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国始動編
第89話 ヘクトル
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感動の再開を見届けた大地達はお互いに自己紹介をした後、情報交換を始める。
「まず一つ気になることがあるんだが聞いても良いか?」
「何でも聞いてくれ。」
「レイさんから聞いた話ではあんたは他の領主達にはめられて捕まったのだと聞いていた。そのあんたが何故今ミッテの領主館に?」
「レイ・・・? そうかレイも生きているのか。私がこのミッテで領主の真似事が出来ているのは後ろにいるカーン達のおかげだ。」
ヘクトルは自身があらぬ罪で捕まってから今に至るまでの経緯について大地達に説明し始めた。
元々ミッテの領主をしていたヘクトルはレイの話していた通り、他の領主達からの策略によって、獣人達を先導しトームを乗っ取ろうとした罪を被せられミッテの牢屋に投獄されていた。
本来は処刑される予定だったそうだが、ヘクトルは部下である兵士達や大臣などから厚い信頼を寄せられており、領地の民からも良き領主として絶大な支持を受けていた。
そのような状況でヘクトルの処刑をしてしまえば最悪兵士や民から反乱が起きてしまう可能性がある。
その為、他の領主達は仕方なくヘクトルを牢屋に投獄し続けていた。
牢屋にて長い時は過ごしてきたヘクトルであったが、昔からの部下達が密かにヘクトルの生活に不便が起きないように援助を行っていたこともあり、長い牢屋生活にありながら体力や気力を衰えることはなかったそうだ。
その後、西側と東側との戦争が始まりミッテの領主を含む西側の領主は全て死亡または失踪してしまった。
このまま領主不在の状況が続いてしまうとミッテや他の東側の領地が混乱してしまうと判断したミッテの重鎮達はヘクトルの元部下達の働きかけもあり、ヘクトルを牢屋から解放する決断した。
元々ヘクトルはミッテの民や部下であった兵士達から信用されていたこともあり、ヘクトルが領主の立場に復帰してもそれに対して抗議の声を挙げる者はいなかった。
こうして現在ヘクトルはミッテのみならず他の東側の領地の混乱を鎮めるために動いていた。
ヘクトルから話を聞いた大地はトームの領地にも民から信用される誠実な領主がいたのだと知り、ガルム達を思い出しながら領主にも様々いるのだとしみじみ思った。
ヘクトルから大体のあらましを聞いた大地は今度は自分達の情報をヘクトルに話していく。
大地はまず帝国と再度本格的な戦いが始まるのに備えて、帝国に対抗するための新しい国を作ったことや、その新たに作ったアース民主主義共和国は獣人や人間等の種族や貴族や平民といった身分に関係なく、お互いが尊重し合える関係を目指していることを説明する。
そしてもし東側の住民が望むならその国に全ての住民を受け入れるつもりがあることや、その為にこれから他の領地にまで出向くつもりであったこともヘクトルに伝えた。
ヘクトルは大地の説明を聞くと、悩む様子もなくミッテの住民の受け入れを大地に依頼してきた。
即決即断に驚いた大地であったが、元より獣人の為に特区まで作っていたヘクトルが大地の国の在り方に賛同しないわけがなかった。
それに帝国に近い東側の領地に居続ける危険性や、領主や半分の兵士を失った今のミッテにはこれまでのように東側の領地をまとめるような大きな力はない。
それならば帝国に勝利するほどの戦力を要する大地達について行った方が安全である。
ヘクトルはやはり私利私欲に塗れた領主とは違い、状況に応じた判断が行える聡明な人であった。
「受け入れてくれるのはありがたいのだが、ミッテを含めて東側の領地にはまだ何十万という住民がいる。本当に受け入れることなど出来るのか?」
「それについては問題ない。いくらでも可能だ。それより他の領地は現在どうなっているんだ?」
ヘクトルはきっぱりと言い切る大地に驚きながらも、大地の質問である東側の領地の現在の状況について大地に伝える。
「東側の領地だが帝国に近いクンプトとオステンは既に帝国の領地と化しているそうだ。他の二つの領地であるシャマールとユークは領主が死んだと知ってからは兵士達が暴徒化しているらしくてな。ミッテが落ち着き次第様子を見に行こうと思っている。」
