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国始動編

第104話 スパイごっこ

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王室を出た大地は王宮前でヘクトル達と別れると、早速ある人物のいる部屋へと向かった。

「入るぞ。」

大地は部屋の主から声が返ってくる前に扉を開ける。

「急にどうしたのよ。何か用?」

「いつまで部屋に閉じこもっているんだメリア。」

大地が訪れていたのはメリアの部屋であった。

メリアはアーヴ達との戦争が終わってからというものほとんど部屋から出ることなく日々を過ごしていた。

時折ルルに無理やり連れ出されることはあったものの、一人で外に出ることはなく、引きこもり状態となっていた。

「少し俺に付き合ってくれよ。」

「なんでよ。一応大地はこの国のシンボル的な存在なんでしょ? そんなあんたが私と一緒に居たらあんたの印象も悪くなってしまうわよ。」

「だからお前が魔族っていうのは一部の人間しか知らないんだよ。実際何回か外に出てたんだろ? お前に向かって魔族だっていう奴が一人でもいたか?」

「それはいないけど・・・」

「それに今回の事は変成魔法を使えるお前にしか付き合ってもらえそうにないことなんでな。」

「あんた何をする気なの?」

「いまディランチ連邦の奴らがアースに来ているんだ。俺達と同盟を結びたいんだとよ。俺はそいつらの真意を量ってやろうと思ってな。」

「つまり変成魔法で姿を変えてスパイをするってことね?」

「さすがメリア物分かりがいいな。」

「とんだ王様がいたものね。」

メリアは頭を横に振ると呆れた顔を見せる。

「姿を変えてなら別にお前も大丈夫だろう? 少し俺に付き合ってくれよ。」

「わかったわよ。それで何に姿を変えればいいの?」

「とりあえず俺の真似をしてくれ。」

大地は変成魔法を再現すると自分の姿を小さな野鳥の姿に変えた。

メリアは小さくため息をつくと大地と同じように野鳥に姿を変える。

『じゃあさっそくディランチ連邦の使者のいる客間に行こうか。ついて来てくれ。』

大地は念話でメリアにそう告げると小窓から空へと羽ばたいていった。




『飛ぶのって意外と難しいな。』

フラフラとしながら王宮の周りを飛行する大地。その後ろではメリアがスムーズな飛行を行っていた。

『それで今から何処にいくの?』

『とりあえずあいつらのいる客間に向かう。』

『そんな飛行で行けるの?』

『・・・・何とかするさ。』

フラフラと上下左右に揺れながら飛行している大地を見て、不安に思ったメリアが心配そうに声をかけるが、大地は気にすることなく客間の窓に向かって飛行を続ける。

王宮の周りを飛んでいた大地が窓の奥に映るジグルの姿を捉えた。

あそこか。じゃあ早速窓際に向かいますかね。

大地がジグルのいる部屋の窓へと向かおうとした時、身体の制御を誤って滑空するように物凄い速さで窓へと急加速してしまう。

『大地あんた何やってんのよ!? このままだと窓にぶつかるわよ!』

『わかってる! でも鳥の身体なんてなったことがなかったから、ブレーキの掛け方が分からないんだよ!』

大地は必死に速度を緩めようとするが、使い慣れていない変成魔法で初めて鳥になった大地は身体の制御が上手く出来ず、そのまま窓へとぶつかってしまう。

いってぇ・・・鳥の身体ってこんなもろいのかよ。骨が何本か折れてるんじゃねえか。

窓に全身を打ち付けながら、激痛に悶える大地。

そのまま窓から落下しようとしたとき、ジグルが窓を開けて野鳥となった大地の身体を優しく受け止めた。

「くっくっく。まさかこれほど飛ぶのが下手な鳥がいるとはね。少し待っていなさい。今治してあげますから。」

ジグルは鳥となった大地を丁寧に机の上に置くと、傷ついた大地の羽に魔法を発動させた。


これは光魔法か?


光魔法をかけられた大地の身体は徐々に傷が塞がっていき、次第に痛みも無くなっていた。

「これで大丈夫かな? さぁお友達も待っているよ。」

ジグルは窓の外でこちらを見ている野鳥姿のメリアを目を向けると、窓際に大地を乗せた。

『あんた大丈夫なの? てか今度から気を付けなさいよ。』

『使者様が回復してくれたおかげでなんとかな。今度からはちゃんと練習してから使うようにする。』

窓際にて羽の調子を見ている大地の元へとメリアが降り立った時、ジグルとその護衛達がアースについて話を始めた。

「ジグル様。それにしてもこの国はまるで違う世界の国ようですな。」

「そうだね。もしかしたら睦月の様に異世界から来た者達がこの国にもいるのかもしれないね。実際に先程の王様も睦月と同じような黒髪だった。あながち違う世界の国っていうのは間違っていないかもしれないよ。」


睦月って銀次郎さんの日記に出て来た日本人じゃねえか。


大地は睦月という言葉に思わず反応してしまい、羽をバサバサとはためかせて部屋に大きな羽音が響かせてしまう。

羽音に気付いたジグルはジーっと大地を見つめた後、大地の元へと歩み寄ってきた。


やべっ。もしかして気付かれたか。


大地がジグルに何か感づかれたのだと思い警戒を強めていると、ジグルはメリアもろとも大地を優しく救い上げ、ベッドの枕の上に二人を降ろした。

「どうしたここが気に入ったのか? なら部屋の中にいれば良い。外は少し風が冷たいからな。」

二人に優しい笑みを向けると席へと戻っていくジグル。

「話の途中ですまないな。でももし異世界から来た者達によって作られた国であるなら、是非とも同盟を結びたいものだね。」

「そうですな。あちらはどう出てくるか。」

「まぁそう簡単にじゃあ同盟組みましょうかとはならないとは思うけど。」

「そうですか・・・。ですがもし同盟を組めないとなると、この先厳しい戦いになりそうですな。」

「厳しいなんてもんじゃないよ。今の戦いを続けていれば遅かれ早かれディランチは帝国に敗れる。それだけは何とか防がないと。」

先程まで優しそうな笑みを浮かべていたジグルも途帝国との戦争の話になると、途端に険しい表情を見せる。

どのような戦いになっているか知らない大地達でもその表情から、現在のディランチ連邦の状況がかなり厳しい状況なのだと推測出来た。

「とにかく今の私達には待つことしか出来ない。せっかくこの国に来たんだ。王様も言っていただろう? この国の事を知ってほしいって。そのお言葉に甘えようじゃないか。」

ジグルは再び明るい笑みを見せると枕で聞き耳を立てていた大地達の元へと歩み寄り、二人をそっと窓際まで運ぶ。

「私達は今から外出させてもらうよ。もう窓にぶつかるような危ない真似をしてはいけないよ。」

ジグルは野鳥の二人にそう告げると窓を開けた。

『大地どうすんのよ?』

『まぁ変な事を考えているわけでもなさそうだしな。スパイごっこはもう終わりにするか。』

大地はジグル達に変な思惑がないのだと判断すると、そのままフラフラと空へ飛び立った。

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