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国始動編
第115話 ヘラクレス
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「ほう。大地の能力は魔法の類ではないのだな。」
マリカは興味深そうに大地の白い軽装をじっと見つめる。
「う~ん、どうなんだろうな。まぁこうして発動出来ている時点でまではないってことらしいが。」
大地は広場中央まで戻ってくると、装備している軽装に魔力を通していく。
「さぁ早くその装備の秘密を見せてみろ!」
マリカは大地が軽装へと魔力を通している隙をついて、一気に大地との距離を詰める。
距離を詰めたマリカが大地の腹部に向けて薙ぎ払いをしようとするが、大地は薙ぎ払いの初動に合わせたかのように、銃剣の切っ先を薙刀の刃先にあてがい薙ぎ払いを防ぐ。
銃剣により薙ぎ払いを止められたマリカは、一歩大地から距離を取ると、今度は真上から大地の脳天目掛けて薙刀を振り下ろす。
しかし大地は薙刀振り下ろしを半身になって躱すと、プログラミングで銃剣のブレード部分を伸ばし、切っ先をマリカに向けて放つ。
振り下ろした反動ですぐに後方に回避することが出来ないマリカは、身体を無理やりひねらせることで辛うじて伸びてくるブレードを躱す。
「動きが見違えるようになったな。それが白い装備の能力か?」
マリカは一旦後方へと下がると、左頬に出来ている切り傷から流れる血を手でふき取りながら、驚いた顔を見せる。
「戦ってる相手に教える程馬鹿じゃないぞ。」
大地が速攻で装備について教えることを拒否すると、マリカが急に左頬に出来た傷を指さしながら駄々をこね始める。
「お前は女性の顔にこんな傷をつけたんだぞ! それぐらい教えても良いじゃないか! それにあの攻撃。私だから避けられたものを、他の女だったら二度と消えない傷が身体に出来るところだった。男のくせに女性の身体を何だと思っているのだ! お嫁に行けなくなるだろう!」
「いや・・・お前何言ってるんだ?」
急に自分が女であること強調し始めるマリカ。
大地はまたマリカが訳の分からないことを言い出したと呆れた顔を見せる。
「とにかくだ! お前は女性である私を傷物にしたのだ! お詫びにその装備の性能を教えてくれても良いだろうが!」
「誤解を招く言い方をするな! はぁわかったよ。この白い軽装について説明すればいいんだな?」
このままでは埒が明かないと思った大地は素直にこの装備について説明を始めた。
身体強化装備「ヘラクレス」
この装備は装着者の身体能力を大きく高めることに特化した装着型の装備である。
ヘラクレスは装備自体に腕力昇華、体力昇華、敏捷性昇華、魔力昇華、聴覚昇華、視覚昇華、を組み込んである。
これにより軽装に魔力を注ぎ込むことで、組み込まれた全てのスキルが自動で発生するようになっている。
これまで装備に魔法のみを組み込んでいた大地であったが、自身の能力値がオールSであることから、それまで能力向上系のスキルを組み込むという考えが浮かんでいなかった。
しかしアーヴ戦で大地は圧倒的な能力値の差で、一度為すすべもなく負けてしまった。
その経験から大地はアーヴ戦の後も何度かプログラミングで能力値を改変しようと試みたが、やはりS以上の能力値にすることは出来なかった。
銀次郎の日記から魔族と帝国が何かしらの関係性を持っている可能性があると感じていた大地は、また魔族と戦うことになった時の為に、プログラミングを使わずして身体能力を向上させる方法はないかと考えた。
そして出来たのがこのヘラクレスであった。
ちなみにヘラクレスという名は、ギリシャ神話に出てくる半人半神のヘラクレスが今の自分に似ているなと思ったことからつけた名前である。
大地から装備について説明をされたマリカは驚愕した表情を見せる。
「大地はそんな物を作ることが出来るのか・・・。凄い力だな。」
「正直これはまだ不良品だけどな。」
マリカが大地の能力について称賛の言葉を贈るが、大地は今装着しているヘラクレスには納得いっていなかった。
