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国始動編

第112話 ペンダント

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ガックリと肩を落とし、とぼとぼとした足取りで大地達の元まで返ってくるルル。

よほど敗戦が悔しかったのだろう。よく見るとルルは拳を強く握りしめながら身体を震わしていた。

「ルルお疲れ様。良い戦いだったわ。だからそんな落ち込まないの!」

ルルの様子を見たメリアがすかさず励ましの言葉をかけるが、ルルは顔を上げることなく背中を丸めながら地面にうずくまる。

「メリアの言う通り良い戦い方だったと思うぞ。銃弾の使い分けも良かった。けど最後の詰めが甘かったな。」

「最近私全然良いとこないから。張り切ったんですけどね・・・」

ルルは悔しさのあまり泣いてしまっており、鼻声で辛うじて大地達に返事をする。

「でも確実に以前に比べてルルは強くなっている。今回負けたなら次回負けないようにすれば良いだけだろ? 今度また訓練に付き合ってやるよ。」

「わっ私もルルの訓練に付き合うわよ!」

大地が優しく声をかけると僅かに頷いた様子を見せるルル。

ルルが泣くところを初めて見たメリアはどうしていいかわからず、励ましの言葉をかけるので精一杯といった感じで、慌てた様子を見せる。



「良くやったぞジグル! 一個大隊を預かっているだけはある。お前を鍛えてきた私も鼻が高いぞ!」

ライゼンの時とは違い、満足そうにジグルの背中をバンバンと激しく叩くマリカ。

誰がどう見ても痛そうなビンタを何発も背中に浴びたジグルはマリカに開放されたと同時に背中の痛みに悶絶していた。

勝っても負けてもマリカによるパワハラが待っているディランチ連邦の兵士達に心底同情する大地。

「どうだったジグル?」

「あの子がもう少し場数を踏んでいたら負けていたかもしれませんね。武器の性能もさることながら、その活用も上手かった。もしあの子が精霊魔法なんて覚えてしまったら、大きく化けますよ。」

「そうか。そんな者達が仲間になると考えれば、これ程心強いことはないな。」

「次はオズマですよね。気を付けて下さいね。ライゼンと戦った熊の人も私が戦った猫の子も確かに猛者に変わりはないですが、正直大地さんと隣にいるもう一人の猫の子、あの二人は強さの桁が違います。」

「まぁやってみればわかるだろう。」

オズマはジグルの背中に止めの平手打ちをかますと、悶絶するジグルを尻目に、広場の中央へと向かう。



ジグルを開放したマリカはすぐさま隣に座る大地に、どうだうちの兵士は強いだろう? といわんばかりのにやけ顔を向けていた。

「大地よ! これで一勝一敗。面白くなってきたな!」 

「あぁそうだな・・・」

マリカのテンションについていけない大地は少し引き気味に返事をする。

「大地はノリが悪い奴だな。まぁ良い。次の模擬戦を開始しよう。次は私に次ぐ実力を持つオズマとそこの猫耳娘(赤)だ!」

「もうツッコまないわよ。」

メリアが小さくため息を吐いた後、オズマの待つ広場へと向かおうとした時、大地が席を立ってメリアの近くへと近寄ってきた。

「これ使え。」

大地は小さいペンダント型の装置をメリアに手渡す。

「これは何よ?」

「メリアは獣人に化けていると本気出せないってルルから聞いてな。この装置は魔族の姿に戻ったとしても、周りにばれないようにすることが出来る物だ。」

大地はゼルター戦後のメリアの塞ぎ込み具合を見てからというもの、どうにかしてメリアの正体を隠しながら魔族のスペックを活かす方法がないか考えていた。

前回は正体を見たのが少数の兵士だけだったから良かったものの、今後いつ、どのような状況で魔族の姿を晒すことになるかわからない。

最近少しずつ獣人差別の意識が薄くなってきたアースでもメリアの正体を民達が知れば、間違いなくメリアはアースに居られなくなってしまうだろう。

メリアとの約束を守るためにも、絶対にそんな状況を招くわけにはいかない。

メリアに渡したペンダントはそんな状況になることを未然に防ぐために、プロジェクションマッピングを参考にして作成したものであった。

「そんな物まで作ってたのね。まぁ確かにありがたい代物ではあるけど、心配しすぎよ。」

メリアもペンダントを見て大地が自分の身を案じていることに気付き、照れくさそうにペンダントを首にかける。

「どうかしら?」

「やっぱりメリアには赤が良く似合う。」

大地に褒められ頬を少し染め上げたメリアはすかさずその顔を隠すように広場の方へ走って向かう。


なんで顔を赤くしてんのよ私!


