上 下
80 / 131
トーム攻略編

第80話 絶体絶命

しおりを挟む
アーヴがメリア達の思惑に乗ってきてくれたことで大地からアーヴを引き剥がすことに成功したメリア達は現在アーヴの攻撃を必死に凌いでいた。

「速すぎます!」

「動きが見えないなんて。」

二人はアーヴの動きの速さについていけず、大地から両手足にかけられたセキュリティにより辛うじてアーヴの攻撃を防いでいた。

「大地さん。こんなの一人で相手にしていたんですか!」

「口より手を動かしなさい!」

速さに特化した朱雀スタイルとなっている犬斗ですら、アーヴの速さには対応出来ておらず、少しずつセキュリティのかかっていない場所へ攻撃を受けていく。

「うぐっ!」

犬斗の腹部をアーヴの変異した腕が掠める。

すると犬斗の身体から魔力が漏れ出し、アーヴの身体へと入っていく。

「掠めただけなのに・・・身体が・・・」

急に襲い掛かった脱力感により動きが重くなる犬斗。

「素晴らしい。また力が沸き上がってくるぞ。」

犬斗から魔力と能力値を吸収したアーヴは歓喜の雄叫びをあげる。

「犬斗! なにぼさっとしてんのよ!」

メリアの声でうつむいていた顔を上げる犬斗。

すると目の前には既にアーヴの姿があり、変異した腕を振り下ろしてきていた。

「くそぉぉぉおお!」

犬斗はセキュリティのかかっている両腕で変異した腕を受け止める。

アーヴの攻撃を受け止めた瞬間、犬斗の足元は大きく陥没し周囲の地面に亀裂が入っていく。

「ぐぐぐ・・・」

「どうした犬斗? このままだと真っ二つになってしまうぞ?」

必死にアーヴの腕を跳ね除けようとする犬斗であったが、アーヴの力の前に徐々に押し込まれ苦しそうに片膝を地面に着く。

「調子に乗るんじゃないわよぉ!」

犬斗をいたぶるように変異した腕を押し込むアーヴの横腹にメリットが打撃を加える。

メリアの攻撃により後方へと飛ばされたアーヴだったが、空中で一回転するとゆっくり地面へと着地した。

「ふむ。お前ただの獣人ではないな?」

腹部をさすりながら、獣人では本来あり得ない身体能力を見せてきたメリアの存在に疑問を抱くアーヴ。

メリアはアーヴの疑問の声に反応することなく、犬斗の元に歩み寄る。

「犬斗大丈夫?」

「ははは・・・こりゃ本当に死んじゃうかもしれませんね」

魔力や能力値を吸収された犬斗はこれまでのように動かなくなった身体を見ながら弱音を吐く。

「犬斗。あんたその状態じゃもう戦えないわ。ここは私に任してあんたも離脱しなさい」

「えっ!? メリアさん一人で相手をする気なんですか?」

「仕方ないでしょ。大地からはまだ連絡ないし、時間を稼ぐって言ったのは私なんだから」

メリアは犬斗にこの場から離脱するように告げると、こちらを見つめているアーヴへと向き直す。

「今度は君が相手してくれるのかな?」

「そうね。そのかわり私は犬斗程甘くはないわよ」

メリアはアーヴの力を見て、本気を出さなくては足止めすら出来ないことに気付いていた。

「出し惜しみしている場合じゃないわね。」

メリアは小さく呟くと変換魔法を解き、魔族の姿を現す。

「お前も魔族だったのか?」

アーヴは初めて見る生存した状態の魔族の姿に恍惚とした表情を見せる。

「大地に犬斗、そして生きている魔族。これだけのサンプルがあれば・・・」

アーヴは貴重な研究サンプルが手に入ると喜々とした目をメリアに向ける。

「汚らわしい目を向けてくるんじゃないわよ!」

メリアはゼルター戦で見せた黒い黒煙を纏った赤い蛇を頭上に出現させると、それに魔力を込めていく。

「ほう。闇精霊魔法か。さすが魔族だな。これ程の魔力のこもった攻撃は見た事ないぞ。」

メリアの出現させた赤い蛇を見ながら、感嘆の声を挙げるアーヴ。

アーヴはメリアが赤い蛇に魔力を込めだしたのを見て、自分の頭上に紫の鷹を出現させる。

「闇精霊魔法がお前だけの物だと思うなよ。」

禍々しい黒煙を纏った鷹はアーヴに魔力を注がれると、その魔力に反応するように羽を赤黒く変化させていく。

