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191.もう一つの未来予想…… 後編
しおりを挟む「それでディスオラ、さっき言ってた『世界を超える方法は一つ』って言うのは?」
脱線した話を先輩が戻す。
俺と北川先輩が何度も何度もやっているだけに、もう天堂先輩も慣れたもんである。
「リカも知ってるでしょ? 誰もがこの世界を超えて行く場所のことよ」
……あ、そういうことか。
「死の世界、か」
確かに、誰もがいずれこの世界を超え、行くだろう場所だな。何人たりとも逃れられないからな。
「そう、死ねば魂は世界を超える。そしてまた世界へ戻るの」
猫の紫の瞳が、じっと俺を見ている。
「死んで戻る。いわゆる転生という現象よね。『この世界』に戻るかどうかはわからないけれど、この流れだけは不変なのよ。
希に越えられない者……地縛霊とか怨霊なんかは、執念や未練でこの世に残っているけれど、それもいずれ回収されたり勝手に行ったりするわ。遅いか早いかはあるけれど、必ず行く場所なのよ」
ふうん……
「それが天国とか地獄とかいう場所になるのか?」
「その一歩手前ね。宗教なんかによっても行く場所が違うから、名称も呼ばれる場所も結構バラつきがあるのよ。日本で言えば『賽の河原』とか、その辺がメジャーかしら? 一概に言えないのよね」
要するに、死後の世界だよな?
……うーん……かなりオカルトめいた眉唾もんの与太話にしか聞こえないが、その説明をしているのが猫って時点で、疑う余地がないよな……今俺の目の前で超常現象待ったナシ、って感じだし。
「ディスオラ、弓原くんの状況はわかってるよね? どうしたら『あっちの世界』に戻れるの?」
「基本的に無理ね」
え、マジか。
「おい猫様、頼むよ。ドーナツ三つ貢ぐからさ」
「貢がれても無理なのよ。魂をどうこうって話になるなら、もう神の領分に入るもの。私はただの闇の精霊で、少しばかり死と馴染み深いだけ。あんたを『違う世界』に送るなんて力はないわ」
そ……そっか。
今の返答ではっきりしたな。少なくともこのままじゃ俺は、『あっちの世界』には戻れないみたいだ。たぶんこのまま「九月」を迎えても、もう戻れないだろう。
俺が向こうへ行ったのは、色々な要素が重なった「偶然」って可能性が高いらしい。
だからその偶然が再び巡る可能性がどれだけあるかって話だ。
それこそ「はずれしかない宝くじで一等を当てる」くらい難しいだろう。
イレギュラーってのは正道ではありえないって意味だからな。正攻法では絶対無理って意味だからな。
猫の話を信じるなら、そうなる。でも嘘をつく理由はないからな……少なくとも猫がそう考え予想してるってのは間違いないのだろう。
「私からアドバイスするなら、諦めなさいってことになるわね」
突きつけられた言葉に、言葉を失った。
紫の目が、まだ俺を見ている。先輩も俺を見ている。「どうするんだ?」と言わんばかりに。
「……本当に、無理なのか?」
「さっき言った通りよ。私にはそんな力はない」
…………何度聞いても答えは変わらないんだろうな。
「それってさ」
と、天堂先輩が口を開いた。
「ディスオラ以外の『何者か』ならできるって意味?」
「そうね。神ならできるんじゃない? ユミハラ、神に知り合いいる? 頼んでみたら?」
いるか! そんなもん知ってたらディスオラより先に相談しとるわい! つか神ってどこにいんだよ! トラックにひかれる以外で会う方法知らねえよ! でもロト6でキャリーオーバー当選するより会える可能性低いだろうから絶対やんねえ! 痛いし! トラック運転手もかわいそうだし!
