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国始動編

第101話 議会

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二か月後・・・・

ついにヘクトルを総理とした議会の設立と各省庁の運営が始まった。

健康保険、住民票の問題に関しては大地が観晶石を少しいじることでステータスプレートの中に健康保険と住民票が明記されるようにしたことで解決した。

この健康保険証は最初に厚生労働省管轄の役所で住所と世帯を記入してもらうことで受け取ることが出来るようにしている。

そして世帯ごとに定められた毎月の支払いは各所に設けた観晶石を組み込んだディシント鋼製のATMで行ってもらい、その際に保険証を更新する手法を取っている。

ステータスプレートは本人以外の魔力には反応しないため偽装は出来ないし、もし支払いを滞納していればすぐにステータスプレートに表示される仕組みになっている為、税金の滞納やなりすまし等といった行為も出来ない。

またATMを各所に作る傍らで、議会場や各省庁の拠点となる場所も作っていた。議会場は王宮の隣に作成しており、各省庁となる建物も王宮を囲むように各場所に配置されている。



当初、ヘクトルが国民に議会の設立や各省庁の設置を宣言した時はさすがに国民に混乱が一時見られた。

これまで神と崇めていた大地が自分達の国に関わらなくなることに大きな不安を覚えたのだろう。

しかし自分達で国の在り方を決めることが出来る仕組みや健康保険といった誰でも安価で治療を受けられる制度についてヘクトルから説明を聞くと、自ずと国民から賛同の声が挙がるようになっていった。

大多数住民達からの支持をもらったことで、議会と各省庁の運営に踏み出したヘクトル達は最初に健康保険証機能付きのステータスプレートの配布を行った。

しかし何十万にもなる住民達全てに渡すのは大変な時間が必要となり、混雑を避けるために住んでいる場所によって役所に来てもらう時間を設定し、一か月をかけて住民全員に健康保険機能の付いたステータスプレートを渡していた。

そしてその後に国民投票による選挙で議員の選抜を行った。

初めての試みということもあり興味を持った者達が多かったのだろう。

演説当日には議員候補を一目見ようと多くの住民達がその演説に参加していた。

議員候補の演説が終わる度に賛同や反対の声を挙がり、演説はもはや一種のお祭りのようになっていた。

そんなお祭り騒ぎとなった国民投票の結果、各ペンタゴンから二十五名ずつの計百名が選ばれ晴れて議会を開くこととなった。

ちなみに議員は獣人三十人に人間が七十人という内訳であった。

しかしこの初めて開かれた議会でさっそく大きな問題に直面してしまった。






「やはり人間と獣人が同じように扱われているのは許容できない! 即刻最初に掲げていた法律は撤廃するべきだ。」

「それはお前達がこの街に来てから間もないからそのような事が言えるのだ。実際に獣人は私達人間と何ら変わりない。それに彼らは帝国の襲撃からこの街を守ってくれた恩人でもあるのだぞ!」

元々の議題はこの国の雇用促進についてであった。

現在アースでは酪農、農業、鍛冶、研究といった部分が仕事の大部分を担っており、知識や技術の無い者が気軽に出来る仕事というものがあまり無かった。

その為、今回の議題ではそういった人達の仕事をどのように確保していくかという案を各ペンタゴンの議員達で考え、議会の場でその案について話し合うという話であったのだが。

一人の議員が獣人と人間が同じ雇用対象だということに異論を唱えたことから、全く別方向に話が進んでしまっていた。

主に獣人と人間を区別するべきだと考えているのはシャマールとユークから来た人達が住んでいる第四ペンタゴンの議員達であった。

そしてそれに猛反発しているのはペンタゴン建築当初からいるマルタの住民からなる中央ペンタゴン改め第一ペンタゴンの議員達だった。

はぁ・・・・やっぱり一朝一夕でどうにかなるもんでもないよな。

もはや収拾がつかない状況となった議会を姿を隠し、遠目から見て頭を抱える大地。

しかしアースを立憲君主制の国にしようとしている大地はこの議会に口を出すことは出来ない。

もし大地が口を出せば議員達はそれに従うだろう。しかしそれをしてしまえば最早アースという国は民主主義ではなくなってしまう。

大地が議会の混乱を苦々しい顔で見ていると、ヘクトルが口論している議員達に声を張り上げる。

「静かにせんかい! ここは民の為に然るべき議論を交わす場所だろう。意味の無いことに時間を使うようなら出て行ってもらうぞ。」

中央に座るヘクトルの怒気混じりの声にそれまで声を荒げていた議員達が一斉に黙る。

「議員とはその国の民の為に働く者のことだ。自身の思いをただぶちまけるところでは断じてない。もし次、議論を捻じ曲げるようなことがあればその者には議会を出て行ってもらう。」

