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165.蓋を開ければ色とりどりの……
しおりを挟む「え、マジか!? ――おい船長! 宝が見つかったってよ!」
近くにいた、首にサメのタトゥー入れてる船乗りが盛り上がりの一部始終を聞いていたらしい。大声を張り上げて舵を取っている仲間に通達した。
「――ああ!? 仲間との思い出とかいう名のくそったれな宝が見つかったって!?」
お、おう。なんかすごい返事が帰ってきたな。
「違う! マジの方の宝だ! 海底に沈んでるってよ!」
「――ハッ! そりゃー沈んでるだろうよ! 俺らにとっちゃ海こそが最高の宝だろ!? 寝ぼけてんのかくそったれ!」
「いやだからっ……てめえ酔ってんのか!?」
船乗りたちのひと悶着があったりなかったりしながら、船は速度を上げた。
そしてそんなやりとりも気にならないほど、俺を抜いた俺たちは宝に夢中で、弟の持っている「真眼のルーペ」を奪うようにして海底の宝を確認していた。
もう大騒ぎである。
……まあ騒ぐわな。確かに。俺だってネタバレしてなければ、あることを知っていなければ同じように熱狂しただろう。
俺も見たが、「真眼のルーペ」で見える光はまだ距離がある。
だが、そんな光に少しずつ近づいていくのは、ネタバレしている俺でもちょっとテンションが上がるものだった。
「落ち着け、まだ到着には時間が掛かる。この間に段取り決めようぜ」
今か今かとそわそわしながら待ち続ける時間は苦痛だ。超空腹時のカップラーメンの3分間のように。
だからキルフェコルトは、このながーいながーい待ち時間を潰す意味も含めて、今からの予定を決めようと言い出した。
「段取りと言うと、宝の引き上げ方か」
表面上は落ち着いているラインラックは、面々の顔を見た。あまり動揺が見えない。さすが腹芸が得意な王族だ。
「アクロ、何か考えていたかい?」
もちろんだ。ここまで連れてきた以上、その「段取り」もある程度決めてきている。
「クローナに潜ってもらおうと思っています」
そのための水着だからな。クローナ自身も、ここまで来たら自分の役割に気づいているだろう。
「無理じゃないですか?」
口を挟んだのは、シャロだ。彼女も表面上は落ち着いている。……宝のある方角をちょいちょい気にしているが。
「重量を考えると、果たして海面まで一人で持ち運べるでしょうか?」
あ。
そうだった。忘れてた。
「どうやって引き上げるのか」は、考えてなかった。
俺はクローナを行かせれば確実に宝に辿り着けると思った。そこで思考が止まっていた。
問題はむしろ「辿り着いてから」だった。
「おまえ、ここまで自信満々で連れてきといて、実際宝まで見つけて、その先を考えてないとか……」
あっ! アニキのシラケた目が痛いっ! ノープランをみんなにバラさないでっ! 恥ずかしいっ!
「俺がクローナと一緒に行くよ」
さっと顔を逸らしてキルフェコルトの視線から逃げていると、ジングルが言った。
「魔法で海面まで持ってくるから、そこから全員で引き上げてくれ。予想では宝箱三つ以上あるかもしれねーから、長々ちまちまやるよりそれが一番早いだろ」
なるほど。ジングルの飛翔魔法で、宝箱の重量を軽くして運んでくるってことか。
「本当は船ごと引き上げてーんだけどな。でもギャットの海賊船『クィーン・エルメナ号』がそのまま沈んでるなら、この船じゃ無理だろうしな。引き上げるには準備がいる」
ああ、エルメナ号な。そこそこの大型船だったって話だもんな。歴史好きにはどうしても引き上げたい歴史的遺物だよな。
「ただし! 宝箱開けんのは作業が終わって俺らが上がってからにしてくれよな! ぜってー先に開けんなよな!」
今はただの「キルフェコルトの友達の不良」として参加しているジングルに、キルフェコルトは「わかったわかった」と苦笑しながら答えた。
途中でヴァーサスが船酔いして、酔い止めの薬を飲ませる際に背中を擦りながらこっそり『天龍の息吹』を使用して「ものすごく効く薬だな」と言わせてみたりする一場面もありつつ。
問題なく、船は宝の真上にやってきた。
「では、行ってきます」
シンプルな白いビキニに着替えたクローナが、船の縁から飛び降りた。眩しい白い肌に、眩しい白い水着……水色の髪に金の瞳という現実離れした美貌がとにかく眩しい。……今俺の視線に気づいてさっと飛び降りた気がするけど気のせいだよね?