「ディスオラさんどうっすか? 神様に知り合いは……?」
「下手に出て媚びるのはいいけど揉み手はやめなさいよ。リアルでやる奴はじめて見たわよ。
私、『この世界』の出身じゃないから知り合いは全滅よ。そもそも神にも等しかった闇の女王は、リカが倒して消滅させちゃったし」
闇の……あ、先輩が行ったアニメのラスボスか。
「先輩、すげーのと戦ったんすね」
「……正直、すごくがんばって命を振り絞って、何度も何度も死にかけて、やっと倒したんだけど……今改めて言われると、なぜだか少し恥ずかしい……」
闇の女王と戦って勝った。
――うん、完全に中二病の領域だもんな。
当時は超必死だったとしても、あとから振り返れば正常な人にはアレかもな。必殺技とか大声で叫んじゃったりしたんだろ? ……言ったらまた心をへし折るかもしれないから言わないでおくが。
「何が恥ずかしいのよ。私からすれば男漁りにしか興味がない女の方がよっぽど恥ずかしいわよ。あ、そうそう、リカ、あのバカ男とはどうなったの? あの男はダメよ。顔はいいけど、意識せず平気でモラハラかますタイプだわ。一度付き合ったらきっと生半可なことじゃ別れられなくなるわね」
ああ、あのストーカーイケメン先輩のことな。
「じゃあ俺は?」
「え?」
うわ、猫が真顔で俺を見たよ。……猫の真顔ってこんなんなんだな。
「……性格は嫌いじゃないけど、顔がいまいちなのよね」
ひ、ひどい……こんなストレートにフラれるなんて……しかも猫に品評されるなんて……
「やめなさい、ディスオラ。なんであなたが私の付き合う相手を決めるのよ」
「じゃあ先輩は俺のことどう思ってるんすか!? ちなみに俺はかなり好きっすけど!」
「え?」
うわ……なんかとっても既視感な真顔で見られた。
「……うーん……まあ……うん………………まあ、その…………あっそうだ! 景が君のこと『かわいい後輩』って言ってたよ!」
迷い。
間。
気遣い。
違う女の名前と発言。
更に言うなら違う女の発言も。
そのすべての要素が、どう好意的に解釈しても、「ごめんなさい来世に期待してね」としか受け止められないんだが。
……今夜は枕を濡らすかな。
それからしばし、元気がなくなった俺を、先輩は必死で元気づけようとしたりしてくれたのだが。
「――ユミハラ」
先輩の味がしない言葉をぶった切るような遠慮のなさで、猫が割り込んだ。
「そんなに『違う世界』に行きたい?」
底の抜けた桶から元気が全部こぼれた俺だが、しかしその問いには「もちろん」と即答できた。
もちろんだ。諦めろと言われて簡単に諦められなるか。
「そう。さっきからずっと考えてたんだけど、もしかしたらなんとかなるかもしれない」
「え……マジで!?」
嘘だろ。
さっきの話、もう終わったもんだとばかり思ってたのに……まだ続くのか?
「ただ、どう考えても危険だし、一歩間違えば『こっちの世界』でも死ぬかもしれないわ。目当ての『向こうの世界』に行ける保証もない。オススメはしない。
話そうかどうか迷ったわ。さすがにユミハラを死なせるような提案はしたくないもの」
「でも」と、猫は笑った。
「昔のことを思い出したわ。私は昔、リカの身を案じて、『戦うのをやめよう、遠くへ逃げよう』って言ったの。それをリカは拒み、戦うことを諦めなかった。このまま闇の女王を放置したら、彼女から生まれたディスオラがいつか消されるかもしれないからって。
バカよね。私なんて厳密には生命体じゃないのに、こんな私に命を賭けたのよ」
天堂先輩が「やめて~」と恥ずかしそうに身をよじるが、……うん、俺はかっこいいと思うよ。その判断が正しいかどうかはわからないが、かっこいいとは思う。
「結局、周囲がどれだけ心配しようが、最後に決めるのは本人だものね。
で、どうする? あんたも命を賭けてまで、無茶なことをしてみたい? もう一度言うけれどオススメしないわよ? そして責任も取らないわ。リカが気に入っている分だけ私もあんたには死んで欲しくないし。自己責任だからね」
…………
「話を聞かせてくれ」
命懸けになるとかならないとかも気になるが、とにかく詳細を聞いてからだろう。
――そして俺は、命を賭ける覚悟を決め、「九月」を待つことにした。
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