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国始動編

第113話 メリアVSオズマ

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メリアとオズマの模擬戦が始まってから、約三十分が経っていた。

メリアが距離を保ちながら魔法を放ち、オズマがそれを受けながら距離を詰めるといった流れの戦いが続いていく。


メリアは三十分の間、高威力の腐蝕効果のある闇魔法を放っていた。

しかしオズマは再生魔法により、腐蝕した身体をすぐに再生させてしまい、有効なダメージをオズマに与えられていなかった。

オズマは少しずつメリアとの距離を縮め、槍を放っていく。

メリアも前方に闇魔法による障壁を張り、向かってくる槍を腐蝕させようと試みるが、腐蝕したそばから再生を繰り返す槍により、障壁を突破されてしまう。

「武器まで再生できるね。」

メリアは慌てることなく後方へと飛び退きオズマの槍を回避すると、上空へと飛び上がる。

「おいおい。空まで飛べるのかよ。」

オズマはメリアが上空に飛びあがったのを見て、感嘆の声を挙げる。

「さてどうしたものか。」

上空で魔力を練っているメリアを見たオズマがどのように攻略するべきか悩んでいると、その様子を見ていたマリカが檄を飛ばしてきた。

「こら! 何余裕面かましてるのよ! 早く決着付けなさいよ!」

「へいへい。わかりましたよ。」

オズマは軽く頭を掻く動作を見せた後、広場の上空全域に土魔法で機雷のような物体を出現させた。

機雷はメリアの周囲を旋回するように上空を飛行を始める。

得体の知れない物が自身の周囲に出現したことで、メリアはひとまず上空にある機雷を破壊しようと、練っていた魔力を使って赤黒い光線を機雷に放つ。

光線放ちながら身体を回転させ、機雷の全てを破壊していくメリア。

機雷は光線により粉々に砕かれ塵となっていく。

抵抗無く簡単に砕けた機雷を見てメリアが不思議そうに機雷の残骸を見つめていると、その塵となった機雷の一部がメリアの身体に付着した。


ドゴーン!


その瞬間、メリアに付着した機雷の一部が大きな爆破を起こす。

「ゴホゴホ! 何が起きたの!?」

爆発で生じた煙から左肩を抑えながら出てくるメリア。

しかし周囲には目視することも難しい程の機雷の塵が漂っており、煙から脱出したメリアにその塵が再度接触してしまい、誘爆を起こすように爆発の連鎖を起こしていく。

「調子に乗ってんじゃないわよぉ!」

爆発により少しずつダメージを受けながらも、強引にオズマに向かって飛行を続けるメリア。

「何も見えないぞ・・・」

多量の機雷の塵が爆発を起こしたことで広場の上空には雨雲のような煙に包まれていた。

オズマが煙の中からメリアの姿を見つけようと周囲を確認していると、オズマの真上から赤黒い光線が雨雲から降り注ぐ雨のように襲ってきた。

オズマの全身を貫いていく光線。両腕は腐蝕により崩れ落ち、胸部から腹部にかけては大きな穴が開く。

しかし肉塊になっても肉体の再生が行えるオズマにとってその程度のダメージはかすり傷でしかない。

地上に降りたメリアはあっという間に全身を回復させたオズマを見て、こんなのどうやって降参させればいいのよ、と小さく呟く。




「やはり猫耳娘(赤)は苦労しておるな。」

マリカはオズマの攻略方法が分からず苦い顔を浮かべているメリアの姿を満足そうに見つめていた。

「オズマは模擬戦においてはほぼ無敵な能力じゃねえか。」

大地はマリカの言っていた「模擬戦のオズマはやっかいだぞ」という言葉を思い出す。

降参か戦闘不能によって勝敗の決まる模擬戦において、再生魔法はもはや卑怯といっても良い魔法である。

もちろん魔力の限界までダメージを与えれば良いのだろうが、オズマの様子を見たところあれだけ再生を繰り返しているのにも関わらず、魔力消費をしている様子が見られない。

多分だが、再生魔法は発動するのにそれほど魔力を必要としないのかもしれない。

それに途中で解除したとはいえ、メリアの中で最高火力を誇る赤い大蛇をまともに喰らい、肉片になってなお、復活することが出来る程の再生力は犬斗の朱雀スタイルを持ってしても難しいことだろう。