そして、「真眼のルーペ」を預けた海パン姿のジングルもそれに続く。実は奴も、こんなこともあろうかと海パンを用意していたのだ。さすが密偵、用意周到だ。
「――『水の泡膜』」
クローナが一時的に水中でも息ができるようになる魔法を唱え、二人は打たれた錨のロープを辿るようにして海の底へと消えていった。
縁にかじりついて、俺たちは待った。
タトゥーマンたちも固唾を飲んで待った。
船長はマジで酒飲んでたらしくボコられてその辺に伸びていた。さすがに治す気になれない。
海猫の鳴き声と、船体に波が砕ける音だけ。
時折り遠くの海面で、魚やらわけのわからないものやらが飛び跳ねる。
風もそれなりに強いのに、今は凪のようにしか感じられない。
ネタバレしている俺でさえ、ここまで来たら興奮と期待と少しの不安しかない。
――果たして、割とすぐに二人は上がってきた。
「ロープをくれ!」という大きな箱を担いでいるジングルの声が聞こえないくらい激しく、俺たちは雄叫びを上げた。うおーとかやったーとかきゃーとか。
財宝、ゲットだぜ!
海に沈んでいただけあって、宝箱にはフジツボみたいなのや貝みたいなのがびっしりと付着していた。
だが、よく見ると金属部分は錆びていない。
「やっぱ連れてきて正解だったな。やれ、シャロ」
――キルフェコルトが連れてきたシャロだが、彼女は土属性の使い手だ。それも調査系や保存系の魔法が得意なんだとか。
アニキは、「海賊の宝」と聞いた時点から、海水の存在を気にしていた。まあ要するに「海水に浸かっても劣化しないよう保存系の魔法が掛けられているのではないか」と思ったそうだ。
保存系というのは、いわゆるコーティングのことだ。
防腐、防錆、防水や防虫なんかだな。
そして防盗……いわゆる鍵的なものも含まれる。
で、この宝箱だが、その手の「劣化しない魔法」が掛けられているらしい。その系統が土属性で、シャロは掛けることも解くこともできるそうだ。あと鍵もな。
ただし。
「まだ早いでしょう。二人が作業してるのに。情の欠片もない」
かなりわくわくしているキルフェコルトの「やれ」命令に、シャロは平然とそう答えた。
「……わかってるよ! 見んなよ!」
ジングルが念を押していただけに、全員の「そりゃねーわ」って非難げな視線を受けて、常に自信満々なアニキは渋面になった。
――引き上げられた宝箱は、全部で七つにも及んだ。大きさはトランクケースを二つ重ねたくらいのほぼ正方形。一辺が70センチくらいだろうか。要所要所は金属で補強された木製で、鍵穴らしきものはない。あとタコっぽいのがいた。海に投げといた。
「あとこれな」
タオルで髪を拭きながら、ジングルは無造作にそれを甲板に置いた。
何があったか、真っ二つになっていた船体を「真眼のルーペ」で調べながら軽く見て回り、かつては人が付けていたかもしれない指輪やネックレスなどの貴金属を拾ってきていた。うわーすげえ! こっちも防錆が掛かってるのか、二百年も海の中にあったとは思えないくらい綺麗なもんだ!
「その大きさの黒狼石の指輪とか、たぶんそれだけで五百万はする」
そりゃすげえ! でもちょっと待ってろ!
「ジングルくん、今はこっちよ」
いよいよ宝箱が開けられる瞬間にそんなこと言われても、みんな気もそぞろだぞ。
船乗りも、メイドたちも、一緒に潜っていたクローナさえ見てないぞ。
ちょっと場所取りに遅れて、離れたところから見てる俺くらいしか聞いてないぞ。そして俺も宝箱の方が気になるぞ。
「……わかってんよ、空気読めてねえことくらい。出すタイミングがよー……宝箱開ける前に出しとかねーと、くすねたとか思われそうだったからよー……」
あーもううるせーな。おまえがくすねるかよ。
「いいからあっち見なさいよ」
一つの宝箱の前にシャロがしゃがみこみ、船乗り含む他の連中がそれを囲んでいる。
そして、今「鍵・防水・防腐」の魔法コーティングを解いたところだ。いよいよ二百年もの眠りが覚める時である。
誰かが生唾を飲み込む。
期待に胸を膨らませて。
「……『真眼のルーペ』で中身見てんだよな、俺……」
…………
「おまえ本当に空気読めよ」
ジングルのぼやきは、他の連中には聞こえなかったようだが、俺にだけ確実に聞こえた。
思わず素で言い返すくらい腹が立った。
これからってタイミングでなんてこと言いやがる。
クリスマスや誕生日に、綺麗にラッピングされたプレゼントを貰って、開ける前に中身を知らせる奴があるかっつーんだ。わくわくしながら開けるのも醍醐味だろが。
「「――うおおおおおおおおお!!!」」
開け放たれた宝箱の中には、黄金色、サファイア色、ルビー色、黒曜石色と、色取り取りの宝がぎっしり詰まっていた。
そして皆の歓声が上がった瞬間、俺はジングルを睨んでいた。
「……あー……すまん」
本当に他意はなかったようで、かなり申し訳なさそうにジングルは謝った。
…………
「許す! いいから見ましょう!」
腐ってたってしょうがねえ! それよりこんな盛り上がること、人生にそうないだろうからな! しっかり盛り上がっとかないとな!
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