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167.夕陽に染まる今日は終わりに近き……

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 色々と話し合った結果、やはり「宝を見つけた」という事実は隠す方向で行くことになった。
 公表すれば、サラ・ドジェスの歴史に名が刻まれるが、特に名声がいらない連中ばかりなので満場一致だった。
 だがこういうのは自然とどこからでもバレるらしいので、それはリーダーであるキルフェコルト任せである。色々な視線を押し付けてやろうぜっ。
 
「そろそろ持って行くからよ。宝戻せ」

 キャッキャキャッキャやっていた連中は、名残惜しそうに装飾品などを外していく。

「なかなか価値が高そうだ。何点か持っていてもいいかもしれないね」

 金細工のドクロマークが眩しい眼帯と金糸で彩った黒い海賊の帽子……トライコーンを被った海賊コスプレのラインラックが、帽子を脱いだ。つかなんでそんな格好に……

「見事な細工ばかりですね。さすが大盗賊ギャットの財宝だ」

 指輪やピアスなど細かい物を一点一点眺めていたヴァーサスは、特に変わりない姿である。面白みのない奴だ。着けろよ。おまえの隣の金髪王子を見ろよ。

「……」

 指に通した遠目にも見事な細工の金の指輪を、うっとりと見つめていたシャロは……思わず「くっ殺せ」とアテレコしたくなるような険しい顔で意を決し、その指輪を抜き取った。

「どれもこれも素敵ですね」

 クローナは余裕である。いつもの穏やかな表情で宝箱から離れた。一瞬俺と目があって宝箱ではなく俺から距離を取ったように見えたが気のせいだろう。

「……ハァハァ……ハァハァ……」

 目の毒が過ぎたのだろう。ハイネは宝箱から少し距離を取り、眺めては心を落ち着かせる、落ち着かせてはまた眺めるを繰り返していた。うっすらと上気した頬は興奮の証である。

「…………」

 そんなメイドを、弟はものすごく不審げに見ていた。

「フフ、フフフ……フフ……」

 そして俺のレンさんは、完全に宝に目が眩んでいる状態だ。異国の金貨を手にしてニヤニヤしながら眺めている。
 こんな隙だらけなレンさん初めてだ……完全に目には宝しか入っていない感じだ。こんなレンもいいな。
 今なら、正常な状態にない今なら、「きわどい水着」を着けるよう交渉ができ……るかと思ったが敗北のビジョンしか見えやしないのでやめておこう。

 そんなレンは、クローナに肩を叩かれて我に返った。軽く頭を振って金貨を戻した。

「おいフロントフロン嬢、おまえも返せ」

 あ? 俺全然触ってねえぞ。つか俺もハイネ張りに、あまりの輝きにちょっと尻込みしてる状態だぞ。場所も取れなかったし。出遅れたし。

「……あ、王冠か」

 すっかり忘れてた。まだ頭にあったっけ。むう……何度見ても無駄に派手だな。悪趣味だわ。アクロディリアには似合うけど、アクロディリアの趣味でもないんだよな。この女、趣味だけは結構いいから。

 どうやら俺が最後だったらしい。
 王冠を宝箱に戻すと、水着からまた制服に着替えてきたジングルが宝箱の蓋を閉めた。

「じゃあ行くわ。後でな」

 義務はないが、一度領主に財宝を見せて報告することにしたのだ。俺が進言した通り「買い取るかもしれない」から、報告だけする方向だ。公表はなしだけどな。その辺の話し合いもきっとあるのだおる。
 キルフェコルトとジングルは、手続きの際に登録させられたこの街に転送魔法陣に、「帰還の魔石」を使って宝ごと一足飛びに街に戻っていった。

 街はもうすぐそこだ。「始まりの島」はその名の通り、サラ・ドジェスに近いのだ。

 ――二百年以上も前から存在するという、船乗りたちによる伝統の海賊の歌を聞きながら、船は海を滑るように進んでいく。




 そんなこんなで、行って帰ってきたのは昼時だ。本当に半日立たず帰還したことになる。

「冒険……とも呼べないわね」

 桟橋に降り、彼方に見える「始まりの島」を眺めて呟く。
 一応このクエスト、ボス的なものもいるんだよな。「正解の地図」で辿り着く島で遭遇することになる。でも丸のまま無視して宝だけ回収したから、本当に冒険でもなんでもない、ただの「宝探し」になってしまった。

