創造神で破壊神な俺がケモミミを救う

てん

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国始動編

第90話 ヘクトルの過去

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「そうか。」

静けさに包まれる領主室に大地の言葉が響く。

犬斗はいまだに三人目の異世界人が亡くなっているという事実を受け入れることが出来ていない様だ。

「期待させてしまったなら申し訳ない。」

「いやいいんだ。こいつが勝手に期待して落胆しているだけだからな。」

「大地さんそんな言い方はないんじゃないですか! 僕は何年も一人で日本に帰る方法を探していたんですよ。少しは僕の気持ちも察して下さいよ!」

「亡くなっていたら全て意味ないとでもいうつもりか?」

「どういう意味ですか・・・?」

犬斗は怪訝そうな顔しながら大地を睨む。

大地は後頭部に視線を感じながらも、それを無視して話を進める。

「ヘクトルさん。その俺達と同じ異世界から来た人について教えてくれないか?」

「その程度でいいならお話しするが。」

「なら頼む。」


大地に促されたヘクトルはその異世界から来た人と初めて出会った時の話を始めた。











まだヘクトルが十六歳と若く、ヘクトルの父親がミッテの領主をしていた頃、何処からともなく現れたその人物は中央通りから少し外れた裏路地でひっそりと包丁等の調理道具やハサミなどの文房具を売る店を開いていた。

その人物は銀次郎という初老の男だった。

銀次郎が作った包丁はどんなに硬い根菜類でも少し力を入れただけで切れてしまい、逆に少しの力で潰れてしまうような熟した果実も潰すことなく切ることが出来る代物であった。

そんな包丁を作る銀次郎の店の評判は瞬く間にミッテ中に広がっていった。


当時、トームは派閥争いの真っ只中にあった。

その評判を聞いたミッテ領主であるヘクトルの父は銀次郎の技術を用いれば強力な武器を作れると考え、ヘクトルに近衛兵を付けて使いに出し、銀次郎にミッテの為に武器を作るように要請を出していた。

裏路地に構える小さい店で黙々と金属を打つ銀次郎。

店に着いたヘクトルはそんな銀次郎に躊躇なく話しかける。

「おい。あなたが銀次郎という者か。」

「なんだ。」

銀次郎は振り返ることなく金属を打ち続ける。

「私はミッテ領主の息子であるヘクトルという者だ。あなたのその鍛冶の腕を見込んで依頼したいことがある。」

「もし武器や防具を作れっていうんなら俺はお断りだぞ。」

「金銭ならあなたの言い値で払う。今のトームは派閥争いが激化している。トームに安定をもたらすには大きな力が必要になるのだ。あなたが武器を作ることでこのトームに正しい秩序が戻ることになる。国の民の為にお願い出来ないだろうか?」