何故なら、視覚昇華と魔力昇華が発動していなかったからだ。
腕力昇華、体力昇華、俊敏性昇華、聴覚昇華はマリカやゼーレ等からインプットした時の情報を元に組み込んでいたが、視覚昇華と魔力昇華に関しては単なるイメージのみで組み込んだものであった。
やっぱり、イメージのみでスキルを組み込むことは難しいか。まぁあの二つのスキルに関しては見たことも聞いたこともなかったから仕方ない。
大地は四つのスキルが発動していることを確認して、ひとまずは能力向上系のスキルも装備に組み込むことが可能だとわかったことで良しとする。
「これなら私も本気の戦いが楽しめそうだ。」
マリカは自身の攻撃を簡単に防いだ大地の身体能力の高さを称賛し、楽しそうな顔を見せると、薙刀を再度構え大地へと向かってくる。
「さぁさぁ! 大地! お前の本気を見せてみろ!」
薙刀を縦横無尽に振り回しながら大地へと走ってくるマリカ。
大地は二丁の銃剣のブレード部分を伸ばすと、切りかかってくるマリカの斬撃を受けとめていく。
マリカはこれまでの力任せの薙ぎ払いは使わず、コンパクト振りで連撃を加えてくる。
大地はマリカの動きを観察するように、あえて受け手にまわり、攻撃を捌いていく。
「次元が違いすぎます。」
「そうですね・・・」
二人の戦いを見たルルとジグルは二人の動きの速さを目で追うことが出来ず、一体どのようなやり取りが起きているのか理解出来ていなかった。
そんな高次元の戦いを続けるマリカと大地であったが、大地が攻撃を防ぐばかりで攻撃してこないことにマリカが徐々に苛立ちを覚え始める。
「おい大地! 何故攻撃してこない!」
「いや。お前が女の身体がどうとか言い出したから攻撃しにくいんだよ!」
頬に傷をつければ文句を言い出し、攻撃をしなければそれはそれで不服だというマリカの横暴ぶりに、呆れてしまう大地。
「あれは冗談というやつだ! ああでも言わないと大地はその装備について教えてくれないと思ってな!」
マリカは悪びれる様子もなく、先程の発言は単なる冗談だと言い張る。
「・・・じゃあすぐに終わらせても文句は言わないよな。」
マリカの度重なる悪ふざけにさすがにイライラが溜まっていた大地はアウトプットでマリカの足場に局所的な地震を起こす。
マリカは激しい足場の揺れによって体勢を崩す。大地はその隙を突いてマリカの両手両足に手錠を再現し拘束する。
「なんだこれは!」
両手足を拘束されたマリカは混乱した様子で地面の上であがくように転がっている。
「大地! どういうことだ! こんなの卑怯だぞ! 早くこれを外せ!」
「俺はフェミニストなんでな。女性は傷つけられないんだ。」
大地は地面の上で転がっているマリカにニヤリとからかうような笑顔を見せつけると、審判に向けて勝敗を告げるように促す。
「待て! こんな形はあんまりじゃないか! せっかく久々に対等に戦えそうな相手に出会えたんだ! このような終わりはあんまりだ!」
必死に手錠から抜けようと必死にもがくマリカであったが、いくら腕力強化をしているといっても、ディシント鋼で出来た手錠を両手足に拘束されている状態では解除することは出来ない。
審判はしばらくジタバタと動き回るマリカの姿を眺めていたが、マリカが手錠を解くことが出来ないと判断すると大地の勝利を告げた。
大地の勝利を聞いたディランチの兵士達は自分達のトップが負けたことに、一様に驚いた声を挙げる。
「いや待てぇ! まだ終わっていないぞ!」
兵士達がざわついていると、マリカが手錠を解いた姿で審判に抗議の声を挙げる。
マリカはどうやら両手足の関節を外して手錠を抜けたようであった。
そこまでする必要ないだろ・・・
関節を外した痛みで顔を少し歪ませながら審判に詰め寄るマリカを見ながら、やれやれと首を横に振る大地。
「どっちにしろお前がもがいていた間に何回も止めを刺すことだって出来たんだから、もう俺の勝ちだろうが。」
「うう・・・それを言われてしまったら返す言葉が・・・」
マリカが大地の正論によって口をつぐんでいると、広場の端よりマリカを呼ぶ大きな声が聞こえた。
「マリカッち~! そんなとこで何をしてるの?」
