151 / 184
167.夕陽に染まる今日は終わりに近き……
しおりを挟む色々と話し合った結果、やはり「宝を見つけた」という事実は隠す方向で行くことになった。
公表すれば、サラ・ドジェスの歴史に名が刻まれるが、特に名声がいらない連中ばかりなので満場一致だった。
だがこういうのは自然とどこからでもバレるらしいので、それはリーダーであるキルフェコルト任せである。色々な視線を押し付けてやろうぜっ。
「そろそろ持って行くからよ。宝戻せ」
キャッキャキャッキャやっていた連中は、名残惜しそうに装飾品などを外していく。
「なかなか価値が高そうだ。何点か持っていてもいいかもしれないね」
金細工のドクロマークが眩しい眼帯と金糸で彩った黒い海賊の帽子……トライコーンを被った海賊コスプレのラインラックが、帽子を脱いだ。つかなんでそんな格好に……
「見事な細工ばかりですね。さすが大盗賊ギャットの財宝だ」
指輪やピアスなど細かい物を一点一点眺めていたヴァーサスは、特に変わりない姿である。面白みのない奴だ。着けろよ。おまえの隣の金髪王子を見ろよ。
「……」
指に通した遠目にも見事な細工の金の指輪を、うっとりと見つめていたシャロは……思わず「くっ殺せ」とアテレコしたくなるような険しい顔で意を決し、その指輪を抜き取った。
「どれもこれも素敵ですね」
クローナは余裕である。いつもの穏やかな表情で宝箱から離れた。一瞬俺と目があって宝箱ではなく俺から距離を取ったように見えたが気のせいだろう。
「……ハァハァ……ハァハァ……」
目の毒が過ぎたのだろう。ハイネは宝箱から少し距離を取り、眺めては心を落ち着かせる、落ち着かせてはまた眺めるを繰り返していた。うっすらと上気した頬は興奮の証である。
「…………」
そんなメイドを、弟はものすごく不審げに見ていた。
「フフ、フフフ……フフ……」
そして俺のレンさんは、完全に宝に目が眩んでいる状態だ。異国の金貨を手にしてニヤニヤしながら眺めている。
こんな隙だらけなレンさん初めてだ……完全に目には宝しか入っていない感じだ。こんなレンもいいな。
今なら、正常な状態にない今なら、「きわどい水着」を着けるよう交渉ができ……るかと思ったが敗北のビジョンしか見えやしないのでやめておこう。
そんなレンは、クローナに肩を叩かれて我に返った。軽く頭を振って金貨を戻した。
「おいフロントフロン嬢、おまえも返せ」
あ? 俺全然触ってねえぞ。つか俺もハイネ張りに、あまりの輝きにちょっと尻込みしてる状態だぞ。場所も取れなかったし。出遅れたし。
「……あ、王冠か」
すっかり忘れてた。まだ頭にあったっけ。むう……何度見ても無駄に派手だな。悪趣味だわ。アクロディリアには似合うけど、アクロディリアの趣味でもないんだよな。この女、趣味だけは結構いいから。
どうやら俺が最後だったらしい。
王冠を宝箱に戻すと、水着からまた制服に着替えてきたジングルが宝箱の蓋を閉めた。
「じゃあ行くわ。後でな」
義務はないが、一度領主に財宝を見せて報告することにしたのだ。俺が進言した通り「買い取るかもしれない」から、報告だけする方向だ。公表はなしだけどな。その辺の話し合いもきっとあるのだおる。
キルフェコルトとジングルは、手続きの際に登録させられたこの街に転送魔法陣に、「帰還の魔石」を使って宝ごと一足飛びに街に戻っていった。
街はもうすぐそこだ。「始まりの島」はその名の通り、サラ・ドジェスに近いのだ。
――二百年以上も前から存在するという、船乗りたちによる伝統の海賊の歌を聞きながら、船は海を滑るように進んでいく。
そんなこんなで、行って帰ってきたのは昼時だ。本当に半日立たず帰還したことになる。
「冒険……とも呼べないわね」
桟橋に降り、彼方に見える「始まりの島」を眺めて呟く。
一応このクエスト、ボス的なものもいるんだよな。「正解の地図」で辿り着く島で遭遇することになる。でも丸のまま無視して宝だけ回収したから、本当に冒険でもなんでもない、ただの「宝探し」になってしまった。
まあいいやな。
もうすぐ新学期が始まるし、あまり時間が掛かる冒険はまずそうだしな。下手すると泊まりになっちまうしな。
それに、そろそろアルカも戻ってきてもおかしくないからな。俺はともかくレンは絶対に吉報を待っているはずだ。