「それなら俺達が行こう。こんな状況じゃあんたはミッテに居た方が良い。シャマールとユークの事を片付けた後に再度ミッテに寄るから、それまでの間に移住についての説明を住民にしといてくれ。帝国がいつ動くかわからない以上は出来るだけ早く移住を完了させておきたいからな。」
「お前達だけで行くのか?」
「一応他にも騎士団の連中がいるが、暴徒化した兵士の制圧だけなら俺達四人だけで充分だろ。」
「いくら領主がいなくなって連携も何も取れていないとはいえ、シャマールとユーク合わせて約十万の兵士がいるのだぞ。それを四人だけで制圧するだなんて無理だろう。」
「いやむしろ犬斗一人でも出来ると思うが。」
不意を突かれた犬斗が後ろで「えっ?」と間抜けな声を出す。
「はっはっは! 冗談はよしてくれ。一人で十万の相手などそれこそ魔族でなければ無理な話であろう。」
「いや出来ると思うが。」
ヘクトルは最初大地が冗談か何かを言っているのだと笑っていたが、大地の言動からそれが冗談の類ではないことを察する。
「本当に・・・可能なのか・・?」
「だから出来るって言ってるだろ。」
後ろで犬斗が「やりませんからね」と呟きながら怪訝そうな顔でこちらを見ていたが、あえて気付いていないフリをする大地。
「君達は一体何者なんだ?」
「何者って言われてもなぁ・・・」
大地が自分が異世界から来た人間であることを話そうかと悩んでいると、何も考えていない犬斗が大地の代わりにヘクトルに答える。
「僕たちはこの世界ではないところから来た、いわゆる異世界人ってやつです!」
何勝手に答えてんだよこの犬頭は・・・
大地はこの馬鹿がと言わんばかりの冷めた目を犬斗に向ける。
犬斗は大地からの視線の意味に気付き、自分が言ってはいけないことを言ってしまったのだと理解すると、すかさずさっきの発言をごまかそうと必死に言い訳を考える。
しかし今回ばかりはこの犬斗の考えなしの行動が大地達に新しい情報をもたらすことになった。
「異世界人・・・? 今君は自分達が異世界人と言ったのか!?」
「いやそれは言葉の綾といいますか・・・なんといいますか・・・」
ヘクトルは異世界という言葉を聞いたと途端、興奮気味に席から立ち上がり犬斗に詰め寄ってくる。
犬斗は上手くごまかす方法が思い浮かばず、目で大地に助けを求めだした。
大地は小さいため息をつくと、ヘクトルの問いに答える。
「正確には俺と犬斗だけが異世界から来た。だから犬斗に詰め寄るのはやめてあげてくれ。犬斗が泣きそうになっている。」
「なってませんよ!」
大地の発言を聞いてふと我に返ったヘクトルは咳払いを一つするとゆっくりと席に着く。
「いやすまなかった。まさか君達も異世界から来た人間であったとは・・・」
「ちょっと待ってくれ。俺達以外にも異世界から来た人がいるのか?」
今度は大地が驚きのあまり席を立つ。
「そうだ。私が獣人特区を作り獣人差別を無くそうと思うようになったのは、その方の話や考えから感銘を受けたからだ。そしてその方はカーンの師匠でもあった。」
「その方はミッテにいるのですか!? もしそうならぜひ案内を!」
「もし可能ならば会わせてくれないか?」
大地と犬斗はヘクトルにその異世界から来た人物の元への案内を依頼する。
しかしヘクトルは大地達からその人物への案内をお願いされると、不甲斐なさそうに頭を下げ始めた。
「その方はもうここにはいないのだ。」
「いないって何処かに行ったのですか? それなら何処に行ったのかを教えて下さい。」
犬斗は日本への帰還の手がかりを持っているかもしれないその異世界人の居所を何としてでも聞こうと必死な形相を見せる。
しかしヘクトルや後ろのカーンの様子を見ていた大地はヘクトルの言っている本当の意味を理解すると残念そうに口を開いた。
「もう亡くなってるってことか・・・」
「そういうことだ。」
「そんな。死んでるってことですか・・・?」
「すまないが。もう何十年も前に亡くなっておる。」
犬斗はせっかく得た手がかりが無くなってしまったとばかりに唖然とした表情になる。
大地もヘクトルも犬斗の心情を察してか、神妙な顔つきで犬斗を見つめる。