 まあいいやな。
 もうすぐ新学期が始まるし、あまり時間が掛かる冒険はまずそうだしな。下手すると泊まりになっちまうしな。
 それに、そろそろアルカも戻ってきてもおかしくないからな。俺はともかくレンは絶対に吉報を待っているはずだ。

 ……それにしても、こんなに簡単に宝とか手に入れてよかったのかなぁ。

「船長どうする?」
「ほっとけ。死にゃしねえよ」
「完全に昨夜の酒のせいで寝入ってるだけだからな。バカバカしい。俺らも飲みにいこうぜ」
「そうだな。今日の酒はうめぇだろうな!」

 下船準備を終えた船乗りたちも降りてきて、俺たちに適当に挨拶して行ってしまった。船長を置いて。まだ伸びてるらしい。

「これからどうしようか?」

 ラインラックが問う。
 賑やかな港に帰ってきた。このままここにいても邪魔になるだろうし、とにかく移動せねばならない。

 まあ、ここは一択だろ。

「魚介のフルコース。後にデザート。あとは観光ですわ」

 これ以外の選択肢があろうか? いやない。
 朝は食いっぱぐれたが、昼は絶対に魚介だ。港街に来て魚とか食わないなんて考えらんねえよ。とにかくエビだろ。
 一応メンツがメンツだから、朝はともかく、昼は高級レストランで間違いないだろう。下手に大衆食堂みたいなところに入ったら、粒ぞろいのイケメンどもが悪目立ちして大混乱を招くかもしれないしな。

「そうだね。せっかくだから海の幸を食べたいね」

 提案・辺境伯の娘、同意・王族という形で、とりあえずメシということになった。
 キルフェコルトたちは、たぶんちょっと時間が掛かるだろうからな。合流するまではほぼ観光である。




 キルフェコルトが合流したのは、空も赤い夕方だった。

「ジングルは目録作ってる」

 「海賊記念館」なる博物館で、海賊の遺品や海から引き上げられた錨、本物の海賊旗、ボロボロの航海日誌などを結構楽しく見て回っているところに、奴はやってきた。恐らくジングル以外の密偵も動いていて、こっそり連絡を取り合っているのだろう。

 それにしても、やはり領主は買取希望だったようで、今は貴金属の一つ一つの目録と適正値段を付けているらしい。で、歴史好きのジングルが嬉々として手伝っている最中なんだとか。

 まああれだけの宝だ、とにかく数も価値も半端ないだろう。かなり時間が掛かりそうだな。

「分配なんかもそれが終了してから、恐らく分割払いになる。今すぐ金がいるって奴いるか? 俺が前払いを建て替えるから言ってくれ」

 つっても、金に困ってるメンツがいないんだよな。レンも急いではいないようだし。

「よし、じゃあ晩飯食って、今日は泊まって明日帰ろうぜ」

 まあせっかく来たし一泊くらいならいいかなーと思ったのだが、「失礼」と弟が口を開いた。

「申し訳ありませんが、私は今日中に帰りたいと思っています。昨日も外泊しているので……」

 弟の学校も、まだ夏休みのはずだ。急いで帰る理由もないと思うが……いや、まあ、やりたいこともあるのかもしれないな。俺もなんだかんだやることはあるしな。
 つか、単にフラフラしてると貴族として心象が悪いせいかもしれないが。

「そうか。……妹のこと頼むな」
「……はい」

 お……アニキにしてはめちゃくちゃ優しい笑みだ。弟もちょっと驚いたみたいだが、しかと頷いてみせた。うーん……ちゃんとお兄ちゃんもやってんだなぁあいつ。俺様のくせに。

「――ではお姉様」

 弟が踵を返し、真正面に俺を捉えた。

今度は・・・見送りをしていただけますよね?」

 えー……それって俺に送れっつってんの? 面倒臭えな……
 今度、っつーと、帰郷中のアレだよな。俺が魔力の使いすぎでダウンした時のだよな。

 ……まあいい。行くか。

 



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