狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

文字の大きさ
317 / 405

316.十一歳の夏、ウーハイトン台国へ

しおりを挟む




 私の代わりをしていたシノバズの女児と入れ替わり、ようやくマーベリアに帰ってきたという実感が湧いてきた。

 それから一週間、本当に戴冠式の準備を手伝い、お役御免となった。
 国の代表の交代という大イベントなので、使用された資金も城で働く者の気合いの入り方も違う。

 私は主にパーティー会場作りで雑用を任され、城にある大ホール用の特注絨毯を十数名掛かりで洗ったり干したり敷いたり、重いテーブルを運んだり、パーティー用のグラスを全部洗って磨いたりと、なかなか慌ただしい一週間を過ごした。

 あまり意識していなかったが、戴冠式の準備を手伝う機会なんて、案外そう多くないかもしれない。
 そう考えると、これはこれで本当に貴重な体験だったと言えそうだ。

 そんな一週間が終わり、機兵学校に復帰した。
 
「――お、おはようございます」

「――あの、戴冠式の準備は終わったんですか?」

 年末の御前試合が終わってから、ようやく普通科の教室で少しだけ受け入れられてきた私である。

 ここ一ヵ月以上も登校できなかったはずだが、まだ馴染まない堅い表情や口調で、それなりに歓迎してくれた。
 まあ、もうすぐ留学するんだけどね。

 それから一週間後、リビセィルの戴冠式が行われた。

 日程は三日間で、その間一部の市民は学校も仕事も休みで、城から振る舞い酒や振る舞い料理が出たのだとか。

 実は私も……というか、リストン家ごと戴冠式のパーティーに呼ばれていた。

 長年国交を閉じていたマーベリアの、開国宣言直後の戴冠式だ。
 これからの付き合いも考えて、周辺国の王侯貴族にはたくさん招待状を出しており――その中にリストン家もあったわけだ。
 リストン家は第四階級の貴人籍を持つので、まあ、家格的に呼ばれてもおかしくはないのだろう。

 ただ、私はまだ社交界デビューをしていないので、私だけ辞退した。
 その辺のしきたりや風習もかなり怪しくなっているアルトワールだが、基本的に中等部に上がる十二歳から十三歳の頃にデビュタントを済ませるものなのだとか。

 というか社交界での礼儀作法やマナーなんて全然習ってないから呼ばれても困る。

「――ニア!」

 というわけで、招待を受けた両親と兄ニールがマーベリアにやってきた。

 元気そうで何よりである。
 家族とは、実に二年ぶりの再会である。手紙でのやり取りはしていたが、やはり直接会うのとは違うものだ。

 ちなみにリストン家は、王族からの招待状が届くという名誉もあるが、それより留学している私がいるから応じたという面が強いそうだ。

 娘が世話になっている、娘の手紙によれば王族とも懇意にしている、だから直接会って娘が世話になっている相手に挨拶くらいはしたかった、と。
 
 そんな彼らは案の定、仕事が忙しいからとすぐに引き上げてしまった。
 多少ゆっくり話はできたが、話の内容は次の留学先であるウーハイトン行きの話題が中心だった。

 曰く、王様から理由も聞かされず「娘さん今度はウーハイトンに留学させるよ」と連絡があったそうで、その辺の事情を知りたいようだったから。

 もう色々と隠し事が隠せないくらい大事になってきているので、ウーハイトン行きの経緯はちゃんと話した。
 空賊列島に乗り込んだだの、その時世話になっただのと。

 ――正直、両親も兄もあまりピンと来ていなかったようだが。

 それでもちゃんと説明した。

 どうやら三人とも、私が荒事方面に足を突っ込んでいることに、あまり実感がないようだ。リーノことリノキスから教えを乞い鍛えている、という話はしてあるのだが。

 どうも「どこまで強いのか」までは、想定していないようだ。

 まあ、見た目が大人しそうと言われるし、まだ子供であることも、その一要因なのだろう。
 まさかこんな子供が大の大人より強いし機兵だって指一本でぶっ飛ばすとか言われても、なかなか話だけでは信じがたいだろう。

 マーベリアでも色々やらかしているし、空賊列島での逸話もいずれ耳に入るだろうし、その内ちゃんと知る時も来るだろう。




 そんなこんなで戴冠式も無事に終わり、夏が近づいてきた。

 私は、今度の夏からマーベリアを離れることを、知り合いに直接伝えて回った。

「――おお! お久しぶりですな!」

 まず、王都区画南部署部長に出世した、かつては六番憲兵長だったソーベル・レンズに会いに来た。

 夜襲騒ぎ前後から全然会っていなかったが、彼のことは忘れていない。結構世話になったからな。
 賄賂的なものは受け取れない、と言っていたのを覚えている。

「――いやあ、出世とともに所属が変わってしまいましてな。貴族街方面へ行く機会もめっきり減りまして……ご無沙汰しておりますな。……して、今日は何やらご相談でも?」

 私は、夏になったらマーベリアを離れることと、上から特別報酬としてまとまった給料が出ることを伝えた。

 金は諸々の礼だ。
 私から受け取ると賄賂になるなら、然るべき筋から正式に渡されるなら問題なかろう。

 ――そんな感じで、商業組合の受付嬢リプレや組合長ガッダム、フライヒ工房の職人たち、そして向かいの屋敷の老婦人に挨拶した。

 ――少なくはあるが、機兵学校でも顔見知りとなった掃討科のイースを除く三人、八年生工房のサーキッズ・ハーバーや、機兵科のジーゲルン・ゲートにも挨拶をした。

 マーベリアの国柄がアレだったので、知り合いは少ない。
 顔と名前を知っていて、会えば話くらいはするという知り合いも、かなり少なかった。こんなに少ないならあの裏社会のダージョル・サフィーにもついでに挨拶しようかと思ったくらいだ。しなかったけど。




 そんなこんなで、少々慌ただしい日常が過ぎていき、夏が来た。
 特に事件や問題が起こることもなく、機兵学校は無事終業式を迎える。

















 子供たちとサクマ、アカシに見送られ、私とリノキスを乗せた飛行船はマーベリアから遠ざかっていく。

「――またね! お兄ちゃん!」

 結局ミトは、私たちと一緒に来る道を選んだ。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...