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国始動編

第106話 同盟

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次の日の夕方、ヘクトルがヘイデンやレイを連れて大地のいる王室へと報告に来ていた。

「大地殿の午前中議会にて同盟について話をしました。やはり同盟そのものには皆賛成だったのですが、使者とのやり取りだけで同盟を結ぶという事に不安があるという意見も多くありました。その為、一度お互いのトップ同士で話し合いを経て、細やかな取り決めを行いこちらの意志に沿うものであれば同盟を結ぶということでまとまりました。」

「そうか。じゃあその旨をジグルに伝えるか。」

大地はヘイデンにジグルを王室に案内するように指示を出す。

しばらくしてヘイデンと共に王室に現れたジグル達は大地の前で片膝を着き頭を下げた。

「頭を上げてくれ。同盟についての件だが、こちらも帝国との争いの最中だ。そんな中ディランチ連邦と同盟を組むことはこちらとしてもありがたい申し出だ。」

「では同盟を組んで頂けるということですか?」

ジグルは大地の言葉を聞き、食い気味に聞き返してくる。

「少し待ってくれ。確かに出来れば同盟を組みたいとは考えているが、私達はディランチ連邦という国を良く知らない。いくら帝国を倒すためとはいえ全く知らない国を相手に簡単に同盟を組むことは出来ない。そこでだ、一度お互いのトップ同士で会談を行いたいと思っている。」

「・・・・・・。」

大地の言葉にジグルは顔をうつむかせたまま、黙り込んでしまう。

「どうした?」

大地が顔を下げたまま言葉を発しようとしないジグルに声をかけると、意を決したようにジグルが顔を上げた。

「出来ればこの場で同盟を結んで頂けないでしょうか?」

「いや。だからさっき言っただろう? 一度会談を行ってからではないと同盟を結ぶことは出来ない。」

「・・・・・今ディランチ連邦は徐々に帝国に押されている状況です。いつ防御網が破られてもおかしくないのです。そんな状況の中、悠長に会談を行える余裕は我々にはありません。」

ジグルは大地に追いすがるような目で訴える。

「あぁそういうことね。要は自分達の国がピンチだから俺達と同盟を結んで助けてもらおうっていう腹だったのか。」

「・・・・そうです。今更隠していても仕方ありませんから正直に話しますが、私達ディランチ連邦は最初こそ小人族の武器を使うことで帝国と互角の戦いをしてきました。しかし戦いが進むにつれて絶対的な数の差というものが浮き彫りになり、現在では防戦一方となっているのです。私はそんな状況を打破するべくトームの地で帝国を追い返したというこの国と同盟を結び、応援を連れてくるように命令されたのです。」

