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163.やっぱり気になる大漁祭りと、冒険家リーノと
しおりを挟む二学期が始まった初日のことである。
「――ねえねえ聞いた? 王国武闘大会が開催されるんだって!」
そんな声がそこかしこから聞こえてきた。
どうも時期からして、夏休みの間には噂が広まっていたようだ。どこで聞いたのかある程度の人数は知っていたようだが、半日もすれば学院中に行き届いていた。
夏休みの直前に、私がセドーニ商会に故意に洩らしたせい、という線は薄いだろう。
大儲けできる情報を掴んだ大店の商人が、そう簡単に情報を悟られるわけがない。洩らすとすれば、儲けられる準備がすべて整ってからだろう。
となると、夏休みの終わりが来る前に、王様が動き出していたのかもしれない。
王国武闘大会。
王国が公認し、またバックアップもしている武闘大会。
――つまり、去年の夏私が語ったような、アルトワール王国一強い者を決める大会である。
「あ、ニア。おかえりなさい」
放課後となり部屋に戻ると、すでにヒルデトーラがいた。リノキスがまだ紅茶を淹れている最中なので、あまり待たせてはいないようだ。
「久しぶり、ヒルデ。大型企画、成功おめでとう」
「ありがとう。いえ、その話はいいのです」
「私の兄はちゃんと勤めを果たした? 何か大きな粗相や失敗をしなかった?」
「もちろん。ニール・リストンはあなたの代わりに来たと言って、無事にやり遂げ……いやその話はいいんです。今は」
「結局レリアも参加したのよね。私も参加したかったわ。すごく楽しそうだし、おいしそうだった。今度作ってよ、海鮮鍋」
「作るのは構いませんが、材料と場所と時間が……だからその話はいいんですよ! その話したいのならあとでたっぷり付き合いますからまずわたくしの話を聞きなさい!」
そうか。
武闘大会の次の話題としてよく上がっていた「料理のお姫様大漁祭り出張サービス~ニアの代わりにお兄様が来ちゃった編~」の話をすごく話を聞きたいのだが。仕方ないな。
私がテーブルに着くと、早速とばかりにヒルデトーラが口を開く。
「十億、貯めたんですか? 王城でも武闘大会の話題で持ち切りなのですが」
「そうなの? 大漁祭り出張サービスよりも?」
「……まあ、それもかなり話題に上がってはいますが」
だろうな。魔法映像で観る限りすごかったからな。
レリアレッドは海に落ちるし、ヒルデトーラは地元民にめちゃくちゃ囲まれてたし、兄の周りには常に知らない違う女性たちが老若問わずいたし。
なんかもう、話題の王族が田舎に行ったらああなるのかって感じの地獄絵図に、それをぎりぎりで、放送事故すれすれで番組として成立させるヒルデトーラとレリアレッド、そして兄の奮闘っぷりがとにかくすごかった。
ずっと混乱、混雑、ごちゃまぜを映していたくせに、最終的にはちゃんとうまそうな料理が出来上がっていたのもすごい。もし完成していなければただの撮影事故でお蔵入り決定だっただろう。
あれに関しては聞きたいことだらけである。
夏休みの終わり頃に放送があったのでこの部屋で観ることができたし、もう再放送分も観ている。本当にすごい映像だった。もう二、三回は観ておきたい。もちろん兄も可愛かった。
「武闘大会って、去年お父様と話していたアレですよね?」
「そう。夏休み前に、ヒルデから『四億あれば動く』と伝言を貰ったあの件よ」
「貯まったんですか? 十億ですよ? それを一年で?」
「ええ、十億用意したわ。――彼女ががんばってくれたから」
と、視線を向けた先には壁際に控えるリノキス――冒険家リーノがいる。
「すごい腕ですね……冒険家ってそんなに儲かるものなんですか……」
まあ、冒険家には自分の身一つで命懸けでも一発当てたいって連中が多いからな。
リーノの場合は、一年間常に一発当て続けて十億クラム稼いだ、という、そりゃ噂にならない方がおかしい実績を作り上げてきたことになる。あ、正確には八億か。
「そうですか……では武闘大会開催は決定なのですね」
「王様に聞かなかったの?」
その方が早いし、私に聞くより確実だっただろうに。
「きっとその準備に追われているのでしょうね。最近は捕まえることができないほど忙しそうで」
そうか。まあ、大会以外の仕事もあるだろうからな。王様も大変である。
「いずれ魔法映像で、正式かつ大々的に告知することになると思うわ。国の主催なら、きっとヒルデがやるんでしょうね」
「いいのですか? 資金はニアの侍女が貯めたのでしょう? ならばリストン領が動くべきでは?」
「いいのいいの。私は国で一番強いのが誰かを知りたいだけで、それと同時に魔法映像の普及をしたいの。利益なんて度外視だし、誰が儲けたとかもどうでもいいわ」
「……そんな考えで十億をポンと出すんですか……なんとも豪胆ですね」
豪胆ねえ。
ヒルデトーラの顔は、呆れているようにしか見えないが。
「それより大漁祭りの話を聞きたいわ」
「わたくしには十億より大事な話だとは思えませんが、……もういいです」
子供にはなんとも渋い顔で溜息を吐くと、ヒルデトーラは「料理のお姫様大漁祭り出張サービス~ニアの代わりにお兄様が来ちゃった編~」の裏話を聞かせてくれた。
途中でレリアレッドも合流し、久しぶりに三人集ったお茶会が開かれるのだった。
王国武闘大会の公式発表は、秋の初めに行われた。
それまでに噂は広まり切っていて、学院内で強いとされるサノウィルやガゼル、リリミなどが大会に向けて鍛え出していたのだが、これで鍛錬が無駄になることはなくなった。
国の現王が先頭に立って企画を推し進めているだけに、これは中止になることはないと保証が立っているようなものだ。すぐに国を挙げての大騒ぎになった。
私が出した八億と、真っ先に出資を決めたセドーニ商会で十億。
この十億を元に計画を進めていく中――我も我もと主立った貴人や商人がどんどん出資金を出し、三十億クラムもの金が追加される。
結果四十億もの資金が集まった。
その結果、予想以上の大規模な武闘大会となる。
試合会場は王都の――なんてケチなことは言わない。
とある浮島を丸々一つ大会用に押さえ、すぐに整地や会場、宿舎などの建造が始まった。
ヴァンドルージュの船がたくさん入ってきて、出稼ぎに来た大勢の男たちが着手しているという。
物流が変わる。
食料が大量に必要になる。
あらゆる領地が、貴人が、国が、金の力で動き出す。
そして当然のように、他国の腕自慢たちも噂を聞きつけ、アルトワール王国へやってくる。
優勝賞金五億クラム。
そこそこの贅沢をしても、一生を遊んで暮らせる金額だということで、腕自慢でもなんでもない者まで目の色を変えて鍛え出した。
――そして。
突如現れた賞金ハンター。
冒険家としてデビューしてほんの一年間で、推定五億を稼いだ女。
周辺のあらゆる高額魔獣を喰らった怪物。
そして、活動しはじめて丸一年で突然姿を消した、もはや伝説と言われる冒険家。
どれをとっても話題に事欠かない、冒険家連中には神格化さえされてきているほどの、冒険家リーノの名を。
これまでに大切に大切に育ててきた、冒険家リーノの名を。
この時のために広めてきた彼女の名を。
ついに出す時が来た。
冒険家リーノ、武闘大会に参加決定。
魔法映像で参加表明されたその日、アルトワール王国そのものが吠えたかのような大騒ぎとなった。
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