上 下
130 / 184

146.月夜の晩に会いましょう……

しおりを挟む







「あ、そういやメイトから土産貰ったよ。あんたからだって」

 ああ、メイトか。フロントフロン領から王都へ向かう転送魔法陣で別れたっきり会ってないんだが、まあ元気そうで何よりだ。

「始めてだよ。監視対象から土産渡されるなんて」

 おい。

「隠さなくていいの? 監視対象とか」

 確かこいつとは、その辺のことは暗黙の了解みたいになってたはずだが。

「もうバレすぎたからな。さすがに今更すぎんだろ。ここまで来たら変に隠す方がやりにくいし、あんたもこれでいいんだろ?」

 ああそう……ついに密偵から正面切って「俺おまえ監視してる王家の使いだけど文句ねえよな?」的なことを言われてしまったのか。

 俺の意思が通じたわけだ。
 俺は一度も監視を煙たがったことも遠ざけたこともなく、むしろ接近して認めるような真似ばかりしていたから。
 メイトなんてキ○ッツ中の俺のお守りまでさせたしな。
 土産持たせたのはその辺の礼も兼ねてたんだが、ジングルのこの態度と発言からして、俺の「監視したきゃしろ! 堂々と!」という意向が受け入れられたらしい。

 当人同士の同意の下、互いに認める監視体制に切り替わったわけだ。
 それが良いことなのか悪いことなのかわからないが、王族に睨まれるよりは百倍マシってもんだ。……俺の場合、普通に監視に手を借りることも多々あったしな。あれ? そう考えると監視されているデメリットがあんまねえな。見られて困ることはあんまりしてないし。

 それに、見られているだけなら、入れ替わり現象はバレないしな。ただ調査は慎重にやっていかないとバレるかもな。気をつけよっと。

 ま、それはそれとしてだ。

「今はあなたが監視?」
「いや、俺じゃねえよ。つか俺今朝学校に戻ってきたんだ。でもって王子が戻るまではオフなんだ。いいだろ?」

 へえ。密偵にもオフとかあんのか。
 ……つか、やっぱり今は、俺の知らない密偵が俺を監視してるわけか。メイトの帰還から交代して。たぶん生徒だろうな。何人くらい入り込んでいるのかはわからんが、さすがに誰かは教えてくれないだろうなぁ。

「誰が監視してるの?」

 一応聞いてみるが、苦笑いで回避されたわ。

「その『一応聞いとこ』みたいな質問やめね? 何があっても答えらんねーよ」

 ジングルの言い分はもっともだった。

「話を戻すけど、何日か休みなのね?」
「実際は半分くらいだけどな。完全オフなんてありえねーから。何かあったら即座に動けるようにしとかねーと。でも可能な範囲ではオフだぜ?」

 ほう。それはそれは。好都合ですな。

「ジングルくん、宝探しに興味ない?」
「あ? なんのこった?」




 評判の悪い高飛車貴族女と不良。傍から見られたら面倒臭い組み合わせである。
 ちょっとした立ち話で済むならまだしも、ここから先はややつっこんだ話になるので、図書館の脇の人がなかなか来ない場所に移動した。

「実は――」

 これこれこういう感じでお金を稼ぎに行きますよ、と昨夜レンに話した通りのことを伝えると、ジングルは「ふうん」と腕を組んだ。

「宝探しっつーと大げさだが、確かに小金にはなりそうだな」

 だろ? そうだろ?

「お嬢様は光属性だもんな。コールドウィスプなら相性抜群だ。ガンガン狩れんだろ。それを見越しての計画だよな?」
「もちろん」

 ――ルーベル村に走った晩、偶然見かけた地縛霊みたいなモンスターに『浄化の光フラッシュライト』を掛けた時、思った以上の効果が出たんだよな。
 『浄化の光フラッシュライト』は、アンデッド系モンスターを浄化したり弱体化させたりする魔法だ。完全に局所的にしか使い道がない、あまりにも応用が効かない微妙な魔法だが、それだけに魔法効果はかなり高いらしいとわかった。

 十匹二十匹と漂うコールドウィスプを、『浄化の光フラッシュライト』一発でまとめて消し去ることができれば……イッヒッヒッ、効率の良いアイテム集めができることだろうよ!

 あとついでに言うと、冒険者としてまるでレベルの低いアクロディリアだ。
 この世界でレベルがどうこうという概念が通用するかはわからないが、もし通用するなら、コールドウィスプでレベル上げも期待できるだろう。まだ必要経験値が少ないだろうからな。念願のMP増量のチャンスなのだ!

 ――それと、本当の宝探しへの布石でもあるからな。色々メリットがあるんだよ。

「で、それを俺に話すってことは、俺を冒険に誘ってるわけだな?」
「どうせどこに行こうと監視は付いてくるでしょ? だったらわたしは顔見知りで護衛も兼ねる監視の方がいいのよ。どうせ来るなら一緒にいればいいじゃない」

 こいつ自身のことはよく知らないが、あの谷で命懸けで助けてくれた奴だ。俺にとってはそれだけでも信じるに値する。おまけにアニキの密偵だろ? そこまで揃えばもう疑う余地がないだろ。

「まあ、確かに監視は付いていくだろうけどよ……今は俺の担当じゃねえから、俺の一存じゃ決めらんねえな」
「行く気はあるの?」
「気にはなるよ。あんたの狙い、小銭稼ぎだけ・・・・・・じゃなさそうだしよ」

 おっ、と……だらだら態度のくせになかなか鋭いな。さすが密偵だ。

「なぜそう思うの?」

 問えば、ジングルは俺が抱えている本を指差した。

「目的が一つに絞られていて、それだけを目指すなら、そこまで調べる理由がねえ。特にその本、『消えた魔道具』……それ古代のマジックアイテムのカタログだよな? なんでモンスターの落とし物を集めに行くのにそんな本見る必要があんだ?」
「え? 趣味だけど?」
「信じねえ」

 なんだよー。信じろよー。……当たってるけどよー。

「出発の予定はいつだ?」
「今晩遅くに」

 死霊系は夜間に活動するからな。探索辺りが目的なら早朝出発だろうが、今回はモンスター狩りが目的だから対象の活動時間にいかないとな。

「目的地は? コールドウィスプが出る場所っつーと少し難度が高いよな。さすがにティユース城跡地とか言わねえよな?」

 ティユース城は「純白のアルカ」で言うところのラスダン近いフィールドだ。タットファウス大陸で最も危険な場所の一つと言ってもいいだろう。当然モンスターも強い。俺は絶対に行かないし、行く気もない。

「聖ガタン教会跡よ」
「げ。あそこはアンデッドの巣窟だぞ……」

 だからそのアンデッドモンスターが目当てなんだっつーの。

「わかった。泊まりじゃねえよな? メンツは? あんま一緒に居るところ見られたくないし、俺は現地で待ってるからそこで合流しようぜ」

 簡単に打ち合わせをして、ジングルと別れた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

悪役令嬢が死んだ後

ぐう
恋愛
王立学園で殺人事件が起きた。 被害者は公爵令嬢 加害者は男爵令嬢 男爵令嬢は王立学園で多くの高位貴族令息を侍らせていたと言う。 公爵令嬢は婚約者の第二王子に常に邪険にされていた。 殺害理由はなんなのか? 視察に訪れていた第一王子の目の前で事件は起きた。第一王子が事件を調査する目的は? *一話に流血・残虐な表現が有ります。話はわかる様になっていますのでお嫌いな方は二話からお読み下さい。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...