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国始動編

第125話 帰還

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睦月が帝国へと偵察に向かったのを見届けた大地は睦月よりもらった写真を使いディランチの拠点へと戻った。

大地は拠点に戻ると、すぐさま今回の顛末について伝える為、アースにいるヘクトルに念話を飛ばす。

『聞こえるかヘクトルさん』

『念話が来たということは無事だったようだな』

シリウス達への奇襲作戦を開始する前、大地はヘクトルにそれまでの経過とこれから行う作戦について伝えていた。

大地達の安否を気にかけていたヘクトルは大地からの念話が届いたことで大地達の無事だったのだと安堵する。

『それで同盟についてなんだが』

『あぁ大地殿からの情報に加え、ドグマからのディランチの鍛冶技術についての報告もカーン越しに聞いておる。元々同盟自体にはこちらも賛成していた。それにアースにも帝国兵が侵攻してくるかもしれない状況にあるのであれば議論の余地はなく、全員一致ですぐさま同盟を結び帝国に備えるべきだと決まっている。こちらとしてはいつでも同盟を組めるように準備をしているところだ』

ヘクトルは帝国の脅威に対抗するためにも早急に両国で話し合いを行い対策を立てるべきという意見で議会は一致していることを大地に伝える。

『そうか。それを聞いたらディランチの大将も喜ぶだろうよ。それで日取りはいつぐらいに出来そうだ?』

『こちらとしては出来れば早くに行いたいとは思っておるが。ディランチのマリカといったか。大地殿に投げるようで悪いがそのマリカという者と話し合って決めてくれんか? 我々はいつ会談が行われても良いように準備は済ませておく』

