門番二人の気迫というか、肉体の鍛え具合だな。
 この二人もウェイバァの弟子だろうか? もう少し師がよければもっともっと強くなっていただろうに。実に惜しい逸材だ。

 ゆっくりと門が開くと、そこには宮殿が…………

 …………

 びっくりした。

 奥には宮殿があるのだが――その前にある石畳の大広間に、人が並んでいた。

 身分の高そうな兵装の者や、文官と思しき者。ヒゲを蓄えた中年から老齢の者が多い。
 そんな宮殿勤めであろう武官や文官たちが、道を形作るように左右にずらりと並び……その奥。

 彼らが導くように連なった先にいる、唯一椅子に座った者。
 つややかな赤地に派手な金糸の刺繍を入れた一層豪華な服をまとう、眼光鋭い中年。

 なるほど、ここは簡易的に作られた謁見の間なのか。
 一番奥で椅子に座っている男が、ウーハイトンを治める皇帝ジンジだな。ほう……剣呑な目に相応しい武人でもあるようだ。かなり鍛えているな。

 しかし……まさか、門を開けたらそこに皇帝が待っているとか。

 宮殿を背に集まっている彼らは、この国の中枢、このウーハイトンを動かしている高官たちだろう。
 これはもはや、出迎えとも言うべき歓迎の形である。高官が最大限歩み寄れるギリギリまで来てくれた結果が、これなのだと思う。

 ウーハイトンの伝統の形なのか、それともある種異例の形なのか。
 そこまではわからないが、明らかなのは、国が全力で私たちを迎え入れてくれようとしているという意思だ。

 ほんとに歓迎されているんだな。マーベリアではアレだったのに。落差があるだけに。




 あれ?

 せっかくのお膳立てなので、我が行く道を空けた中を堂々と、まさに覇王がごとく行かせてもらおうかと思っていたら……最奥にて座していた皇帝が立ち上がった。

 なんだ?

 何事かと思えば――走ってきた。皇帝が。豪華な衣装の中年男性が。全力疾走で。左右に並ぶ武官や文官が戸惑い「お待ちください」と騒がれるのも無視して。

「――ニア・リストン!」

 走ってきながら皇帝は吠えた。

「――ウェイバァ老師が見込んだ其の方の龍、試すぞ!!」

「は……?」

 なんだかよくわからないままに。

 嬉々として、あるいは鬼気を感じる笑みを浮かべて。
 獰猛な虎を思わせる猛々しい「氣」をまとい走り込んできた皇帝の拳は、私の顔面に直撃した。



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