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国始動編

第111話 ルルVSジグル

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開始の合図直後に先手必勝とばかりにルルが猫又をジグルに打ち込む。

ジグルはルルの動作から何かしらの攻撃を仕掛けてくるのだと察知すると、すぐさま全方位に風魔法を組み込んだ水の障壁を展開した。

猫又がジグルの背後を狙う様ように襲い掛かるが、全方位に展開された波打つようにうねりをあげる水の障壁によりいなされてしまう。

「ライゼンの戦いの後で良かった。」

ジグルは目の前で分裂し、自身の背後を襲ってきた猫又を見て、自分の勘が当たっていたことに少し安堵した様子をみせる。

ジグルは先程のドグマの武具を見て、アースの武器には他の国にはない特異性が秘められていると感じていた。

本来前方に飛んでくる攻撃であれば、前方に障壁を展開するだけで防ぐことが可能だ。

しかしジグルは初めて見る形状の武器を携えているルルの姿を見て、その武器の危険をいち早く察知しあえて全方位の障壁を張る判断をとっていた。

「あいつ結構やるなぁ。」

「それはそうだ。ジグルは幼い頃より私の元で常に鍛錬を積んでいたのだからな。」

ジグルの危険察知能力の高さを大地が称賛しているの聞いたマリカは、自分が褒められたとばかりに嬉しそうに頷く。


まだ若いといっても戦時中のディランチ連邦の一個大隊を預かっているだけはあるな。さてルルはどう動く?


ルルは猫又を防がれたことを確認すると、今度は病猫鬼をマガジンに詰め、それをジグルの障壁に向かって撃っていく。

ルルがマガジンに弾をこめたのと同時にジグルも障壁を維持しながら、今度は風を纏った小さな野鳥を多数上空に出現させた。

上空に現れた多数の野鳥は滑空するようにルルへと迫っていく。

「あわわ! これは多すぎます!」

ルルは自身に迫ってくる野鳥の多さに慌てた様子で銃剣を手放すと、今度はサブマシンガンを両手に構える。

マシンガンの連射能力にほとんどの野鳥は駆逐されたものの、数匹を撃ち損じてしまったことで、残った野鳥の体当たりを喰らってしまうルル。

風魔法を身に纏った野鳥はルルの身体に接触すると、局所的な暴風を発生させ、ルルの身体を後ろへと吹き飛ばす。

「むむむ・・・」

飛ばされたルルは地面を転がるようにして全身に擦り傷と打撲を作っていく。

辛うじて立ち上がったルルはその痛みから苦々しい表情を浮かべていた。

立ち上がったルルはすぐさま追撃を警戒し、敏捷昇華を使い回避行動の準備を行うが、ジグルからの追撃が来ない。 

「障壁を破る武器ですか・・・」

良く見るとジグルも病猫鬼によって障壁を破られ、左下腹部に飛弾していた。



「これまだ続けるのか? そろそろ止めに入った方が・・・」

二人の消耗具合を見て心配になった大地が、マリカにさりげなく二人の戦いを止めるように促すが、マリカはそんな大地の言葉には耳も傾けず二人の戦いに見入ってしまっていた。

マリカの様子を見た大地は、もう何を言っても無駄だと悟ると、気を取り直して後ろに座っているメリアに精霊魔法について尋ねる。

「メリア。そういや普通の魔法と精霊魔法って何が違うんだ?」

「あんたそんなことも知らないの?」

メリアは呆れた顔を大地に向けながらも、基本魔法と精霊魔法の違いについて大地に説明を行う。

「精霊魔法ってのはある程度の自我を持った魔法のことよ。魔法ってのはどのような物でも行使する者のイメージによって発現することはさすがに知っているわよね?」

「俺は純粋に魔法を使えるわけではないから何とも言えないが、原理なら理解している。」

「普通の魔法は出現させてから相手に当てるまでの間、常に魔法のイメージを続けないといけないの。けど精霊魔法はある程度魔法自身に判断能力があるから、出現させてしまえば、自動で動いてくれるってわけ。それに精霊魔法は経験を積ませれば積ませるほど強くなる魔法でもあるわ。」

「じゃあゴーレムも精霊魔法に入るのか?」

「はぁ・・・違うわよ。ゴーレムは前もってイメージした動きしか出来ないわ。それに人間のように状況に合わせて動くこともないわ。精霊魔法の一番のメリットは多数の魔法の行使が容易くなることかしらね。精霊魔法に足止めをさせながら大きな魔法の展開準備に取りかかれたり、一対一の戦いの中で数的有利を作れたり、精霊魔法を使えればそれだけ戦略の幅が広がるのよ。」

