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国始動編

第119話 睦月の過去

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睦月に連れられて来られたのは、食堂でもお店でもなく、ディランチ連邦の南側に位置する山の入口付近であった。

「おい。飯を食べにいくんじゃなかったのか?」


てか、いつの間に俺は山まで来ていたんだ。


山まで歩いてきた記憶がないのにも関わらず、山の入り口まで連れてこられた事に不気味さを感じた大地は咄嗟に銃を抜き警戒体勢を整える。

「まぁまぁ驚かせたのは謝るから、とりあえず銃を降ろしてくれないかな?」

銃口を向けられた睦月は両手を上げ、敵意が無い事をアピールする。

睦月の屈託の無い笑顔を見て、銃をホルスターへと戻した大地は怪訝そうな顔をしながら要件について問う。

「とりあえずこれは一体どういうことだ? 話す内容に関係しているのか?」


そういや睦月はいつの間にか屋上に居たよな。あの時扉を開ける音なんて聞こえなかったが。


大地はこれらの現象が睦月のスキルによるものだと思い、睦月にアウトプットを開始しようとした時、睦月が一枚の写真を手に取ると、一瞬にしてその姿を消した。

「なっ!」

姿を消されたことでアウトプットを行えなかった大地が辺りを見渡していると、背後から現れた睦月が大地の右耳に息を吹きかける。

「うわっ! 何すんだ!」

「あっはっはっは! 大地っちは耳が弱いんだね。でも女性に対してアウトプットなんて破廉恥な事をしようとした大地っちが悪いんだよ。」

右耳を押さえる大地の姿にお腹を抱えて笑う睦月。

「なんで睦月がアウトプットの事を知っているんだ!?」

大地は睦月の行動の意図や何故アウトプットの事を知っているのか理解出来ず、少し困惑した様子を見せる。

「それはメリアっちやドグマっちから聞いたんだよ! まぁ主にドグマっちからだけどね。」

「あいつ・・・」

ドグマが自分の情報を漏らしたと聞いた大地は大きなため息をつく。


どうせドグマの事だ、自慢気に俺の武勇伝を語るような感じで情報を話したんだろうな・・・


ドグマの性格ならば仕方ないと割り切った大地は話を本線に戻すために再度呼び出した理由について問う。

「まぁとりあえず敵意がないのはわかった。時間がもったいないから早く話を始めてくれ。」

「そうだねごめんごめん。」

睦月はお得意のテヘペロを見せた後、大地を何故この場所に連れてきたかについて話し始めた。

「まずここに連れてきたのは異世界人だけで話をしたかったってだけだよ。それ以外の理由はないから安心して。うちが大地っちをここに呼んだのは大地っちにしか頼めないお願いがあったからなんだよ。」

「お願い?」

「そうお願い。大地っちには帝国に属する四人の異世界人を助けてやって欲しいんだ。」

急に神妙な顔つきになった睦月は頭を深く下げて大地にお願いをする。

「いやいやちょっと待て。あいつらは敵なんだろ? それを助けるってどういうことだ?」

大地は睦月がなぜ敵であるはずの霧崎達のことを案じているのかわからなかった。すると睦月は話題を変えるように異世界転移について話を進め出した。

「大地っちはさ、異世界転移について何か知ってる?」

「一応銀次郎さんの日記から魔族が何かしら関与していることぐらいしか知らないな。」

「銀次郎さんを知ってるの!?」

銀次郎という名前を聞いた睦月は懐かしそうな顔を浮かべる。

「実際に会ったことはないけどな。その日記にはあんたの事も書いてあったよ。後記念に撮った写真も一緒に挟まっていたよ。」

「だから大地っちは自己紹介の時、複雑そうな顔をしていたんだね。ってことは大地っちは私の歳を・・・・」

「まぁ一応相当なお婆ちゃんってことは・・・・」

「それ他の人には絶対に言ったら駄目だからね。」

睦月は二段階ほどトーンの下がった声で大地に念を押すと、話を本筋に戻す。

「実は私、魔族が召喚しているの現場をたまたま目撃しちゃったことがあってね。」

「ちょっと待て。見たって一体どういうことだよ。」

急に睦月から語られた新事実に驚きを隠せない大地。

「私は日本に居た時フリーのカメラマンの駆け出しだったんだよね。異世界に来た時も何故かカメラだけは持っててね。知らない世界に来た時は本当に驚いたけど、私は写真馬鹿だから、日本にないこの世界の景色に惚れてしまってね。帰る方法もわからないしとりあえず世界を周りながら写真を撮ってたわけさ。そしたら運が良く始めて立ち寄った街で銀次郎さんに出会って、この世界について教えてもらって、その時帝国の北東に常に活動している火山があるって聞いてね。日本にそんな場所は無いしと思ってそこに行ったんだけど、そこでばったり魔族が儀式みたいなことをしているのに出くわしてしまってね。」

睦月はその当時の話を事細かに大地に説明していく。








当時、睦月は本来人が入っていかない火山地帯の奥深くまで写真を撮りに行っていた。大小様々な火山が荒々しく噴火を繰り返す様を喜々として撮っていた時、火山の奥の方で大きな光が発生したのを目撃した。

