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国始動編
第98話 シャマール(2)
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「ヘイル様! ボルス様! 早く逃げて下さい!」
一人の兵士が領主室の扉を乱暴に開ける。
「一体どうしたというんだ!」
「それが急に一人の黒髪の男が領主館に襲撃を。」
「たった一人ならばさっさと殺してしまえばいいだろうが!」
「それがその男は恐ろしく強く、領主館の警備をしていた者達はほぼ全滅したようです。それに既に領主館の前まで来ております。急いでここから――――」
兵士が必死に領主館からの退却を進言していると、銃弾がその兵士の側頭部を貫いた。
力なく両膝を着き動かなくなる兵士。
「おい! どうした!」
ヘイルが動かなくなった兵士に声をかけていると、通路から大地が姿を見せる。
「おいおい。タイミング良すぎだろ。ヘイルとボルスって銀次郎さんの話に出て来た路地裏放火の黒幕じゃねえかよ。」
大地は少し驚いた表情を見せながら、長い月日により老人となっているヘイルとボルスの顔を見つめる。
「おっお前は誰だ! 領主館を攻めるなんて一体どういうつもりだ!」
「今シャマールに領主はいないだろうが。まぁ領主がいないことを良い事に好き勝手やってる奴らはいるみたいだがな。」
「うるさい!」
「ヘイル落ち着け。」
狼狽えるヘイルを制止するボルス。
ボルスは大地を観察するような目で見つめた後、ニヤッと笑みを浮かべた後に大地にある提案をしようと名前を聞きだす。
「君の名前は?」
「俺の名前? 大地だ。それよりさっき兵士が叫んでいたがお前達がヘイルとボルスか?」
「はて? 君とは今会ったばかりだと思っていたが。」
「あぁそうじゃねえよ。お前達と俺は初対面だ。俺がお前を知っているのはヘクトルさんから話を聞いていたからだ。」
「何!? ヘクトルだと。あいつは処刑されたのではなかったのか!?」
「処刑される予定だったみたいだが、色々あって牢屋にずっといたみたいだぞ。」
「そんな馬鹿な。それではあの時の苦労が意味を為さないではないか。」
大地からヘクトルが生きていると聞き、顔を大きく歪ませるボルス。
しかし目の前の大地の姿を見て、ふと我に返ると大地にある提案を持ちかける。
「まぁいい。話は変わるが大地。君は私に仕える気はないかね?」
「はぁ何言ってんだ?」
「まぁまぁ。私の話を聞いてくれ。今トームは戦争によって国力を著しく低下させただけではなく、オステンやクンプトといった領地までも既に帝国に奪われてしまった。このままではトームに未来はないであろう。その為私達は近々帝国に降ろうと思っている。君はヘクトルに言われて私達を殺しに来たのだろう? あの男に仕えるのはやめておいた方が良い。あの男は汚らしい獣人をも民として扱う異端児だ。いずれ帝国に滅ぼされてしまうであろう。君のような猛者をみすみす死地へと送りたくないのだよ。」
盛大な勘違いをしていることに気付かないまま大地に部下になれと勧めてくるボルス。
大地はそんなボルスに怪訝そうな顔を見せながら、この際その勘違いを利用してやろうとヘクトルが牢屋に投獄された経緯についてボルスに聞いた。
「そんなことが気になるのか? まぁいい。この話を聞けばいかにヘクトルが愚かだったかわかるであろう。」
ボルスは既に大地がこちら側に付くのだと思い込み、まるで武勇伝を語るかのように当時の話を始めた。
路地裏放火の事件の後、シャマールに落ち延びたヘイルとボルスはその後偽名を名乗りながらミッテと同じようにシャマールでも財政管理の仕事に就くことが出来ていた。
元々ミッテで財政管理の責任者をしていた二人にとってミッテより規模の劣るシャマールでの財政管理の仕事は容易く、五年が経つ頃にはシャマールの財政を握る権力者となっていた。
シャマールにて何不自由なく暮らせていた二人はヘクトルに対しての憎悪もその頃には薄れてきていた。
しかし仕事の関係で訪れた時にふと見たミッテの路地裏の様相に二人は度肝を抜かれることになった。
あれだけ荒れ果てていた路地裏は表通りと変わらぬ活気を見せており、獣人達による市場や小料理屋まであったのだ。
その光景を見た時、薄れかけていたヘクトルへの憎悪が沸々と再度沸き立ってきた。
路地裏をこれだけするのにどれだけの金額が掛かった?