つまり勝手に成長するAIを搭載した魔法って感じか。

メリアから精霊魔法について教えてもらった大地は広場で戦うルルを見ながら、精霊魔法の仕組みを何かに使えないかと考え始める。

「また何か良からぬことを考えてるでしょ。そんなことよりルルを応援しなさいよ。」

メリアは大地の思案に暮れる横顔を見て、また大地がとんでもない物を作り出すのではないかと怪訝そうな顔を見せる。

「そうだな。今はとりあえずルルの応援をするか。」

大地はメリアに指摘されると、一旦精霊魔法について考えるのをやめ、ジグルの攻撃を必死に回避しているルルに目を向けた。





ルルは先程のやり取りで無視できないダメージを負いながらも、その後はジグルによる攻撃を敏捷昇華によって躱していく。

ジグルは先程見せた、風を纏った野鳥のほかに、火を纏った小型の犬と水を纏い空中を浮遊する蛇を出現させており、精霊魔法達は統率のとれた連隊のような動きでルルを徐々に追い詰めていく。

「三種類の精霊魔法を駆使してなお攻撃を回避し続けるとはさすがです。」

追い詰められながらも洗練された動きで精霊魔法の攻撃を躱していくルルに、ジグルは称賛の言葉を告げる。

「しかしこれで終わりです。」

するとジグルは出現させている精霊魔法を一つの場所へと集結させる。

集結した精霊魔法達は溶けるように少しずつ融合していくと、ルルの目の前で大きな猛獣の形となった。

大型の猛獣の背中には鳥類の羽が生えており、尻尾は蛇になっていた。その姿はまるで神話に出てくるキメラのようで、ルル程度なら一口で飲み込んでしまう程の大きさを誇っていた。

「これが僕の使える中でも最高の魔法。融合精霊魔法です。」

ジグルは自身の中で最高火力を誇る精霊魔法を行使したことで、猛獣の後ろで激しく息をしている。

「いくら大きくて強力な魔法でも病猫鬼なら破壊は可能です。」

ルルはジグルが融合精霊魔法を行っている間に拾った銃剣を両手に構えると、標準を大きな猛獣に合わせる。

少しの間、ルルと猛獣はお互いの出方を窺うような様子を見せ、広場には物音一つしない静かな時が流れていく。

「早く攻撃を開始せんかジグル!」

あまりに動かない両者を見たマリカが我慢出来ずにジグルに声を挙げた時、猛獣がルルに向かって攻撃を開始した。

羽をはためかせて竜巻を放ちながら、尻尾の蛇から水弾を連射していく。

俊敏昇華しているルルは猛獣を中心に半円を描くような動きで攻撃を躱すしながら病猫鬼を撃っていく。

しかし猛獣も炎の障壁を展開することで、病猫鬼を防いでいく。

病猫鬼は二発当たる毎に障壁を破壊していくが、攻撃を避けながらでは銃弾を連射することが出来ない。

その間に猛獣は新たな障壁を張ることで、ルルから攻撃を完全に防いでいた。

このままではジリ貧になってしまうと思ったルルは、左に猫又、右に病猫鬼を装填し、多方向からの攻撃を加えようと試みる。

病猫鬼の障壁破壊の攻撃に加えて、猫又による死角をつく背後からの攻撃を行ったことで、少しずつ銃弾が猛獣の身体を掠めるようになった。

直線的な攻撃から角度をつけた攻撃に変わったことで、何処に障壁を展開したら良いかわからなくなる猛獣。

「よーし! これなら!」

銃弾の動きが読めず、混乱したことで精彩を欠き始めた猛獣の姿を見たルルは、この隙を逃しまいとホーミング効果を加えた病猫鬼を真横に四発発射した。

四発の病猫鬼は等間隔で猛獣の周囲を旋回し始める。

猛獣が銃弾を弾き飛ばそうと、四方の銃弾に向かって竜巻と水弾を放った瞬間。

それまで旋回を続けていた銃弾が急に進行方向を猛獣へと変化させ急加速する。

猛獣も障壁を張って身を守ろうとするが、四方から迫る銃弾全てを弾くことは出来ず。二発の病猫鬼を浴びてしまう。

猛獣は銃弾を受けた部分なら身体を霧散させていくと、力尽きたように両足を折りたたみ、そのまま姿を消した。

「上手くいきました! 次はあなたです!」

ルルが融合精霊魔法を倒したことで、勝ちを確信したようにジグルが居た場所に目線を移した時、ルルの背後から一本の剣が肩に置かれた。

「私の勝ちですね。」

ルルが後ろをゆっくりと振り返ると、そこにはにっこりと笑みを浮かべるジグルの姿があった。

「えぇ~! さっきまであそこに居たじゃないですか!」

「僕の融合魔法を破った技を見せた時、私への注意が解けていましたよ。その間に私は猛獣の裏に隠れるようにしてあなたの背後に周ったんですよ。」

「そんなぁ~!」

アースとディランチの第二戦はジグルの隙を就いた戦法により、ディランチ連邦に軍配が上がった。
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