狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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149.夏休みの直前に

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 学院準放送局が発足し、活動が始まった。

 ……と言っても、私、ヒルデトーラ、レリアレッドはそれぞれの撮影があるので、関係があるようであまり関係なかったりする。

 ヒルデトーラは所属しているのでちょくちょく顔を出しているそうだが、一緒に撮影はまだしていないという。

「中学部生だもんなぁ」

 挨拶がてら一発かまそうと思っていたレリアレッドは、新メンバーが軒並み年上の中学部生ということで、それらしいことは言えずじまい。
 特にジョセコット・コイズが貴人の娘ということで、あえてあの場でケンカを売る必要はないと思ったそうだ。賢明だと思う。

 寮部屋が隣同士になったせいか、レリアレッドは就寝時間前に、よく部屋に来るようになった。

 私にとっては、弟子たちの面倒を見たあと風呂に入り、忌々しい宿題をしている時間である。
 ちなみにレリアレッドは宿題を終わらせてから来る。勤勉な子である。

「これ、変わった紅茶ね」

「早摘みの果物の葉が混ざってるんだって。寝る前に飲むと落ち着く香りとかなんとか言ってたよ」

 しかも時々紅茶の葉を持ってくるだけに、なかなか断りづらい。
 まあ時間的にあとは寝るだけみたいなタイミングなので、特に予定に支障が出ないというのは大きいが。

「ヒルデ様がんばってるなぁ」

 そして宿題をしている私の目の前で、彼女は魔法映像マジックビジョン鑑賞をすると。

 今観ているのは「料理のお姫様」で、ちょうどヒルデトーラが「鹿肉のソテー ~季節の果物を使った特製ソース掛け 甘い初夏の戯れ風~」という、何が甘い初夏なのか、何が戯れているのか、そもそもそれはどういう風なものなのかよくわからない料理を完成させたところだ。

 見た目は……普通のステーキだな。焼き色が鮮やかである。うまそうだ。

「お嬢様」

 だがリノキスの監視は厳しい。ちょっと観ただけだろ。くそ、実に忌々しい数字どもだ。

「そういえば、まだ・・みたいね」

 ん?

「まだって?」

「ほら、学院の放送局の放送」

 ああ、そうなんだ。

「私は逐一チェックしているわけじゃないから、わからないわ」

 まだ禁止されている番組も多かったりするし、やることも多いし、きっとレリアレッドより観ていないと思う。
 魔法映像マジックビジョンが大好きなリノキスならチェックしているはずだが……ああ、確かに彼女から聞いた覚えはないな。

「なんか難しいみたいよ。ヒルデ様もどう口を出していいのかわからないってさ」

 そうか。苦戦しているのか。

「あれから一ヵ月くらい経っているわね」

「一ヵ月か。早いね」

 まあ、早いな。毎日やることがあるだけに、とても早く感じられる。
 この分だときっと夏休みまですぐである。

 ――学院準放送局の撮った映像は、面白ければ、王都放送局のチャンネルで放送されるそうだ。

 さすがになんでもかんでも撮影したものは放送する、というほどゆるくはない。
 しかし、準放送局ができてからこの一ヵ月、まだ一度も彼らが撮った映像が流れることはなかったそうだ。

 この一ヵ月でどれくらい撮影しているか、何本撮ったのか、どんな企画をやっているかもわからないので、私からはなんとも言えない。
 もしかしたらまだ準備中だったりするかもしれないし、キキニアとジョセコットに映像化する時の注意などを教育しているのかもしれないし。焦らずじっくりやるのも悪くないと思う。

 …………

 でもヒルデトーラが「どう口出ししていいかわからない」とこぼしていたのなら、すでに何本かは撮っているのかな。

「どんなことをしているか、レリアは聞いてる?」

「最初はキキニアを軸に、って話は聞いたけど。それくらいかな。何やってるんだろうね」

 はあ、あれを軸に。あいつ苦手なんだよな。

 ……軸か。軸に、ねえ。

「お嬢様」

 本当に監視が厳しいな。ちょっと考え込んだだけだろ。




 そんな話をしたことさえ忘れかけていた、夏休みを目前にしたある日。

「ニア、明日って空いてる?」

 小学部二年生になってからはほぼ毎日やってくるレリアレッドが、あまり言わない質問をしてきた。

「空いてはいないわね」

 明日は、ガンドルフを連れてアンゼルとフレッサをしごきに行く予定だ。

 最近あの二人は調子に乗って狩りをしていると、リノキスに聞いているからな。無理な相手に挑んで怪我をする前に、しっかり見てやろうと思っている。
 ガンドルフは、彼から見てほしいと要望があったから、ついでに連れて行く。こいつもしごき倒してやろうと思う。

「あ、予定あるんだ。ヒルデ様が緊急招集しているんだけど……」

「それを先に言いなさいよ」

 忌々しい宿題の数字どもを放置して、私は手を止め顔を上げる。

「ヒルデが呼んでるのよね? なら行かないと」

 アンゼルたちをしごいてやりたいが、こちらが優先だ。どうせ狩りから帰ってきたばかりだから、数日は動かないだろうしな。

「え、ちょっと待って。ヒルデ様の用事なら即答なの?」

「当たり前じゃない」

 そんなの比べようがないだろう。

「え? え、え? ちょっと待って? この差はなんなの? 私の誘いはダメなの? ヒルデ様ならいいの? なんで? ……あの、私たちって、友達だよね……?」

 なんかレリアレッドが激しく動揺しているようだが。

「友達は友達だと思っているけど」

「あ、そう!? そうよね!? そりゃそうだわ、毎日来てるし! 私ニアが宿題してるとこ毎晩見守ってるし! これで違うとか言われてもこっちが困るわ!」

 見守るだけなら間に合ってるけどな。
 宿題やってる奴の前でリノキスと一緒に魔法映像マジックビジョン観てる奴なんて邪魔でしかないけどな。
 そして実際私の方が困ってるけどな!

 ……でも、まあ、友達ではあると思う。うん、思う。……思う? …………思う思う。もちろん思う。……うん。

「レリアとヒルデじゃ意味合いが違うからよ。
 あなたの用事は個人的なものだけど、ヒルデのお誘いは魔法映像マジックビジョン絡みだもの。広い目で見たら私と無関係じゃないのよ。もちろんレリアにも無関係じゃないと思うわ」

「……あ、ちゃんと理由があったのね」

 当然だ。

 逆に言えば、ヒルデトーラが困っているということは、どこかしら魔法映像マジックビジョンの広報活動に支障が出ているということである。
 私たちもヒルデトーラも、行く先も利害関係も同じなのだ。協力できるところがあるなら協力するべきだろう。

 結局それが己の利となって帰ってくるのだから。




 翌日。
 入学してすぐ一度だけ来た学院放送局にて、久しぶりに学院準放送局員たちに会った。

 そして、監督に頭を下げられた。

「――助けてくれ! どうしても企画が通らないんだ!」

 はあ。企画が。

 もう少し詳しく聞きたいな、と思っていると、ヒルデトーラが補足してくれた。

「実は、何度も王都放送局に映像を持っていっているのですが、どうも放送にまでこぎつけられないそうです」

 ああ、映像が面白ければ王都のチャンネルで流すって話だったかな。

 ……なるほど、企画が通らない、か。

 今回は座っている新メンバー三人を見ると、ギラギラした笑顔が印象深かったキキニアはうつむいているし、ジョセコットはとても不機嫌そうだし、シャールはつまらなそうな顔をしている。

 …………

 どうやら出番が回ってきたようだ。
 


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