……それにしても、こんなに簡単に宝とか手に入れてよかったのかなぁ。
「船長どうする?」
「ほっとけ。死にゃしねえよ」
「完全に昨夜の酒のせいで寝入ってるだけだからな。バカバカしい。俺らも飲みにいこうぜ」
「そうだな。今日の酒はうめぇだろうな!」
下船準備を終えた船乗りたちも降りてきて、俺たちに適当に挨拶して行ってしまった。船長を置いて。まだ伸びてるらしい。
「これからどうしようか?」
ラインラックが問う。
賑やかな港に帰ってきた。このままここにいても邪魔になるだろうし、とにかく移動せねばならない。
まあ、ここは一択だろ。
「魚介のフルコース。後にデザート。あとは観光ですわ」
これ以外の選択肢があろうか? いやない。
朝は食いっぱぐれたが、昼は絶対に魚介だ。港街に来て魚とか食わないなんて考えらんねえよ。とにかくエビだろ。
一応メンツがメンツだから、朝はともかく、昼は高級レストランで間違いないだろう。下手に大衆食堂みたいなところに入ったら、粒ぞろいのイケメンどもが悪目立ちして大混乱を招くかもしれないしな。
「そうだね。せっかくだから海の幸を食べたいね」
提案・辺境伯の娘、同意・王族という形で、とりあえずメシということになった。
キルフェコルトたちは、たぶんちょっと時間が掛かるだろうからな。合流するまではほぼ観光である。
キルフェコルトが合流したのは、空も赤い夕方だった。
「ジングルは目録作ってる」
「海賊記念館」なる博物館で、海賊の遺品や海から引き上げられた錨、本物の海賊旗、ボロボロの航海日誌などを結構楽しく見て回っているところに、奴はやってきた。恐らくジングル以外の密偵も動いていて、こっそり連絡を取り合っているのだろう。
それにしても、やはり領主は買取希望だったようで、今は貴金属の一つ一つの目録と適正値段を付けているらしい。で、歴史好きのジングルが嬉々として手伝っている最中なんだとか。
まああれだけの宝だ、とにかく数も価値も半端ないだろう。かなり時間が掛かりそうだな。
「分配なんかもそれが終了してから、恐らく分割払いになる。今すぐ金がいるって奴いるか? 俺が前払いを建て替えるから言ってくれ」
つっても、金に困ってるメンツがいないんだよな。レンも急いではいないようだし。
「よし、じゃあ晩飯食って、今日は泊まって明日帰ろうぜ」
まあせっかく来たし一泊くらいならいいかなーと思ったのだが、「失礼」と弟が口を開いた。
「申し訳ありませんが、私は今日中に帰りたいと思っています。昨日も外泊しているので……」
弟の学校も、まだ夏休みのはずだ。急いで帰る理由もないと思うが……いや、まあ、やりたいこともあるのかもしれないな。俺もなんだかんだやることはあるしな。
つか、単にフラフラしてると貴族として心象が悪いせいかもしれないが。
「そうか。……妹のこと頼むな」
「……はい」
お……アニキにしてはめちゃくちゃ優しい笑みだ。弟もちょっと驚いたみたいだが、しかと頷いてみせた。うーん……ちゃんとお兄ちゃんもやってんだなぁあいつ。俺様のくせに。
「――ではお姉様」
弟が踵を返し、真正面に俺を捉えた。
「今度は見送りをしていただけますよね?」
えー……それって俺に送れっつってんの? 面倒臭えな……
今度、っつーと、帰郷中のアレだよな。俺が魔力の使いすぎでダウンした時のだよな。
……まあいい。行くか。
11
お気に入りに追加
956
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢が死んだ後
ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。
被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢
男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。
公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。
殺害理由はなんなのか?
視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は?
*一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる