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146.月夜の晩に会いましょう……
しおりを挟む「あ、そういやメイトから土産貰ったよ。あんたからだって」
ああ、メイトか。フロントフロン領から王都へ向かう転送魔法陣で別れたっきり会ってないんだが、まあ元気そうで何よりだ。
「始めてだよ。監視対象から土産渡されるなんて」
おい。
「隠さなくていいの? 監視対象とか」
確かこいつとは、その辺のことは暗黙の了解みたいになってたはずだが。
「もうバレすぎたからな。さすがに今更すぎんだろ。ここまで来たら変に隠す方がやりにくいし、あんたもこれでいいんだろ?」
ああそう……ついに密偵から正面切って「俺おまえ監視してる王家の使いだけど文句ねえよな?」的なことを言われてしまったのか。
俺の意思が通じたわけだ。
俺は一度も監視を煙たがったことも遠ざけたこともなく、むしろ接近して認めるような真似ばかりしていたから。
メイトなんてキ○ッツ中の俺のお守りまでさせたしな。
土産持たせたのはその辺の礼も兼ねてたんだが、ジングルのこの態度と発言からして、俺の「監視したきゃしろ! 堂々と!」という意向が受け入れられたらしい。
当人同士の同意の下、互いに認める監視体制に切り替わったわけだ。
それが良いことなのか悪いことなのかわからないが、王族に睨まれるよりは百倍マシってもんだ。……俺の場合、普通に監視に手を借りることも多々あったしな。あれ? そう考えると監視されているデメリットがあんまねえな。見られて困ることはあんまりしてないし。
それに、見られているだけなら、入れ替わり現象はバレないしな。ただ調査は慎重にやっていかないとバレるかもな。気をつけよっと。
ま、それはそれとしてだ。
「今はあなたが監視?」
「いや、俺じゃねえよ。つか俺今朝学校に戻ってきたんだ。でもって王子が戻るまではオフなんだ。いいだろ?」
へえ。密偵にもオフとかあんのか。
……つか、やっぱり今は、俺の知らない密偵が俺を監視してるわけか。メイトの帰還から交代して。たぶん生徒だろうな。何人くらい入り込んでいるのかはわからんが、さすがに誰かは教えてくれないだろうなぁ。
「誰が監視してるの?」
一応聞いてみるが、苦笑いで回避されたわ。
「その『一応聞いとこ』みたいな質問やめね? 何があっても答えらんねーよ」
ジングルの言い分はもっともだった。
「話を戻すけど、何日か休みなのね?」
「実際は半分くらいだけどな。完全オフなんてありえねーから。何かあったら即座に動けるようにしとかねーと。でも可能な範囲ではオフだぜ?」
ほう。それはそれは。好都合ですな。
「ジングルくん、宝探しに興味ない?」
「あ? なんのこった?」
評判の悪い高飛車貴族女と不良。傍から見られたら面倒臭い組み合わせである。
ちょっとした立ち話で済むならまだしも、ここから先はややつっこんだ話になるので、図書館の脇の人がなかなか来ない場所に移動した。
「実は――」
これこれこういう感じでお金を稼ぎに行きますよ、と昨夜レンに話した通りのことを伝えると、ジングルは「ふうん」と腕を組んだ。
「宝探しっつーと大げさだが、確かに小金にはなりそうだな」
だろ? そうだろ?
「お嬢様は光属性だもんな。コールドウィスプなら相性抜群だ。ガンガン狩れんだろ。それを見越しての計画だよな?」
「もちろん」
――ルーベル村に走った晩、偶然見かけた地縛霊みたいなモンスターに『浄化の光』を掛けた時、思った以上の効果が出たんだよな。
『浄化の光』は、アンデッド系モンスターを浄化したり弱体化させたりする魔法だ。完全に局所的にしか使い道がない、あまりにも応用が効かない微妙な魔法だが、それだけに魔法効果はかなり高いらしいとわかった。
十匹二十匹と漂うコールドウィスプを、『浄化の光』一発でまとめて消し去ることができれば……イッヒッヒッ、効率の良いアイテム集めができることだろうよ!
あとついでに言うと、冒険者としてまるでレベルの低いアクロディリアだ。
この世界でレベルがどうこうという概念が通用するかはわからないが、もし通用するなら、コールドウィスプでレベル上げも期待できるだろう。まだ必要経験値が少ないだろうからな。念願のMP増量のチャンスなのだ!
――それと、本当の宝探しへの布石でもあるからな。色々メリットがあるんだよ。
「で、それを俺に話すってことは、俺を冒険に誘ってるわけだな?」
「どうせどこに行こうと監視は付いてくるでしょ? だったらわたしは顔見知りで護衛も兼ねる監視の方がいいのよ。どうせ来るなら一緒にいればいいじゃない」
こいつ自身のことはよく知らないが、あの谷で命懸けで助けてくれた奴だ。俺にとってはそれだけでも信じるに値する。おまけにアニキの密偵だろ? そこまで揃えばもう疑う余地がないだろ。
「まあ、確かに監視は付いていくだろうけどよ……今は俺の担当じゃねえから、俺の一存じゃ決めらんねえな」
「行く気はあるの?」
「気にはなるよ。あんたの狙い、小銭稼ぎだけじゃなさそうだしよ」
おっ、と……だらだら態度のくせになかなか鋭いな。さすが密偵だ。
「なぜそう思うの?」
問えば、ジングルは俺が抱えている本を指差した。
「目的が一つに絞られていて、それだけを目指すなら、そこまで調べる理由がねえ。特にその本、『消えた魔道具』……それ古代のマジックアイテムのカタログだよな? なんでモンスターの落とし物を集めに行くのにそんな本見る必要があんだ?」
「え? 趣味だけど?」
「信じねえ」
なんだよー。信じろよー。……当たってるけどよー。
「出発の予定はいつだ?」
「今晩遅くに」
死霊系は夜間に活動するからな。探索辺りが目的なら早朝出発だろうが、今回はモンスター狩りが目的だから対象の活動時間にいかないとな。
「目的地は? コールドウィスプが出る場所っつーと少し難度が高いよな。さすがにティユース城跡地とか言わねえよな?」
ティユース城は「純白のアルカ」で言うところのラスダン近いフィールドだ。タットファウス大陸で最も危険な場所の一つと言ってもいいだろう。当然モンスターも強い。俺は絶対に行かないし、行く気もない。
「聖ガタン教会跡よ」
「げ。あそこはアンデッドの巣窟だぞ……」
だからそのアンデッドモンスターが目当てなんだっつーの。
「わかった。泊まりじゃねえよな? メンツは? あんま一緒に居るところ見られたくないし、俺は現地で待ってるからそこで合流しようぜ」
簡単に打ち合わせをして、ジングルと別れた。
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