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トーム攻略編

第74話 迷彩魔法

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犬斗とバセルダが激戦を繰り広げている頃。

ジェイコフとの戦いに勝利したルルはメリアとゼルターが戦っている場所まで辿り着いていた。

「メリアちゃん!」

「ルル!? 良かった無事だったのね。」

メリアはルルが室長との戦いに勝利したことに安堵の表情を浮かべる。

「メリアちゃん! 私も戦うよ!」

「ルル・・・気持ちは嬉しいのだけど。あいつの相手は私一人で充分よ。それより他の人達を手伝ってあげて。」

「えっでも・・・いやわかった! 絶対勝ってよメリアちゃん!」

ルルはメリアと一緒に戦いたい気持ちを抑え、メリアの指示通りに周囲の帝国兵と戦う仲間達の元へと走っていった。

「私一人で充分とは。私も舐められたものですね。」

上空からルルを見送るメリアの前に降り立ったゼルターは自身が過小評価されていると思い、少し苛立った様子を見せていた。

「舐めてなんかないわよ。実際私一人で充分だしね。」

「姿だけでなく頭も獣人の様に残念になってしまったみたいですね。」

ゼルターは猫耳の獣人の姿になっているメリアの全身を怪訝そうな表情で見つめる。

「あなたの闇魔法を目にするまで全く気付きませんでしたよ。まさかメリアが獣人の姿になっているとは思いもしませんでしたから。」

「まぁあたしにも色々あんのよ。」

メリアは何度も確認するように全身を眺めてくるゼルターに眺めるのをやめろと言わんばかりに腐蝕効果のある漆黒の球体を放つ。

しかし漆黒の球体はゼルターに届くことなく見えない壁に遮られるように散っていく。

「本当にあんたの魔法は厄介だわ。」

「それを言ったらメリアこそ帝国の訓練時にはこんな魔法は見せていなかったではないですか? お互い様というやつでは。」

ゼルターは静かに笑うと、右手を上空へと掲げ勢いよく前方へと下ろした。

メリアはゼルターが腕を振り下ろすと咄嗟に後方へと回避行動をとる。

メリアが後方へと下がった瞬間、メリアが居た場所が大きくへこみだす。

「あぁ! あんたの迷彩魔法は本当に面倒くさいわね。」

「それは褒め言葉かな?」

メリアはゼルターの迷彩魔法に苛立った様子を見せるが、ゼルターはそれを自身の魔法への賛辞だと受け取りにこやかな表情を浮かべる。

ゼルターはバセルダと同じ固有魔法の使い手であり、迷彩魔法という魔法の姿形を相手に見えなくする魔法を使っていた。

ゼルターは固有魔法以外に土と光の属性魔法を使うことができ、その属性魔法に迷彩魔法をかけることで不可視の攻撃と防御を行える。

しかし魔法には必ずしも魔力というものが備わっており、迷彩魔法ではその魔力までは隠すことが出来ない。

メリアはその魔法から漏れ出た僅かな魔力を感じとり、ゼルターの攻撃を回避していた。

しかし様々な魔法が飛び交う戦場にあって、ゼルターの放った魔法の魔力のみ感じとることはかなりの集中力が必要になり、メリアは少しずつ神経をすり減らしていた。

「メリア一つ聞いてもいいですか?」

おもむろに和やかな口調でメリアに話しかけるゼルター。

「何よ? 騙し討ちなら通用しないわよ?」

「そんな無粋真似はしない。何故帝国を裏切って創造神を名乗る者に付いたのですか?」

「それは単純にあんた達に付くより、こっちの方が良いと判断したからよ。」

「帝国よりも良い場所があると本気で思っているのですか?」

「実際に宮廷魔法師第二位のアーヴは犬斗に負けたじゃないの。帝国が最強の時代は終わったのよ。」

「帝国を愚弄するつもりですか?」

「愚弄も何も事実を述べているだけじゃない。」

ゼルターはメリアの言葉を聞き、敬愛するゼフィル陛下の国が馬鹿にされたと感じると、それまで穏やかだった表情を歪ませていく。

「私の前で帝国を愚弄したことを後悔して死になさい。」

ゼルターは額に青筋を浮かべながらも静かな口調でメリアに告げると、右腕をメリアに向けた。