大地とマリカが聞こえた声の方へ視線を向けると、そこには銀次郎の日記の写真に映っていた当時と変わらない姿をしている睦月利映が居た。
マリカは興味深そうに大地の白い軽装をじっと見つめる。
「う~ん、どうなんだろうな。まぁこうして発動出来ている時点でまではないってことらしいが。」
大地は広場中央まで戻ってくると、装備している軽装に魔力を通していく。
「さぁ早くその装備の秘密を見せてみろ!」
マリカは大地が軽装へと魔力を通している隙をついて、一気に大地との距離を詰める。
距離を詰めたマリカが大地の腹部に向けて薙ぎ払いをしようとするが、大地は薙ぎ払いの初動に合わせたかのように、銃剣の切っ先を薙刀の刃先にあてがい薙ぎ払いを防ぐ。
銃剣により薙ぎ払いを止められたマリカは、一歩大地から距離を取ると、今度は真上から大地の脳天目掛けて薙刀を振り下ろす。
しかし大地は薙刀振り下ろしを半身になって躱すと、プログラミングで銃剣のブレード部分を伸ばし、切っ先をマリカに向けて放つ。
振り下ろした反動ですぐに後方に回避することが出来ないマリカは、身体を無理やりひねらせることで辛うじて伸びてくるブレードを躱す。
「動きが見違えるようになったな。それが白い装備の能力か?」
マリカは一旦後方へと下がると、左頬に出来ている切り傷から流れる血を手でふき取りながら、驚いた顔を見せる。
「戦ってる相手に教える程馬鹿じゃないぞ。」
大地が速攻で装備について教えることを拒否すると、マリカが急に左頬に出来た傷を指さしながら駄々をこね始める。
「お前は女性の顔にこんな傷をつけたんだぞ! それぐらい教えても良いじゃないか! それにあの攻撃。私だから避けられたものを、他の女だったら二度と消えない傷が身体に出来るところだった。男のくせに女性の身体を何だと思っているのだ! お嫁に行けなくなるだろう!」
「いや・・・お前何言ってるんだ?」
急に自分が女であること強調し始めるマリカ。
大地はまたマリカが訳の分からないことを言い出したと呆れた顔を見せる。
「とにかくだ! お前は女性である私を傷物にしたのだ! お詫びにその装備の性能を教えてくれても良いだろうが!」
「誤解を招く言い方をするな! はぁわかったよ。この白い軽装について説明すればいいんだな?」
このままでは埒が明かないと思った大地は素直にこの装備について説明を始めた。
身体強化装備「ヘラクレス」
この装備は装着者の身体能力を大きく高めることに特化した装着型の装備である。
ヘラクレスは装備自体に腕力昇華、体力昇華、敏捷性昇華、魔力昇華、聴覚昇華、視覚昇華、を組み込んである。
これにより軽装に魔力を注ぎ込むことで、組み込まれた全てのスキルが自動で発生するようになっている。
これまで装備に魔法のみを組み込んでいた大地であったが、自身の能力値がオールSであることから、それまで能力向上系のスキルを組み込むという考えが浮かんでいなかった。
しかしアーヴ戦で大地は圧倒的な能力値の差で、一度為すすべもなく負けてしまった。
その経験から大地はアーヴ戦の後も何度かプログラミングで能力値を改変しようと試みたが、やはりS以上の能力値にすることは出来なかった。
銀次郎の日記から魔族と帝国が何かしらの関係性を持っている可能性があると感じていた大地は、また魔族と戦うことになった時の為に、プログラミングを使わずして身体能力を向上させる方法はないかと考えた。
そして出来たのがこのヘラクレスであった。
ちなみにヘラクレスという名は、ギリシャ神話に出てくる半人半神のヘラクレスが今の自分に似ているなと思ったことからつけた名前である。
大地から装備について説明をされたマリカは驚愕した表情を見せる。
「大地はそんな物を作ることが出来るのか・・・。凄い力だな。」
「正直これはまだ不良品だけどな。」
マリカが大地の能力について称賛の言葉を贈るが、大地は今装着しているヘラクレスには納得いっていなかった。
何故なら、視覚昇華と魔力昇華が発動していなかったからだ。
腕力昇華、体力昇華、俊敏性昇華、聴覚昇華はマリカやゼーレ等からインプットした時の情報を元に組み込んでいたが、視覚昇華と魔力昇華に関しては単なるイメージのみで組み込んだものであった。
