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国始動編

第116話 帝国の過去

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「睦月。もう戻ったのか。」

睦月が姿を確認したマリカはそれまでの駄々っ子のような態度を百八十度変え、真剣な顔つきになる。

「マリカッち。しっかり偵察終わらしてきましたよ!」

「そうか。う~ん・・・正直不完全燃焼極まりないが、睦月が戻ってきたのならこんな所で遊んでいる場合ではないな。大地とりあえず今回は引き分けということにしておこう。」


いやいやちょっと待て。なに勝手に引き分けにしてるんだよ。


大地は真剣な顔つきでふざけたことを言っているマリカにツッコミを入れようと思ったが、周囲にいたオズマやジグルまで神妙な顔を見せていることに気付き、ひとまずは様子を見ることにする。

「大地。早速で悪いのだが、どうやらお前達の力を借りることになりそうだ。付いて来てくれ。」

マリカは大地に付いてくるように伝えると、睦月と共に本拠地の建物へと向かっていく。

状況を飲み込めない大地であったが、とりあえずはマリカに従おうと、ルル達を連れてマリカの後を追っていく。

マリカ達の後を付いていった大地達は本拠地の中でも一際大きな会議室のような場所へと辿りついた。

「好きな所にかけてくれ。」

大地達がマリカに促されて、席へと着くと、睦月が大地達に自己紹介を始める。

「初めまして。うちの名前は睦月利映って言います! 今後ともよろしくお願いします!」


睦月利映ってやっぱり銀次郎さんの日記に出てきたあの写真の女性だったよな。あれからかなり時が経ってるはずなのに、なんで外見があの時のままなんだ・・・


ショートボブの髪型に日焼けした肌を持つ元気ハツラツな少女といった感じの外見をしている睦月の姿に、様々な疑問が浮かんでいた大地であったが、話の腰を折るのも悪いと思い、そのことには触れず簡単に挨拶を返す。

すると大地の名前を聞いた睦月が興奮した様子で大地の手を取る。

「もしかして君も異世界人かい!? いやぁ味方に異世界人が居て本当に良かったよ!」

「味方にってどういうことだ?」

睦月の意味深な言葉に反応する大地。

「その辺の話は今から説明するんで少しまってくれたまえよ。」

睦月はそう言うと、そそくさとポーチから多数の写真を机の上に出す。

「じゃあ早速うちが帝国での偵察で得た情報について報告するね。帝国が一時撤退したのはやはり大地っちの国が帝国に勝利したからだったみたいだよ。宮廷魔法師第二位のアーヴは敗れ、第八位のバセルダは行方不明に、どうにか返ってきたのは第七位のゼルターと半分に満たない兵士達だったんだって。トームの兵をこちらに回してくる算段が大きく崩れた帝国は兵の再編成の為に一時的に国境まで撤退を余儀なくされちゃったってわけ。」


大地っちって俺の事か・・・?


急にあだ名で呼ばれた大地が困惑した表情をしていると、睦月が多数ある写真の中から人が映っている写真を四枚抜き取り、マリカや大地達が見やすいように目の前に並べる。

並べられた写真には髪色は染めたりしている者もいたが、その全てが日本人の顔立ちをしていた。

「こいつらってもしかして全員日本人か・・・?」

「ご名答。しかもこの子達はうち達にとっては敵である帝国に属する日本人達なんだよね。」

その後、睦月は一枚一枚写真を指差しながら、その人物について説明を行っていく。

睦月の話によると、写真に映っている四人は現在帝国で宮廷魔法師の地位になっており、第五位の佐川修治。第四位の音無里穂、第三位の絵崎円、そしてそれを取りまとめる第一位の霧崎美貴という名前の人物らしい。

「霧崎ぃ・・・!」

霧崎の写真を鋭い眼光で見つめているマリカ。

「俺達はこいつに帝国を乗っ取られたんだよ。」

いまいち話が見えないといった顔をしている大地の様子を見ていたオズマが事の発端について話を始めた。






当時、マリカ達がまだ宮廷魔法師をしていた頃、帝国は人間至上主義を掲げておらず、小人族とも良い関係を築いていた。

皇帝であるゼフィルもユーリス皇国と国土を巡って争いをしていた半面、小人族や交流のあったトームの民は大事にせよと兵達に命令するなど、味方に対しては優しく、今の様な過激な思想を持ってはいなかった。

しかし、霧崎美貴が宮廷魔法師第十位へと昇格してきた日から、帝国の様相は大きく変わった。

霧崎は兵士として士官してきた当初から、大型新人が入ってきたと帝国兵達の中で話題となっていた。

見たことない技、見たことのないスキルを持っていた霧崎は士官して一年で宮廷魔法師の地位まで上り詰めた。

そして霧崎の宮廷魔法師任命式の日、大きな事件が起こることになる。

帝国での宮廷魔法師の階位を上げる方法は大きく分けて二つあった。一つはユーリス皇国との戦争や魔獣の討伐等で武功を立てること。もうひとつは直接上の階位に決闘を申し込み、それに勝つことであった。