その金は何処から捻出した?
人間達が稼いだ金を獣人に貢ぐなど何を考えている?
このままでは獣人にミッテが乗っ取られてしまう。
その光景を見たヘイルとボルスはその後、危険な思想を持つヘクトルを領主の立場から降ろすという一点だけの為に長い年月をかけて裏工作を行った。
獣人を一人捕まえシャマール領主等の他の領主の前で偽の証言をさせたり、ミッテに内通者を作り、その内通者にヘクトルがあたかも獣人と共にトームの乗っ取りを図っていると匂わせる文書を作らせたり。
様々な方法を用いて十年以上に渡る年月の間他の領主を説得した結果、とうとう領主会談によってヘクトルの領主の地位を剥奪し、然るべき時に処刑を行うことが決まった。
こうしてヘイルとボルスはヘクトルへの復讐を果たしていた。
当時を思い出し、恍惚とした表情を浮かべるボルス。
よく見ると後ろのヘイルも当時を思い出しているのだろう。満足気な顔を見せていた。
「どうだヘクトルがいかに危ない思想を持っているかわかったか?」
「あぁ良くわかったよ。」
あぁ良くわかった。お前らのせいで銀次郎さんの意志が踏みにじられたことがな。
「お前らさ。銀次郎さんって覚えているか?」
「銀次郎・・・あぁあのイカれた鍛冶師か。あの鍛冶師がヘクトルに変なことを吹き込まなければ、領主の地位を剥奪されることもなかったかもしれん。そう考えるとヘクトルもある意味あの鍛冶師の犠牲者ともいえるな。」
「俺は銀次郎さんに出会ったことがないからこれは推測でしかないんだが、あの人はただ身近にいる人達に幸せになって欲しかっただけなんだろうよ。」
「急に何を言っている?」
大地は顔をうつむかせながらゆっくりとボルスに歩み寄る。
「だから力を隠し、ただみんなの生活に役立つ物を作っていたんだろうな。」
「だから何を・・・」
ボルスの目の前に立った大地はボルスの額に銃口を当てる。
出来ることなら俺も一度会いたかった。
そしてヘクトルさんと同じように色々教わりたかった。
「これは一体・・・?」
得体の知れない物を額に当てられたボルスは恐怖で顔が引きつっていく。
「お前達がいなければミッテ・・・いやこの世界はまだマシになっていたかもしれないな。」
「だから何を言っているのだぁ!」
ボルスが大地に叫んだ瞬間、乾いた銃声が鳴り響いたのと同時にボルスの身体が跳ね上がった。
そのまま床に倒れて動かなくなるボルス。
「おっおっお前。ボルスに何をした!」
後ろで見ていたヘイルは尻餅をつき恐怖で顔をグシャグシャにしている。
無言のままヘイルに近寄っていく大地。
「来るな来るなぁ!」
その後領主館に一発の乾いた銃声が響いた。
領主館から出た大地はコピー体が兵士達を駆逐したことを確認すると、街の入口まで戻って来ていた。
大地は聖騎士団を入口まで呼び寄せ、護送の準備に取り掛からせる。
コピー体を通じて全体の様子を見ていた大地は住人が街の外側に集中していることに気付いていた。
大地はコピー体に街の外側の至るところにスピーカーを装着させると、そのスピーカーと連動させているマイクに向かって住民達に呼びかける。
「みなさん。この街を牛耳っていたヘイルとボルスそして兵士達は私達が撃退しました。これから私達は自分達の国に帰ります。もし私達に付いて来たい人達がいれば種族は問いません。正門前まで集まって下さい。」
街中に大地の声が響き渡る。
すると街の潜んでいた住民達が続々と姿を現した。
しかし急に現れた大地達のことを信用出来ない住民達はオドオドとした様子を見せていた。
それでも正門まで来たということは世紀末と化した街にいても生活出来ないと思っているのだろう。
大地はそんな住民達に警戒心を持たれないように注意しながらバスについての簡単な説明を行った後、慣れた様子で住民達に乗車を促していく。
「よし。とりあえずトームの住民の避難はこれで終わりか。後は国作りだな。」
大地は小さく呟くとバスに乗り、アースに向けて出発した。
一人の兵士が領主室の扉を乱暴に開ける。
「一体どうしたというんだ!」
