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83.見習い紳士淑女の社交場へ……

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 先日の終業式に歩いた道を行く。
 馴染み深い校舎で、幾度も通った廊下なのに、まるで別世界のようだ。……まあ俺の場合は某悪役令嬢の記憶なんだが。

 いつもなら廊下で立ち話している連中も、今日はどこかオシャレである。
 貴族はそれっぽいドレス姿だったり燕尾服だったりして、庶民枠で参加の男女も制服ながらめかしこんでいる、気がする。上着にノリが利いているというか、化粧が厚めだとか、アクセサリーが派手目とか。
 ……明かりのせいかな?
 もう夜なもんで、歩く道はランプとかで照らしてはいるものの、全体的に薄ぼんやりしてるんだよね。そのせいで逆に綺麗に見えるのかも……いや、まあ、そういう冷めたことは言わないでおこう。うんうん、みんな綺麗だよ。綺麗!

 ラインラックの二の腕辺りに手を回し、エスコートされる俺。……男同士できっついことこの上ないのだが、周囲にはそうは見えていないようで。

「ほう……」
「素敵……」

 嘆息だったり、どこか夢見るような声が聞こえたりと、俺達はそれなりの美男美女カップルに見えているようだ。
 制服同士だからそこまで目立たない……かと思ったりもしたが、そんなわけないか。ラインラックは文句なしのイケメンだし、アクロディリアも美貌だけは自慢できるからな。見た目と中身さえ気にしなければ、そりゃーもう誰もが羨むカップルに見えていることだろう。

 そして何より大事なのは、今日、今だけは、女子の視線が優しいってことだ!
 何せ今日はペア原則のパーティーだからな! 他人を気にするより、隣にいる人の方が気になるだろ? ん? 気になるんだろ? ……独り身には砂を噛むようなイベントだしな。奴らのためにも思いっきり楽しむのが正解だと俺は思う。下手な同情なんてされたらさ……そりゃ殴り合いは避けられないからな。このステキな夜に半分死ぬハメになるぜ。最悪彼女の前で全裸にされるぜ。

「アクロ」

 ラインラックが笑いながら問う。

「今変なことを考えていたね?」
「いいえ、全然」

 至極まっとうなことしか考えてませんけど?
 モテない男たちの気持ちは異世界超えても通じてる……俺、そう信じてるから……

 逆に言えば、モテて当然の王子様には絶対に伝わらない話ってことだがな! 俺なんでこんな奴と腕組んで歩いてるんだろうな!? 考えれば考えるほど意味わかんねーんだけど!

「――殿下」

 おっと!
 いよいよ会場である体育館前に差し掛かった時、後ろから付いてきていたヴァーサスの野郎が、俺たちに顔を寄せて囁いた。いきなりでびっくりしたわ。

「俺は離れますので」
「ああ、そうか。君も楽しんでくれ」

 ヴァーサスは一礼し、すすっと先へ行き……え? あの絵に描いたような堅物が、まさか女子と合流しただと……!?
 入り口付近でポツーンと立っていた小さな女の子に声を掛けたヴァーサスは、その子をエスコートしてさっさと会場へ入ってしまった。

「だ、誰? 彼女?」
「いや、この国の王女様さ。お互いパートナーがいなかったそうでね」

 ああ……

「貴族も王族も大変よね」

 身分ある奴って、こういう時にパートナー一人見つけられないだけでケチ付けられるんだろ? 見栄とかメンツとか本当に面倒臭いと思うんだけどなぁ。庶民の俺は。

「王族は特に大変かな。相手次第では家格が見合わないと陰口叩かれたりするからね。相手に迷惑を掛けることも多いから誰でも気楽に誘えない」

 そうそう、そうらしいね。

「こういう時、婚約者がいると楽なのよね」
「全くだよ。選ぶ必要がないというのは、すごく助かるよ」

 まあ今日は学生パーティーだから、婚約者が同じ学校にいないとアレだけどな。

「――アクロディリア様。そろそろ私も行きますね」

 と、レンもパーティの手伝いに行ってしまった。バイト代出るし料理の残りも食う気だから、いつもより若干張り切ってる気がする……いいなぁ残り物……

「私たちも行こうか」
「はい」

 ヴァーサス、レンを追うようにして、俺たちも体育館へ向かう。




「へえ」

 第一に、がんばったなぁという感想が思い浮かんだ。

 すげーな。終業式の時はなかったでかいシャンデリアが吊るしてあって、煌々と明かりを放っている。あれはローソクとかじゃないみたいだな。マジックアイテムの類かもしれない。
 美味しそうな匂いがする方を見れば、びしっと白いテーブルクロスが敷かれた長机の上にはずらっと料理が並んでいる。うーん……やっぱメシ食ってきてよかったわ。空腹状態で来ていたら腹の虫が騒いでいたかもしれん。

 そして一番目立つのは、体育館……というか、ホールって言った方がいいのだろうか? 中央では音楽に合わせて社交ダンスに興じている連中がいる。あの辺がメインで楽しむところっぽいな。
 ちなみにステージ上で見たことのある弦楽器や管楽器を駆使しているのは生徒たちである。俺にはまったく馴染みのないクラシック的なBGMが流れている。めっちゃ上手いな。あれが未来の音楽家たちか……あの中の何人が吟遊詩人になるのだろうか? 早めに職探した方がいいぞー。

 うん、こうして見ると、学生パーティーと侮れないな。すげーがんばってると思う。そこらの貧乏帰属のパーティーなんかよりよっぽど豪華だ。きらびやかだ。
 まあその、参加者におっさんおばちゃんがいないおかげで、やっぱりちょっと違う気はするんだが。アクロディリアは初参加だからなぁ……基本若いもんだけのパーティーってのは珍しいというか、ほぼないんだろうな。

「まず、主催に挨拶に行こうか」

 お、行く?

「キルフェコルト殿下ですね?」
 庶民はメシに群がり、貴族はとりあえず主催に挨拶である。

 生徒代表として、毎回生徒会が先導する企画という話だからな。つまり生徒会長であるアニキが主催者ってことになる。
 学生パーティーだけに礼節なんて二の次らしいが、まあ、王族と辺境伯令嬢だからな。立場上無礼講やっちゃダメなんだよな。

 探すまでもなく、すぐに見つかる長身である。だがペア参加原則だけに、今日はそんなに囲まれていないようだ。
 ……だってパートナーもいるしな。アニキの横に。







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