任命式の日、あろうことか霧崎は当時の宮廷魔法師第一位だった者に決闘の申し込みを行ったのだ。

決闘はお互いの生死を問わない一対一の戦いである。その為、長い間味方同士での殺し合いになってしまう決闘を申し込んでくるような者はいなかった。

そんな中、宮廷魔法師になったばかりの新米が帝国兵のトップに決闘を申し込んだのだ。

これにはマリカを含めた他の宮廷魔法師も黙ってはいられなかった。霧崎の発言を強く非難し撤回を求めた。

しかしマリカ達が避難する中、当時の第一位は霧崎の行動は帝国兵士として高みを目指したいあまりの行動だと、霧崎を擁護する発言を行い、霧崎からの申し出を受けた。

翌週、然るべき場所で第一位と霧崎の決闘が行われた。

開始の合図の直後、霧崎ら剣を構えて接近してくると第一位に剣を振り落とした。

第一位はそれを避けようとはせず、剣を地面と水平に構え受け止めようとする。

第一位の中には相手が新米ということもあり稽古をつけてやろうといった気持ちがあったのだろう。

しかし霧崎が剣を振り落とした時、既に決闘の勝敗を喫していた。

霧崎が振り下ろした剣は第一位の身体を剣と鎧ごと切りさき、噴出花火のような赤い血飛沫を作っていた。

その光景を見た皇帝であるゼフィルや他の宮廷魔法師達は、目の前で帝国兵のトップが血塗れになっている状況が理解出来ず、唖然としてしまう。

つかの間の静寂の後、ことの重大さに気付いたマリカ達が、血飛沫を上げ続ける第一位の元に向かうが、肩から腰まで深い斬撃を喰らっていた第一位は即死の状態であった。

マリカ達は当然の如くゼフィルに抗議を行ったが、決闘のルールには抵触しておらず、決闘を受けたのは第一位であることから、その抗議は却下され、霧崎は任命式から一週間で帝国兵のトップとなった。

しかし抗議を却下されたからといって長年一緒にやってきた仲間を殺されたマリカ達が納得するはずもなく、その後代表としてマリカが霧崎に決闘を挑んだ。

このままでは宮廷魔法師同士での殺し合いになると危惧したゼフィルにより、お互いを殺傷してはならないというルールを追加した上で霧崎に挑んだマリカ。

しかし結果はマリカの惨敗で終わり、その後も戦闘狂のバセルダや、皇帝に雄姿を見せたいと欲をかいたゼルターが霧崎に挑んだが、あしらわれるように負けて返ってきていた。





そして霧崎が第一位の座について一年が経った頃、徐々にゼフィルの様子に変化が現れた。

それまで自国の民は大事にし、兵士や国民との交流も積極的に行っていたゼフィル。

そんなゼフィルが急に王室にこもるようになり、外に出ようとしなくなったのだ。

体調でも悪くなったのではと、心配したマリカ達は治癒師の治療を受けてみてはと何度も進言したが、大丈夫だの一言を返すのみで取り合ってもらえなかった。

いつしか傍に霧崎を置くようになり、霧崎からの進言のみを聞くようになったゼフィル。

そんな状態になって更に一年後、遂にゼフィルから人間至上主義が掲げられた。

これにはマリカ達だけでなく、大臣や兵士達も猛抗議を行った。

しかしゼフィルが聞き届けることはなく、あまりにしつこく抗議を行う者は処刑するなどして力ずくで抗議の声を潰していった。

そんなゼフィルの強行に帝国兵達も逆らえなくなり、命令通りに小人族や他の種族を捕らえ奴隷としていくようになった。

マリカ達はゼフィルの様子がおかしくなったのは霧崎に原因があると踏んではいたが、圧倒的な力を持つ霧崎に勝てる方法はなく、小人族だけでも救出しようと有志を募り、計画を立てた。

その計画は多大な犠牲を出しながらも成功し、有志の一人が治めていた領地を奪うことでディランチ連邦という反帝国国家を作ることが出来た。

睦月はその当時、その領地で写真を撮っていた所をマリカが見つけ、この世界の絶景スポットを教えるという条件で現在協力してもらっているそうだ。



「だから俺達は霧崎を倒し、元の帝国を取り戻す為に戦っているんだ。」


オズマは真剣な顔つきでディランチ連邦が出来るまでの経緯について大地に話し終えると、霧崎の写真を鋭い眼光で睨むマリカに目を向ける。

「実はその殺された第一位ってのはマリカの兄貴なんだ。霧崎はマリカにとって兄の仇であり、祖国を奪った奴でもあるんだよ。勝手に始めた模擬戦もマリカなりに霧崎を倒す力を身に付けたい一心でやったことだ。あまりあいつを悪く思わないでくれ。」

オズマは神妙な顔つきでマリカを見つめながら、マリカを取り巻く事情について述べると、大地に軽く頭を下げる。

「確かに変な奴だとは思ったが、マリカが悪い奴だなんて思ってはいないから安心してくれ。」


そうか。ジョゼの記憶を覗いた時に見えたあいつが霧崎ってやつだったのか。

俺達を召喚したと思われる帝国領の火山にいた魔族。

霧崎が来たことで急に様子が変わった帝国皇帝。

そして新たに現れた日本人と思われる宮廷魔法師。

これはかなりきな臭い話になってきたな。


大地は今回の帝国の動きに間違いなく魔族が関わっていると推測し、それをマリカ達に伝えようとする。

その時、睦月が出していた多数の写真の中から驚くべき光景が映っている物を見つけた。

その写真には多数の魔族が暮らす集落の光景が映っていた。

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