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185.記憶の彼方に見えたものは…… 

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 とある日の放課後、某ファーストフード店の目立たない奥のテーブルである。学校帰りだけによその学校の生徒も多い。

「で、一応クリアしてみたんすけど、大した情報はなかったっす」

 先日クリアした魔王ルートの説明と、俺が戻った理由の推測を、軽く述べてみた。
 これだけでも30分掛かっているのだが、二人は興味深そうに聞いてくれた。

「うーん……そうだね。主人公の死が無関係とは思えないね」

 俺の推測に、天堂先輩が同意してくれた。そう、無関係とは思えない。ゲーム中アルカが死亡した日と俺が戻った日が一緒だなんて、偶然とは思えない。
 現実味を帯びた言い方をすれば、まさにアルカにとっては運命の日を迎えたことになる。なんせ死んでるからな。

「ねえねえ、アクロディリアっぽいこと言ってみて?」
「無礼者! 愚民は床に這いつくばってなさい!」
「おお~」

 ……で、話を聞いてたのか聞いてなかったのかよくわからないこの人は、学校一のモテグループのもう一人の女子、天堂先輩の友達である北川景先輩である。
 ブリーチして軽い色にしたショートカットが特徴で、「とにかく明るい北川景」という、一時期流行った履いてる履いてないで一世を風靡した芸人のような枕詞で有名だ。正直めっちゃ可愛いです。

 ――実は北川先輩は、天堂先輩の例の「アニメの世界に行っていた」ことを知っていた。
 なんでも事故に遭いそうになった北川先輩を、天堂先輩が闇の力で助けたことで知られ、その時に全部話してしまったらしい。そして元から仲は良かったがそれが決定的となり、親友同士になったんだとか。

 そして、女の勘とでも言えばいいのか、北川先輩は非常に鋭いそうだ。感性が豊かとか、そういう感じになるのだろうか。よくわからない内に天堂先輩の話から俺のことを見抜き、話に混ぜろと言い出した。

 で、このざまである。

 だいぶ早い段階でこの話に参加しているので、実質天堂先輩と北川先輩の美女二人に相談に乗ってもらっているという現状である。フゥー! レッド○ル三本一気飲みしたくらいテンション上がるぜ!

 あと、絶対楽しんでるだけだとは思うが、北川先輩は俺の話に興味をそそられたらしく「純白のアルカ」をプレイしている。一応形だけは俺の事情を深く知ろうと努力はしている、という体である。

 だからだろうな。「俺がアクロディリアだった」というギャップで非常に面白がっている。
 まあ俺も面白いと思うよ。平凡な男子高校生が傲慢ちきで鼻持ちならない悪役令嬢になりました、なんて。ああ面白いと思うよ。他人事なら面白がれるだろうね。当事者としては面白がってられないけどね。

「とりあえず箇条書きしてみようか」

 天堂先輩は、一つ一つ検証していく形で話を詰めていこうとしている。

「アクロ~」
「無礼者!」
「おお~キレいいわ~」

 北川先輩は絶対に面白がっているだけである。……こんな可愛い女子が頼んでいるなら、俺はそれはそれでいいと思うんだっ。たぶんもうこの先一生ない至福モテの時間だからな。今だけは甘受する俺を許してくれ、同志たち。




 天堂先輩は、鞄からペンケースとルーズリーフ用紙を一枚取り出し、今俺が話した内容を箇条書きしていく。


  ・魔王ルートに入ろうとしていたと思われるアルカは、シナリオ上確実に死ぬ運命にあった。

  ・アルカが死んだ日に、弓原くんはこちらの世界に戻った。

  ・アルカを殺したのは、魔王の部下である第三魔将軍ガステン。

  ・確証はないが、話の展開からして、ガステンがやってきたことがアルカの感知した異変で、それが理由で寮から出て森へ向かった。


「で、ここからが、魔王ルートに入ってから判明したことだね」


  ・第一から第六まで魔将軍が存在し、第五魔将軍と第六魔将軍とはボス戦イベントがある。

  ・第一、第二、第四魔将軍は出てこない。

  ・魔王は五百年以上前に封印された時、力の九割以上を失っている。力が衰えたせいで魔将軍たちも眠りにつき、作中で少しずつ魔王が力を取り戻していく過程で接触してきた。そして魔王は封印のせいで学校から離れることができない。


「関係ありそうなものだけピックアップしたつもりだけど、こんな感じかな?」
「そうっすね」

 全てのシナリオを追求するのも無駄が多いからな。

「アクロ~」
「跪きなさい!」
「お~」

 ……遊んでる場合じゃないんだけどなぁ。

「まず、『第一から第六まで魔将軍が存在し、第五魔将軍と第六魔将軍とはボス戦イベントがある』。これって魔王の命令で止められないの?」
「そうだったみたいっす。シナリオ上では『主はあの女に騙されている。助けなければ』みたいな感じで、魔王がどれだけ言っても止まらないって感じで」

 ちなみに第五魔将軍は首なし甲冑……デュラハン的なやつ。
 第六魔将軍は、街を踏み潰しながら王都へやってくる超巨大な亀だった。実質こいつがラスボスだったな。

「なるほど。じゃあ第一、第二、第四魔将軍は出てこなかったの?」
「そうっす」
「ふむ……魔王の命令聞いた派なのかな」

 うーん……単に作り込んでないだけな気もするが。だって作り込みの甘さが如実に出た、歪みも多々ある世界観だったし。
 まあとにかく、シナリオには一切出てこなかったのは確かだ。

「あ、その辺のことはファンディスクに少し載ってたよ」

 何っ? 俺で遊んでばかりだった北川先輩が、有益な情報を漏らしただと……?