さすがヘクトルさん。これなら俺も安心して見ていられるな。

大地は議員を黙らせたヘクトルに感嘆していると、第四ペンタゴンの議員が小さく口を開いた。

「しかし総理。やはり獣人と人間を同じ扱いをするというのはあまりにも常識から逸脱している行為ではないでしょうか? 私達はその前提がある限り議論を進めることは出来ません。」

「ふう。わかった。ではまずは獣人と人間の関係についての議論を進めるとしよう。ではまず聞きたいのだが、皆の中で『種族による差別または差別から生まれる行為を一切禁止する
』という法律について反対の者は何人いる?」

ヘクトルから促され手を挙げる議員達。

手を挙げたのは第四ペンタゴンの二十人、ヘイデンが連れてきたノルヴェスの住民からなる第二ペンタゴンの議員が十人、そしてミッテの住民からなる第三ペンタゴンの議員が五人の計四十人であった。

「そうかでは手を挙げた者達に聞きたいのだが、その法案を排除することで我が国にどのようなメリットがある? 誰か答えてくれ。」

「それは・・・」

ヘクトルの問いに押し黙ったようになってしまう反対派の議員達。

「メリットとかいう話ではなく、倫理観の問題なのでは。」

すると議論を中断するきっかけを作った議員の一人が小さく反論するように呟いた。

「倫理観か。つまり獣人は忌むべき者だという考えが正しいと思っているということか。」

「実際に私達は獣人は忌むべき者だと教わってきました。」

「では一つ聞きたいのだが、その忌むべき存在である獣人に君達は何かされたのか? 大事な物でも盗られたのか? 愛する人を殺されたのか? 今手を挙げた者達の中でそのような経験がある者は手を上げよ。」

ヘクトルの問いに手を上げた者はいなかった。唯一反論していた議員もさすがにもう言葉が出ないのか悔しそうに顔をしかめている。

「君達議員が昔から獣人を忌むべき存在だと教えられて育ったのは良く知っている。私もその一人だ。しかし一度そういった偏見を無くして獣人達と関わってみてくれないか。それでも君達が獣人は忌むべき存在だと言い張るのであれば、再度この法律について議論を交わそうではないか。君達議員は国の中枢を担うとても責任のある存在だ。そんな君達には人から聞いたことだけではなく自分達の目や耳で実際に感じたことも大事にしてほしいと思っている。とりあえず今回はこれくらいでいいかな?」

反対派の議員達は静かに語りながらも覇気のようなものを纏ったヘクトルにそれ以上言葉を返すことはなく、静かに首を縦に振った。

その後正常となった議会では再び雇用確保について議論が行われた。

しかし雇用問題に対しての有効と思える案がその議会で出ることはなく、結局、打開策が生まれることのないままその日の議会は閉会した。






コンコンッ

「どうぞ。」

「今日は大変そうだったなヘクトルさん。」

「大地さんか。やっぱり中々上手くはいかないみたいだ。結局明確な指針を示すことなく議会も終わってしまった。」

議会が終わった後、大地は首相室にいたヘクトルを訪ねていた。

この一日で相当疲れたのだろう。ヘクトルの顔は心なしかやつれているように見えた。

大地はそんなヘクトルの目の前に多数の和菓子と温かいお茶を再現すると、それを机の上に並べていく。

「疲れた時は甘いものというのが相場だ。良かったら食べてくれ。」

「ありがとう。・・・・これは美味いな。これはなんていう食べ物だ?」

「これは日本を代表する和菓子、大福だ。」

「ほう日本のお菓子か。なんと上品な甘さだ。それにこの外側も生地もほどよい弾力で心地よい。」

ヘクトルは出された和菓子をあっという間に平らげると、少し考えこんだ後に急に閃いたように大地に両肩を持つ。

「大地さん! そうだ! 制度や法律等だけでなく文化も日本を参考にすれば良いのだ!」

「どっどうしたヘクトルさん!?」

両肩をがっしりと掴まれて前後に揺さぶられる大地。大地が必死に声をかけるが、興奮状態のヘクトルの耳には届いていない。

大地はその後我に返ったヘクトルに開放されたが、数分間前後に揺さぶられたことで少し気持ち悪くなった大地は首相室にあるソファにへたり込む。

「すまない大地さん。年甲斐もなく興奮してしまった。」

「いやそれは良いんだが。何か閃いたのか?」

「あぁそのことで大地さんに少し協力してもらいたいのだが良いか?」

「直接的なものでなければいくらでも協力させてもらうよ。」

「そうか。実はな・・・・」

「ほう。確かに面白そうな話だな。俺のお任せで大丈夫なのか?」

「あぁそれは大地さんに任せたい。」

「わかった。明日の議会上手くいくといいな。」

「きっと上手くいくはずだ。」

その後、二人は明日に向けて簡単な打ち合わせを行った後、首相室から出て行った。
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