両者が闇精霊魔法に魔力を注ぎ終えた頃、メリアの雄叫びを合図に両者の精霊魔法がお互いを食い合うように激突した。

「くっ・・・! 犬斗逃げるなら今の内よ!」

「メリアさん・・・」

犬斗は苦しそうな顔をしながら再度赤い蛇に魔力を注いでいくメリアを見て、メリアもまた劣勢に立たされているのだと理解した。

犬斗はこのまま逃げ出したい気持ちに蓋をして立ち上がる。

「メリアさんはあの鳥みたいなのをお願いします。僕はあいつに特攻仕掛けます。」

「何言ってんのよ! 魔力も能力値も吸い取られたあんたじゃ瞬殺されるだけでしょ!」

「確かにそうですが、あいつの様子を見る限り鳥の制御にかなり意識を持っていかれています。今なら倒せないまでも時間稼ぎぐらいなら出来るかもしれません。」

「本気なの?」

「本気です。」

「そう。ならお互い大地が来るまで死なないことを祈りましょうか。」

犬斗はメリアの冗談にならない冗談を聞いて軽く笑みを浮かべると、解いていた朱雀スタイルを再度発動させる。

そして紫の鷹の制御に集中しているアーヴへと特攻を仕掛ける。

「ちっ! まだ動けたのですか。」

アーヴは拳撃を繰り出してくる犬斗にうっとうしそうな顔を見せながら、その攻撃を捌いていく。

犬斗の拳撃により一時的に紫の鷹へと向けていた意識を外したことで、紫の鷹の動きに乱れが出始める。

「犬斗。あんたやる時はやる男だったのね。」

メリアは犬斗の作ってくれた隙を見逃すことなく、再度赤い蛇に魔力を注ぎ込み攻勢に出る。

魔力を注がれた赤い蛇はその姿を一回り大きくすると、紫の鷹の首筋に噛み付いていく。

紫の鷹も赤い蛇の身体に鉤爪を喰い込ませていくが、噛み付かれた首筋から魔力が多量に漏れていく。

紫の鷹は懸命に抵抗を試みるが赤い蛇に首筋をかみ砕かれると首筋から崩れるように霧散していった。

「くっ! 小賢しい真似を。」

アーヴは自分の闇精霊魔法が消えてしまったことに気付くと、歪めた表情を見せる。

「犬斗今すぐそいつから離れなさい!」

「簡単に言わないでください!」

メリアが赤い蛇をアーヴに向けて放とうとするが、いまだにアーヴとの近接戦闘を続けている犬斗が邪魔になってしまい放つことが出来ない。

犬斗も必死にアーヴから距離を取ろうとするが、アーヴは犬斗との距離を保ったまま攻撃を仕掛けてきていた。

「こんな方法はとりたくないんだけどなぁ・・・」

犬斗はこれから自分がとる行動による結末を想像して軽いため息を着くと、アーヴの攻撃を誘導するように自らアーヴとの距離を詰めた。

「もう諦めたのか犬斗!」

アーヴは犬斗が一か八かの特攻を仕掛けてきたと思い、向かってくる犬斗に向けて変異したその右腕を左から右へと水平に振るった。

「あがっ!」

犬斗はアーヴの振るった右腕を両腕で受け止めるも、その勢いまで抑えることが出来ず、アーヴの右方向へ吹っ飛ばされる。

「今ですメリアさん!」

「わかってるわよ!」

メリアは犬斗が飛ばされることでアーヴとの距離を取ったことを確認すると、赤い蛇をアーヴに向けて放った。

瞬く間にアーヴを飲み込んだ赤い蛇。

「ぐううう・・・」

アーヴはメリアがゼルター戦の時に放ったものより一回りも大きな赤い蛇の腐蝕作用に溶かされていく。

「こんな蛇如きで私を倒せると思っているのかぁ!」

しかしアーヴが大きな雄叫びを挙げながら、自身の周囲に高密度に圧縮された魔力は放つと、アーヴを飲み込んでいた赤い蛇が風船のように膨らみ、その後弾けるようにその姿を霧散させた。

「なっ・・・?」

メリアの放てる魔法の中で最強の攻撃力を誇る闇精霊魔法をただ魔力を放出させただけで防いだアーヴを見て唖然とするメリア。

「嘘でしょ・・・」

犬斗もアーヴが赤い蛇を破裂させた様子を見て絶望の表情を浮かべていた。

大地・・・早くしなさいよ! もう私も犬斗も持たないわよ。

メリアはいまだ大地から念話が届かないことに焦りを感じながら、大地のいる方角に目を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...