ヘクトルが必死に銀次郎の説得を試みていると、店の入り口に小さい獣人の子供が現れた。

「おじさん! お母さんがあの包丁凄いよく切れるって喜んでたよ!」

「そうかい。そりゃ良かった。今日は何の用だい?」

銀次郎は獣人の子が店に入ってくると、ヘクトルとのやり取りを後回しにしてその獣人の子の元へと歩み寄る。

「私もお母さんの手伝いをしたくて。私でも使える包丁はない?」

「お母さんの手伝いをしようだなんてお利口さんじゃないか。それならこれなんてどうだ?」

銀次郎は壁にかけている包丁の中から一際小さな果物ナイフをその獣人の子に渡す。

「これなら間違って手を切る危険も少ないと思うんだが。」

「これなら軽いし私でも使えるよ! おじさんこれいくら?」

「それは店に置いていても全く売れない不良品だからな。お代はいらねぇよ。そのかわり使い心地を時々教えてくれ。そしたら今度はもっと使いやすい包丁を作ってやる。」

「本当にいいの? 前の包丁も干からびて売り物にならない野菜と交換してくれたのに。」

「いいってことよ。あの野菜見た目は悪かったが味は美味しかったからな。また買いに行かせてもらうからその時教えてくれ。」

「うん! わかった! おじさんありがとう!」

獣人の子は深々と頭を下げるとそのまま走りながら店の外へと出て行った。

「刃物持ってるんだ。気を付けて帰るんだよ!」

「はぁ~い!」

銀次郎は走りながら返事をする獣人の子を見て、やれやれと小さい笑みを見せた後、再び鍛冶仕事に取り掛かる。

そんな銀次郎の様子を見ていたヘクトルは領主の息子である自分を無視し、獣人の子を優先した銀次郎の行動が理解出来なかった。

「おい。この店は獣人にも商品を売っているのか?」

「はぁ? 獣人だろうと人間だろうとお客はお客だろうが。俺はこの国の人間みたいにつまらん自尊心は持ち合わせていないからな。」

「しかし獣人は忌むべき存在であろう! そんな獣人にそのような貴重な物を売るだけでなく、タダで渡すなど何を考えている!?」

「別に俺が作った物をどうしようが俺の勝手だろう。それにお前は獣人を忌むべき存在だと言っていたが、お母さんの手伝いをしたいと言っていた無垢なあの少女もお前の目には忌むべき対象として映っているっていうのか。もし心底そう思えるのなら本当に忌むべき存在なのは人間の方だろうが。」

領主の息子をお前呼ばわりするばかりか人間への侮辱ともとれる発言をした銀次郎に近衛兵が剣を差し向ける。

「お前達やめろ。私がこの人と話をしているんだ。」

ヘクトルが制止したことで近衛兵達は渋々ながら鞘に剣を収める。

殺気だった近衛兵を見たヘクトルはこのままでは交渉にならないと近衛兵に店の入り口に待機するように命じた。

「先程は私の兵がすまないことをした。」

「いやいい。この世界の人間はみんなあんな感じだろ。もう慣れたよ。」

銀次郎は特に気にする様子もなく金属を再びトンカチで打ちだす。

ヘクトルは他の人間とは違う雰囲気を漂わせる銀次郎に何故か興味が沸いてきていた。

「ひとつ聞いていいか? この世界ではどこの国でも獣人は忌むべき存在だと小さい時から教えられてきたはず。それなのに何故あなたは獣人とあのように接することが出来るのだ。」

「はっ! 所詮は良いとこのお坊ちゃまなんだな。人から聞いたことが全て真実だと本気で思っているのか。お前は一度でも偏見のない目で獣人達に触れ、話し、交流を持とうとしたのか?」

銀次郎はヘクトルに顔すら向けることなく金属を打ちながら話を続ける。

「生憎俺は自分の五感で感じたこと以外は信用しないたちでな。俺は一度だってお前達が言うように獣人が忌むべき存在だなんて思ったことはない。そしてそんなお前達に俺が武器や防具を作ることもない。俺が気に入らないならさっさと追い出せば良い。」

「そうか。しかしあなたの技術には目を見張るものがある。再度間を置いてまた来させてもらう。」

「けっ。好きにしろ。結果は変わらんと思うがな。」

結局銀次郎は一度もヘクトルの顔を見ることなく金属を打ち続けていた。

ヘクトルは店から出た後、銀次郎に武器製造の要請について拒否されたことを父親のミッテ領主に報告する。

「そうか断られたか。では仕方ない。無理やりにでも作らせるか。自身の命が懸かった状況であれば武器の製造もやってくれるであろう。」

ヘクトルの父親は銀次郎に強制的に武器製造を行わせようと近衛兵を呼び出した。

「お待ちください父上。銀次郎という者はかなり強情な男でございます。自身の信念を曲げるぐらいならば死も厭わないと思われます。」

「ではどうすれば良い? この激化する派閥争いにあってそやつの作る武器は必ずや大きな力となる。むしろ他の領地の手に渡るぐらいならいっそのこと殺しておいた方が良いではないか。」

「私に少し時間を頂けませんか? 必ずや銀次郎を味方に引き入れて見せます。」

「こんな状況なのだ、そんなには時間は無いと思え。」

ヘクトルはそのまま頭を下げると領主室を後にする。

あの人は他の人とは何かが違う。

理由はわからないがあの人は今後のミッテに必ず必要になる人だ。

次の日からヘクトルはその理由を探すように近衛兵も付けずに毎日銀次郎の店を訪れるようになった。
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