複雑そうな顔をしながら事の経緯について説明を行うジグル。

ディランチ連邦はトームとは真逆の方角にある国である。

最短距離でディランチ連邦へと向かおうとすれば魔獣が多く生息するディシント密林を突っ切っていかねばならない。

しかしあの護衛達の人数ではそれも難しいであろう。

多分ではあるがディシント密林を迂回するようにトームから帝国領に入り、ばれないように細心の注意を払ってディランチ連邦へと向かうのだろう。

そしてその後、再度同じ様に帝国領に入りアースへと来なければならない。

ただでさえ長旅なのにも関わらず敵である帝国領に入らなければならないことはジグル達にとってかなりの精神的な疲労を蓄積させることになる。

それに客間でのジグル達の様子を見る限りでは、出来るだけ早くアースとの同盟を結び現在の状況を打破したいと考えているのだろう。

そんな切迫した中で、アースとディランチ連邦を往復するということはかなりの時間のロスになってしまう。

ジグルの複雑そうな顔を見る限り、ディランチ連邦はそれほどまでに追い詰められた状況の中にいるのだろう。

大地はジグルから経緯について話を聞くと、思案を巡らせていく。

大地達は確かにアーヴ率いる帝国兵達を退けることに成功した。

しかしその裏では帝国がディランチ連邦の相手をしていたからという背景もある。

もしあの時アーヴ達だけでなく、帝国の本隊や他の宮廷魔法師も来ていたら勝つことは難しかっただろう。むしろ負けていた可能性の方が高い。

そう考えると間接的ではあるが大地達はディランチ連邦に助けられていたとも言える。

そしてそのディランチ連邦が現在窮地に陥っている。

もしこのまま何もしなければ帝国によって滅ぼされてしまう可能性が高い。

もしディランチ連邦が滅ぼされてしまえば、次に帝国が攻撃してくるのは間違いなくアースであろう。

今のアースに帝国と全面戦争するだけの国力はない。つまりディランチ連邦の敗北はアースの敗北と等しいのである。


さてどうしたものかね・・・


そのことに気付いている大地は面倒くさそうに深いため息をつくと、ヘクトルに対して手招きを行う。

「どうしたのですか大地殿?」

「いや思った以上にあちらさんの状態が悪いみたいでな。ここで同盟を結んで俺達が応援に行かないとやばいみたいだ。もしディランチ連邦が滅べば次は俺達だぞ?」

「しかし私達も他国の応援に行けるほど兵力に余裕はありませんぞ。」

「もちろんこの国の兵をむやみに他国の応援に向かわせるわけにはいかない。それにやっと新たな国の仕組みにみんな慣れてきたんだ。ヘクトルさん達にも今は出来れば国を発展させる事のみに集中してほしい。」

「ではどうするのですか?」

「少し暇をもらっていいか?」

「もしかして大地殿が応援に行かれるおつもりですか!?」

「駄目か?」

「確かに内政に関してはこれまでの大地殿の協力もあり、現在では我々だけでも大丈夫ですが、国のシンボルである大地殿が単身で他の国に行かれたと民に知られれば国が混乱してしまいますぞ。」

「そこら辺はコピー体を一体置いておくから大丈夫だよ。もちろん無理はしないから。」

「はぁ・・・確かにディランチ連邦が滅ぼされてしまうことは我々にとってもマイナスでしかありません。それに大地殿はもう何を言っても行く気なのでしょう?」

「気苦労かけるなヘクトルさん。」

「少しは老体を労わってほしいものですな。」

ヘクトルは額に手を当てやれやれといった様子で首を横に振る。

大地は半ば無理やりヘクトルからの許可をもらうと、先程からずっと複雑そうな顔をしていたジグルに話しかける。

「ジグル。ディランチ連邦が危険な状態であることは良く分かったが、この国も出来たばかりで他国の応援に兵をさける状態ではない。」

「そうですか。」

ジグルはがっくりと肩を落として落ち込んだ様子を見せる。

「しかしディランチ連邦が滅びるのをただ見ているというのも気分の良いものではない。兵は出せないが帝国の宮廷魔法師と同等の力を持つ者を一時的に応援に向かわせ、帝国兵を退けることが出来れば、その時改めて会談を行い同盟を結ぶということでどうだ?」

「宮廷魔法師と同程度の力を持った者がいるのですか?」

「というか一人は正真正銘の元宮廷魔法師だしな。」

「それだけの方達が来てくれれば戦況をひっくり返すことも出来るかもしれない。是非ともディランチ連邦への援助お願い致します。」

ジグルはディランチ連邦への援助を申し出てくれた大地に深く頭を下げる。

しかし現在のディランチ連邦の状況を思い出し、慌てた様子で出立の日取りについて聞いてきた。

「急かすようで申し訳ないのですが、いつ頃出発される予定でしょうか? ここからディランチ連邦まで馬車なら約一か月程度かかります。出来る限り早めに向かって頂けるとありがたいのですが。」


おいおい。こりゃよっぽどやばい状況なんだろうな。


ジグルの慌てた様子から出来る限り早く出立をせねばならないと思った大地はジグルに明朝に出発すると伝える。

ジグルは大地から出発する時間と集合場所について聞くと、すぐさま準備取り掛かると言って大地に深く一礼すると王室を後にした。

「さて俺も早速準備をするとしますかね。」

大地は自分が留守の間にもし特変が起きた場合、すぐに念話をするようにへクトル達に伝えると準備の為に自室へと向かった。
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