やっぱり、イメージのみでスキルを組み込むことは難しいか。まぁあの二つのスキルに関しては見たことも聞いたこともなかったから仕方ない。
大地は四つのスキルが発動していることを確認して、ひとまずは能力向上系のスキルも装備に組み込むことが可能だとわかったことで良しとする。
「これなら私も本気の戦いが楽しめそうだ。」
マリカは自身の攻撃を簡単に防いだ大地の身体能力の高さを称賛し、楽しそうな顔を見せると、薙刀を再度構え大地へと向かってくる。
「さぁさぁ! 大地! お前の本気を見せてみろ!」
薙刀を縦横無尽に振り回しながら大地へと走ってくるマリカ。
大地は二丁の銃剣のブレード部分を伸ばすと、切りかかってくるマリカの斬撃を受けとめていく。
マリカはこれまでの力任せの薙ぎ払いは使わず、コンパクト振りで連撃を加えてくる。
大地はマリカの動きを観察するように、あえて受け手にまわり、攻撃を捌いていく。
「次元が違いすぎます。」
「そうですね・・・」
二人の戦いを見たルルとジグルは二人の動きの速さを目で追うことが出来ず、一体どのようなやり取りが起きているのか理解出来ていなかった。
そんな高次元の戦いを続けるマリカと大地であったが、大地が攻撃を防ぐばかりで攻撃してこないことにマリカが徐々に苛立ちを覚え始める。
「おい大地! 何故攻撃してこない!」
「いや。お前が女の身体がどうとか言い出したから攻撃しにくいんだよ!」
頬に傷をつければ文句を言い出し、攻撃をしなければそれはそれで不服だというマリカの横暴ぶりに、呆れてしまう大地。
「あれは冗談というやつだ! ああでも言わないと大地はその装備について教えてくれないと思ってな!」
マリカは悪びれる様子もなく、先程の発言は単なる冗談だと言い張る。
「・・・じゃあすぐに終わらせても文句は言わないよな。」
マリカの度重なる悪ふざけにさすがにイライラが溜まっていた大地はアウトプットでマリカの足場に局所的な地震を起こす。
マリカは激しい足場の揺れによって体勢を崩す。大地はその隙を突いてマリカの両手両足に手錠を再現し拘束する。
「なんだこれは!」
両手足を拘束されたマリカは混乱した様子で地面の上であがくように転がっている。
「大地! どういうことだ! こんなの卑怯だぞ! 早くこれを外せ!」
「俺はフェミニストなんでな。女性は傷つけられないんだ。」
大地は地面の上で転がっているマリカにニヤリとからかうような笑顔を見せつけると、審判に向けて勝敗を告げるように促す。
「待て! こんな形はあんまりじゃないか! せっかく久々に対等に戦えそうな相手に出会えたんだ! このような終わりはあんまりだ!」
必死に手錠から抜けようと必死にもがくマリカであったが、いくら腕力強化をしているといっても、ディシント鋼で出来た手錠を両手足に拘束されている状態では解除することは出来ない。
審判はしばらくジタバタと動き回るマリカの姿を眺めていたが、マリカが手錠を解くことが出来ないと判断すると大地の勝利を告げた。
大地の勝利を聞いたディランチの兵士達は自分達のトップが負けたことに、一様に驚いた声を挙げる。
「いや待てぇ! まだ終わっていないぞ!」
兵士達がざわついていると、マリカが手錠を解いた姿で審判に抗議の声を挙げる。
マリカはどうやら両手足の関節を外して手錠を抜けたようであった。
そこまでする必要ないだろ・・・
関節を外した痛みで顔を少し歪ませながら審判に詰め寄るマリカを見ながら、やれやれと首を横に振る大地。
「どっちにしろお前がもがいていた間に何回も止めを刺すことだって出来たんだから、もう俺の勝ちだろうが。」
「うう・・・それを言われてしまったら返す言葉が・・・」
マリカが大地の正論によって口をつぐんでいると、広場の端よりマリカを呼ぶ大きな声が聞こえた。
「マリカッち~! そんなとこで何をしてるの?」
大地とマリカが聞こえた声の方へ視線を向けると、そこには銀次郎の日記の写真に映っていた当時と変わらない姿をしている睦月利映が居た。
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