上 下
129 / 131
国始動編

第128話 パーキ、ライラ、マーレ

しおりを挟む
日が完全に暮れた頃、大地達は飲食街から少し外れたところにある大きな教会に来ていた。

「こんな時間にどうしたんですか?」

教会に入ると、本殿の奥にある大広間のような場所で、丁度食事をしていたリリーナと子供達の姿があった。

リリーナは現在この教会に住みながらリリスの研究助手をしていた。

教会はマルタの時と同じように身寄りのない子供達を受け入れる施設にもなっており、リリーナは日中に助手の仕事、夕方からは子供達の世話と忙しくしている。

西と東の領地を巡る戦争や、その後の領主不在による混乱によって、トームには多くの戦争孤児が生まれてしまっており、それにより現在この教会には五百人以上の子供達が衣食住を共にしている。

もちろんリリーナ一人で全ての面倒を見きれるわけもなく、現在は国からの補助をもらいながら育児経験のあるお母さん達を雇い、教会の運営を行っている。

ケンプフも教会に住んでいるようで、非番の日には朝から晩まで子供達の遊びの相手をしているそうだ。



「こんな時間にすまない。今日はパーキ達に用があってな」

パーキ達の場所を聞かれたリリーナは視線をテーブルの真ん中辺りに移す。

リリーナの視線の後を追ってみると、そこにはどんぶり飯をかきこむように食べているパーキ、そしてそれを注意するライラ、その二人を見てオロオロとしているマーレの姿があった。

実は三人はペンタゴンを作成し教会を建設して以来、教会に住み着くようになっていた。

最初は大地達と同じように王宮内に部屋を設けていたのだが、三人が教会でリリーナの手伝いをしたいと言い出したのを機に、教会に住むことになり、今ではリリーナ達の手伝いをしている。

もしかしたら小さいながら身寄りのいなくなった子供達の姿を密林にいた時の自分達と照らし合わせたのかもしれない。

まだ九歳という幼い歳でありながら、パーキ達は小さい子供達の相手や、料理や掃除のお手伝いなど、よく動き教会の子供達にとってリーダー的存在になっているのだと以前ゼーレから聞いたことがあった。

久々に見る少したくましくなったようにも思える三人の姿におもわず表情が綻ぶ大地。

そんな大地の視線に気付いたのか、急に大地の方へと振り向いた三人は、大地の姿を発見すると、一目散に大地達の前まで走ってきた。

「ばいひひはひふり!」

「久しぶりだなパーキ。けどまずは口の中の物飲み込んでくれ」

「大地兄ちゃん今日はどうしたの?」

「ライラ達にちょっと話があってな」

「大地だよぉ~!    久々だよぉ~!」

「おっおう。なんでマーレは泣いているんだ?」

三人とも久々に大地と話せるのがうれしいのだろう、パーキを大地の腕を持ってブンブン振り回し、ライラは目をキラキラさせながら大地を見つめ、マーレは泣きながらも満面の笑みを浮かべていた。

