上 下
73 / 131
トーム攻略編

第73話 犬斗VSバセルダ 決着?

しおりを挟む
「なんで・・・魔力もそんなに残っていないはずなのに・・・」

犬斗ですら陵光が無ければ発動させることが出来なかった炎雷スタイルをその身一つで発現させることに成功したバセルダは得意気な顔を犬斗に見せる。

「あまり時間がねぇ。さっさと始めようぜ!」

バセルダは瞬時に犬斗の正面に立つと、犬斗と同じ雷と炎熱を纏った拳を繰り出す。

犬斗はそれを腕で受け止めると、蹴りをバセルダに浴びせる。

「さっきまで全く見えなかった攻撃が全て手に取るようにわかるぜ!」

バセルダは犬斗の蹴りを躱すと、自分の力が更に高みに至ったことに歓喜の声を挙げる。

犬斗がバセルダの胸部を殴れば、バセルダは犬斗の腹部に蹴りを入れる。

トレーナーとブリーダーのスキルのおかげで同化している魔獣の強さが勝っている犬斗と、戦闘技術や元々の身体能力において勝っているバセルダは速さ、攻撃の強度、再生力、全てにおいて互角だった。

本気で拳を撃ち合える相手に出会えたと喜びを体現するかのように拳を繰りだし、また拳に撃たれるバセルダ。

一方犬斗は埒の明かない戦いに少しづつ焦りを見せ始めていた。

その後お互いに一歩も譲らないインファイトでの拳撃の打ち合いが続く。

自身の残り魔力が少なくなっていることに気付いた犬斗が焦燥感を顔に浮かべた時、バセルダの動きが急に止まった。

「ごほっ・・・ごほっごほっ!」

急に大きく咳き込み出すバセルダ。

犬斗は隙の出来たバセルダへと拳を突き上げると、バセルダは受け身を取ることなく後方へと転がっていく。

明らかに様子がおかしくなっているバセルダを見て、もしやと犬斗が口を開く。

「もしかして。命を削って炎雷スタイルを・・・?」

顔面蒼白状態で吐血混じりに激しく咳き込むバセルダを見て、バセルダが魔力枯渇の状態のまま無理やり炎雷スタイルを使っているのだと推測した。


犬斗の推測は当たっていた。

膨大な魔力が必要になる炎雷スタイルを少ない魔力で発動させていたバセルダは魔力の代わりに自身の生命力を使っていた。

命を削りながら戦っていたバセルダはとうとうその命が尽きかけてしまい、立つことも困難な程に憔悴しきっていた。

「ごほっごほっ! おい! なんで手を止めてやがる!」

地面に片膝を着きながらバセルダは犬斗に怒号を浴びせる。

「もうあなたは戦える身体じゃない! これ以上その状態を続ければあなたは死にますよ!」

「うるせぇ! 敵からの慈悲で命を拾うぐらいなら、俺は最後まで戦って死んだ方がマシだ!」

バセルダは口から多量の血を流しながら立ち上がると、両手を前方に出し魔力を込め始めた。

「このわからずやが・・・」

犬斗は自分の命を削りながら最後の攻撃を放とうとするバセルダに苦い表情を浮かべると、
バセルダと同じく両手を前方に構えだす。

お互いの魔力が最高値まで高まった瞬間、今自身が放てる最高火力の魔法を放つ二人。

「これで終わりだぁ!」

「この馬鹿野郎がぁ!」

両者は咆哮を上げながらオレンジ色の炎を纏った雷撃を放った。

両者を結ぶ中心点でお互いの雷撃がぶつかり合うと力比べのようにお互い雷撃に魔力を込めていく。

「ぐぁぁぁああ!!」

「うぁぁぁああ!!」

お互いがもてる全てを雷撃に注ぎ込んだ時、ぶつかり合っていた雷撃が大きな光と共に大規模な爆発を起こした。

爆発により生じた爆風により飛ばされる両者。

犬斗は魔力切れにより炎雷スタイルを解くと爆風に煽られ、ペンタゴン付近まで飛ばされる。

空中でなんとか姿勢を整えた犬斗は玄武スタイルになることで落下の衝撃に耐える。

「何が起きたんだ・・・?」

犬斗は玄武スタイルを解くと周辺は確認し始める。

「随分と遠くに飛ばされたなぁ。」

デュセオ領地とボレアス領地の境で戦っていたはずの犬斗は爆風によりペンタゴン付近まで飛ばされていたことに気付くと、すかさずバセルダの姿を探した。

しかし遠くまで飛ばされた犬斗はバセルダの姿を見つけることは出来なかった。

多分僕と同じく爆風に飛ばされたか、もしくは爆発に巻き込まれたのかな・・・

犬斗はバセルダの姿を確認出来ない事に一抹の不安を覚えたが、魔力枯渇を起こし生命力まで削っていたバセルダがこの後行動を起こすことは不可能だと考えると、ゼーレ達と合流する為に西北の城門へと向かった。








バサバサ! バキバキ! ドサッ!

ボレアスの剣山にある林に木々の折れる大きな音が響きわたる。

「ちっ! くそが・・・・」

木々を折りながら上空より落ちて来たその人物は受け身もまともにとることが出来ず、地面へと激突していた。

「今回はさすがに俺の負けか。」

口には血の跡を残し、全身に焼け焦げた傷跡を残しているその人物は先程まで犬斗と激戦を繰り広げていたバセルダであった。

「この身体じゃもう任務は続行不可能か。」

バセルダは自身の傷だらけの身体に目を向けると小さくため息をついた。

「さてこの後どうすっかな・・・」

魔力だけでなく生命力まで著しく消耗していたバセルダはこのままでは間違いなく自分が死ぬことを理解していた。

急いでポーションや魔法による回復を行わなければならない状態になっていたバセルダはこの緊急事態をどう乗り切るべきか考えていた。

しかし身体が動かないことにはどうしようもない。

魔力切れのせいで上手く動かない自身の身体を恨めしそうにバセルダが睨んでいると、近くの草陰からカサカサと音が鳴っていることに気付いた。

「はっはっは。ツキはまだ俺を見捨てていなかったか。」

バセルダは草陰に鳴り響く音の正体に気付くと、重たい身体を無理やり起こしその草陰に視線を移した。

「ガキの頃を思い出すぜ。」

バセルダは幼少期に初めて魔獣を生きたまま食べた時の事を思い出していた。

あの時に比べたらこんな状況どうってことはないな。

バセルダが幼少期の生きること自体に必死だった時のことを考えていると、草陰から犬型の魔獣が飛び出してきた。

「おいおい。本当にあの時と同じ状況かよ。」

バセルダは幼少期とあまりに似すぎている状況に苦笑いを浮かべると、向かってくる魔獣を拳一突き気絶させそのまま喰らいついた。

剣山の林には生々しい音が響き渡る。

「ふぅ~ひとまずは魔力も補給出来たか・・・」

バセルダは魔獣を喰らったことで魔獣の生命力と魔力を補給すると、すぐさま傷の治癒を開始する。

「どっちにしろ任務の遂行は無理だな。とりあえずここらの魔獣でも食って、体力を回復させるか。」

バセルダは失った体力を回復させるために剣山の林の奥へと入っていく。

剣山の林には獣の悲鳴が様々な所で木霊していく。

「俺はまだ強くなれる。次に会う時を楽しみしているぜ。」

全身を魔獣の血で赤く染めたバセルダはペンタゴンの方向を向くと小さく笑みを浮かべた。

その後トームの至る所で魔獣が消失する不可解な現象が起きていくが、その原因は突き止めることの出来た者はいなかった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

処理中です...