せっかく見つけた三人目の異世界からきた人間。
しかしその三人目は無情にも既に亡くなっていた。
「まず一つ気になることがあるんだが聞いても良いか?」
「何でも聞いてくれ。」
「レイさんから聞いた話ではあんたは他の領主達にはめられて捕まったのだと聞いていた。そのあんたが何故今ミッテの領主館に?」
「レイ・・・? そうかレイも生きているのか。私がこのミッテで領主の真似事が出来ているのは後ろにいるカーン達のおかげだ。」
ヘクトルは自身があらぬ罪で捕まってから今に至るまでの経緯について大地達に説明し始めた。
元々ミッテの領主をしていたヘクトルはレイの話していた通り、他の領主達からの策略によって、獣人達を先導しトームを乗っ取ろうとした罪を被せられミッテの牢屋に投獄されていた。
本来は処刑される予定だったそうだが、ヘクトルは部下である兵士達や大臣などから厚い信頼を寄せられており、領地の民からも良き領主として絶大な支持を受けていた。
そのような状況でヘクトルの処刑をしてしまえば最悪兵士や民から反乱が起きてしまう可能性がある。
その為、他の領主達は仕方なくヘクトルを牢屋に投獄し続けていた。
牢屋にて長い時は過ごしてきたヘクトルであったが、昔からの部下達が密かにヘクトルの生活に不便が起きないように援助を行っていたこともあり、長い牢屋生活にありながら体力や気力を衰えることはなかったそうだ。
その後、西側と東側との戦争が始まりミッテの領主を含む西側の領主は全て死亡または失踪してしまった。
このまま領主不在の状況が続いてしまうとミッテや他の東側の領地が混乱してしまうと判断したミッテの重鎮達はヘクトルの元部下達の働きかけもあり、ヘクトルを牢屋から解放する決断した。
元々ヘクトルはミッテの民や部下であった兵士達から信用されていたこともあり、ヘクトルが領主の立場に復帰してもそれに対して抗議の声を挙げる者はいなかった。
こうして現在ヘクトルはミッテのみならず他の東側の領地の混乱を鎮めるために動いていた。
ヘクトルから話を聞いた大地はトームの領地にも民から信用される誠実な領主がいたのだと知り、ガルム達を思い出しながら領主にも様々いるのだとしみじみ思った。
ヘクトルから大体のあらましを聞いた大地は今度は自分達の情報をヘクトルに話していく。
大地はまず帝国と再度本格的な戦いが始まるのに備えて、帝国に対抗するための新しい国を作ったことや、その新たに作ったアース民主主義共和国は獣人や人間等の種族や貴族や平民といった身分に関係なく、お互いが尊重し合える関係を目指していることを説明する。
そしてもし東側の住民が望むならその国に全ての住民を受け入れるつもりがあることや、その為にこれから他の領地にまで出向くつもりであったこともヘクトルに伝えた。
ヘクトルは大地の説明を聞くと、悩む様子もなくミッテの住民の受け入れを大地に依頼してきた。
即決即断に驚いた大地であったが、元より獣人の為に特区まで作っていたヘクトルが大地の国の在り方に賛同しないわけがなかった。
それに帝国に近い東側の領地に居続ける危険性や、領主や半分の兵士を失った今のミッテにはこれまでのように東側の領地をまとめるような大きな力はない。
それならば帝国に勝利するほどの戦力を要する大地達について行った方が安全である。
ヘクトルはやはり私利私欲に塗れた領主とは違い、状況に応じた判断が行える聡明な人であった。
「受け入れてくれるのはありがたいのだが、ミッテを含めて東側の領地にはまだ何十万という住民がいる。本当に受け入れることなど出来るのか?」
「それについては問題ない。いくらでも可能だ。それより他の領地は現在どうなっているんだ?」
ヘクトルはきっぱりと言い切る大地に驚きながらも、大地の質問である東側の領地の現在の状況について大地に伝える。
「東側の領地だが帝国に近いクンプトとオステンは既に帝国の領地と化しているそうだ。他の二つの領地であるシャマールとユークは領主が死んだと知ってからは兵士達が暴徒化しているらしくてな。ミッテが落ち着き次第様子を見に行こうと思っている。」
「それなら俺達が行こう。こんな状況じゃあんたはミッテに居た方が良い。シャマールとユークの事を片付けた後に再度ミッテに寄るから、それまでの間に移住についての説明を住民にしといてくれ。帝国がいつ動くかわからない以上は出来るだけ早く移住を完了させておきたいからな。」