これから模擬戦だというのに顔を真っ赤にしているメリアを見たオズマが心配そうに声をかけようとするが、大地にその事がばれたくないメリアは無言の圧力をオズマにかける。

何となく触れてはいけないことなのだと空気を読んだオズマは、口から出そうになった言葉を必死に飲み込んだ。

「あの・・・もう始めても大丈夫ですか?」

異様な雰囲気を醸し出すの二人を前に審判も開始の合図を出せずにいる。

「あっああ。私の準備は出来ている。」

「わっ私も大丈夫よ。」

メリアは必死に大地の事を頭の片隅に追いやると、戦闘態勢を整える。それを見たオズマも同じく先端に三角錐の切っ先を持つ槍を構える。

メリアとオズマの準備が整ったことを確認した審判が開始の合図を送る。

「じゃあ早速試してみようかしら。」

模擬戦開始の合図を聞いたメリアは首元にかけているペンダントを見ながら、変成魔法を解いた。

すると赤黒いオーラのようなものがメリアの身体から滲み出てくる。

「本当に姿が獣人のままだわ。けどこの身体の感じは確かに魔族の姿に戻った時のもの・・・。こんな物をわざわざ私の為に作ってくれるなんてね。」

変成魔法を解いても姿が変わらないことを確認したメリアは優しい表情でペンダントを見つめる。

『おいメリア。そんな見つめる程俺のデザインってダサいのか?』

大地からの念話でふと我に返るメリア。

周りを見渡すと相手であるオズマだけでなく、観戦している全ての者達が不思議そうに自分を凝視していた。

「本当に始めて良いのか? 体調が悪いとかなら無理にマリカの悪ふざけに付き合う必要はないぞ?」

オズマからの声をかけられたメリアはペンダントを見つめていた自分の姿をこの場にいる全員に見られていたことに気付くと、再度顔を真っ赤に染め上げる。

「だッ大丈夫よ! 少し考え事をしてしまっていただけよ! さぁ早く始めましょう!」


恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!


メリアは今すぐにでも逃げ出したい気持ちから決着を早めようとするあまり、模擬戦ということを忘れていきなり黒霧を纏った赤い大蛇を出現させてしまう。

赤い大蛇は広場の草花を腐敗させながら、オズマへと襲い掛かる。

「あっ・・・!」

メリアが模擬戦なのだと気付きオズマに回避するように声をかけるが、時すでに遅くオズマは赤い大蛇に飲み込まれてしまう。

赤い大蛇の腐蝕効果を持ってすれば、人間一人程度なら瞬く間に溶かしてしまう。

焦ったメリアは直ぐに精霊魔法を解き、飲み込まれたオズマを開放するが、オズマは既に全身をドロドロに溶かされており、跡地には炭化した鎧と原型を留めていない肉片のみが転がっていた。

まるでスライムのようになってしまったオズマの姿を見て、顔色を真っ青に変化させるメリア。

同盟を組む相手の兵士を殺してしまった。私のせいでディランチ連邦との関係が崩れるかもしれない。

自身のせいで国同士の大きな問題に発展するかもしれないという最悪のケースがメリアの頭をよぎった瞬間。

目の前のスライムが急に動きだし鎧の中へと入っていった。

その光景を見たメリアが鎧の中を覗こうとした時、鎧から生えてくるようにオズマの手足と頭が現れる。

「え? 生きてる?」

「まさかあれほどの攻撃を初手で撃ってくるとはな。一瞬で溶かされてしまったぞ。」

何事もなかったかのような様子でメリアの放った赤い大蛇について称賛の言葉を贈るオズマ。


名前 オズマ
 種族 人間
 年齢 41歳  
 能力値
 腕力S 体力S 敏捷性B 魔力S
 保持スキル
 「再生魔法」「土魔法」「体力昇華」


そういうことか。 


遠目から状況を見た大地は驚きながらもすぐさまインプットでオズマのステータスを確認していた。

大地はオズマの保持スキルである再生魔法の説明欄を見て、オズマが無事だった理由について知ると、この戦いがかなりの長期戦になってしまうと悟り、大きなため息をつく。

「模擬戦のオズマはやっかいだぞ。」

「はぁ~。だろうな。けどこっちの猫耳娘(赤)も唯者じゃあないからな。」

大地はオズマの復活劇を見せつけたことで得意気な顔を晒してくるマリカに見向きもせず、淡々と言葉を返す。

マリカは第一戦から淡々とした様子で試合を見ている大地に「本当にノリが悪い男だな」と愚痴っぽく呟くと、にやけ顔を収めて真剣な眼差しを広場に向けた。


この後、メリアとオズマの模擬戦は大地が予想した通り、壮絶な長期戦が繰り広げられることになった。
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