見たことのない景色を撮れるかもしれないと思った睦月がその光の発生場所を目指して歩いていると、全ての山が噴火を繰り返している中、唯一噴火をしていない山を見つける。

その山の中腹には大きな穴が開いており、その穴から先程の光の残滓が見えた。

睦月は意気揚々とその穴の中に入り奥へと進んでいくと、人の声が聞こえてくる。

恐る恐る声の聞こえてくる方を覗いてみると、数十人の魔族が輪を作り、中心を見ながら何やら話しをしているようだった。

銀次郎から話を聞いていた睦月はその現場を見つけて直ぐに、この魔族が自分達日本人をこの世界に呼び寄せたのだと気付いた。

何故ならその現場を見つけた時、既に日本人と思われる人間が一人召喚されていたからだった。

しかし召喚された人間は目は開けているもののピクリとも身体を動かすことなく、まるで人形のような状態となっていた。

岩陰に隠れて睦月が様子を伺っていると、一人の魔族が人形のようになっている日本人を見つめながら大きな舌打ちを鳴らす。

その後、その魔族は虚ろな目をしたまま動かない日本人を魔法で始末すると、腹立たしそうに口を開いた。

「また失敗だ。やはり足りないのではないか? 前回行った時も座標が乱れてトーム辺りに召喚してしまった。その前の召喚は座標を近い所で設定は出来たが召喚されたのは老いぼれた爺だった。こんなことではいつまで経ってもあいつを殺すことは出来ない!」

「そう焦るな。確かに今回は失敗したが、収穫も多い。次成功させれば良いだけだ。この魔法は古来より我ら魔族特有の魔法だ。実際に能力、召喚座標はまだ満足いくものではないが、二人の召喚に成功しているのだ。これからはその精度を高めていけば良いだけだ。」

焦りを見せる若い魔族を諌める、老骨の魔族。


魔族が魔法で私達を召喚していたんだ・・・・やっぱり銀次郎さんが言って通りだったんだ。


睦月はそのまま岩陰に隠れたまま、日本に帰る方法の手がかりを探ろうと魔族の会話に聞き耳を立てる。

「だがこれでも足りないとなると、相当な量が必要になってくるはず。次発動させる為には何十年と時間がかかるであろうな。」

「また何十年と待たなければいけないのか! それまで人間に隠れてこそこそ生きろってのか!」

相当な時間が必要だという発言を聞いて苛立ちを抑えきれない若い魔族はその鬱憤は晴らすかのように火山の内壁に向かって魔法を放つ。

「きゃ!」

魔法によって破壊され弾けた内壁の一部が隠れていた睦月の元に降り注ぐ。睦月はその衝撃に思わず声をあげてしまった。

「誰だ!」

声をあげたことで魔族達に存在がばれてしまった睦月は焦った様子で一枚の写真を取り出すと、その場から消えるように休火山から脱出する。

魔族に姿を見られなかったことが幸いしたのか、休火山から脱出した後、睦月が魔族から追われる事はなかった。

睦月はあの魔族達が自分達日本人の異世界転移に大きく関与していると確信し、その後も数ヶ月に渡り火山付近で魔族の姿を探した。

しかし召喚が行われていた休火山は既にもぬけの殻になっており、召喚を行っていたと思われる魔族の姿を捉えることが出来なかった。

それでも、日本に帰る手掛かりである魔族達を諦めることが出来なかった睦月は人間がこれまで入ったことがない火山地帯の更に奥へと入っていった。

火山地帯は奥に入れば入るほど地熱による温度が高くなり、睦月がいる地点はもはやいるだけで皮膚がジリジリと焼けていくほどの高温となっていた。

そこに追い討ちをかけるように持って来ていた食料や水分が無くなる。

これ以上奥へと進むことは困難だと魔族の捜索を諦めようとした時、視界の奥に山肌に穴を空けて作ったような集落が目に入る。

睦月は既に地熱により全身に軽い火傷を受けている身体に鞭を打ち、集落へと近づいていく。

その時の睦月はまだ若く、正常な判断が出来ていなかったのだろう。

地熱により火傷は酷くなっていき、遂には脱水症状を起こしてしまう。

それでもなんとか集落の近くまで辿り着いた睦月。

集落の中には魔族が人間と同じように料理や洗濯をしている姿があった。

すかさず写真を撮った睦月であったが、その姿を魔族に見られてしまう。

睦月はその場から逃げようとするが、既に長い時間脱水症状のまま活動していた睦月の身体は既に限界を迎えており、そのまま地面に倒れてしまった。

段々と狭まる視界が捉えたのは目の前で蜃気楼のように消える集落と、近寄ってくる女性の魔族であった。


あっちゃ~・・・考え無しに突っ込んじゃったな。あれだけ銀次郎さんに気を付けろって言われてたのに。


薄れゆく意識の中で、無理して火山地帯の奥まで来てしまったことを睦月が悔やんでいると近づいてきた魔族の声が聞こえてきた。

「もしかして異世界人か。アルバートの奴らはまだ召喚魔法などを繰り返しているのか。」


アルバート・・・?    召喚魔法・・・?


既に視界が真っ暗になってしまっている睦月の耳には魔族の言葉は断片的にしか入ってこない。

「仕方ない。同族の始末はつけねばな。おいお前。命は助けてやる。もし元の世界に帰りたいなら・・・・」

そこで睦月の意識は途切れた。

睦月が目を覚ますとそこは火山地帯の入り口であった。

その後、再度その集落を探した睦月であったが二度と集落を発見することは出来なかった。

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