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国始動編

第100話 国の骨格

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大地が大臣の任命や議会の設立をみんなに告げてから一週間。

大臣に任命された者達は毎日忙しく動きまわっていた。

そんな中、総理に任命されたヘクトルは長い領主歴を活かして、議会設立の為の議員の人数の設定や、各大臣の元で働く官僚の公募等、必要な仕事を次々とこなしていた。

ヘクトルが手際よく物事を進める一方なかなか大臣の仕事を理解出来ていないのが若干二名存在した。

それは厚生労働大臣に任命された犬斗と防衛大臣に任命されたガランであった。

確かに福利厚生や労働問題を担う厚生労働大臣は難しい役職である。それにいくら日本の知識を持っているからとはいえ元々頭の弱い犬斗にそんな難しいことをこなせるわけはない。

また防衛大臣に任命されたガランも日本でいう警察組織と自衛隊をごっちゃにした組織の長になってしまっていた。

これほど大きな組織の長などしたことないガランは物事を難しく考えすぎてしまい、動くに動けなくなっていた。

そんな二人は今日も大地に助けを乞うように王室に来ていた。

「お前らな・・・王である俺が介入しすぎたら民主主義じゃなくなるって言っただろ?」

「いやそうは言いましても福利厚生とか労働の基盤作りとか僕には難しすぎて無理なんですよ!」

「そうだ! いきなり大臣になれって言われてこっちも混乱してるんだよ!」

二人は駄々っ子の様に大地に迫っていく。

「わかった。とりあえずガランはまずは目的別に隊を分けろ。例えば軍として運用する部隊と違法者を取り締まる部隊とかにな。そしてその二つの部隊の長をマヒアとケンプフにやらせればいい。本来であれば文民統制を図るべきなんだがガランなら大丈夫だろう。それは後々考えればいいか。」

「おっおい。文民統制ってのは何だ?」

「いや今は気にしなくていい。」

文民統制に食いついてきたガランに少し焦りを見せる大地。もし文民統制の事をガランに知ればすぐに喜んで大臣の座を降りると言い出すだろう。

この世界において軍務を預かる防衛大臣は国の中でも大きな力を持つ。

もし良く分からない者にその役職を任せクーデターでも起こされたらたまったものではない。

それなら軍人でありながらも大地が信頼を寄せることが出来るガランに任せた方が安心である。

大地はガランに聖騎士団の統制をどうやったらとりやすいのかマヒアとケンプフ達と話し合うように助言を行った。

ガランは大地の隠した文民統制の意味を知ろうと何度か質問してくるが、それを全てスルーする大地。

ガランもそのうち大地から聞き出すことを諦め、一言お礼を述べると王室を出て行った。

「大地さん。僕はどうすればいいですか?」

「まぁ我ながらお前に無茶な要求したとは思っているからな。少し助けてやるか。」

「ありがとうございます!」

「とりあえず福利厚生だがまずは健康保険の制度を作ること始めてくれ。」

「あぁでもそんな制度作って大丈夫なんですか? 実際日本もそれで財源を確保するのに苦労してますよね?」

「そりゃ日本じゃ魔法なんて存在しないからな。でもこの世界なら無理なく運用出来るだろう。仮に光魔法を使える者が居なくてもアースにはリリス特性のポーションがある。薬草畑に関しても俺のプログラミングした苗があるからかなり低予算でポーション作成出来ているしな。」

「じゃあそれに関してヘクトルさんやヘイデンさん達と相談しながらになりますね。」

「そうだな。とりあえず最初の財源はヘクトルやヘイデンが領地から持ってきた物を使えばいい。その財源を使って仕組みを整えればいいだろう。それに金銭が足りないならば必要な分を作ればいいしな。」