『まぁその程度なら大丈夫か。わかったじゃあ決まり次第連絡を入れる。念のためガランに周囲の警戒を強めておくように伝えといてくれ』

ヘクトルから日時の指定を任された大地はヘクトルとの念話を終えると、早速マリカに相談しようとマリカの姿を探す。

マリカの姿を探しながら拠点の廊下を歩いていると、会議室からマリカの声が聞こえた。

会議室に入るとその奥でオズマと何やら話しているマリカを見つけた。

「マリカ今いいか?」

大地は会議室の入口付近でマリカに声をかけるとこちらに来てくれと手招きをする。

「おっいいところに来てくれた。睦月の姿が見えないのだが睦月が何処に行ったか知らないか?」

マリカは大地の元まで歩み寄ると、睦月を探しているのだと大地に告げる。

「あぁ・・・睦月なら帝国に探りを入れてくるって言って帝国に行ったぞ?」

「あの馬鹿め。また勝手に帝国に潜り込んだのか。帝国には我らの同志が密偵として入り込んでいるから睦月がわざわざ危険を冒す必要はないというのに・・・・」

マリカは睦月が既に帝国へと行っていることを聞くと、眉をしかめる。

「俺からの本題に入っていいか?」

眉をしかめながら額に手を置くマリカに大地は気まずそうにヘクトルから同盟を結びたいと旨があったこと、そしてその日時をこっちで決めて欲しいと言われたことを伝える。

「そうか。では今すぐ会談を行おう! 場所はお前達の国アースで良い」

マリカは同盟についての話を大地から聞くと、即決でいまからアースに向かうと言い出した。

そしてマリカは大地からの返答を待つことなく、会議室奥のテーブルで今後の動きについて思案しているオズマの元へと駆けよった。

国のトップとは思えないフットワークの軽さに唖然とする大地。

オズマもマリカに声を掛けられると大地同様に唖然とした顔を見せた後、額の血管をヒクヒクさせながらマリカに怒鳴りちらす。

十分程度オズマの説教が続いた後、マリカはそれを見守っていた大地の元へと戻ってきた。

「許可はもらってきたぞ!」

「さっきので!? どう見ても怒られているようにしか見えなかったんだが」

大地が横目でオズマを見ると、お手上げだと両手を上げていた。多分だが何を言っても無駄だと判断したのだろう。

「今はもう深夜だ。明朝にアースに向かうぞ!」

マリカは右腕を高々と上げると、意気揚々と準備をすると言って会議室から出て行った。

「オズマ。お前も大変だな。これは俺の祖国で飲まれている滋養強壮に効くドリンクだ。一日一本飲んでくれ」

「心遣い感謝するよ・・・・」

大きくため息をつくオズマの顔のしわが心なしか怒鳴る前より増えているのは気のせいだろうか。

大地は急に歳をとったオズマの為に、多量の栄養ドリンクを再現してテーブルの上に置くと、明朝の出発に向けて休息をとることにした。

オズマの案内で客室へと入った大地は早速ヘクトルへと念話を飛ばす。

『ヘクトルさん。起きているか?』

『あ・・・あぁ。起きておる』

ヘクトルの眠たそうな声が届いてくる。大地は睡眠の邪魔をしたことに対して謝った後、明日の夕方頃にアースで会談を行うことになったことを伝える。

『・・・・明日? 明日来るというのか!?』

念話越しでもヘクトルが慌てているのが良く分かる。

『そっそうか・・・・一国の主であるからな。丁重に扱えるように出来る限りの準備をしておく』


マリカなら適当に街にある店でなんか食わせるだけでも充分な気がするが・・・・


大地はこれまでのマリカの言動を思い出し、出迎えは適当で良いとヘクトルに伝えようともするが、あんなのでも一応一国を束ねる者であることにも変わりないと、考えを改めよろしく頼むとヘクトルに伝える。


それにしても模擬戦から始まり、帝国との戦闘まで、短時間で色々あり過ぎた。これでディランチとの同盟をしっかりと結んだことを公言すれば、左右を挟まれた帝国も少しは慎重にならざる負えないだろう。

少しはゆっくり出来ればいいんだがな・・・・

ベッドで横になり、今後の事を思案し続ける大地であったが、疲労の蓄積している身体では頭がまともに働くわけもなく、気付くと深い睡眠へと落ちていった。






翌日の朝。大地はマリカ達と共に拠点の端に留めていた輸送機の前にいた。

マリカは楽しみ過ぎて眠れなかったのか目の下にうっすらとクマを作っており、目は充血していた。

「よ~し! 時間は待ってくれないぞ! 早速アースへと向かおうか!」

マリカはいの一番に輸送機に乗り込むと、内部をくまなく観察し始める。

「うちの大将をよろしく頼む。多分・・・・いや間違いなく迷惑をかけることになると思うがなんとかしてやってくれ」

オズマは深々と頭を下げながら、大地にマリカを託してきた。

「まぁあまり長居はするつもりはない。両国の動きについてすり合わせを行い次第、すぐにマリカはディランチへと送るつもりだ。もし何か異常があれば客室に待機させている俺のコピー体に伝えてくれ」

「おぉ~い! 大地早くこれを動かせ!」

大地とオズマが話している最中、ハッチの中から輸送機の起動を急かすマリカの声が聞こえてきた。

「早速うちのがすまない」

「いや・・・まぁなんだ。あまり抱え込んだら身体に悪いからな。この期間はオズマにとってのリフレッシュ期間だと思ってくれ」

大地は気まずそうに再度頭を下げるオズマを気遣うようにオズマの肩を軽く叩くと、ハッチ内にいるマリカ達が正しくシートベルト等の固定具がされているか確認した後運転席に座った。

大地が魔力を注ぐと、輸送機の二つのプロペラが勢いよく回転を始め、ゆっくりと機体が浮かび上がる。

「これは凄い・・・・こんな重たい物が浮くだなんて誰が想像出来る」

いつもは興奮してうるさいマリカではあるが、金属の塊が空を飛ぶという光景の前には流石に唖然としていた。

ペンタゴン内の住居を作成していた時の住人達の反応然り、やはり人間という者は本当に驚いた時は喋ることが出来なくなってしまうのだろう。

大地はそんなことを考えながらハンドルを握ると、ゆっくり加速を続けながらペンタゴンに向けて出発した。
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