「それが急に一人の黒髪の男が領主館に襲撃を。」
「たった一人ならばさっさと殺してしまえばいいだろうが!」
「それがその男は恐ろしく強く、領主館の警備をしていた者達はほぼ全滅したようです。それに既に領主館の前まで来ております。急いでここから――――」
兵士が必死に領主館からの退却を進言していると、銃弾がその兵士の側頭部を貫いた。
力なく両膝を着き動かなくなる兵士。
「おい! どうした!」
ヘイルが動かなくなった兵士に声をかけていると、通路から大地が姿を見せる。
「おいおい。タイミング良すぎだろ。ヘイルとボルスって銀次郎さんの話に出て来た路地裏放火の黒幕じゃねえかよ。」
大地は少し驚いた表情を見せながら、長い月日により老人となっているヘイルとボルスの顔を見つめる。
「おっお前は誰だ! 領主館を攻めるなんて一体どういうつもりだ!」
「今シャマールに領主はいないだろうが。まぁ領主がいないことを良い事に好き勝手やってる奴らはいるみたいだがな。」
「うるさい!」
「ヘイル落ち着け。」
狼狽えるヘイルを制止するボルス。
ボルスは大地を観察するような目で見つめた後、ニヤッと笑みを浮かべた後に大地にある提案をしようと名前を聞きだす。
「君の名前は?」
「俺の名前? 大地だ。それよりさっき兵士が叫んでいたがお前達がヘイルとボルスか?」
「はて? 君とは今会ったばかりだと思っていたが。」
「あぁそうじゃねえよ。お前達と俺は初対面だ。俺がお前を知っているのはヘクトルさんから話を聞いていたからだ。」
「何!? ヘクトルだと。あいつは処刑されたのではなかったのか!?」
「処刑される予定だったみたいだが、色々あって牢屋にずっといたみたいだぞ。」
「そんな馬鹿な。それではあの時の苦労が意味を為さないではないか。」
大地からヘクトルが生きていると聞き、顔を大きく歪ませるボルス。
しかし目の前の大地の姿を見て、ふと我に返ると大地にある提案を持ちかける。
「まぁいい。話は変わるが大地。君は私に仕える気はないかね?」
「はぁ何言ってんだ?」
「まぁまぁ。私の話を聞いてくれ。今トームは戦争によって国力を著しく低下させただけではなく、オステンやクンプトといった領地までも既に帝国に奪われてしまった。このままではトームに未来はないであろう。その為私達は近々帝国に降ろうと思っている。君はヘクトルに言われて私達を殺しに来たのだろう? あの男に仕えるのはやめておいた方が良い。あの男は汚らしい獣人をも民として扱う異端児だ。いずれ帝国に滅ぼされてしまうであろう。君のような猛者をみすみす死地へと送りたくないのだよ。」
盛大な勘違いをしていることに気付かないまま大地に部下になれと勧めてくるボルス。
大地はそんなボルスに怪訝そうな顔を見せながら、この際その勘違いを利用してやろうとヘクトルが牢屋に投獄された経緯についてボルスに聞いた。
「そんなことが気になるのか? まぁいい。この話を聞けばいかにヘクトルが愚かだったかわかるであろう。」
ボルスは既に大地がこちら側に付くのだと思い込み、まるで武勇伝を語るかのように当時の話を始めた。
路地裏放火の事件の後、シャマールに落ち延びたヘイルとボルスはその後偽名を名乗りながらミッテと同じようにシャマールでも財政管理の仕事に就くことが出来ていた。
元々ミッテで財政管理の責任者をしていた二人にとってミッテより規模の劣るシャマールでの財政管理の仕事は容易く、五年が経つ頃にはシャマールの財政を握る権力者となっていた。
シャマールにて何不自由なく暮らせていた二人はヘクトルに対しての憎悪もその頃には薄れてきていた。
しかし仕事の関係で訪れた時にふと見たミッテの路地裏の様相に二人は度肝を抜かれることになった。
あれだけ荒れ果てていた路地裏は表通りと変わらぬ活気を見せており、獣人達による市場や小料理屋まであったのだ。
その光景を見た時、薄れかけていたヘクトルへの憎悪が沸々と再度沸き立ってきた。
路地裏をこれだけするのにどれだけの金額が掛かった?