ボレアス領地に移ってからというもの、帝国の襲撃やその後のアーヴ達との戦争と、常に忙しくしていた大地はこれまでパーキ達と会うことすら出来ていなかった。

それもあってかパーキ達は久々に会えた大地を逃がすまいと、顔を合わせると大地の身体にタックルをかましてくる。

わかりやすく懐いてくる三人の姿を見て、照れくさそうににやけ顔をさらす大地。

「へぇ~あんたもそういう顔出来るのね」

「これはかなり珍しいショットですよ。まさか大地さんが子供に笑みを見せるなんて」

「おい。お前らは俺を一体何だとおもっているんだ」

楽しそうに子供とじゃれ合う大地の姿にメリアと犬斗は驚愕した顔を見せる。それを見た大地は怪訝そうな顔をパーキ達に見えないようにしながら二人に向けた。

「それで大地! 俺達に話って一体何なんだ!? これから遊ぶって話か?」

「そんな訳ないでしょ! パーキはいつも遊ぶことしか考えていないんだから」

二人は大地の身体に抱き着いたまま、夫婦漫才のようなやり取りを行っていた。

大地はひとまず落ち着いて話が出来る場所に移ろうと、本殿の方に向かうように三人に伝える。

三人が楽しそうに走って本殿に向かっているのを見ながら大地は空いたテーブルの上に多量のケーキやクレープなどのおやつを再現する。

「リリーナ。食後のデザートを置いておく。後でみんなに食べさせてやってくれ。もちろんリリーナの分もあるから」

「ありがとうございます! 後でみんなで食べさせてもらいます!」

よほど甘い物には目がないのか、リリーナは飛び跳ねるようにして喜ぶと、食事中の子供達に声をかけて大地からおやつをもらったことを伝える。


「「「「創造神様ありがとう!」」」」


リリーナから大地よりおやつをもらったことを聞いた子供達は元気よく大きな声で大地にお礼を言う。


ちょっと待て。なんで子供達まで俺を創造神なんて言うんだ? 一体誰が教えているんだ・・・・


子供達から創造神だと呼ばれた大地は額を手で押さえながらガックリと肩を落とす。

後ろにいた犬斗とメリアは必死に笑い声を出すのをこらえていた。

しかし子供達の無垢な感謝の意に答えないわけにもいかず、不本意ながら「どういたしまして」と返した大地は、パーキ達の待つ本殿へと向かった。

本殿ではパーキ達が仲良く長椅子に座って待っていた。大地はパーキ達の大好物のスイートポテトとジュースを再現して渡すと、早速三人に要件を話す。

「俺達は明日仕事でディランチ連邦って国に行くんだ」

「え~せっかく来たのにもう行っちゃうのか・・・・またゴーレム作りに来てくれたのかと思ったのに」

「仕方ないよ。大地兄ちゃんはこの国の王様だもん。忙しいに決まってるよ・・・・」

「大地また行っちゃうのぉ~! 寂しいよぉ~!」

大地から明日またディランチに出発することを聞いた三人は寂しそうにうつむく。

「待て待て! それでな、お前達さえ良ければ一緒に行きたいと思ってるんだ。お前達もずっと教会の中や近場の広場じゃ遊ぶにしても飽きてしまうだろ? せっかくだし密林を出た時みたいに俺達とちょっとした冒険に行かないか?」

「「「行く!」」」

大地の提案に飛びつくように即決で返事をするパーキ達。パーキ達は三人で手をつないで輪っか状になると、「冒険! 冒険!」と楽しそうにぐるぐると回り出す。

そんな光景を大地達がほのぼの眺めていると、リリーナが消灯の時間を告げに来た。

大地はリリーナに事情を話し、明日の朝に迎えに来るため三人の準備をお願いしたいことを伝える。

リリーナも内心パーキ達が手伝いばかりしていて遊ぶ時間がないことを気にしていたようで、是非連れていってあげてくださいと笑顔で快諾してくれた。

パーキ達は大地に大きく手を振りながら「また明日!」と元気よく挨拶すると、自分達の部屋のある二階へと続く階段を駆け上がっていった。

リリーナも大地達に軽く挨拶をした後、パーキ達の後を追って二階へと上がっていった。

「孤児院か。本当にこの国は民を大事にしている国なんだな・・・・」

教会に入ってから一言も言葉を発することのなかったマリカがリリーナ達が二階へと上がった途端、感動したように話しだした。

「孤児院なんて何処にでもあるものじゃないのか?」

大地は感動するマリカの行動は大袈裟だと言いながら、教会の長椅子に座る。

「いやこのような立派な孤児院など何処を探してもあるまい。あるとしても人の良い者が個人でやっているような所ぐらいだ。規模を見る限りこの孤児院には国が関与しているのだろう? それに今日見て周った限りでは乞食をしている者が一人も見当たらなかったぞ。本当にこの国は良い意味でこの世界の常識から逸脱しているな」

「技術提供の話は理解出来ないくせにそういう所は良く見えているんだな。」

「それは褒めているのか? それとも馬鹿にしているのか? どっちだ大地!」

「マリカさん子供達が寝る時間なんですから静かにしてください! それに大地さんもここでくつろぐぐらいなら自分の部屋に戻ってからくつろいで下さいよ!」

大地の子馬鹿にした発言にムッとしたマリカが大きな声で大地に詰めようとするが、思ったい以上に響いた声に反応したルルがマリカを注意する。

ついでにルルに早く教会に出るように注意された大地が教会から出ようとした時、先に出口付近に向かっていた犬斗とメリアがある物を見つけて盛大に笑い声をあげた。

「メリアちゃんに犬斗さんまで大きな声をあげないでください!」

「ククク・・・ごめんルル。けどあんなの見たら笑っちゃうわよ。ねぇ犬斗。」

「さすがにあれは反則ですよ・・・あんな顔いつもしてないですもん・・・」

二人はお腹を押さえて必死に笑い声を抑える。しかし余程ツボにはまったのか「ククク・・・」と小さく声が漏れていた。

「何がそんなに面白いんだ?」

大地は不思議そうに二人の視線の先にある出口の上にある窪みを見た。

するとそこには両手を天に掲げ、満面の笑みを見せる大地の像があった。

「ククク・・・道理で子供達があんたを創造神なんて呼ぶわけよ・・・それにしてもこの笑顔。あんたの笑顔がこんなに面白いものだなんて初めて知ったわ・・・」

「こんな物誰が作ったんですかね・・・ククク・・・駄目だ早く出ましょう。このままでは僕のお腹が壊れてしまいます!」

二人は耐えきれないといった様子で急いで教会から出ていく。

「ふぅ・・・これは明日リリーナに詳しい話を聞く必要があるな」

「・・・・そうですね」

「大地はキレるとあのような顔になるのだな・・・・」

大地は血管が切れてしまうのではないかと思う程の太い青筋を額に浮かべると、その後無言で教会から出て行った。

次の日の朝、聖騎士団の詰所に、教会に飾っていた創造神の銅像が盗難にあったと、教会の従業員から報告があった。しかしその盗難の手口、動機など犯人につながる証拠は見つからず、結局その銅像が返ってくることはなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...