魔力を感じ取ったメリアは迷彩魔法によって姿の見えない魔法をゼルターの周囲を走り抜けながら避けていく。

メリアが走り去った後の地面には無数の陥没が出来ていった。

メリアは魔力変換により魔力を俊敏性に変換していくとゼルターの周りを周回している速度を上げていく。

「あなたも面倒くさいことをしてきますね。」

目で追う事が困難な速さで自身の周りを周回するメリアに魔法の標準を合わすことが出来ないゼルター。

するとゼルターの後方から闇魔法を足に纏わせたメリアの蹴りがゼルターへと迫る。

パキパキ・・・

「やっぱり威力が足りないわね・・・」

メリアの蹴りはゼルターが張っている無色透明な結界魔法に防がれる。

「私の結界魔法の錬度は帝国でもトップレベル。元帥でもなければ破ることは不可能。」

ゼルターは結界魔法を何重にも重ねた結界を周囲に張っていた。

メリア歯噛みして悔しがりながらも、ゼルターが放ってきた見えない魔法を後方に飛び退くことで避けていく。

ゼルターはメリアの攻撃が自分に通用しないことを察すると、少し得意気な様子でメリアに話しかける。

「メリア。私に君の攻撃は効かない。今降伏し再度帝国に忠誠を誓うならば、私からお前の処遇に関して寛大な措置がなされるように取り計らうことも考えてもよいのですが。」

ゼルターは周囲を走り続けるメリアに取引を持ちかける。

実際には帝国を馬鹿にしたメリアを生かすつもりは毛頭ない。

しかしお互いに決めてに欠ける状態を良く思わなかったゼルターは速やか任務の遂行を果たす為、メリアに取引という形を持ち掛け足が止まったところで仕留めようとしていた。

傍から見たら上手くいくわけがないと思える作戦ではあるが、ゼフィル陛下を敬愛しゼフィル陛下が治める帝国がこの世界において最も優れた国であると信じて疑っていないゼルターはメリアがこの話に食いつくと本気で思っていた。

「あんた馬鹿なの? 今更帝国に戻っても殺されるのがオチでしょ。こんなの子供でもわかることだわ。」

ゼルターから取引を持ち掛けられたメリアは周回する速度を維持しながらも呆れた顔を見せていた。

「そうかそれは残念です」

ゼルターは感情無くそう呟くと、周囲で戦っている獣人達に視線を向ける。

「あの猫人族とは仲がいいのですか?」

「はぁ? ルルがどうかしたの?」

「ルルという名前なのですね。見る限りかなり慕われている様ですが?」

「さあね。あんたには関係ないでしょ。」

「クククッ・・・そうですか。それは良い事を聞きました。」

ゼルターはメリアの話を聞き、小さい笑い声を上げる。

不審な様子を見せるゼルターを見てメリアは警戒態勢を強める。

メリアがゼルターの様子を窺っていると、ゼルターは急に明後日の方向へと魔法を放った。

自分にではなく全く関係ない方向で魔法を放つゼルターの行動を理解出来ず、怪訝そうな表情を浮かべるメリア。

しかしゼルターの行動の意味はすぐにわかった。

「きゃあ!」

メリアの耳にルルの悲鳴が聞こえてきた。

「あんたまさか・・・」

「クククッ・・・あなたの友人、無事だといいですね。」

メリアはすぐさま悲鳴が聞こえた方向へと視線を向ける。

攻撃を受けたルルは左足に切り傷を負っていたが傷自体は浅い様子だった。

ひとまずルルが無事な事を確認したメリアはこれ以上ルルを攻撃されないようにゼルターへと攻撃を仕掛けていく。

しかし何重にも重ねられた結界を破ることが出来ず、結界越しにゼルターの笑みを眺めるだけに終わってしまう。

ゼルターはメリアが必死に攻撃を繰り出すさまを眺めながら、ルルへと迷彩魔法を纏った土弾を放つ。

「ルル逃げてぇ!」

遠くで獣人達と共に戦うルルに叫ぶメリア。

しかし至るところで戦闘が繰り広げられている戦場の喧騒によりメリアの叫び声はかき消されてしまう。

メリアが必死に声を挙げる中、ルルに土弾が降り注ぐ。

「きゃぁぁぁああ!」

降り注いだ土弾がルルに着弾し、悲痛な声を挙げながら宙を舞うルル。

メリアの様子を見たゼルターは大きな笑みを見せながらくぐもった笑い声をあげていた。
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