「私的には、そっちの方が弓原くんの知りたい情報があるんじゃないかと思って、ざっとチェックはしてみたよ。今日持ってきてるから、後で貸してあげるね」

 マジかよ。

「北川先輩、ありがとうございます。正直ちょっと地味に邪魔だと思ってたんですけど、今後もいてほしいっす」
「はっはっはっ、こやつめ。正直なやつめ」

 笑いながらぐりぐりと頭を撫でられた。うーん……やたら可愛いな。でも俺のポテト食い過ぎだと思う。

「一生ついていきますけど、いいすか?」
「おー、ついてくるがいいぞー。梨花と一緒に面倒見てやるぞー」

 え、マジで!? なんだこのいきなり降って湧いたアメリカンドリーム! とんでもなく幸福に満ちた未来しか見えやしねえ……!

「はいはい、話を戻すよ」

 ああ、天堂先輩の無慈悲な一言で俺のアメリカンドリームが一瞬で消え失せちまった……まあ別にアメリカンじゃないから仕方ないか……少しくらい妄想の余地が欲しかったぜ……

 まあいい。
 相談に乗ってもらってるんだ、少しはちゃんとしないとな。

「えー……魔王は五百年以上前に封印されて、アルカが封印を解くことでゲーム登場するんだよね?」

 その通りだ。ゲームではそうだった。
 あとキーアイテムが、封印を解くイケニエになったみたいだ。

「ゲームではかなりさらーっと流されてたから、詳細はわからないんすよね。あくまでもそんな流れだったってことで」

 それこそゲームだ。小難しくて長々した設定・説明テキストを読ませたところで、果たしてプレイヤーがそれを楽しめるのかって話だ。ノベルゲーや小説などのなら媒体ならまた違うと思うけどな。

「封印を解かれたことが原因で、魔王は少しずつ力を取り戻す。その過程で眠りに着いていた魔将軍も活動を開始し、三年目の九月に第三魔将軍ガステンがやってくる。
 そして魔将軍の接近という異変を感じたアルカは、不用意にガステンと接触し、そこで殺されてしまうと」

 そう、殺されてしまうのだ。あっさりと。イベント戦だしな。

「結局生き返るのよね?」
「はい。生き返ります」

 魔王ルートに入ろうが入るまいが、アルカは生き返る。ルート突入失敗の謎の夢オチはよくわからんが、ルート突入演出は納得できた。
 攻略キャラたちの尽力でアイテムを手に入れ、魔王の秘術で生き返るのだ。「あれ? ここはいったい……」とかベタなつぶやきを漏らしながらな! 

「――ねえ」

 ああだこうだ話をしていると、北川先輩が言い出した。

「私、魔王は関係ないと思うんだ」

 え?

「どういうことっすか?」
「弓原くん自身も言ってたじゃん。アルカが死んだ日が原因じゃないか、って。私はそれで間違いないと思う」

 ……ふむ。

「ただ、私がもっと気になるのは、弓原くんの記憶のことなの」
「記憶?」
「アクロだった頃の最後の記憶。相変わらず思い出せないんでしょ?」

 そう、だな……どう頑張っても思い出せないから、もう半分忘れ……諦め気味だったが。
 
「どう考えても不思議なのよ。だってアルカは『夜、森で』殺されたんでしょ? だったらその時アクロは普通に考えて寝てたんじゃない?」

 寝てた? ……そうだっけ?

「でも、その記憶がないんでしょ? 『寝ていた』っていう記憶が。正確に言うと『ベッドに入るまで』の記憶が。なんでそこの記憶がないのかな?」

 なんで?
 そうだな、言われて見れば不思議だな。確かに思い出せない。

「最後の記憶は、夕飯食った辺りまでっすね」
「ちなみに夜だった?」
「いや、夕方です。時間的には夜だけど、まだ空は明るい時間帯でした」

 いつもそんな時間に晩飯食ってたからな。

「そこから先がどうしても思い出せないっすけど……」

 濃い霧の中……というより、暗闇の中にどっぷりと、って感じだ。
 存在しないものを探しているような気さえしてくるほどに、記憶の欠片も断片も、ほんの少しの光や色さえ思い出せない。

 むしろ、「何もなかったから記憶にない」と、自然とそう思えるくらいに何も思い出せない。

 ――そんな俺の記憶だが、このあと割と簡単に思い出すことになる。

 ――それも、衝撃の事実とともに。




 なんだかんだと話してみるも、やはり推測は推測の域を超えない。
 今日もさっぱり手応えのないまま、時間も遅くなったので、もう解散することにした。

「弓原くん。これ例のファンディスクね」
「あ、あざーす」

 北川先輩からCDケースのようなものを受け取り、何気にジャケットを見て――意識が止まった。

 そこには二人の人物が描かれていた。

 美女の腰に手を回す魔王ベルヴェルドと。
 長い真紅の髪に、金色の瞳の、頭に羊の角のようなものが生えた、露出度高めの美女。

 俺の意識を奪って離さないのは、女の方だ。




 ――そうだ。思い出した。思い出したぞ……!!




「死んだの俺だ!」

 あの満月の日、殺されたのはアルカじゃない。

 アクロディリアおれだ。

 俺は、この女……リア・グレイに、殺されたんだ……!


 

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