「お前達だけで行くのか?」
「一応他にも騎士団の連中がいるが、暴徒化した兵士の制圧だけなら俺達四人だけで充分だろ。」
「いくら領主がいなくなって連携も何も取れていないとはいえ、シャマールとユーク合わせて約十万の兵士がいるのだぞ。それを四人だけで制圧するだなんて無理だろう。」
「いやむしろ犬斗一人でも出来ると思うが。」
不意を突かれた犬斗が後ろで「えっ?」と間抜けな声を出す。
「はっはっは! 冗談はよしてくれ。一人で十万の相手などそれこそ魔族でなければ無理な話であろう。」
「いや出来ると思うが。」
ヘクトルは最初大地が冗談か何かを言っているのだと笑っていたが、大地の言動からそれが冗談の類ではないことを察する。
「本当に・・・可能なのか・・?」
「だから出来るって言ってるだろ。」
後ろで犬斗が「やりませんからね」と呟きながら怪訝そうな顔でこちらを見ていたが、あえて気付いていないフリをする大地。
「君達は一体何者なんだ?」
「何者って言われてもなぁ・・・」
大地が自分が異世界から来た人間であることを話そうかと悩んでいると、何も考えていない犬斗が大地の代わりにヘクトルに答える。
「僕たちはこの世界ではないところから来た、いわゆる異世界人ってやつです!」
何勝手に答えてんだよこの犬頭は・・・
大地はこの馬鹿がと言わんばかりの冷めた目を犬斗に向ける。
犬斗は大地からの視線の意味に気付き、自分が言ってはいけないことを言ってしまったのだと理解すると、すかさずさっきの発言をごまかそうと必死に言い訳を考える。
しかし今回ばかりはこの犬斗の考えなしの行動が大地達に新しい情報をもたらすことになった。
「異世界人・・・? 今君は自分達が異世界人と言ったのか!?」
「いやそれは言葉の綾といいますか・・・なんといいますか・・・」
ヘクトルは異世界という言葉を聞いたと途端、興奮気味に席から立ち上がり犬斗に詰め寄ってくる。
犬斗は上手くごまかす方法が思い浮かばず、目で大地に助けを求めだした。
大地は小さいため息をつくと、ヘクトルの問いに答える。
「正確には俺と犬斗だけが異世界から来た。だから犬斗に詰め寄るのはやめてあげてくれ。犬斗が泣きそうになっている。」
「なってませんよ!」
大地の発言を聞いてふと我に返ったヘクトルは咳払いを一つするとゆっくりと席に着く。
「いやすまなかった。まさか君達も異世界から来た人間であったとは・・・」
「ちょっと待ってくれ。俺達以外にも異世界から来た人がいるのか?」
今度は大地が驚きのあまり席を立つ。
「そうだ。私が獣人特区を作り獣人差別を無くそうと思うようになったのは、その方の話や考えから感銘を受けたからだ。そしてその方はカーンの師匠でもあった。」
「その方はミッテにいるのですか!? もしそうならぜひ案内を!」
「もし可能ならば会わせてくれないか?」
大地と犬斗はヘクトルにその異世界から来た人物の元への案内を依頼する。
しかしヘクトルは大地達からその人物への案内をお願いされると、不甲斐なさそうに頭を下げ始めた。
「その方はもうここにはいないのだ。」
「いないって何処かに行ったのですか? それなら何処に行ったのかを教えて下さい。」
犬斗は日本への帰還の手がかりを持っているかもしれないその異世界人の居所を何としてでも聞こうと必死な形相を見せる。
しかしヘクトルや後ろのカーンの様子を見ていた大地はヘクトルの言っている本当の意味を理解すると残念そうに口を開いた。
「もう亡くなってるってことか・・・」
「そういうことだ。」
「そんな。死んでるってことですか・・・?」
「すまないが。もう何十年も前に亡くなっておる。」
犬斗はせっかく得た手がかりが無くなってしまったとばかりに唖然とした表情になる。
大地もヘクトルも犬斗の心情を察してか、神妙な顔つきで犬斗を見つめる。
せっかく見つけた三人目の異世界からきた人間。
しかしその三人目は無情にも既に亡くなっていた。
応援ありがとうございます!
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