「つくづくそのアウトプットは卑怯なスキルですよね。」

「後今度からわからないことがあればヘクトルさんに聞け。あの人多分日本人の俺達より日本の政治に詳しいぞ。」

「え!? 流石にそんなことはないんじゃないですか?」

「いやマジだよ。正直日本政治オタクといっても良いぐらいだろうよ。」

「それは心強いですね・・・」

犬斗は大地から助言をもらうと早速ヘクトル達に相談すると言って、王室を後にした。

その後も続々と大地の元に相談しにくる大臣達。

いやだから毎回俺に確認しに来たら民主主義の意味が・・・

大地はその度に本当にアースが民主主義の国になっていくのか心配になってくるのであった。







その後、ヘクトルの指揮の元、公募により集まった者達の面接が始まった。

今回公募したのは法務、財務、厚生労働省の職員に、議会設立の為の議員の四つであった。

文部科学省と農林水産省はひとまずゼーレやリリスの元にいた者達をそのまま雇用する形にしたらしい。

また防衛省となる聖騎士団も充分な人数が現在の段階でいるということで、兵士は随時募集という形にしていた。


大地の身近で働けるというガセ情報が何処からか出たことで、公募者は当初予定していた人数より大幅に多くなってしまい、それを一日がかりで面接していったヘクトル達。

全ての公募者の面接が終わった時にはすでに日が暮れていた。




会議室にてぐったりと机に伏せているのはヘクトル、ヘイデン、レイのご老体達。

ヘクトル達を手伝っていた他大臣やルルやフィア達等の主要メンバーも疲れた様子を見せていた。

「みんなお疲れ様。」

みんなが椅子に項垂れていると、大地が差し入れを持って会議室に入ってきた。

大地はみんなの目の前にその差し入れを並べていく。

「食事する暇もなかっただろう。簡単な物だが食べてくれ。」

会議室のテーブルにはハンバーガーにポテトにドリンクが並べられていた。

「私のだけ中身が違うんだが?」

マヒアが包みを広げて大地に見せてくる。

「マヒアは魚が好きなんだろ? 昔ガランに食べさせてやった時にマヒアにも食わせてやりたいって言ってたのを思い出してな。」

マヒアの隣でハンバーガーにかぶりついていたガランが盛大に噴き出す。

「ガラン汚いよぉ!」

「焦って食べるから噴き出すんですよ。」

年下のフィアとゼーレに怒られながら、横目で大地にジト目を向けるガラン。

「そうか。ガランが。」

マヒアは特に気にする様子もなくフィッシュバーガーにかぶりつくと満足そうに笑みを浮かべる。

『急に攻撃してくるのはやめてくれないか?』

『俺はただ事実を述べただけだがな。』

ガランはその後もジト目を大地に向けながらハンバーガーにかぶりつく。

他の者達も昼から食べる暇がなかった事もあり、あっという間にハンバーガーを平らげた。

食事を終えてお腹も落ち着いた頃、ヘクトルが大地に近況報告を始める。

「大地殿。今回の面接である程度素質のあるものの選別を済ませることが出来た。後は選別した者達に演説を行ってもらい国民投票という形をとって議員を選抜していきたい。後犬斗殿からの相談であった健康保険というものについてだが、今考えている税率や保険料で充分賄えそうだ。しかし一つ問題があってな。」

「どうした?」

「保険料というものを払っている者とそうでない者の区別をどうすればよいかと考えておってな。日本のように給与から天引きされる形をとっても良いのだが、そうなるとその情報を処理する為の人手が必要になり、現段階で考えている人手では足りない。それにペンタゴンの住民である証の住民票という物も作成せねばならん。そうでないと外から来た者との区別がつかない。」

「う~ん区別か。住民票も保険も一律に出来る方法があれば良いのだが。」

大地が悩んでいると犬斗がすっと片手を上げる。

「どうした犬斗?」

「その問題が解決できるかわかんないですけど、冒険者ギルドで配っているステータスプレートを上手く活用出来ないですかね?」

犬斗の提案に大地とヘクトルは黙り込む。

「あれ? また僕変なこと言っちゃいましたか?」

黙り込む二人を見て犬斗が焦り出した時、二人は同じタイミングで頷きだした。

「いや。その考え名案かもしれん。」

「やはり大地殿もそう思いますか。」

「え? 自分で言っといてなんですがそんなこと可能なんですか?」

「やって見ないことにはわからないが出来る可能性は高いぞ。この件に関して俺が何とかしてみる。犬斗は引き続きヘクトルさん達と話し合いながら中身を詰めていってくれ。」

大地は健康保険、住民票に関しては持ち帰って考える意向を示すと、他の部門に関する進み具合について報告をもらう。

農林水産省と文部科学省に関してはこれまでやってきたことの延長線上ということもありスムーズに進んでいるとのことであった。

財務省と法務省も取りまとめる役がヘイデンとレイということもあり、今のところ大きな問題も起きておらず、大方予定通りらしい。

防衛省もようやくガランがこれまでとやることに変わりがないことに気付いてくれたおかげで、なんとかまとまりそうな様子だった。

「初めての取り組みで難しい部分もあるだろうが、後少しで国の骨格を作り上げることが出来る。もう少しの間頑張ってくれ。」

大地の言葉に大きく頷いたヘクトル達はその後も国の骨格作りの為に懸命に励むのであった。
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