その金は何処から捻出した?
人間達が稼いだ金を獣人に貢ぐなど何を考えている?
このままでは獣人にミッテが乗っ取られてしまう。
その光景を見たヘイルとボルスはその後、危険な思想を持つヘクトルを領主の立場から降ろすという一点だけの為に長い年月をかけて裏工作を行った。
獣人を一人捕まえシャマール領主等の他の領主の前で偽の証言をさせたり、ミッテに内通者を作り、その内通者にヘクトルがあたかも獣人と共にトームの乗っ取りを図っていると匂わせる文書を作らせたり。
様々な方法を用いて十年以上に渡る年月の間他の領主を説得した結果、とうとう領主会談によってヘクトルの領主の地位を剥奪し、然るべき時に処刑を行うことが決まった。
こうしてヘイルとボルスはヘクトルへの復讐を果たしていた。
当時を思い出し、恍惚とした表情を浮かべるボルス。
よく見ると後ろのヘイルも当時を思い出しているのだろう。満足気な顔を見せていた。
「どうだヘクトルがいかに危ない思想を持っているかわかったか?」
「あぁ良くわかったよ。」
あぁ良くわかった。お前らのせいで銀次郎さんの意志が踏みにじられたことがな。
「お前らさ。銀次郎さんって覚えているか?」
「銀次郎・・・あぁあのイカれた鍛冶師か。あの鍛冶師がヘクトルに変なことを吹き込まなければ、領主の地位を剥奪されることもなかったかもしれん。そう考えるとヘクトルもある意味あの鍛冶師の犠牲者ともいえるな。」
「俺は銀次郎さんに出会ったことがないからこれは推測でしかないんだが、あの人はただ身近にいる人達に幸せになって欲しかっただけなんだろうよ。」
「急に何を言っている?」
大地は顔をうつむかせながらゆっくりとボルスに歩み寄る。
「だから力を隠し、ただみんなの生活に役立つ物を作っていたんだろうな。」
「だから何を・・・」
ボルスの目の前に立った大地はボルスの額に銃口を当てる。
出来ることなら俺も一度会いたかった。
そしてヘクトルさんと同じように色々教わりたかった。
「これは一体・・・?」
得体の知れない物を額に当てられたボルスは恐怖で顔が引きつっていく。
「お前達がいなければミッテ・・・いやこの世界はまだマシになっていたかもしれないな。」
「だから何を言っているのだぁ!」
ボルスが大地に叫んだ瞬間、乾いた銃声が鳴り響いたのと同時にボルスの身体が跳ね上がった。
そのまま床に倒れて動かなくなるボルス。
「おっおっお前。ボルスに何をした!」
後ろで見ていたヘイルは尻餅をつき恐怖で顔をグシャグシャにしている。
無言のままヘイルに近寄っていく大地。
「来るな来るなぁ!」
その後領主館に一発の乾いた銃声が響いた。
領主館から出た大地はコピー体が兵士達を駆逐したことを確認すると、街の入口まで戻って来ていた。
大地は聖騎士団を入口まで呼び寄せ、護送の準備に取り掛からせる。
コピー体を通じて全体の様子を見ていた大地は住人が街の外側に集中していることに気付いていた。
大地はコピー体に街の外側の至るところにスピーカーを装着させると、そのスピーカーと連動させているマイクに向かって住民達に呼びかける。
「みなさん。この街を牛耳っていたヘイルとボルスそして兵士達は私達が撃退しました。これから私達は自分達の国に帰ります。もし私達に付いて来たい人達がいれば種族は問いません。正門前まで集まって下さい。」
街中に大地の声が響き渡る。
すると街の潜んでいた住民達が続々と姿を現した。
しかし急に現れた大地達のことを信用出来ない住民達はオドオドとした様子を見せていた。
それでも正門まで来たということは世紀末と化した街にいても生活出来ないと思っているのだろう。
大地はそんな住民達に警戒心を持たれないように注意しながらバスについての簡単な説明を行った後、慣れた様子で住民達に乗車を促していく。
「よし。とりあえずトームの住民の避難はこれで終わりか。後は国作りだな。」
大地は小さく呟くとバスに乗り、アースに向けて出発した。
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