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国始動編

第121話 奇襲作戦

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約一時間程度、ありとあらゆる寿司を食べ続けた睦月は緑茶をすすりながら幸せそうな顔をのぞかせていた。

「いやぁ~日本食なんて何十年ぶりに食べたことか・・・。また今度お願いしても良いかな?」

「アースに来ればいつでも食べられるぞ。」

「そんな素晴らしい国なのかい!? そりゃ是非とも写真を撮りに向かわねば。」

睦月がアースには日本食が食べられる場所があると聞き、動かないカメラを構えるウゴキヲしながら喜んでいると、オズマとジグルが焦った様子で辺りをキョロキョロ見渡しながら食堂に入ってきた。

オズマとジグルは食堂奥にいる大地を見つけると、食事中の兵士達をかき分けて大地達の元に向かってくる。

「大地! お前一体どんな装備を作ったんだ!」

オズマは額から汗を滲ませながら、大地に詰め寄ってくる。

「おいちょっと落ち着けよ。何があったんだ?」

「実は、ディランチ連邦の南に位置する山の全てに大きな穴が空いていると見張りの兵士から報告を受けまして。もしかして大地さんが作成した装備による物ではないかと。」

詰め寄るオズマの後ろでジグルが事情を説明する。

ジグルから説明を聞かされた大地は山に穴を開けた犯人がルルであるとすぐさま気付くと、ジグル達を連れて拠点の屋上まで向かった。

ドーン! ドーン!

屋上に着くと、案の定新装備を山に向けて間髪入れずに打ち続けるルルの姿があった。

驚くことにルルは寸分の狂いもなく山の中心を撃ち続け、山を削ることで山に綺麗な円状の穴を開けていた。

「ルル! 何があったんだ!」

狂ったように新装備で穴を開け続けるルルに大地が声をかけると、ルルの身体がビクッと反応する。

「あっ大地さん! どっどうしたんですか?」

顔を真っ赤に染めたままモジモジと身体をくねらせるルル。

「あははは! 大地っちのお姫様抱っこはそんなに良かったのかな!」

ルルの様子を見た睦月が大地の後ろで笑い転げている。

「どうしたもこうしたもあるか! 良く景色を見てみろ。お前はディランチの山の全てにトンネルでも作る気か!」

ディランチの山々はルルの手によって前衛的なアートと化していた。

「あれ・・・? 私いつの間に・・・」

ルルは目の前の山々の光景に目を疑っていた。

ルルは大地にお姫様抱っこされたことで興奮と混乱が入り混じった状態になってしまいその時の記憶が曖昧になっていた。

どうにかしてその状態から脱しようと、練習に取り組んだ結果がこれであった。

「あわわ・・・どうしましょ大地さん!」

正気に戻ったルルは自分のやってしまったことを理解すると、涙目になって大地にすがりつく。

「正直兵士達は混乱状態にはなっているが、あの山は鍛冶で使う鉱石を摂る以外には我々も使用していない。むしろ山を削ったことで内部から採掘出来るようになったことで小人族の奴ら喜ぶだろう。」

オズマが山に穴を開けたこと自体は問題ではないことをルルに伝えると。ルルも涙目を引っ込め安堵した表情を見せる。

「それよりあの山を見る限りは新装備は完成したみたいだな。」

「そうだな。それにもう一つ効果的な装備をあるし、それらを使った作戦も考えてはある。今からでもみんなに集まってもらうことは出来るか?」

大地の自信あり気な様子を見たオズマは威勢良く「もちろんだ」と答えると大地に会議室で待つように伝え、マリカを呼びに屋上を後にする。

オズマの指示通り会議室で先に集まり待っていると、オズマがマリカ、メリア、ドグマを連れて会議室に入ってきた。

「大地! どうやら新装備を完成させたらしいな! しかもその装備を使った作戦も思いついたと聞いたぞ!」

意気揚々と会議室に入ってきたマリカは一番奥の席に座ると、早く説明しろと大地をはやしたてる。

「まぁとりあえず今回の作戦だが二十五万の兵は一切使わない。俺とルルとマリカとメリア、後は出来ればオズマにも手伝ってもらいたい。もちろん睦月も協力はしてもらうからな。」

「おぉ! それは最初に私が言っていた突撃作戦か!」

「そんな作戦危険に決まってるだろうが!」

マリカは激しく賛同するが、オズマは席を立って危険すぎると抗議する。

「いやマリカみたいに無策で乗り込むわけでもないから。今回の作戦の肝はいかに早く敵将を討つかだろう? それだけなら何もわざわざ軍を動かす必要はない。それに前線の兵達はこれまで迫りくる帝国兵と戦い続けてきたんだろう? 少しぐらい楽させてやりたいじゃないか。」