メリアがオズマに勝つためには欠片も残さず一瞬のうちに肉体を消し去るか、魔力枯渇を起こさせる程の再生を行わせるかしか方法はない。

しかし前者の方は模擬戦である以上使えない。つまりメリアはオズマに魔力枯渇を起こさせるしか勝ち目がないということになる。

メリアもそのことに気付いているのだろう。それまで魔力消費の大きい、大規模な魔法攻撃から、ピンポイントでオズマの身体を狙っていく魔法攻撃に方法を切り替えていた。

「こいつどんだけ魔力があるんだよ・・・」

オズマは赤い大蛇に機雷を薙ぎ払った大規模な光線を放った後にも関わらず、苦しい顔一つ見せずに魔法攻撃を放ち続けるメリアの魔力保有量の多さに驚愕していた。

「これは持久戦になるな。」

オズマはメリアの攻撃を身に受けながら、長期戦を予想すると、それまで強引にメリアとの距離を詰める動きから、魔法を出来る限り受けないような動きへと変化させていく。

その後、メリアとオズマの戦いは予想通りの長期戦へとなっていく。

距離を取りながら魔法による攻撃を行うメリアとその魔法を避けながらなんとか接近戦へと持ち込もうとするオズマ。

戦いは痺れを切らしたメリアが大規模な魔法を使うようになったことで、時間が経つにつれて徐々に過激化していった。

「これは凄いな! なんだあの猫耳娘(赤)は!? もはや地形が原型を留めていないではないか!」

マリカはメリアの戦いっぷりに興奮した様子で大地の肩を激しく叩く。

その様子が仲睦まじく映ったのだろう。大地の後ろでうずくまっていたルルが大地の後ろ姿に冷たい眼差しを向ける。


何焦ってんだメリア。そんな魔力消費の大きな魔法を使ってたらいくらお前でも持たないぞ。


ルルから嫉妬の感情をぶつけられているとは知らない大地は、メリアが勝負を急いで魔力消費の激しい攻撃を連発していることに、不安を覚えていた。

一瞬でオズマそのものを消し去るような魔法でもない限り、魔力消費の大きい攻撃をするメリットはない。

メリアもその事については良く知っているはず。しかし今のメリアは勝負を急ぎ、ただ乱暴に魔法を放っているようにしか見えなかった。

「勝負を焦り始めたな。」

オズマもメリアの行動の変化に気付き、小さく笑みをこぼすと、再度強引にメリアとの距離を詰める動きに戻す。

メリアは赤黒い光線を機関銃のように連射しており、直線的に進んできたオズマへと標準を合わせると、更に魔力をこめてより太い光線を放っていく。

全身に光線を浴び、オズマの身体は腐蝕していくが、魔力にまだ余裕のあるオズマは身体が朽ちる前に再生を行い、速度を落とすことなくメリアへと近づいていく。



これまでの戦いから一定の距離からの魔法攻撃を得意としていることはわかった。それはすなわち近接戦闘が苦手ということだ。

それに大きな魔法の後には必ず隙というものが出来る。光線が一瞬止んだ時、近接戦闘に持ち込めれば。



オズマは距離を詰めながら、虎視眈々とメリアが隙を作るのを待っていた。

光線を受け続けること約五分。全ての光線を浴びながら再生を繰り返していたオズマに待ち望んでいた機会が訪れる。

メリアが光線の連射を止め、大きく肩で息をし始めた。

距離にして三メートル程度のところまで来ていたオズマは決着を付けるべく一気にメリアとの距離を詰める。

「おらぁ!」

オズマが至近距離で槍をメリアに突き立てた時、メリアは槍による攻撃を脇腹に掠らせながら前に出て来た。

「なっ!?」

これまで後方に飛び退くばかりだったメリアが接近してきたことに驚き、無防備の状態となってしまうオズマ。

しかし元々機雷による爆発で軽視出来ないダメージを受けていた中に、槍による攻撃を喰らったメリアは、そのまま力無く項垂れるようにオズマへと身体を預けた。

「最後の意地というやつか。」

オズマが項垂れるメリアの身体を介抱しようとした時。オズマは身体に力が入らなくなったことに気付いた。

メリアを抱えたまま地面へと倒れるオズマ。

この感覚・・・・魔力枯渇か!?

「一体何をした・・・?」

オズマは動かない舌を必死に動かし、上で横たわるメリアに原因について問うが、メリアは既に意識を失っていた。

「この場合はどうなるんだ?」

大地が動けなくなった二人を見ながらマリカに勝敗について尋ねる。

「猫耳娘(赤)は気絶している。しかしオズマも魔力枯渇で同じような状態。これは引き分けだな。ったく。最後の最後で油断するからこういうことになるんだ。決める時に決めれない男などに結婚など出来る訳がないのだ。」

勝敗を引き分けとしたマリカは倒れているオズマの元へ行き、ライゼンの時と同じような罵倒を繰り返す。

動けない相手に「初老のじじいは隠居でもしてろ!」「そんなんだから初老なのに結婚出来ていないんだ!」と主に歳と結婚出来ていないこと関しての罵倒を行うマリカ。

大地はメリアの身体をお姫様抱っこで抱えながら、こういう奴のことを人々は暴君と呼ぶのだろうな、と改めてマリカの部下達に心底同情するのであった。
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