「まぁ確かに前線の兵はこれまでの戦いで負傷している兵もおり、疲弊しているとは聞いているが。本当に大丈夫なのであろうな?」

大地の無策ではないという言葉を聞き、落ち着きを取り戻すと、席に着席してその作戦の詳細について説明を求める。

「作戦は簡単だよ。ルルが新装備をぶっ放して陣形を乱している間に睦月のスキルで俺とマリカが敵将の二人に接近する。その間の敵の攪乱をメリア達やルルにお願いするってわけだ。」

「簡単に言うがそんな事可能なのか?」

あまりに簡単な作戦にオズマは疑念を払拭し切れない。

「睦月が遠くの物を近くの物を見るかのように捉えることが出来るのは知っているよな。それでまず敵将の場所を確認すると同時に写真を撮ってもらう。そしてルルの攻撃で帝国兵の陣形を崩したと同時に睦月のスキルで俺とマリカを敵将の近くへと転移させる。俺達が敵将を討つまでの間、メリアとジグルには左右の端の陣にて精霊魔法を出現させてほしい。多分いきなり攻撃された帝国兵は攻撃が精霊魔法によるものだと思い、左右に兵を集結させるはずだ。ルルは引き続き遠距離からの攻撃で兵士の攪乱を頼む。」

「敵将を討った後大地とマリカはどうするのだ? いくらお前達でも帝国兵五十万の中に取り残されてしまっては危ないだろう。」

「あぁその点は安心してくれ。俺のスキルを使えば問題なく帰ってこれる。」

大地は淡々とした様子でオズマの疑問に答える。

大地の様子を見て無謀な作戦ではないのだろうと感じたオズマは、完全には納得はしていない様子ではあったが、他に有効な作戦の立案を出来ていない以上、大地の作戦でいくしかないのだと渋々了承する。

「まぁ詳しい動きはとりあえず現地に行ってみないことにはわからないからな。睦月頼んでもいいか?」

「う~ん。大切な写真を使うのは忍びないけど必要なことだからね。ディークっちのいる場所まで移動すればいいんだよね。」

睦月は人数分の写真を取り出すと、大地達の転移を開始する。

あっという間に景色が会議室の室内から兵士が陣を構える駐屯地へと変わっていく。

「はい! これで良かったかな!」


空間転移か。めちゃくちゃ便利な能力だよな・・・・


駐屯地の景色を眺めながら大地が睦月のスキルを羨ましがっていると、大地達に気付いた一人の兵がこちらに近づいてきた。

「あれぇ~どうしたんすか? マリ姉にオズ爺まで・・・」

天然パーマに寝癖が混じったような茶髪に気怠そうな顔をしている二十代中盤ぐらいの男が大きなあくびをしながらマリカとオズマに話しかけてくる。

「ディークか久しぶりだな。元気だったか!」

「ディーク何度言ったらわかる! 俺はまだ四十代だ。決して爺などではない!」

その男は元宮廷魔法師第五位のディークであった。

「こちらの人達は誰っすか?」

ディークは眠たそうな目をこすりながら大地達について尋ねる。

マリカがこれまでの大地達とのいきさつについてとこれから行う作戦の説明を行うと、ディークは大地達に軽く自己紹介を行う。

「元宮廷魔法師のディークっす。よろしくっす。」

ディークは大地達に挨拶を済ませると、大地達を前線へと案内する。

「多分ですけど、あそこに敵将のテントがあったと思うっす。」

「あっ本当だ。二人ともテント内で何やら話をしているよ。」

ディークの指した方角を見た睦月が瞳に二人の姿を捉え、写真を二枚出現させる。

「はっはっは! 懐かしい顔が写っているな! こんな小物で私達をどうにか出来ると思っているとは、霧崎の奴めこちらを侮るにもほどがある。」

マリカは写真に写っているシリウスとゼルターの姿を見ながら、霧崎に舐められていることに腹を立てる。

「よし。とりあえず転移の準備は整ったな。作戦は日が暮れた頃に暗闇に乗じて行う。作戦開始までは各自身体を休めた方が良いだろ。」

大地の提案により、各自身体を休めることになったのだが・・・・

「よしディーク! 久々に会ったのだ。お前がどれだけ強くなったのか確かめてやろうではないか!」

「えっ! 嫌っすよ! てかマリ姉の魔法は俺とは相性が悪すぎて戦いにならないんすよ。」

「うるさい! そうやっていつも魔法ばかりに頼った戦いをしているのがいけないんだ!」

逃げるディークであったが、敏捷性昇華を使ったマリカに純粋な足の速さで叶うはずもなく、あっさりと捕まってしまう。

その後ディークは日が暮れるまでマリカの訓練に付き合わされてしまい、作戦開始時には使い物にならない状態にまでなってしまっていた。
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